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趙雲の真心

チーム北斗ちゃんはこうして無事に出発を果たした。けれども初日から受難が降り掛かって来る。


問題なのはやはり北斗ちゃん本人であった。彼が余りにもノッシノッシと歩くものだから、行軍が遅々として進まないのである。


只、この旅は彼のダイエットも当然兼ねているのだから、歩くのは仕方無いにしても、これでは荊州まで何年掛かるか判ったもんじゃ無い。


費観(ひかん)費禕(ひい)も困ってしまった。弎坐(さんざ)も絶句している。


「馬に乗って頂いてはどうか?」


費観の提案に直ぐ試してみる。ところが、腰廻りに余りにも脂肪が付き過ぎていて、足が今度は(あぶみ)に届かない。


『(´ε`;)ゞヒュ~ヒュ~』


無念の風が吹き、枯れ葉が舞い散る。皆、一斉に絶句しており、目が点に成ってしまった。肝心、(かなめ)の北斗ちゃんは馬に跨がったまま、こちらも冷や汗を掻きながら、『どうちよ(; -_・)…』と心の中で困っていた。


只でさえ、数ヶ月は掛かる道程だろうに、こう堂々とノシノシ歩かれては、周りの者も面倒を見切れない。北斗ちゃんはさっそく問題解決を迫られる。頭の切れだけは回復しているのだから、その答えを自ら見つける事にしたのである。


そして問題は解決した。けれども、それを眺めながら、皆けして良い顔はしていない。それに、かなり憐れみの目で見る者が多かった。


北斗ちゃんは、「これは苦肉の策だ…」と言って、皆に諦める様に促している。これがまた、その言葉通りに『苦々しい肉』なのだから洒落にも成らない。


彼は一頭の馬に腹這いに乗り、自分の胴体をまず馬の胴に括り付け、両手を馬の腹下で縛り、足も同じ処置をする。見掛け上は、馬に乗せられた罪人にも見えなくはないが、どちらかというと、馬上に縛られた可愛らしい子豚ちゃんである。


実際、眺めていた彼らにもそう見えるのだから仕方が無い。皆、一生懸命に笑わない様に必死に抑えて、ザ・我慢の状態である。弎坐は我慢はしているものの、常日頃から辛抱が足りないので次第に頬がピクピクして来ていた。


「何をしているのだ!」


そこに趙雲が辿り着く。彼は既に後発の軍とも合流を果たし、先行している筈の太子様に追いつかない様に、日々索敵を掛けていたが、遅々として進まないので、自ら偵察を兼ねて様子を見に来たという訳である。


そしてこの瞬間だけを見られると、『反乱が起きて太子様が捕虜と成っている』様に見えなくも無い。彼は想わず、『貴様らぁ~』と言って成敗しようと考えたものの、『待てよ?』と、自らを推し止めて、太子様に声を掛けた。


すると、自ら縛らせてダイエットを敢行しようとしたと言うではないか…趙雲は、直ぐに縛ってある縄を青紅剣で切断すると、若君を支えて、抱き留めてやった。


「若君!すみませんがここにお座り下さい!」


趙雲は一時、赤鬼のように怒っていたが、どうやら若君が素直に従ってくれて、ぺタンと座り込むのを確認すると、ようやく言葉を口にした。


「若君!何を考えていらっしゃる…こんな事を部下にさせてはいけません。貴方は仮にも我が蜀の太子なのですから、もう少し慎みを持って頂きたい!これでは兵達にも示しがつきませんぞ!目的のためには手段を選ばないというのはモラルに反します。ご理解いただけましたか?」


「( ω-、)ふえ~い…御免なさ~い!」


北斗ちゃんはさすがに少々やり過ぎだったのは認めた。しかしながら、こうでもしないと、彼のダイエットと、適正な行軍速度が維持出来無いのだ。彼はそこの所をしっかりと趙雲に告げた。


趙雲は吐息した。言わんとしている事は、心底判る。そして太子様の悲痛な心の叫びも理解出来たのである。しかし彼の判断はNO!であった。馬で身体を揺すって脂肪が落ちるというのもかなり怪しい。


