孔明の説諭
運河と言えば隋の煬帝で在ろう。彼は現在の北京から抗州を結ぶ大運河を造り上げた。その目的は当初は当時、南北に別れていた中華を統一する、つまりは隋の天下統一を果たすためであった。先に書いた様に北方は馬産地が多く、騎馬隊が圧倒的に強い。
けれども南方攻略となるとこれが厄介極まりなく、長江を境とした南側地帯には細く伸びた河川が多くあり、騎馬隊の輸送はおろか、その強みである速さもいちじるしく妨げられる事になったから、なかなかその攻略は進まなかったのである。
曹操が赤壁の戦いで敗北したのも、全く関係が無い訳では無かったのである。
隋の初代皇帝の楊堅は、当時、南半分を支配していた陳を亡ぼすために、淮水と長江を結ぶ刊溝を造り上げ、輸送面での問題を解決した事で、江南に迫る事が出来たため、二年とかからず陳を亡ぼし天下統一を為しとげる事になった。
その後を継いた煬帝は、その刊溝をもっと効率良く利用するには、運河の延長をする事こそ有効であると踏んだ。特に当時の隋は東北に位置する高句麗という超大国を仮想敵国としていたため、運河を北京まで伸ばす事が必須となっていた。
彼は更にその運河を江南へ伸ばし、最終的には抗州(交州)まで繋げてしまう。江南や交州で産出される穀物や鉄などを効率良く輸送しようと目論んだのである。彼のこの物の考え方には先見の明があった。
それが証拠にこの後、北と南の物流の移動が楽になったせいで、経済が活性化するのである。この運河の利用は現代でも大いに利用されているのだから、彼の果たした成果は尊いものであったと言えるだろう。
特にこの時に始めて黄河と長江が大運河で繋がる事になったのだから、歴史的にも画期的な事柄だったと言えるのでは成かろうか。しかしながら、褒めてばかりも居られない事情もあったのである。
彼のそのやり方に問題があったのだ。彼はこの大運河を造り上げるにあたって、女子供も含めた百万人の使役を命じたのだ。そして何とたった5ヶ月で運河を造り上げてしまったのである。
そんな苛酷な労働を強いれば、民は苦しみに喘ぎ、恨みを募らせる。特に彼は江南地方がどうもお気に入りだったようで、自分の周囲の者達を連れては、大運河に船を浮かべて、遊覧に興じていた様だから、誤解を受けても仕方無かった。
「(゛ `-´)( ゜^゜)(۳˚Д˚)(°﹏°)ふざけるな!こん畜生!我々を何だと想っているんだ!」
民の怨嗟の声は、日に日に増して行き、彼が都を留守にしている間に、民意に支持された季家により国政は乗っ取られてしまった。いわゆるクーデターという代物である。こうして唐が興こり、決局のところ経済効果の恩景に預かったのも、唐という事になるのである。
諸葛亮がこの運河らしきものの構想を知った時に一番始めに考えたのも"儲かる"という事であった。但し、あくまでも"将来的には"という条件が付く。
河川をいじるとなると、民の労働力は欠かせない。果たしてそんな使役に駆り出すとなると民の反発は必死であろう。しかもそれがあの民想いと評判の太子の要望なのである。
諸葛亮は信じられない想いで、その構想の具体案に目を通した。するとその懸念が解消された対策が記載してある。何と使役で人を集めるのでは無く、賃金を設定してお金を払うというのである。
太子はそれについて、こうも書き記してある。参加する者は誰で在ろうともこれを受け入れる。例えそれが、魏国の者であれ呉国の者であれ関係無い…と!
