森の中の会見
太子と趙雲将軍とのやり取りに皆、心が充たされるのを感じていた。特に潘濬は趙雲とは面識が無かったからその人と為りは知らなかった。
『(ꐦ•" ຼ•)立派な方だな…この方が太子を一から鍛え上げたという。今後も注目せねば為るまいよ…』
そして劉巴は太子の想いに感銘を受けていた。
『Σ(o'д'o)こいつは驚いた!魏王為らばこの程度の装いはするだろうが、この人マジでそう想っとる…丞相が言っていた事はまことだったのだな♪』
劉巴は、嘘いつわりの無い太子の真心に触れて、さらにやる気が湧き上がるのを感じていた。
趙雲に諭された事で北斗ちゃんも想う所は在ったのだろう。直ぐにゴシゴシと袖で涙を拭うと勧められるままに席に着く。二人も拝礼するとそれに倣う。最後に趙雲と趙広が席に着いた。
「( ̄^ ̄)…で!今日はやはり丞相からの文の件ですかな?」
「あぁ…( ๑•▽•)⁾⁾ やはり貴方のところにも来ていたのですね?」
「⁽⁽( ̄^ ̄*)左様です!まぁいつかはバレますからな…案外、律儀な事で驚きました。もっと早くバレると想っていたんですがね♪お陰様で城も出来ましたし、言う事ないかと…」
「…それに今度、正式に荊州駐留が認められましたゆえ、晴れて自由の身です。ああそう、ご心配為さるな♪特に何のお咎めも無く済みましたよ。後は私を活かすも殺すも貴方次第といった所ですかな?」
趙雲はそう述べると貴方の番です…と手を差し出す仕草をした。北斗ちゃんはコクリと頷くとすぐ話し始めた。
「⁽⁽(•• ๑)子龍、貴方には今まで御苦労をお掛けしたゆえ、正式に城に入って頂こうと想っていたのです。今日はその打診と健康診断を兼ねていたのですが、まさかこの森そのものを城にしてしまうとは…」
「…些か驚いております。ですが夜露を凌げるにしても、冬場は雪に覆われましょう。今の内に皆様で移動されませんか?」
「( ̄^ ̄)…それは有り難い話ですな…皆、逞しく過ごしていますが、確かに半永久に滞在するには厳しい場所です。それに私が首を縦に振らないと部下が迷惑でしょう。彼らは元々は我らの配下では無い…」
「…今は私に命を預けてくれていますが、元を返せば董允殿と丞相から借り受けた者達ですからね。今まで良く我慢してくれました。そろそろまともな暮しに戻してやりたい。で!やはり南郡城ですかな?」
「ええ…(˶• ֊ •˶)あそこは今、私も鞏志も不在にしており、張嶷がひとりで気を吐いてくれています。貴方と趙広殿に入っていただけると、大いに助かるが?」
「(; ̄^ ̄)それは宜しいですが、私は貴方と違って武人一筋ですからな!上手く務まると想えぬが?」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 子龍、貴方はいずれ一国一城の主となる御方…否、その実績から言えば既に城を束ねる大守くらいはやれる筈です。潘濬も貴方なら務まると太鼓判を推してくれました。如何です?挑戦してみませんか?何なら僕が教えます!」
北斗ちゃんは本気だった。趙雲も驚いてしまった。ところがすぐにそれは却下された。潘濬だった。
「(ꐦ•" ຼ•)太子様、お気持ちは判りますがそれは駄目です。私がお教えします♪」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ しかし…僕は子蘢に鍛えて貰った恩を返したいのだ♪お前ならその気持ち判るだろ?」
「ええ…(ꐦ•" ຼ•)⁾⁾ 判ります!」
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥じゃあ…」
「(ꐦ•" ຼ•)太子様、冷静にお考えになって下さい!気持ちは判ります。けれども、貴方は今やこの荊州の全体を統括すべき御方。いちいちその都度、首を突っ込んで実践していては、他の者がいつまで経っても育ちません…」
「…今までは、貴方自身が皆に信頼される必要が在り、その為には避けて通れぬ道でしたが、今や貴方は完全に皆の心を掴んでおります。言い方は悪いですが、率先して取り組む時期は終わったのです…」
「…今後はその姿勢だけは失わないに越した事は在りませんが、他の者を育てる意識を持つべきなのです♪その為には信じて任せる!その癖をお付け下さい。まずそれがひとつ♪」
「あぁ…(´٥°ᗜ°)」
北斗ちゃんは初対面の時からこのかた…この男には圧倒され通しである。けれども、いちいちその言葉に説得力があるため、反論も出来ない。