「では、こうしましょう!」


趙雲は、彼なりの『苦肉の策』を提案した。しかし、反論も許さなかった。半ば強制的にそれに皆を従わせる運びとなったのである。まず趙雲は費観と費禕を呼んだ。


「費観、お前は陛下の兵符で行軍している以上は、その任を責任を持って全うせねば成らぬ!お前の責務はこの兵団を責任を以って関羽将軍に届ける事である。よってその任を全うして貰う…」


「…但し、この私も新たな責務を負わねばならん。それは太子様の教育という、言わばお前の務めの肩代わりと成ろう!依ってお前にも負担が減る分、少しばかり別の負担を担って貰うぞ!…」


「…私の持つ一万の兵のうち、七千は歩兵だからな。これをお前に一時的に委ねる。兵の統率と訓練には、我が次男・趙広を引き続き付けておくゆえ、たまに気に掛けてくれるだけで良いがな!基本的にはお前は予定通りの行軍を心掛けよ♪」


「ハッ!承知致しました…」


費観は元々協調性にかけては全く問題の無い男である。あの気難しい老将・季厳と日頃から巧くやれるのだから、道徳的にも心配なかった。


「次に費禕!お前は太子の学びの師だから、我が三干の騎兵と一緒に来て貰うぞ!私が太子様と運動や格闘の指南をする時には、お前は騎兵共の訓練をしてくれ!特に戦術を叩き込んでくれると助かる♪」


「判りました♪承りましょう!」


つまり逆もしかりという事なのだ。費禕が太子様の学びのお相手をしている時には、趙雲は騎兵の訓練に時間を割けるという事である。趙雲はその都度、費禕と立場を入替える事で、太子様のお役に立とうという腹なのである。


彼らはその繰り返しをする事により、目的達成を目指す。太子様が考案した自らを馬に縛りつける方法は、さすがに例え本人が望んだとしても人道に(もと)る。それが当たり前の感覚に成る事は本人にも周りの者達にとっても好ましくない。


特に将来がある人だから、そんな経験をさせる事は(まか)り成らなかった。その代わり、教育や訓練、睡眠の時間以外は、移動の時間に充てる。趙雲の身体に腕を回して、馬の背に乗り移動するのだ。体重の負荷の問題から、馬への不担が厳しいところだが、そこは毎日、馬を乗り換える事で相殺する事にした。


つまりイメージとしてはこんな感じだ。


朝飯→費禕の学び→趙雲との運動→昼飯


→歩行訓練(1時間)→費禕の実務指南


→趙雲との格闘訓練→夕飯


→騎馬での長駆移動→就寝


実際、これをこなす事は過酷で在ろう。しかしながら、目的意識を持った今、北斗ちゃんはやる気に満ちていた。


趙雲が騎兵ばかりを残して、全ての歩兵を費観に押しつけたのも、歩兵の一日に移動する距離に限りがあるからであり、騎馬の一日の行軍距離と速度を鑑み、その差額時間を見越しておく事で、その時間を太子様のお相手の時間に充てる。そういう流れの下、問題解決に充てる事にしたのである。


勿論、はじめの内は効率良く行く訳では無いし、太子様も予定を全面的に抜いて、休ませねば成らない日も出て来る。そんな時には趙雲の背に掴まり、馬の背に座る事で休みと成す。


その間に馬を入れ替えつつ、長駆移動するという事で、この難局を乗り切らせてやりたい…これこそが趙雲の真心であり、愛情と言えるのではないだろうか?始めは誰だって苦しい…正直、本音を言えば、一番苦しいのは本人、北斗ちゃんである。


しかしながら、これは彼のためにだけ特化した計画なのであるから、泣き言は聞いてやれない。皆、彼のために協力をしてくれているのだから。


この趙雲の計画は実際に効果覿面であった。彼は関羽将軍や張飛将軍と共に苦難を乗り越えて、陛下を守って来たのである。その時々でどうすれば危機を乗り越えられるか、どうすれば目的を達成出来るのかを理解していた。


