商人魂
その日糜竺は陛下との会見が終わると、早々に退出した。別れ際に諸葛亮に礼を述べられると、即座に首を横に振る。
「⁽⁽( ω-、)否、私はそんな大それた事はしておりません。至極当たり前の事をしたまで!少なくとも丞相の御苦労を知る者であれば、誰であれ、私と同じ事を進んでした事でしょう♪貴方には引き続き御苦労をお掛けしますが、私もその一助となれる様に微力を尽す所存です!」
彼はそう述べると、笑みを浮かべた。
「そうですぞ!( ˶ˆ꒳ˆ˵ )丞相♪全て糜竺殿に言われてしまったが、私も同じ気持ちです!」
董允もそう答える。
「(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )有り難う♪御二方は私の良き理解者であると共に、荊州で頑張っておられる若君にとっても、無くては成らない方々で御座る。引き続き宜しくお願い致します♪」
孔明はそう述べると再び拝礼し、引き上げて行く。彼にとってはこれ以外にも日々の業務をこなさなければ成らないのだから、立ち留まって長話しも出来ない。特に間も無く、成都をしばらく空けなければ成らないので、依り一層、時は金成りなのであった。
二人は丞相の背中を見送ると、「ではそろそろ…」とどちら共無く声を掛け合い、互いに挨拶を済ませると、背を向けて反対の方角へと引き上げたのである。
さて糜竺はその足で城門へと向かう。すると、既に一人乗り馬車が準備されており、彼はそれを自ら馭すと、そのまま成都郊外へと向かった。
「ꉂꉂ(-公- ;)おい!そうじゃない、そこはこうするんだ!!」
厳しさの中にも優しさの隠った態度で、仲間の手際を直す男がいる。男を中心にして若者から中年、お年寄りまで、とぐろを巻く様に囲いながら、男を真似て稽古の最中である。
それは枡の量り方から始まり、分銅の使い方、商品の扱い方、剣術、弓矢、お辞儀の仕方まで多岐に渡っている。その中心に居る男こそ、何を隠そうあの縻芳であった。
彼は長年、劉家の為に稼ぎ捲って来たが、自らの不始末により失脚したばかりか、その地位をも剥奪されて、平民に堕とされたのだった。
けれども彼にしてみれば、何も賤民にされた訳では無いし、罪は罪だから罰は慎んで受けたものの、長年の功労金もたんまりと出たので、それを元手に今後は本格的に商人に成ろうと前向きに取り組んで居たのであった。
「(*´▽`)よぉ~精が出るな?」
糜竺であった。彼は既に弟が立ち直り、新しい挑戦に前向きに取り組んでいる事が嬉しかった。
「兄者!(*´公`)俺は一度死んだ人間だ♪処刑されて居れば実際そう為っていただろう…けどな!太子様や丞相殿の陳情もあって、何とか命だけは永らえた…」
「…この先は父上の跡を正式に継いで、真の商人になる。そして糜家の男の生き様を見せてやる!兄貴は国の高官として♪私は一人の商人として努力するさ♪」
そう弟が言葉にした時は目頭が熱くなったものだ。その言葉通り弟はしっかりと地に足を着けて、目標に向かって着々と準備に励んでいる。
彼はそんな弟に気兼ねする様に、「ちょっといいか(*´▽`)?」と声を掛けた。糜芳は元々自分も官職に付いていた身だから、兄が多忙な人である事は承知していた。
だから仲間にすぐ、「(*^公^)ノ♪悪いがしばらく休憩だ!飯食うなり、楽にするなり好きにしろ♪だがまだ続きがあるから、酒は飲むなよ!なぁに、心配しないでも後でたんと飲ませてやるからよぉ~いいな♪」と叫んだ。
「「「へい!判りやした♪」」」
皆、すぐに返事をする。とっても威勢が良く、皆、規律正しい。
『商売の道は、礼に始まり、礼に終わる。相手を儲けさせてやり、自分達もその恩恵に与る!』
それが彼の商人魂であった。
「(´公`*)俺の部屋で話そう!」
彼はそう言って、兄を招き入れた。
糜竺が勧められた席に腰を下ろすと、「ちょっと待っててくれ!」と言って、糜芳は自ら茶を入れると「ほい!」と差し出してくれる。
「(っ´公`)っ日~~ 何も無いけど、まぁ茶くらいはな!のんびり飲んでくれ!落ち着いたら話しを聞こう♪」
そう言って自分も喉が乾いていたのかグビグビと飲み始めた。
「(*゜公´*)まだ土瓶に幾らでもあるから、後は勝手についでくれ!で、話しって何だ?」
彼は多忙な兄の手間を省いてやろうと単刀直入に尋ねる。彼もその方が早く仲間の許に戻れる。一石二鳥と言う訳だった。
糜竺は話す前から、気が重かった。
これだけ気持ちが健やかにのびのびとしている弟を見るのは始めてだったからである。否、そう言えば遠い昔、まだ劉家と係わりが出来る前の彼はそうだったかも知れない。