土地の整備とは、そういう公共の福祉と考えなければ始まらない。他国に利を与えるからと臆してやらなければ、そもそも始める事すら叶わないではないか。
広くあまねく労働力を集める事さえ出来れば、結果皆が利用出来る河川であっても良いのだ。但し、利用料は一定量貰い受ける。発起人がそのくらいの利益を得ても、決して罰は当たるまいよ♪…それが太子の言い分であった。
『成る程…(,″Ꙭ ″๑)良く考えてある。海運に乗り出し、交易で儲けるとは、恐れ入った。この蜀に於いて、そんな途方も無い発想が出来るのは、恐らく太子だけであろう。海に面していない段階で、そんな事は頭にすら浮かぶまいよ…』
『…但し、(ღ″Ꙭ ″๑)それもこれも無事に河川を引き終えればの話し。幾多の困難や障害があるだろう。それに問題は当面、必要となる金だな。国が出来たばかりと言っても過言では無いこの時期にどうすべきだろうか…」
諸葛亮は頭を悩ませていた。そんな時に、見つけた才能が劉巴であった。彼が交州在住であった事を想い出した諸葛亮が、声を掛けたのである。
交州と言えば手広く海運で儲けていると聞く。何か参考になればと、動いた食指であったが、これが想わぬ拾い物と為ったのである。
「( ˘͈ O ˘͈ ๑)そなたは交州に居たそうだな…海運とは儲かるので在ろうな?」
突如、丞相から声を掛けられた劉巴は驚いた。交州くんだりからやって来て、恥を晒した自分に声を掛けたからだった。
彼は特に荊州にて一度士官を断った身であったから、余計である。もはや注目すらされまいと想っていたのだ。ところが違った。
孔明は特にそんな事を気にしている素振りすら見せなかったから、劉巴も気楽に答える気に為ったのである。
「そうですな…(o'д' o)実際儲かります!ですがそれは、天の時、地の利、人の知恵と物、この全てが揃っていて始めて成り立つもの。天の時とは運でしょうな。そして地の利とは海に面した土地を得ている事。そして人の知恵とはその技術力、物とは当然ながら交易に見合う大型船でしょう…」
「…それらがあってこその利益です。実際、士氏はその全てを持ち、儲けています。呉もそうでしょうな!ですが、この蜀にはその全てが在りませぬ。まさかとは想いますが、そんな途方も無い事を考えておられるのでは無いでしょうな?」
劉巴は呆気に取られる様に聞き返した。諸葛亮は被りを振ると、話しを逸らせる様にこう答えた。
「否…⁽⁽ღ( ˘͈ O ˘͈ ๑)特に今は考えておりません。南蛮の地でも手に入れた暁には、それも在りかと考えたまでの事。将来を視野に入れて物事とは準備するものでしょう?ひとつの選択肢として今は考えているに過ぎません…」
「…我々は北伐を行わなければ成りませんからね…財政を潤す方策は、常に念頭に置いておかねば成らんのですよ♪何か儲かる方法は無いもんですかな?」
孔明としては、特に期待をして居た訳ではなかった。劉巴の意識をこの時は、単に逸らそうと想ったに過ぎない。けれども、その男からは、意外な提案が起きたのである。
「(o 'д'o)…百銭の貨幣を鋳造して、諸物価を安定させます。国が管理する市を立てれば国庫は満杯となるでしょうな!」
劉巴の策とは、一銭の価値しかない銭を潰して、その銭2~3枚でその50倍近くの値打ちのある百銭を造るというものであり、要は混ぜ物をする様なものである。
江戸時代の日本でも同じ事をした人物が居たが、民や商人達もけして馬鹿では無い。短期的には有効な策かも知れぬが、いずれバレる。
「(・̆ᗝ・̆)…」諸葛亮は目を剥いている。
「ハハハッ ꉂꉂ(o'д'o٥)冗談ですよ♪貴方が余りにも物欲しそうな顔をするものだから、言ってみたまでです。緊急で軍事物資を集める時などの苦肉の策としては良いでしょうが、バレたら事ですものね…信用とは一旦、失うと回復するのに時が掛かります。私の信用もこれで下落しますかな?」
彼はそんな事は今更へっちゃらだと言わんばかりである。諸葛亮も余り良い心持ちでは無かった。すると、劉巴は今度はこんな事を言ったのである。
「✧(o'д' o)お口直しに再度、策を申しましょう。蜀の地は御存知の通り、始皇帝の御世に河川を整備し、堤を築きました。そしてより多くの田畑を潤す事で天下統一の礎を築いたのです。そしてまだまだ開発の余地はあるのですから、民に耕作地を与え、或いは新規開拓を為して、国を富ます事をお勧め致します…」