そして彼の第六感が、この男を手放す事は出来ないと言っているのだ。少々小うるさい男だが、未だかつてこの男の言っている事が間違っていた試しはない。
それに、道理を説いてくれている相手を怒るなんて礼を失する。彼だって、恐らくこんな事をいちいち言いたく無かろう。要は自分がしっかりすれば済む事である。
しかも『意見はちゃんと聞く』と宣言したのは自身である。趙雲もどうやら続きが聞きたいらしい。すっかり自分の事は棚に上げて、腕を組んだまま待機している。
潘濬は太子のみならず、将軍まで興味津々なのを横目で見ていて、少々やり過ぎたかと想ぬ訳でも無かったが、これが自分であり、その役割も心得ているため、先を続けた。
「(ꐦ•" ຼ•)✧ 理由は後二つ御座いますが、一つ目は恩を返すという点にあります。貴方が将軍に恩義を感じ、それを返したいというお心はとても尊い。その真心は大事に為さいませ!…」
「…けれども臣が思いますに、趙雲将軍に御恩を返したいとお考えならば、それは貴方が将来立派な王と成る事でしか返す事は出来ますまい…」
「…無論、貴方がそんなつもりで言ったんじゃない事は理解していますが、ならば小事は配下に任せて貴方は貴方にしか出来ぬ道で精進下さい♪」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 判った!お前の言う事はもっともだ…その通り精進しよう♪後一つは何だ?」
「(ꐦ•" ຼ•)⁾⁾ 三つ目の理由は簡単です。趙雲将軍はご謙遜されています…勿論、内政を観るのは初めてなのでしょう♪それは否定しません!けれども将軍には柔軟な叡知が在りまする…若君!私が先日、一日お暇を乞うた事を覚えておいででしょう?」
「あぁ…ꉂꉂ(°ᗜ°٥)そう言えば!河川の検地に行く前日だったよな?」
「(ꐦ•" ຼ•)⁾⁾ 左様です!私はあの時、武陵内に将軍が構築された罠を拝見に参りました。今後も呉の侵攻に備える為にはどうしても必要だったからです♪」
「何!(´٥°ᗜ°)…貴方はそんな事をわざわざ?」
「ええ…(ꐦ•" ຼ•)⁾⁾ 大雨も在りましたし、まだ有効かを確認する為です!けして将軍を疑っての事では御座いません!」
潘濬は趙雲を見つめるとそう答えた。
「あぁ…( ̄^ ̄)気にするな!先を続けてくれ♪」
趙雲は涼しい顔でそう答えた。将軍の言葉に北斗ちゃんも先を促す。
「(ꐦ•" ຼ•)✧ すると、それは見事な仕掛けでありました。まぁ全てを見極めた訳ではありませぬ。基本は街道を進み、身の安全を確保しましたからね…」
「…そして時折、足を踏み入れただけですので♪恐らく仕掛けの全容を知っていなければ、身体が幾らあっても足りませぬ。それだけ用意周到な物だった訳です…」
「…しかも所々、数値に強くなければ仕掛けられず、避けられずといった具合の罠も見受けられました。そこで私が出した結論は、"コツさえ掴めばこの人は何でも出来る"そういった確信に近いものであったのです!」
潘濬はそこまで説明すると、太子と趙雲を交互に見つめた。
劉巴は相変わらず無言を貫いている。新参者としての遠慮もあるが、それぞれの人達の力量を推し量っている様にも見える。
そして趙広は勿論、父の策に応じて罠を張った一人であるから、ハラハラドキドキしながら聞き耳を立て、その結果として度肝を抜かれた。幾らなんでも、あの罠の検分に行くなんてどうかしている。
余程、肝が太くないと出来ないし、死にに行く様なものである。正気の沙汰では無い。馬鹿か相当な才能が無ければ無理である。しかも彼はこうして生きて帰っているのだから、後者なのだろう。
それにこれは父に言われた事だが、才を鼻にかけている者は必ず才に溺れる。けして生きて戻れぬと断言していた。この方はそれを乗り越えてここに居る。しかも今の今まで太子にも黙っていたのだ。
高慢な人とはとても想えなかった。冷静な目と謙虚さがある人…と言う事になるだろう。ある意味、末恐しい逸材なのである。
北斗ちゃんも畏敬の念を持たざるを得ない。度胸と冷静さと謙虚さ、それも勿論凄い事だが、北斗ちゃんは元々趙雲の狙いには気づいていた。
彼は街道に敵を誘い込んで、呉の本体を蜂の巣にするのが狙いだった。そう想い至った時に、この人の本当の恐さがひしひしと伝わって来て、想わず身振いしたのを覚えている。
そんな必殺の構えを組んだ罠の検分に行き、報告もする気が無い程、平常心に構えているこいつは何なんだ…趙雲とひけを取らない力を今ここでまざまざと示した事になる。