だから、地味な事でも繰り返し反復すれば効果が出る瞬間が必ずやって来ると信じる事が出来た。ある意味、その経験から答えを知る者は強い。迷いが無いからである。迷わず為せる事こそがこの場合一番強い。そこに信念があるからであった。


だが、逆説的に言えば単純で地味な反復作業が当事者にとっては一番きついのも真理なのである。


北斗ちゃんはそれでも趙雲将軍を信じて、そのつまらないくらい単純で地味な反復作業もこなしていた。それは彼が、かつて自分を死地から救ってくれた恩人だったからだ。この人が居なければ、僕は死んでいて、今ここに居ないだろう。


その強い想いが彼の息苦しい中での(かて)と成っていたのである。彼はやがて少し身体が軽くなり、お腹周りが少し凹んで、固くなって来たのを感じていた。


彼はある日気がつく。


『( -_・)?おやや…これはひょっとしてひょっとするかな?』


北斗ちゃんはひとつの提案を趙雲将軍と費禕先生にしてみる。


「( -_・)御二方、この案どうですかね??」


「( ̄^ ̄)!それ面白いかもね♪それもこれも太子様が地味に努力して来た賜物ですぞ♪」


「(o^ O^)シ彡☆北斗ちゃんやるねぇ♪いいかも知れませんな!」


趙雲将軍も費禕先生もこの提案には大喜びである。彼は勉学と実務指南を歩いてやる事を提案したのだ。そして運動や格闘も道を進みながらやる事にしたのである。そして歩行の時間もゆっくり走る時間に変わっていったのだ。


彼はまだ目覚ましく丸みが取れた訳ではないが、この頃になると、ピョンピョン跳び跳ねて進むくらいの芸当が出来る様に成っていたし、体重もかつての状況から比べれば格段に減っていたから、馬もそれほど負担を感じなくなって来ていた。


相変わらず体型は太めだが、超絶な肥満体質から普通の肥満体質にまでそれは改善されていたのである。しかも跳び跳ねる事に依り、早足で歩く人には追いつく事が出来たし、体術や格闘技術、剣技もみるみる上達した。


それはそうだろう♪趙雲が鍛えたのだから!そして費禕からも学びや実務指南を受けて、更なる能力向上が見込めたので在った。


「( ̄^ ̄)いやぁ…こんなに教え甲斐のある生徒も久し振りの事です♪私も自分の時間を犠牲にしてでも教えたいと、教育欲に目覚めましたな!でも太子様、貴方は本当に頑張りましたね♪辛かったでしょうに!」


「( -_・)?いやなに、趙将軍の教え方や励ましの精神に支えられたのだ♪貴方のお陰です!」


北斗ちゃんは趙雲将軍に拝礼して感謝している。費禕先生も言葉を掛けてくれる。


「(o^ O^)シ彡☆将軍の仰有る事は誠に判りますな♪こんな吸収の早い生徒は初めてです!もはや基本的な事は全てこなせるでしょう。後はおいおい応用を覚える事ですな♪」


「( -_・)?いやいや、せんせの教え方が上手いのですよ!それに永年、頭を使って無かったから経年劣化して無いのでしょう♪」


北斗ちゃんはまだ経年劣化して無い点に拘っている(笑)全ては彼の努力の賜物なのだ!彼は費禕せんせにも拝礼を忘れない。


「( ̄^ ̄)若君!御褒美に馬の乗り方を教えて信ぜよう。今の貴方ならばもう乗りこなせるでしょう♪」


「(~▽~@)わ~い♪♪♪それは嬉しいな♪将軍有り難う♪」


「(o^ O^)シ彡☆北斗ちゃんこれで馬に乗りながらの剣技や学術も学べますぞ♪道中かなり楽に成りますな!」


「(^。^;)あらそう…そういう事だったのね♪」


北斗ちゃんは世の中にはまだまだ裏の裏が在る事を知る…太子に楽な道は無いのだという事を思い知ったのだった。

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― 新着の感想 ―
「青光剣」となっていますが、「青釭剣(青釭の剣)」の間違いではないでしょうか?
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