青い瞳と緑の瞳
田穂は馬を借りて、秦縁に同行しながら、城中を目指す。彼は秦縁の思惑が判らずに、先程から考え事をしていた。
『(ღ`ー´٥)いったいまたまたどういう意味だ?相変わらず掴み処の無い御仁だな…訳が判らん!』
彼も出掛けの雰囲気の中で、ある程度の意向は掴み取っていた。けれどもその本質を完全に捉えているかどうかについては疑問が残ったし、自信も無かったのである。彼が理解出来たのは二つ。
まず一つ目はこの招待が重要である事。特に田穂に取ってという意味合いが強いのだろう。だから趙蓮は遠慮した。否、より深く掘り下げれば、主である秦縁からその意味を告げられていた節がある。
だからこそ自分に『(๑•̀ •́)و✧勤めを果たせ!』などと励してくれたのでは在るまいか?趙蓮と付き合ってみて判った事は、彼は主を守る為なら、自らその盾になる覚悟がある点であった。
もしかしたら、自分も昔、あんな覚悟を瞳に宿していたのかも知れんと田穂は想ったのだ。彼もまた管邈を守る為ならこの身を削っても良いとさえ想っていたのだから。
『まぁ…(ღ`⌓´٥)奴ほど純粋な瞳をしていたかは判らんが!』
田穂は想わず苦笑いする。
要は彼では無く、自分を連れて行かねば成らない意味があるのは間違いない。ではその意味とは?
まず今更自分を突き出す人では無いから、その方面の想定は無条件に全て除外して良い!
そう考えた時に田穂は自分がこの秦縁という男にいつの間にか惚れ込んでいるのではないかと感じていた。
『あれ?待てよ…(ღ`Д´٥)これと同じ感覚を味わった事がある…』
そして端と気づいたのだ。二人はその出自も年令も身分も話し方もまるで似通った点が無いのに、なぜか結び付くのである。
それは言わずと知れた自分の主である若君の事であった。飄々として掴み所の無いこの男があの若君と共通している点とは、目の前のこの大惨事を放って置けない点に在るのは間違いない。
或いはその決断力や行動力に於いても似通うものが在るのだろう。彼はまだはっきりと理解した訳では無く、自分の中の第六感がそう感じているのだった。でもこの男は『信用出来る』それは間違い無いと確信した田穂は、こう結論付けた。
『(๑ ❛ ᗜ ❛)✧…孫権と呂蒙が来るのだ!瓢箪から駒になるかも知れないから、良く耳を澄ましておけ!』
恐らくはそう言いたかったに違いない。それならば辻褄も逢うし、説明も付く。
そして二つ目は少し変わった解釈の仕方に為らざるを得ない。多少 穿った見方かもしれないが、今一つ説明が付きそうな理由が無い訳じゃない。
それは彼がいみじくもこの男に接近した理由と合致する。仮にもしそうならば、この招きに於いて注目すべきは呂蒙というよりは孫権の存在で在ろう。
一国の君主ならば、誰からも発言に制限を受けないから、自国の利益に反しない限りは、この男の事を色々と喋ってくれるに違い在るまい。
但しこの場合に問題となるのは、自分の素性や身辺の事柄について彼是と見聞きされるで在ろう場に田穂をわざわざ連れて行かねば為らない意味合いである。
果たして彼がそんな回りくどい事をするのは何故なのだろうか?わざわざそんな事をするなら、自ら語って聞かせてくれれば良さそうなものである。と為ると結論はひとつに集約される。
彼は自分の事を知りたければ、帯同している間に聴くなり感じるなりせよ。帯同先で何を見聞きしたとしても、それを活かすも殺すも貴方次第である。そう告げているのだ。
『この機会を逃さん事だな…』彼を雇うと決めた直後に秦縁はいみじくもそう告げた。今さらながらにその事を思い出す。彼自身だってそれを聞いて奮起したのである。
『(ღ`⌓´٥)?…て事は端からあっしの目的が読まれていたって事でやんすかね?』
田穂の思考は遂にそこに到達したのである。
何らかの理由で彼の思惑を感じ取った秦縁は、彼をあらゆる社交場に連れ廻す事に依って、彼に自分を直に見せる機会を与えたのではなかろうか?
