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両雄相見える

彼らが林道を跳ばしていると、対面から二騎の馬が駆けて来るのが見えた。左右を森林に挟まれた一本道である。必然的に相対すというものだ。


無論、只の(なら)された平地では無いから、坂も当然の如くある。登りや下りがそれこそ交互に続くのである。


彼らが坂を勢い良く駆け上がって来るのが観えた為に、北斗ちゃんは二人に停止を命じた。


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)警戒せよ!そしてゆっくりと端に寄るのだ。いつでも抜刀出来る様にしておけ!」


「「ハハッ!!(ꐦ •" ຼ •)(*o'д'o)…」」


ここに来て皆の心の中には否応なく緊張感が走る。とくに潘濬は後悔が拭えなかった。御意見番の自分が若君の興味をこの際抑えて居れば、この遭遇その物が無く、既に安全に擦り抜けられていたに違いないのだ。


それだけ彼らからしてみれば突然の危機であった。まだ遠めに観える二人の男たちは身体も大きく、かなり屈強な体躯をしている。


そして白銀の衣に身を包んだ先頭の男は妙に変わった出で立ちをしていた。その髪は背中まであるのではないかと想えるほどの長髪であり、その髪の色は真っ青なのだった。


片やもうひとりの後に続く男はやはり長髪であるが、時折まとめたおさげが跳び跳ねるところをみると、生真面目な性格らしかった。彼は既に遠めにもこちらを警戒しており、その瞳がギラリと光っている。


「(٥´❛ ᗜ ❛)੭⁾⁾ 潘濬、心配するな…まだ襲われるとは限らん!案外と急いでいるだけかも知れん。お前さんはすぐに自分の責任を問い過ぎるからな…」


「…心配するな♪僕の腕だってそう馬鹿にしたもんじゃ無い!あの子龍直伝の腕前なのだ♪そうだ!いざと為れば森ノ宮城に逃げ込む手もある。僕が合図したら一目散に走れ!良いな?」


二人ともコクりと頷く。


そしていよいよその緊張の瞬間がやってきた。彼らが接近して来たのである。先頭の青い長髪の男は、とても顔立ちの整った貴公子に観える。


そしてその悪戯っ子の様な瞳に宿る輝きは緑陽石(サファイア)の如くである。彼は一瞬、ニコリと笑みを浮かべた様に観えた。


それにしても彼らが近づくに連れて聞こえてきた耳に心地好いシャランシャランという音はなんで在ろうか。それは彼らが到達して通り過ぎる段になってようやく判った。


それは先頭の男の耳飾りが重なり合う時に起きる音だったのである。


長髪を瓜実顔(うりざねがお)棚引(たなび)かせ、その髪の間から時折り覗く品の良い耳許には、黄金色に輝く髪飾りが見え隠れする。


そして風の悪戯でシャランシャランと髪飾りの()すれる音が、恐らくは彼らの耳にとても心地が好かったのだろう。


男たちは通り過ぎる際に会釈をして通る。その刹那(せつな)、青い髪の男はチラッと北斗ちゃんを横目で覗き込み、ニヒルな口許が(ほころ)んだ様に観えた。


彼らはいずれにしてもその勢いを駆って通り過ぎたのだから、敵意はやはり無かった様だ。主従三人の緊張感が解けた瞬間だった。


「(´°ᗜ°)✧ 何にしても幸いだったな♪では行こうか?」


北斗ちゃんはそう声を掛けながら、手綱を込めて馬を促す。二人もその後に続いた。


ところが安心仕切っていた彼らの身許に再び暗雲が垂れ込める。いち早く気がついたのは劉巴であった。


「(٥ o'д'o)…若、大変です!彼らが戻って来ます!!」


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)何ぃ~まじで!ヤバいじゃん♪こうなっては仕方ない覚悟を決めよう…」


「(ꐦ •" ຼ •)逃げないので?」


「(٥´❛ ᗜ ❛)੭⁾⁾ 今さら逃げ切れまい。もはや森ノ宮に逃げ込む算段も使えぬ。彼らを交わさねば成らんからな!それにやる気ならさっきやってただろう。意外と道を尋ねたいとかそんな事かも…」


