胸踊る想い
太子・劉禅との面会を終えた劉巴は、久し振りに清々しい気持ちに溢れていた。彼の長い旅路がこの瞬間に報われた気がしていたのである。彼は元々はこの道行きに懐疑的であった。
まだ子供に毛の生えた程度のお坊ちゃんが、酒に溺れ、宮殿の奥の院で温々と放蕩に耽る体たらく振りは、成都はおろか、国中の者の笑い者だったからである。
ところがある日突然、丞相に呼ばれた劉巴はぶったまげてしまう。それは荊州にてその辣腕を奮っている太子に力を貸してやって欲しいとの要請だったからであった。ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )
劉巴はまず太子がいつの間にか荊州に居る事に驚き、"辣腕"という言葉にも敏感に反応した。要するに、彼には何事が起こっているのか、全くと言って良い程に判らなかったのである。そもそも丞相でさえ、太子の扱いには困っており、頭を痛めていた筈であった。
それなのに、いつの間に趣旨替えしたのか、諸葛孔明の太子に対する評価は鰻登りと言って良く、在ろう事か"近い将来、太子の叡智は私を凌ぐ"と言ってのけたのだから、驚かない方が無理というものだろう。
ある意味この一言で、重い腰を上げて荊州に戻ると決めた様なものであった。諸葛孔明の話しは奇想天外であった。彼は私の求めに応じて、事の始まりから話してくれた。
それは一朝一夕では信じられぬ程の内容であり、それが本当であるならば、ひとりの若者の立志伝の趣さえ感じさせた。それをひとまず最後まで聞き終えた時に、劉巴が感じた素直な気持ちは、"面白い"という事だった。
『✧(o'д'٥;)元々、ぶっ飛んでいた奴が、至極正しくぶっ飛びやがった…』
彼の想いは自然とそのシグナルを発したらしい。彼は丞相の目の前だという事も忘れて、腹を抱えてゲラゲラと笑い始めた。
諸葛亮が想わず目を剥き、"こいつこんなに笑い上戸だったっけ?"と戸惑う程にその笑い声は、部屋中に響き渡った。
劉巴にとっても、こんなにも腹の底から笑ったのはいつ以来の事であったろう?彼自身がはっきりと言えぬ程に久方振りの事であった。
「ꉂꉂ(o'д'٥o)宜しい♪拙者もそろそろ故郷が恋しくなっていた所です!地元で太子のお役に立ちましょう♡」
「ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ *)おおっ!やってくれるか?有り難い。では是非頼む♪但し、言っておく事がある!それは…」
その諸葛亮の懸念が、前述した通りの忠告であった。"まだ若さゆえの綻び"が太子にはあると言う事である。けれども、劉巴は一笑に伏し、"ご期待に副えましょう"と答えた。
能力の突出した者が、ある面ではてんで話しに成らない程の無知である事は、良くある話しなのだ。ましてや彼はまだ若く、気持ちを入れ替えてから然程の時も経ていない。
にもかかわらず、これだけの成果を挙げているのだから、皆がその姿勢を支持する事は当然であろう。期待を一身に集めてもなんら不思議はなかった。
要は周りに居る者のサポートさえしっかりしていれば、何の問題も無いのである。更に言えば、性格は素直で、その吸収力も高く、間違いを認める事を厭わないというのだから、懸念には及ばないだろう。
彼は突然降って沸いた様な喜びに、嬉しさを滲ませていた。そしてこの道行きに乗る事にしたのだった。丞相は、近々で届いた太子の文に目を通す様に促したので、劉巴は視線をしばらく文に落とす。
河川の氾濫を防ぐ目的で、工事を行いたい事。当面の間の金銭支援を依頼したい事・労動力は使役では無く、募集し、賃金と引き替えに活用する事。荊州から益州を経由し、遠く南海の地まで河川を延ばす事。
その目的は南海交易に参画する事。大型船を造り、維持する技術があれば、外洋での操船も適う。海洋貿易が定着すれば、将来的に財政基盤の目処もたつ。交州と南海を治めている者を説得出来る、外交手腕に長けた者の来訪を望む。以上であった。
確かに面白い発想であり、説得力もある。そして何より、海に出て交易するという発想が気に入った。三國の中で唯一、海に面していない蜀が海を得る。その発想だけでも愉快なのに、海洋交易をするというのだから面白くない訳がなかった。
『Σ(o'д'o)♡こんな面白過ぎるお役目を誰かに渡すなんて、とんでも無い!』
彼はいつの間にか身を乗り出し、やる気満々になっていた。当然の事ながら、その気持ちは承相・諸葛亮にも伝わってくる。
彼も劉巴が初めて見せると言っても過言では無いこの気迫に満ちた姿勢に驚きながらも満足していた。そして声を掛けて良かったと想ったのだった。
「時に丞相…(o'д'o)ひとつお願いが御座います♪」
孔明は、劉巴の改まった態度に「聞きましょう…ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )」と真摯に耳を傾ける。
「(o'д';)士燮の説得をするとなると、これは大事です!否、やれないという事じゃないのです。丞相は呉と事を構えるお覚悟はあるのですな?」
劉巴は極めて真剣な顔である。『返答は如何に?』と迫る勢いがそこにはあった。孔明はフッとほくそ笑むとそれにどう答えようかと、少々思案した後に口を開いた。
「ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ ;)なるべく孫権殿を怒らせない様にしていただいた方が有り難い。これが私の正直な気持ちです。しかしながら、そうも行かぬでしょう。喧嘩を売る様なものですからな…念のための準備はしておくとします…で!願いとは何でしょう?」