けれども最愛の姉が亡くなった辺りから彼は正気を失い始めていたのだろう。それ以来、こんなに清々しい顔をしている彼の笑顔も記憶になかった。
「兄貴!(‘公‘ )どうした?」
糜芳は怪訝な顔をしながら聞いた。やむを得ず糜芳も重い口を開く。
「弟よ!(;´▽`)お前がもし気に入らなければ正直に言ってくれ!この度、太子様が荊州南端まで運河を拓き、ゆくゆくは海洋交易に乗り出そうという計画を立案された…」
「…お前も知っての通り、河川事業には金が掛かる。そこでその手立てとして、お前を官職に復帰させて、商業専属の担当官としてその辣腕を活かして貰おうという話しに為った…」
「…引き受ければお前は晴れて官職に戻れる。お前にとってはチャンスだと想うのだが、どうする?」
「(‘公‘*)その恩赦とかってのは、いったい誰の発案なんだい?」
「(*´▽`)丞相殿の御提案だが?」
「やはりな…(‘公‘;)で!見込みがあるから来たんだろうが、王様は承諾したんだろうな?」
「あぁ…(*´▽`)二つ返事で承諾された…」
「ふ~ん成る程ね…(‘公‘ )丞相の鶴の一声という奴か!王は丞相には弱いからな…けどな兄貴!悪いが俺は断わるぜ!何せ、もう官職にはうんざりなんだ!俺は荊州で地獄を見た。また国の御都合とかでこの身を焼かれるのはもう御免なんだ!兄貴は商売のイロハも知らないド素人だ…」
「…否、すまん他意は無い。だから官職は兄貴の天職なんだろう。けどな…官職と商売はけして両立しない。これは俺の経験から身に沁みた格言さ♪言い方は悪いが、官は搾取する側、商人はされる側なのさ!それが根元を同一にしてみろ!また再び悲劇は繰り返される…」
「…俺が迷走しなくとも、必ずまたそういう奴は現われる。そうしたら、太子様のように苦しみ抜いた揚げ句の果てにソイツらを処分しなきゃならない立場の者も出て来るし、その職責に就任したために、闇堕ちする者も出て来よう…」
「…そんな悲劇は二度と避けねば成らんぞ!兄貴も丞相もまだまだ考えが甘いぞ♪皆、始めは"少額なら大丈夫だろう!"この甘い囁きで闇に堕ちる。気づいた時には身の破滅だ…」
「…人間はな、皆の想うように強い者達だけじゃない。大抵の人達は皆、弱い者達なのだ。漢帝国の腐敗がそれを如実に証明している。だから俺は辞退するので、丞相にくれぐれも宜しく言ってくれ!」
糜芳は言いたい事を言い終わると矛を納めた。彼の言葉は経験に基づく分、現実味に溢れており、糜竺の心にも深く刺さった。心無しか胸が痛い。
「判った!(;´▽`)そう伝えよう…だがお前、本当にそれでいいんだな?後悔しないな?」
「あぁ…(‘公‘*)だってさぁ兄貴、元々俺らは商人だったんだぜ?俺に言わせれば昔に戻っただけさ♪」
「そうだな…(*´▽`)確かに♪だがお前のそのしっかりとした覚悟を聞いて、私も覚悟が決まったよ。だがこれだけは覚えておいてくれ!この先、どんな事が起きようともお前と私は変わらず血を分けた兄と弟なのだ…」
「…人生の半ばで無念の内に亡くなった我々の糜姫の為にも末長く仲良く、そして長生きせねば成らんのだ♪進む道は違えども、我らは御先祖様の為にも糜一族の血を後生に残さねば為らん。それだけは忘れないで居てくれ♪」
「あぁ…(‘公‘ )それは勿論♪俺は別に袂を別つつもりなんて端から無いからな!心配しないでいいよ兄貴♪それに俺は必ず可愛い甥っ子には報いるつもりだぜ♪その為の商団結成だからな♡」
糜芳はさらりととんでも無い事を宣う。彼の瞳には強い意志が観て取れた。糜竺は呆気に取られた様に弟をガン見する。
「お前…(;´▽`)それはいったいどういう事だ♪今まで散々やらない辞退すると言っておきながら、若君を助けるだと?発言の矛盾が甚だしいと想わんか?」
糜竺はまるで訳が判らない。それは彼が商人としてはずぶの素人だという事を露呈し、自ら証明した事を意味していた。
「ꉂꉂ(‘公‘*)フハハハ…確かにな♪表面だけ眺めればそうだろうぜ♡でも矛盾はして無いんだぜ♪これは謂わば取引だ!商人とは持ちつ持たれつだからな。わしらは相手さんの望む物を提供する。それで商いとは成り立っているのだぜ…」
「…販路の新規拡大はわしらに取っても生命線だ。だから放って於いてくれても自ずとやるだろう♪それがひとつ。そして国との取引に依って、わしらは拡大した販路で国に変わって人や物の物流で貢献する…」
「…商人とはそもそも自由に立ち回れないと行動が限定される。魏や呉とだって時には商売しなきゃ為らんのだし、相手さんにとっての利も提供せねば為らんだろう。何故って?そりゃあ火を見るより明らかだぜ…」