「…地味ですが、一番効果的と言えるでしょう。また西の方面に行く道を切り開くという手も御座います。これは何も海路やシルクロードで無くとも良いのです。我々が先駆者となり、開拓すれば良ろしい…まあ、今想いつく事はそんな所ですかな?」
『成る程…✧(ღ″Ꙭ ″๑)悪くない考えではある。この男の言っている事は的を得ている。現に曹操も屯田策を講じているのだ!取り掛かるのが早い程良い。そして新規開拓の道だ。これも取り掛かろうとすれば、出来ない事も無い。しかも恰好の人物が居るでは無いか?」
諸葛亮は劉巴に礼を述べると、その時は直ぐに引き下がった。しかしながら、この男を使ってみよう…そう腹を決めたのである。それが結局のところ、劉巴を荊州に下向させる決め手と為ったのだった。
三人が足並みを揃えて王に面会を乞うと、さすがの劉備も少々驚いたらしかった。
「(◍′◡‵◍)これは皆様、お揃いで何事かな?」
「(ง ・̀ o・́)ง我が君、お話が御座います!」
諸葛亮は落ち着いた物腰で口を開いた。既に覚悟は決まった様である。
「丞相…(◍′◡‵◍)変に改まった態度を取られると却って怖いぞ♪どうした…何か在ったのかね?」
劉備はキョトンとした顔をしている。まるで疑う素振りすら見せぬ…その無防備で、無垢な表情は、諸葛亮に対する絶対的な信頼の証と言って良い。けれども三人とも既に腹は決まっているから。些かも揺るがなかった。
「(๑و•̀Δ•́)و太子様の事で御座いますが…」
いよいよ孔明が確信に触れる事になると、董允も糜竺も緊張感に押し潰されそうになる。こういう時にこそ、本来的に備わったその人の性根が試される事になるのだ。
「(◍′◡‵◍)うん?太子がどうかしたかね…また丞相に迷惑を掛けたのじゃ在るまいな♪尚の無い奴だ…暫く大人しくしているから安心していたが、またやってしまったのか?すまんな!これこの通り…」
劉備は勘違いして、いつもの様に平身低頭で謝っている。一国の王様が…である。けれども、ここ蜀の都・成都では決して珍しくも無い光景なのであった。それだけ阿斗には皆が手を焼かされていたのだから。
「我が君…:;((•﹏•๑)));:違うのです♪今日は我々が存じ上げている太子様の真実についてお話致します!良くお聞き下さり、今後の御相談に臨んで下さいます様…お願い申し上げる次第です!」
諸葛亮も後には退けぬ正念場と少々気持ちの昂りを見せた。常に沈着冷静な彼でもやはり生身の人である。太子様は自分が想っていた以上の成長を遂げ、その期待を上回ってくれたのだ。
自分もここは踏ん張って、太子様のひたむきなその努力に応えたかった。その為にはどうしても陛下を説得し、その理解を得なければ成らなかったのだ。
「(◍′◡‵◍)うん?何の真実じゃ…阿斗が迷惑を掛けたのでは無いのか??」
劉備は怪訝そうな顔をする。
「( ˘͈ O ˘͈ ๑)いいえ…とんでも御座いません♪それどころか太子様は今では見違える様な、ご立派な御方に成られました!我々の期待に応え、あの難しい荊州で呉に睨みを効かし、魏の曹仁にも貸しを作りました…」
「…関羽提督を助け、皆を従えるその手腕には趙雲も感心しております!陛下…太子様はやはり貴方の血を分けた素晴らしい才能をお持ちでした!お喜び申し上げますぞ♪軍臣…皆、その逞しく頼り甲斐のある若君の姿に感心しております♡」
諸葛亮はここぞとばかりにそう捲し立てた。敢えて順序立てた物言いをせずに、どさくさ紛れにわざと成果を先に言い切る事で、既成事実を作りあげようとしたのだった。
董允も糜竺も呆気に取られている。よくもまぁこれほど強引に大胆な手法を取るものだと、半ば呆れた様に眺めていた。
「Σ(,,ºΔº,,*)ハッ?何だって?荊州だと?太子は荊州にいるのか?どういう事だ?いつの間に?関羽を助けているって言ったのか?何で趙雲が感心するのだ!アイツは病に臥していたのでは無かったのか?おい!いったいどうなっているのだ!」
劉備は諸葛亮の絶妙な畳み掛けに完全に理性を失っていた。彼の認識していた現実と大きくかけ離れたこの事実にまだ頭が着いていかないのである。
諸葛亮は取り敢えず、"さわり"は上手く事が運んだと安心していた。少々、嫌らしい手ではあるがまずはガラリと変わった太子様の力をその深層心理に植え付けなければ始まらない。
まともに話して居ては一笑にふされ兼ねないと踏んだ一か八かの賭けであった。案の定、劉備は混乱を来している。
『:;((•﹏•๑)));:…勝負はこれからだ!』
そう諸葛亮は依り一層、自らを奮い起たせたのである。