「…道不案内なんてのは古今東西ベタな事情だからな♪いずれにしても慌てぬ事だ!こちらからわざわざ隙を見せてやる事も無い!」


北斗ちゃんはそう二人を落ち着かせるが、手に汗を握っていたし、蟀谷(こめかみ)からは絶えず冷や汗が感じられた。丹田(たんでん)に力を込めて、とにかくやせ我慢でも良いから、気持ちを強く持って彼らを迎える。


二人も同じく身構えていた。彼らの希望である若君をこんなところで失う訳には行かなかったのである。


ところが青い髪の男は然も面白いと言わんばかりに馬上で(アゴ)を右手に乗せると、こう語り掛けた。


「✧(ღ❛ ᗜ ❛ ๑)おいおい!取って喰おうって訳じゃ無い♪そう構えなくて良いさ♡どうやら怖がらせたみたいだな!申し訳ない。ちと礼を言おうと思っただけさ♪キチンと避けて通り易い様に待っててくれたみたいだからね♪有り難う♡この通り礼を申す♪」


青い髪の男は礼儀正しく会釈する。後ろの男もそれに(なら)った。


「采配…✧و(•̀ •́๑)貴方はそれで無くても奇抜な恰好をしとるのです!歌舞伎者(かぶきもの)と言っても良い♪日頃から目立たぬ様に私は諫言(かんげん)致しました。全くもう!」


「✧(ღ❛ ᗜ ❛ ๑)あぁ…そうだったな♪だがこれが俺なんだから仕方なかろう?まぁ成るべく気をつけるとしよう♪」


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾采配?今、采配と申されたか?とすると、喬児殿の…青柳商団の采配が貴方…」


「✧(ღ❛ ᗜ ≦ ๑)ん?そうだが…あぁ、喬児とはもう会っているんだね♪なら話は早い!俺は采配の秦縁(しんえん)、そしてこいつは副采配の趙蓮(ちょうれん)…」


「…喬児が商団の運営面の(かなめ)だとすれば、こいつは商団の安全と存続を担う要だと言える。そしてこの俺は商団を束ねる(おさ)という訳さ!これで我々が危険な存在で無い事は判っただろう?」


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ええ!喬児さんから聞いて、会ってみたいと想ってました!僕は蜀の太子・劉禅です♪そしてこちら二人は伴の潘濬と劉巴。それにしてもこんなところでお逢い出来るとは…運命を感じますね?」


秦縁はコクりと頷き、改めて伴の二人とも会釈を交わす。趙蓮もそれに倣う。


「✧(ღ❛ ᗜ ≦ ๑)そうだな♪貴方が劉禅君とはね?確かに運命を感じますな♡これもあやつの導きかも知れぬ!あんたの寵臣のひとりである田穂殿とは縁あって江東でお逢いした…」


「…それからというもの、貴方にお逢いしたいと想っていた。今回この荊州に遥々やって来たのもあんたに逢う為だ♪ここで偶然遭遇出来るとはこちらも驚いている…」


「…貴方には田穂殿に繋いで貰う手筈だったのだが、手間が省けたかも知れぬ!いずれ改めて見参するとしよう♪喬児を待たせているのでな?これで失礼する!⁽⁽ღ(・ᗜ・*)じゃあな♪」


そういうと秦縁は馬を返すと走り去ってしまった。それに倣った趙蓮は振り向き様に会釈して続く。何とも(せわ)しない男である。


北斗ちゃんは呆気に取られながらも、手を振り彼らを見送った。二人もそれに倣う。


「(*o'д'o)何とも(せわ)しない…(かぜ)の様なお人でしたな♪」


劉巴はいみじくもそう呟いた。


「(ꐦ •" ຼ •)⁾⁾ ですな…律儀にも礼を述べに来る辺りはお人良しというべきでしょうか?」


潘濬も秦縁に興味を惹かれた様である。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈだね♪伊達男か…まさに喬児さんの言う通りの人だったな!今度逢う時が愉しみだね♪否…ひょっとしたら直ぐにでも逢えるかな?田穂が繋ぐと言ってたからね?…」


