劉備の"閃き"
諸葛亮・董允・糜竺の三人は無事に太子の真実を伝え終わり、河川工事の本格的な取り組みにも承認を得られた事で、帰りの道すがらは和気藹々と語り合い、互いに心地好い気分に浸っていた。
そして劉備から新たに大きな宿題を与えられた事で、三人はそれぞれの課題を胸に秘めて改めて気持ちを引き締めていた。皆、その目標がこの国をより良くするに違いないと喜んでいたのである。
目的が決した後に劉備はこう述べた。その表情はまさに"閃き"を発する時の太子様のそれで有り、血は争えないと言うべきだろうか。陛下の顔には悪戯っ子の様な笑みが浮かんでいたのである。
「(◍′◡‵◍)ところで…私も面白い事を想いついたぞ♪」
それは愉しそうな表情を浮かべた劉備は話をこう続ける。
「(◍′◡‵◍)なぁ…聞きたいだろ?聞きたいよね?」
そんなに嬉しそうに呟かれると三人も首を縦に振るより無い。⁽⁽(˘͈O˘͈٥)⁽⁽(˶ˆ꒳ˆ˵٥)⁽⁽( ω-٥)
「(◍′◡‵◍)そうかやっぱり聞きたいよね?じゃあ喋るね?よ~く聞く様に♡」
さすがに一国の王だけあって、その勿体振りは太子様の比ではなかった。控え目な太子との如実な違いは王としての自負で在り貫禄で在ろうか。
「(◍′◡‵◍)これは丞相や太子の経験から想いついた事なのだが…いっその事、国を支える重臣連中は許より、国内の若者達から優秀な者達を集めてだな…その"教育"とやらの意識を植え付けてはどうか?国が主体的にそう言う方針を打ち出すのだ…」
「…これは私の経験からも感じている事だが、私は学が無かったのに歳を経てからの努力だけで今ここにいる。若くから国に貢献したい者は、どんどん登用せよ♪」
劉備は先ずはひとつ!という含みを持たせて一旦、話を切る。私のアイデアはこれだけでは無いぞ♪…そう訴えている様な目つきである。
三人共に苦笑いだが、成る程…一理ある。そう言う方針ならば大歓迎と再び集中する様に陛下に注目した。
劉備は自分の"閃き"が三人に感銘を与えたのを感じ取ると気を良くした。そして満足げに頷くと話を続けた。
「(◍′◡‵◍)次に身体の健康についてじゃ♪皆も感じている様に、我々の組織は年齢層が高い。それが悪いと言っているのでは無いのだ。これは先程の方針にも関連してくる事だが、今まで我らが培って来た経験を後世に残さない手は無い…」
「…その意味でも後進を育て見守る事は必要と為って来るだろう。ならば長生きせねば成らぬな♪皆、今まで頑張って来たから老後は愉しみたいと言う者もいるだろうが、第一線を離れても教育は可能である。人間死ぬまで勉強だからな…」
「…話が逸れたが、そう言う訳で皆の健康に気遣い、皆も自らの努力で体調管理を徹底せねば成らん!その為には、太子の作り上げた健康管理法は者の役に立つに違いない。これを依り精査して、皆の体調管理に充てさせて欲しい…」
「…これは趙雲が長患いをしていると聞いていて、私の当面の課題でも在った事である。何とかしたい!さっそく太子と連絡を取ってその指針を出させるように♪なぁに、あいつがやりたい事に莫大な資金を投資してやるのだ♪そのくらいはさせよ!」
劉備は呆気ら感とそう宣う。何も太子も自己の利益の為に河川整備をするのでは無いが、それを重々承知の上で堂々とここまではっきり言えるのは彼ならではと言えるだろう。
但し、三人もこの点に於いても異論は無かった。至極最もな方針である。確かに老齢化の波は、この蜀の国でさえ深刻極まりない。早めに手を打つに越した事は無かった。
「「「⁽⁽(˘͈O˘͈*)⁽⁽(˶ˆ꒳ˆ˵*)⁽⁽( ω-*) 御英断です!我が君♪我々も同意致します♪」」」
皆、晴れやかな気持ちに成っていた。納得のいく問題提起だった。そして王自らの決裁であるから何より進めやすい。
「(◍′◡‵◍)善し♪ではさっそく取り掛かろう。丞相はご多忙な方であるから、先程来の全体像を把握して、齟齬を来さぬ様にして欲しい。使いたい人材の自由な投入を許す!貴方は国の崩壊を招く様な人では無いから、バランスは考えているだろう…」