しかも全くと言って良い程、自慢気でなく、ケロッとしている。北斗ちゃんはなぜこいつにあれほど圧倒されるのかが、何となく理解出来た気がしていた。
それは圧倒的な経験に基づく才能の蓄積であったのだ。経験不足なひよこちゃんが挑むには少々相手が悪過ぎるというべきだろう。
このような展開に為って来ると、皆の注目は俄然、趙雲に集まる。自然と皆の視線が刺さって痛い。彼はやむを得ず口を開くと語り出した。
「( ̄^ ̄)…無謀な事を♪しかしながら、街道から接近したのは悪い判断では無かったな!しかも小刻みに出入りを繰り返したその姿勢は買う。出なければ貴方は今ここには居るまい!…」
「…それにあの作戦はあの時きっかり一度の作戦だった。漢江が氾濫する可能性が在ったから造り上げた策だったのだ。まぁ太子の予想を遥かに上回る手際で河路も結果として抑えられたけどね…」
「…私はあの後、当然ながら現地の視察を怠らなかった。当然の事だ!相手の力量を推し量るにはそれしか道は無く、推論すら出来まい。だから貴方が行く必要性は無かったのだ…」
「…呂蒙はやはりあそこを一度は抜けようと試みた様だ!それが証拠に突入時に被害を被ったらしく血の痕があちらこちらに見受けられた。だが相手を殺傷出来たのはごく一部だろう…」
「…呂蒙はあそこからの突入を諦めたらしい。だからこそ街道を堂々と進んで来たのだが、互いに幸いだったのは、あちらさんも途中までは河路を通って来た事だった。このままでは退路が絶たれる…」
「…軍隊に取ってはそれだけで撤退の理由には為るからね♪そして恐らくは首都・建業も大打撃を被った事も知ったのだろう!だから退いた。こちらは荊州を守れて無駄な死者も出さず、無駄な殺生もしなくて済んだという訳だ!」
趙雲はそこまで説明を終えると、懐から汚れが酷く目立つ羊皮紙を取り出し、机に置いた。
「(٥ ̄^ ̄)✧ こいつはな…私が検分した時に木に打ち込んであった呂蒙の手紙だ♪皆…これを読むと良い!」
潘濬はそれを手に取ると太子に差し出した。北斗ちゃんは手を振り、おもむろに口を開くと、「貴方が読み上げてくれ…」と頼んだ。潘濬はそれを受けて読み上げる。
『なかなかの仕掛けだった…だが二度とこんな小細工には掛からない。誰かは知らんが、次に逢いまみえる時には必ず後悔させてみせよう♪今回は策に乗ってやるが、相応の被害を覚悟せよ! 呉国大都督・呂蒙』
「(ꐦ•" ຼ•)成る程…確かにこれでは二度と引っ掛かりますまい♪けれども将軍が罠をそのままにしている事実は、今後もその罠が無駄ではない事を表しています。そしてそれは突入経路を狭める為なのでしょう…で無ければ発動した罠を許には戻しますまい!違いますか?」
「ꉂꉂ( ̄^ ̄*)ハハハ♪その通りだ!だが作戦は変更を余儀無くされるだろうけどな♪成る程…若君!良い男を得られましたな♪少々口うるさく理屈っぽいが、貴方には良い先生と為りましょう♪」
そう釘を指すと、趙雲は潘濬に拝礼を行った。
「ꉂ( ̄^ ̄*)貴方に教えを乞おう…若!潘濬をしばらくお借りしますぞ!宜しいですな?」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ あぁ…本人さえ良ければ僕は構いません!必要な男ですが、僕には劉巴もいますからね♪」
「ꉂ( ̄^ ̄*)まぁそれなら安心ですな♪劉巴殿も癖はあるが、優秀な人物です!間違いは無い。では潘濬殿をしばらく借り受けます!宜しく頼みますよ♪貴方の教えならば、有り難くお受け致そう!」
「(ꐦ•" ຼ•)えぇ…喜んで!私もその間に貴方から教えて頂くつもりですからね♪これで貸し借り無しという訳です♪」
「ꉂ( ̄^ ̄*)これは一本取られたな♪宜しい!私の奥義を伝授して進ぜよう♪」
こうして予定通り事は決まった。潘濬は劉巴に呟く。
「(ꐦ•" ຼ•)これで君も否応無く力を発揮しなくては為らなくなったね♪出し惜しみは行けませんぞ♪しばらく留守にしますので宜しくお願いしますね♪」
「Σ(o'д' ٥)これは一本取られたな…宜しい!私も自分の最善の力を発揮するとしましょうか!まぁ勝手が違いますからな、貴方の様に行くかは判りませんがね…」
劉巴もそうこぼす様に呟いた。
皆…それぞれに、潘濬ひとりに当てられた感は否めなかったが、その中で当の本人である潘濬だけは趙雲将軍の底の見えぬ奥深さに驚嘆していたのだった。
そしてその趙雲将軍がいみじくも語った『太子の予想を遥かに越えた手際の良さに救われた』という言葉にも注目し、等閑にする事は決して無かったのである。