「…それにしても田穂が無事で良かった…久しく顔を見せないから内心とても心配していたんだ!ひょっとしたら彼が田穂を守ってくれたのかも知れないな…」


北斗ちゃんは特に何の根拠も無くそう呟いたが、これは当たらずとも遠からずといった所で在ろう。田穂の命運は秦縁に依って守られたと言っても過言では無かったのだから。


「(٥´❛ ᗜ ❛)੭ ੈそれにしても運が良かったな♪あんなに体躯の良い二人が商人とは…結果オーライだったが、今後はもっと用心するとしよう…」


一難去ると、和やかな雰囲気を取り戻した陣営であったが、ここで北斗ちゃんは引き締めた。どちらかというと自分自身を戒めたのである。


「(ꐦ •" ຼ •)⁾⁾ ですな…お分かりならば宜しいのです!ここ荊州はやはり最前線に他なりませぬ。しかも今や隠れ蓑も無いのですから御用心下さい!」


「(٥ o'д'o)⁾⁾ まことに!しかし商人でも采配とも成ると見事な体格でしたな♪付き人の男すら圧力が半端無い!商団を守るというのも決して楽では無いのですな…」


「(ღ◕ 0 ◕*)…だね♡それにしても清々しい男だったな♪あの男、何かと気が合いそうだ!僕はとても気に入っちゃったな♪」


「(ꐦ •" ຼ •)⁾⁾ そうですな!私も少し興味を持ちました♪」


「(*o'д'o)⁾⁾ いかにも!面白そうな男です♪」


「(ღ◕ 0 ◕*)そうだよね♡それにあの出で立ち!青い長髪って素敵かもな?僕も将来真似してみようかしらん…」


「「(ꐦ •" ຼ •)(٥ o'д'o)それは駄目です!跳んでも無い!!」」


二人はまるで示し合わせた様に口を揃えた。彼らは若君の様子を観ていてそう案じていたらしかった。それ見たことかと口を尖らせている。


「(ღ◕ 0 ◕ ٥)やっぱり?だよね~さすがに不味いのは僕も何となく分かる。示しが着かんもんなぁ…」


北斗ちゃんはいみじくもそう応えた。若者にとっては奇抜な恰好はいつの時代も憧れの的である。彼は元々お洒落感覚には乏しい人間であったが、傅士仁や周倉を観ていて少し憧れていたのである。


『(ღ◕ 0 ◕ ٥)それにしても僕の周りには何でこんなに真面目な奴が多いのだろう。確かに僕も真面目な男だからな…』


『…人の事は言えんが、それにしても堅い!今度、護衛に就く者はちと面白味のある奴にしようっと♡真面目ばかりじゃつまらんからね♪』


わりと辛辣である。彼は人には色々なタイプが居て良いと想っている。その方が集団としても凝り固まらないで済む。けれどもこの場合はそんな高尚な気持ちから出た言葉では無かった。


単に面白味のエッセンスが欲しかっただけである。常に傍に寄る相手なのだ。面白味のある奴の方が気分が楽だし、何より肩が凝らない。


彼の周りには真面目な奴がわんさか居る。だからそんな愛嬌のある者がひとりくらい居ても良かったのである。


彼が唯一、一緒に居て肩が凝らなかったのが、弎坐(さんざ)であるが、彼はどちらかというと身を守る盾には程遠い。それに引き換え、傅士仁は豪放磊落(ごうほうらいらく)という程に面白くも在り、頼りになる盾であった。


北斗ちゃんが初対面から何となく彼に好感を抱いたのもその辺りに原因があったのかも知れない。彼はお洒落で在り、豪快さと緻密(ちみつ)なほどの繊細(せんさい)さも併せ持っていたからである。