「…だから任せる。これは趙雲の事についても同様じゃ♪貴方が荊州に置く事が最良と想えばそうするが良いぞ♪そして教育の問題と健康管理の問題に関しては、適任者の推薦を許す。誰がその任に適当で在ろうか?この際だから御三方の忌憚の無い御意見を聞いておきたいが!」
劉備はそこで説明を終えるや三人の顔を順番に見つめていく。先ず口を開いたのは諸葛亮であった。彼は冒頭に陛下の信認に対して改めて礼を述べると、おもむろに語り始めた。
「(˘͈O˘͈*)我が君の厚き信頼に対して、先ずは御礼申し上げる。ではさっそくではありますが、私の意見を述べさせて頂きまする。教育の問題に関して言えば確かに仰有る通りかと!但し懸念も御座います…」
「…若い内にその才能を伸ばす事に異論は無いのですが、強制は出来ぬでしょうし、それでは本人達の自主自立の精神が養えませぬ。重臣の後継と言えども全てその父親の能力を引き継いでおるかは甚だ怪しい所です…」
「…ここはその出目よりもやる気のある者、貧しいゆえに学べぬ者にも光を当てましょう。見込みのある者には無償で教育を施してやるのもひとつの手でしょう。ある意味、これは人材に於ける先行投資とお考え下さい…」
「…そしてこの教育には倫理感の撤底も含めます。陛下もご存知の様に、国の法とは孟子の性善説や荀子の性悪説から派生したものです。どちらも一長一短ありますが、両者が大きな点として主張しているのが教育の重要性なのです…」
「…それでも人とは悪い側面を持っている者です。ですから、法を守り、悪を憎み、善を尊ぶ気質も養わせねばならないのです。そしてその法ですが、我々が存命中にこれからの国造りに必要な新しい考え方を組み込み、古の時代からのそぐわない物は捨てるべきかと…」
「…勿論、古来から続くものでも、人の根幹に関わる法は大切に活かすべきであり、この問題についても有識者を募り、推し進めていかねばなりません。太子様もこの点については既に指摘されており、若手ながら見込みのある潘濬という者を推挙されております…」
「…教育と法の在り方、この二つを念頭に進めるのであれば、一番の適任者は太子様御本人しか在りませぬ。或いはこの私でしょう。けれども今、太子様を彼の地・荊州から動かす訳にも参りませぬ…」
「…また、この私もこれ以上の職務には堪えられぬでしょう。何しろ健康問題の件も御座いますれば、今後は適任者を見つけての職務移譲を行い、仕事を逆に減らしていかねば成りませんからね!」
諸葛亮は長々と説明を続けていたが、一旦言葉を切ると、こう結論付けた。
「✧(˘͈O˘͈*)この件は、ここに居る董允殿と糜竺殿を用いましょう。彼らは生来の善なる性質を持ち、品行も宜しい。また少しくらいやんちゃな者でも、その内なる精神を看破出来ます。幾ら有能な者でも悪を政治の中枢に近づけては成りませぬ。私の教育に対する考え方は以上であります!」
劉備は頷くと、さっそく二人に問う。
「(◍′◡‵◍)丞相の推薦だから私はそれで行きたいのだが、御二方はそれで宜しいのかな?忌憚の無い本音をお聞かせ頂きたいが…」
董允も糜竺も反射的に互いを見つめるが、既に決意も固っていた。
「「 ⁽⁽(˶ˆ꒳ˆ˵٥) ⁽⁽( ω-٥)やりましょう!!」」
二人は即答したのである。
彼ら二人は良きにつけ悪きにつけて、太子様の取り組み姿勢を見守って来た。ある意味一番の適任者と言えたのである。そして幸いな事に、この二人にはその自覚もあったから、直ぐに承諾する事が可能だったのだ。
『✧(˘͈O˘͈*)将来的に太子様が成都に凱施した暁には、この方面にも関与して頂ければそれで良い…』
諸葛亮もそう心に想い画いていたのだった。こうして教育方面の責任者はこの二人に決まった。
ではもうひとつの抜本的改革・健康管理についてはどうしたのかと言うと、基本方針は成都からの医師団の派遣であった。半年毎に計画的に荊州に医師を担う人材を送り込もうというのである。
三人の共通した見方としては、華侘医師を成都に招聘出来れば一番良いが、太子様の意向に添わない。