「…利を感じない所に商売は成り立たん!こいつは我々にとって有益だ♪そう想わせなきゃ次の取引をして貰えまい。利益を産む太いパイプを作るのが有能な商人の在り方なのだ♪その際に肩書きが蜀の大臣じゃあ本末転倒だろっ…」
「…この中華には既に大きな販路がある。魏や呉との取引をせずに商売するのは自ずから販路を狭めている様なものだ。だから国の息が掛かっていると行動は制限されるし、相手さんも無駄に警戒して取引してくれまい…」
「…魏や呉の中にも利を産む産物は一杯ある。それを放置しておく手は無い。わしらが代わってそれらを売って金に替えてやる。そして欲しい物があれば買って来てやる。そこでまた売り買いが生まれる…」
「…需要と供給の幅を拡げる為には国の息が掛かっていない自由な身の方が立ち回り易い。それにいちいち敵と通じているとか訳の判らない疑いを掛けられるのは御免だからな♪これがふたつだ…」
「…兄貴!( ;゜公゜)ノノ これだけは言っておく。丞相がわしと取引がしたいなら、こちらは応じる用意がある。但し、わしが最後まで信用出来ればと言うのが絶対条件だけどな♪ではわしらの要求を伝える…」
糜芳はそう言うと予め用意していたで在ろう羊皮紙を胸許から取り出すと読み上げる。何という用意周到さで在ろうか、端からこの流れは既定路線だったのだと糜竺は想った。
『(;´▽`)こいつは一本取られたな…まさに生粋の商人とはこ奴の事だ♪端からそのつもりだったんだ!』
糜竺は想わず退けぞった。
「(´°公°)✧ひとつ!我らは自由な侠客として商道にひたすら邁進する。そこに国の垣根は無い…」
「…ふたつ!取引に応じるなら自由裁量でやらせて貰う。一切の要求は受け付けない。但し、交渉には応じる…」
「…みっつ!拠点を蜀に残すから自由な出入りを認める事。但し、本拠地は三國に干渉されない第三国に置く…」
「…よっつ!・・・いつつ!・・・むっつ!・・・ななつ!・・・やっつ!・・・…」
「…ここのつ!我らは人の売り買いはせぬ。また女人の不適当な斡旋もせぬ。人を惑わす薬も売らぬ。それが正しい商の道であり、侠客としての自負である…」
「…とう!我らの根幹は董斗星個人の公共の福祉に懸ける想いを体現する為にこそある。その為の協力は惜しまないが、商売人として採算の見合う形は取らせて貰う。以上である…」
糜芳は一気に読み上げると、羊皮紙を丸めて糜竺に渡す。糜竺も「あぁ…」と言って受け取る。
「(´°公°)✧ まぁぶっちゃけ簡単に言うとだ!協力はするが、あくまでも商売人としての取引の範囲内で手伝おうって事だな!つまりは善意の協力支援という形を取らせて貰う…」
「…まぁ兄貴の前だから正直に話すけど、俺はもう人に命令される立場は嫌なのさ!自由に生きるぜっ!て宣言なのだ。勿論それには責任が伴う。何しろ、いつの時代も上に立つ者は辛いからな…」
「…俺も配下を食わせていかにゃあ為らんし、将来的には中華一の、否、それを上回る商人を目指すつもりなのだ♪後、ここだけの話しだけどな…海洋交易のルートが出来る事はわしらにも利がある!」
「お、お前…(;´▽`)それってまさか?」
「おいおい兄貴!(´°公°)✧ まさか今さら、私利私欲とか言わんでくれよ?ほんの細やかな望みじゃあ無いか♡商道とは利害の一致から始まる物語なのだ♪わしらは手伝ってやるんだから、開通した暁には自由航行を認めて貰うのさ♡あくまでもギブアンドテイクなのだ♪」
糜芳はそう言うと、してやったりとガッハッハと大声で笑い始めた。糜竺は我が弟とはいえ、商人の商魂逞しさに呆れ返ると共に、こいつならば成し遂げるだろうと、そこに確信めいた物を感じていた。
こうして兄弟の会見は終わりを告げ、糜芳は仲間内の所に戻って行った。糜竺は帰り際に、また大声で稽古をつける弟の張りのある声を耳にして、自然と笑みが込み上げて来た。
翌日、その要求書を受け取った諸葛亮は、「やはりな…(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )✧」と言ってすぐにその条件を飲んだ。そして如何にも想定内といった呈で糜竺を伴うと、陛下の御裁下を仰いだ。
劉備は報告を聞いて面白そうに笑った。そしてすぐに許可した。
「(◍′ᗜ‵◍)ファハハハ♡さすがは孔明じゃ♪御主の言った通りに為ったのぅ!善かろう♪善きに計らえ!」
「!!( ω-、)…」
果たして商魂逞しかったのはいったいどちらだったのだろうと糜竺は想った。想定内…官民相愛の許に始まったこの試みが、きっと花啓くようにと願わずには要られない糜竺であった。