『(ღ`⌓´٥)要はどうしても知りたいならば、機会を与えてやるから自ら感じ取れ!…て事か。俺はお前に教えてやる義理は無いってか?まぁ仰有る通りかも知れんな…』
『…それに自ら語る依りも、あっしの感性で捉えよって事なのかもなぁ。その方が嘘は無いって事なのかも?面倒臭い奴だけど、確かに理には適ってるかもにゃ♪』
田穂はそう言う事ならと、その一挙手一投足を見逃さぬ様にしようと心に決めた。彼は想わず秦縁を横目でチラッと眺める。
すると秦縁もいつの間にかこちらを眺めていた。そして彼の思惑を見通す様な瞳でフッと笑みを浮かべた様に見えたのである。
『(ღ`ー´٥)やれやれ…一枚も二枚も上手かもってか?まぁそう言う事なら思惑に乗っておくかな!次いでに呉の情報も取れれば一石二鳥♪悪い話しじゃ無いかも知れんな…』
田穂はそう想いながら、無言で秦縁の後に続いた。果たして秦縁の思惑が田穂の出した結論と合致するのかはまだ定かではない。これはあくまで彼の頭の中で出した結論だからだ。
けれども今はそう想うしか他に考えようが無かったのである。後は出たとこ勝負という事なのだろう。間諜の彼にとっては、出たとこ勝負は今に始まった事では無いのだから。
二人はそのまま何ら話す事も無く、のんびりと馬を御しながら建業の城門をくぐった。
孫権は呂蒙と共に屋敷の門前まで出て一行を出迎えた。一国の主がここまでするのは異例中の異例である。相手が他国の君主か、それに見合う相手で無い限りは通常は有り得ない。
それだけこの秦縁という男が、孫権個人やこの国その物にとって掛け替えの無い存在であるという事を示している事に為ろう。
田穂は孫権と直に接触するのは初めてであるから、その風貌に驚いている。
その威風堂々とした風采。そしてその顎髭は赤みが強いのか紫色に見える。そしてその瞳は海の如き鮮やかな青色に耀いて見えた。
彼は想わず秦縁の方を振り返りその瞳を見つめる。こちらは緑陽石の如く緑色の耀きを放っていた。
『(ღ`⌓´٥)うわぁ~こりゃ互いに異人の眼だな!この中華の人達とはとても想えない…』
田穂は二人の怪物が相見える怖さをそこに見た気がしていた。
そして呂蒙である。こちらは背が高く頑丈その者である。そして利発そうな表情でこちらを見つめている。何事も見逃さない様な鷹の眼をしていた陸遜とはまた違っているが、隙は無さそうだった。
「⁽⁽ღ(・ิᗜ・ิ * )やぁ♪秦縁殿♡良く来て下された♪招待まで断られるかとヒヤヒヤしておりましたぞ!相変わらず欲の無い方だからな…」
「…御馳走くらいさせて貰えんと私の気がすまん。さぁどうぞ中へ!そちらの御伴の方も緩利と寛いで下されよ♪」
「(๑ ❛ ᗜ ❛)✧これはこれは陛下♪お招き有り難く♡なぁに海の幸が存分に頂けると在っては来ない理由が在りませんからね♪今宵限りは贅沢させて頂きますとも!ここんとこ録な物を口に入れておりませんからな!」
「(・ิᗜ・ิ * )だろう?私も普段は録なもんを食べておらん!何せ民が困っておる時分だからな♪だが今宵は無礼講である…」
「…心行くまで堪能されるが宜しい!御主のお陰で助けて貰っておるのだ。遠慮は要らんぞ!時にそちらの御方はどなたかな?今日は趙蓮殿では無いのだな?」
「(๑ ❛ ᗜ ❛)♡ええ♪この御仁は俺…否、私の客人で御座る。名を田穂と申し、私が徐州で知り合った悪友の所縁の者で御座る。今回の復興でも良く手伝ってくれております。まぁ今宵はその褒美の様なものです♪」
「(・ิᗜ・ิ * )おぉ♪そうか!それは有り難う田穂殿♡貴方も心行くまで愉しんで欲しい。歓迎致しますぞ♪」
「(ღ`⌓´٥)それは勿体無い御言葉…有り難き幸せで御座います♪」
「(* • '-' • )੭ ੈほぉ~貴方は田穂殿と申すか!私が呂蒙で御座る!以後お見知り置きを♪」
「(ღ`⌓´٥)はぁ…そらぁどうもこちらこそ良しなに!」
田穂としては、直接相見えた事が無いとはいえ、日頃から観察している要対象者であるから、突然挨拶を受けてドキリとした。呂蒙は何事も無く、ニコやかな笑みを称えている。
「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิ * )ハハハ♪これで皆ひと通りの挨拶は済んだな♪ではどうぞこちらへ♡今宵は緩利とやりましょうぞ♪」
孫権のその一言で座は和んだ。皆、次から次へと運ばれて来る海の幸にしばらくは舌鼓を打つ事に為ったのである。
食事が粗方終わると、その後は酒宴に切り替わる。本来は宴であるから先に酒で乾杯というところなのだろうが、今は復興の途上なのだから威勢良く呑み始める訳にもいかない。
これは暗黙の了解といったところである。あくまでも食事会であり、酒は二の次という事で在ろう。孫権は秘蔵の酒をこの時とばかりに持ち出して来て、皆に振る舞う。