『(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 先生には自由に去る権利がある!それは人道的観点から曲げられない。これだけ助けて頂いた御方に無理強いはさせられない。そこを良く御理解頂き、遵守して頂きたい♡』
それが太子様の意志である以上、無理は出来なかったのである。そのためこの様な措置になった次第であった。
それに一番弟子の太子、二番弟子の弎坐、費禕や費観、管邈などもその習熟度に差があるとは言え、健康管理上の面については、それぞれに確固足る知識があったから、手の空いている者が教えられるだろう。
本来的に書物を読むだけなら、必要の無い事である。要は実践なのであった。
そして馬超・黄忠・張飛の主力将軍と、厳顔・魏延と言った要衝を任されている将軍に至っても、順次荊州に行って来いと命ぜられる事になる。
皆、嫌がろうが、これは劉備自らが考えた方針であり、丞相も支持されていると知ると、反対する訳にもいかなかったのであった。
しかも高名な医師・華侘の問診が受けられる上、劉禅君が面会を望んでいると聞くに及び、皆行かない訳にいかなくなった。
これは早めに手を打つ必要のある者を、直接現地に向かわせるという荒療治である。そのためにあらゆる餌で釣る必要があったのだった。
馬超などは、馬岱が代わりを務めてくれるため、比較的動き易い。それにどこから話しが漏れたのか、関羽将軍が雌雄を決しようと宣っていると真しやかな噂が耳に入れば、「(´°¬°)✧行かいでか!」と躍起となるに決まっている。
これは最早、相手にする気など無い関羽の姿勢を認めた丞相が流した挑発という噂もあったが、本人がそれは公式に認めていないのでその是非は闇の中である。
但しこれで馬超本人が荊州行きに乗り気になった事は間違いない事実であるから、誰であろうが噂を流した者の意図は、成功したと言えるだろう。彼はここの所、体調が想わしくないとの従弟・馬岱の進言があったので、急ぐ必要があったのである。
黄忠と厳顔は老将同士、定軍山の戦いから互いを補っているため、比較的職務を抜けやすい。しかしながら、そこは本人達の矜持もあるから、やんわりと張苞が買って出る事で殊は納ったのである。
これは劉備から頼まれた張飛の仕掛けである。彼は元々この二人の老将には一目置いていたから、息子に経験を積ませる意味でも諭したのであった。
魏延などは、端から物見遊山くらいの割り切りがあり、留守の間は黄権が交替してくれると知って大喜びである。彼は元々荊州出身だから、囲舎に帰省するくらいの乗りであり、せいぜい羽を伸ばそうとしめしめと手を擦り合わせて喜んでいた。
ところがいざ出発の段になり、蓋を開けてみると、馬超と黄忠のお世話を兼ねた道行きに成ると知り、「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)聞いてね~よ~」と叫んだとか?
そう言う噂も成都の士人達を大いに喜ばせたのである。こうして秘匿された健康診断という名の荊州行は、順次行われる事になったのである。
最後に蛇足には成るが、面白いので付け加えて置く事にする。
「(◍;′◡‵◍)σ…なぬ!?わしも行くの?何で?だってわし王様だよ♪王が留守にしてど~すんのよ!余り王と太子が同じ所に居ない方が良いってさ、王位継承者の鉄則だよね?ど~すんのよ??」
「(ꐦ°᷄д°᷅)兄者♡心配要らね~よ♪わしが一緒に行って守ってやるからよ!大船に乗ったつもりで居な♪なぁに、成都は丞相が居れば問題無いし、たまには太子や関羽兄貴、趙雲とも逢えば良いさ…気楽に行こうぜ♪」
そう張飛将軍が釘を刺して、ようやく年貢を納めたとかなんとか…これもあくまで噂に過ぎない。けれどもこれも士人達の間では専らの噂と成ったのであった。
良い行いをした者は必ず報われる…などとよく言うが、たまには天帝もご機嫌斜めの時もある。天に唾する者は自らに返る。
配下の健康を想う心が強過ぎたせいで、裏で色々と暗躍した事が、もしかしたら善くなかったのかも知れない。