そして何より一緒に居て全くと言って良い程に肩が凝らなかった。彼の(かしこ)まらないその態度や物言いが北斗ちゃんと相性が良かったのかも知れなかった。


彼はふと"チーム北斗ちゃん"を形成していた時期を想い出していた。費観・費禕・弎坐の三人と一緒に徒党を組んで愉しく過ごしていた時期を懐かしんで居たのである。


それは(あた)かも、彼の父・劉備が関羽や張飛、趙雲といった気を使わないで良い仲間たちと徒党を組み暴れていたのにとても似ていた。


彼はその双肩にこの荊州の命運が懸かっている事を想う余り、少々遊び心を無くしてしまっている事に気がついたのである。


『(ღ◕ 0 ◕ *)遊び心は僕の原点だからな…それで救われた事も多々ある。それに奇を(てら)うには、この遊び心を忘れては果たせないからね♪普通の奴ならまだしも、呂蒙・陸遜、それにあの司馬懿だ!将来ああいった輩を相手にする際には必ず必要だからね…』


だからと言ってその双肩に懸かる責任の重さを考える時に、愉しかった想い出と天秤に掛ける訳にもいかなかったのだ。


けれども考えようによっては、彼はまだ年端もいかぬ若者なのだから、失敗を恐れず自由闊達(じゆうかったつ)に突き進んでも一向に構わない筈である。


彼は間違いなく、一代の英傑である。否…英傑と成れる逸材であった。彼を慕い着き従っている者は無論の事、彼と一度でも絡んだ事がある者ならば皆、そう同意するのではなかろうか?


彼は決して親の七光りでは無く、凡庸な二代目でも無かった。途中まではそうだったけどね!


それは彼が部下を大切にし、聞く耳を持ち、自分をちゃんと律する事が出来る人だったから…だけで無く、人が考えも着かない様な自由な発想の原点、即ち"遊び心"があったからでは無かったか。


そう着き詰めて行くと、何も自分が"最期の砦"とばかりに力み過ぎたのでは無いかとさえ想えて来た。


彼を支える仲間たちはそれ程、頼りに為らないのか?いいえ。彼がたとえ一度の心配に悔いを残したとしても、すぐに荊州が奪われるものなのか?いいえ…。


以前ならばそれも在り得たであろうが、皆、それぞれが自分の頭で考え、応用が効く様に成長した今であればそれは無かろう。


仲間が必ずカバーしてくれるに違いないのだ。彼はもっと自分やその仲間たちに対して自信を持って良い。そう結論に達したのである。


『"遊び心"か…(°ᗜ°٥)そう言えば忘れていた様な気がする。ここはひとつ原点回帰だ!これを無くせば、この先、僕は皆をうまく牽引出来まい…』


『…何も肩肘張ろうってんじゃ無い!それに目立つ事、即ち存在感を確立するなんてのは僕の主義でも無い。只、皆が困っている時に光明を見出せなければ、それは僕では無い…』


『…とにかく肩の力をもっと抜いて、形式に(こだわ)らない若者らしい発想を忘れぬようにしよう…それがひとまず原点回帰の出発点なのだろう!』


彼はそう頭の中で自己完結すると、やおら落ち着きを取り戻し元気が出て来た。


「(๑ • o•๑)=3 今日は色々な出来事があったね?でもお陰様でそこには学びがあった気がする♪僕も何か、すこぶる元気が出て来た気がするよ!さぁ、もう危険は無かろう♪帰るよ!!」


彼は二人にそう声を掛けると、三人揃って(くつわ)を並べて、共に走り出した。


潘濬も劉巴も、じっと考え込んでいた(あるじ)が途端に吹っ切れた様に笑みを(たた)えているのを目の当たりにすると、その表情に嬉しさが溢れてくる。


林道を駆け抜ける風も心無しか、彼らを優しく包み込んでくれているように感じた。


北斗ちゃんの瞳には、もはや一点の曇りすら無く、これからも一日一日を大切に、そして堅実に、自分らしく生きて行こうと想い立っていたのである。

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