そしていつの間にかどこからともなく琴の音が流れて来る。滑らかで優しく耳障りがとても良い。
「(๑ ❛ ᗜ ❛)✧ほぉ~琴ですか?これは風流な♪しかもとても優しい響きですな?それに…否、素晴らしい☆彡」
秦縁は琴の音が奏でる抑揚が好きであった。琴の音はその奏者の心の内が垣間見えるからである。赤壁の戦いの折にここ江東での周瑜と諸葛亮に依る弾き比べはとみに有名である。
琴の音に依り、互いの心の内を闘わせたのだ。お互いに上級奏者であるから、そこに言葉は要らなかったと言われる。秦縁はこの話を聞く度にそこに居たかったと想ったものであった。
ここ江東では琴の奏者として周瑜やその婦人である小喬が有名であるが、古琴というのは遥か昔の伏羲、神農、黄帝、堯、舜などの中華の始まりから既に存在していたとされる楽器である。
だから中華の士が携わる嗜みとしては割りと当たり前に弾かれていたらしい。教養の一環である。中華の士の嗜みとしては、他にも書道・絵画・囲碁などが有り、この琴を含み四大教養と呼ばれていたほどなのである。
そのどれもが、その人の心が顕れるという点に於いては共通するものがあるようだ。そしてこの嗜みを通して、相手の心を慮る。それが中華の士人の誉れなのであった。
この古琴というのは、七つの弦を持ち、左手で押さえて右手で奏でる。これが基本となる。
そして雅にも奏でられるが、彼はどちらかと言うと、慎ましく質素な中にも奥深さや豊かさなどを感じさせる、趣が在る音色が好きだった。
「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิ *)おお、喜んで頂けたならば弾かせた甲斐があったというものじゃ♪本来は見た目にも訴える方が良いものだが、今は非常時…然り気無く奏でる方が良いと想ってな!気に入って下さり、試みて幸いだった♪」
孫権は秦縁の反応が良かった事にとても喜んでいる様子である。
「えぇ…(´°ᗜ°)✧私は深みのある音色が好きですからな!お礼に是非、陛下にも一盃献じたいが?」
「おぉ…(ღ・ิᗜ・ิ *)それは有り難い♪」
これも異例である。本来、相手の飲み差しの盃に酒を注ぐ事など滅多な事では有り得ない。気の置けない者同士で無いと礼に反するからで在ろうか。けれどもこの二人は然程、気にしていない様子であった。
田穂は不思議な顔でそれを眺めている。すると、横に居た呂蒙が小声で教えてくれる。
「(* • 'ᗜ' • )⁾⁾田穂殿、気にせんでも宜しい。あの二人は変わっておるのだ。しかも我が君があんな事をされるのは、あの御方のみじゃ…」
「…だから私らも放ってある。あの男が我が国に害を為す者ならば許さぬところだが、全くと言って良い程に欲が無い。だから放っておく事だな!」
呂蒙はそう説明してくれた。なかなかに親切な奴である。敵であるから侮れぬ輩という位置付けに為らざるを得ないが、『同じ旗の下に居たならば仲良くなれたかも知れない…』田穂はそう想うのだった。
「(ღ・ิᗜ・ิ *)時に復興の状況は如何かな?」
孫権は口許を袖で隠すと一気に酒を飲み干し、再び盃を満たしながらそう尋ねた。
「そうですな…(๑ ❛ ᗜ ❛)✧大方は軌道に乗りましたからね!後は資材と人手さえあれば、二ヶ月も掛からんでしょう♪呂蒙殿は無論の事、各将や諸官にも計画は説明しております。後は引き継いで頂いても大事無いかと!」
「そうか♪(ღ・ิᗜ・ิ *)実はな、この呂蒙からそろそろ貴殿を解放して差し上げては?との進言があったのだ!だから、私は貴方と今宵、別れを惜しもうと宴を設けたのだ♪」
「えぇ…ꉂꉂ(❛ ᗜ ❛ ๑)私もそのつもりでおりました。今宵がお会い出来るのも最後の機会とね♪私もそろそろ重い腰を上げて商売に精を出さねば!何しろ私はこの中華のみ為らず、遠方の国々とも交易をしております…」
「…季節ごとに我らが訪れるのを愉しみにしている人々が多勢おりますからな♪そんな人達を失望させたくは在りません…」
「(ღ・ิᗜ・ิ ٥)であろうな!私らの為に骨を折って下さった貴殿の真心に感謝したい。後は我らが引き継ぐゆえ御心配為さるな!元々は我らの国の問題だからな♪」
「えぇ…(* • '-' • )੭ ੈ我が君の仰有る通りです!秦縁殿は我ら呉の諸官諸将にとっても恩人で御座る。誠に忝なかった。感謝申し上げます…」
「…貴方がまた訪れる季節には、皆が喜び勇んで馳せ参じよう♪そして皆が貴方と盃を交わしたいと申し出るに違いない。本当にこの苦境を救って下さり、有り難う御座いました♪」
呂蒙もそう礼を述べたのである。
両巨頭に礼を尽くされると、さすがの秦縁も恐縮する。直ぐに答礼した。
「(ღ ❛ ᗜ ❛ ๑)否、然程の事も無い。私は人として当然の事をしたまでです。私の唯一の望みを知る貴殿方ならばそれはお判りでしょう♪」
秦縁はそう返礼すると笑みを浮かべた。