「フフッ…ꉂꉂ(o'д'٥o)相当なお覚悟ですな?成らば結構!願いとは許靖殿を連れて行く事です♪彼と共に事に当たりたいと思います。許可を頂けますかな?」
「ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )許靖殿を?あぁ…成る程!彼は貴方と交州に居た事が在りましたな♪宜しい…許可しよう!だが本人はまだ知らぬ筈だが、大丈夫なのかな?」
「えぇ…ꉂꉂლ(o'д'٥o)まぁ、でも彼の協力は欠かせないのでね?説得しますよ!…但し、既に老齢ですから無理には引き込みません。でもやると想いますよ♪」
劉巴には何か考えがある様だった。今さっき相談したばかりだというのに、もう彼の頭の中には計画のひとつも出来上がっているようだ。
諸葛亮はその表情を眺めていて大丈夫そうだと判断したらしい。劉巴の表情は和らぎ、肩の力も程好く抜けており、虚勢を張っている様には見えなかったのである。
「✧ლ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )宜しいでしょう♪本人がやる気であれば認めましょう♪決まったら出発前に二人揃ってまた面会する様に♪」
諸葛亮はそう述べると、話しは終わったと、右手を振り退出を促した。劉巴も拝礼を済ますとそのまま下がる。劉巴が引き上げた後、諸葛亮は左手に持つ羽扇を仰いで居たが、覚悟を決めた様に立ち上がると、端の者に声を掛けた。
「( ˘͈ ᵕ ˘͈ )私はこれから我が君に逢って参る。しばらく掛かるだろうから、緊急時以外は呼ばぬように!」
「( っ¯ ³¯ )っはい♡畏まりました…」
若者はそう応えると拝礼した。諸葛亮は相槌を打つや足早にスタスタと行ってしまった。若者は丞相のその背中を見送りながら、やれやれといった表情を浮かべた。
彼の名を馬謖、字を幼常という。そう…あの馬良の弟である。彼も馬良同様に、若さに似合わぬ利発さに期待されて、諸葛亮に目を掛けられていたのである。
諸葛亮は、蜀に根を張る事が既定路線に成ってからというもの、人材の確保に力を注いで来た。特に彼が執着したのは、若い人材の登用である。
関羽がいみじくも心配していた様に、有能な人材確保という点では、中原を制する魏がどうしても有利な立場にある。それを覆すためには、若い才能に早めに声を掛けて、教育と経験を通じて次世代の国を担う者を育てる事だと考えたのだろう。
諸葛亮は自分の眼鏡に叶った若い才能を次から次へと荊州に、否、太子の補佐役として送り込んだ。次世代を担うという意味では、太子とて同じ立場である。
その手足となり、将来的にも劉禅君を支える者を作り上げておく事こそ、三國最弱と言われるこの 蜀の国を強国に押し上げる礎と成るに違いない。その信念から、熾した方策であった。
そして馬謖もまたそのひとりであり、諸葛亮が常に側に置く程のお気に入りなのであった。
『( っ¯ ³¯ )っ~♡私も早く若君にお会いしたいものだ…』
馬謖は自分の目の前から次々に羽ばたく同じ世代の若者達を眺めながら、そう感じていた。けれども今の所は丞相からお声が掛かる節は無かった。
彼は自分ほどの才能が使われないのは可笑しいと想ってはいたが、丞相の事だから、何か遠大なお考えがあるに違いないと想っていたのである。それに丞相のお側近くで学べる機会など、そうそう与えられない。
中途半端に役目を与えられるよりも、今はその方が良いと割切っていたのだった。このように馬謖という人は、才能豊かではあるものの、少々謙虚さに欠けたところがあった。
直ぐに調子に乗って自分の才をひけらかし、頭が良い分、相手を舐めてかかる所があったのである。だから劉巴の事だって、そこそこ出来る奴くらいにしか認めていないのだった。
彼は何事も無かったかの様に、木簡に目を落とし、涼し気な眼差しで、それに目を通し始めた。
さて諸葛亮である。彼はそのまま劉備の元へ行くのかと想いきや、董允の元へとやって来た。董允は、忙しい丞相が珍しい事もあるものだと、不思議そうな顔をしている。
「( ˶ˆ꒳ˆ˵ )孔明殿、如何されたのです?」
彼は想いのままを口に出した。
「( ˘͈ ᵕ ˘͈ ٥)休昭殿、実はですな…これから私は我が君に面会して参ります…」
董允にとってはこれだけで、何を言わんとしているのかは察しがついた。
丞相ほどの人が王に会う事など然程、珍しい事でも無い…にも拘わらず、わざわざ知らせに来る事の方が尋常成らざる事態を示していた。
「✧( ˶ˆ꒳ˆ˵ ٥)ま、まさか遂に暴露されるか?」
「えぇ…✧( ˘͈ ᵕ ˘͈ ٥)お察しの通り!」
諸葛亮は太子から来た陳情書を董允に見せる。董允も何事かと、早速目を通す。先程、劉巴が目を通す事になったあの文である。
「こ、これは…✧( ˶ˆ꒳ˆ˵ ٥)まさか、いつの間にかこんな事に成っていたとは…」
董允も驚きを隠さない。確かにこれでは、もう隠し立ても出来まい。
「( ˶ˆ꒳ˆ˵ ٥)仕方ありませんな…でもお覚悟は宜しいのですか?」
"今日は覚悟を問われる日の様だな…"諸葛亮はそう想い、苦笑する。
そんな丞相の仕草を見てとった董允も、溜め息混じりに意志を伝えた。
「( ˶ˆ꒳ˆ˵ )私もご一緒しよう♪」
「✧( ˘͈ ᵕ ˘͈ ٥)同行して下さるか?」
「ハハハ…ꉂꉂ( ˶ˆ꒳ˆ˵ ٥)何を今更!この事は元々一蓮托生で御座ろう?それを貴方は律義にも、この私に事前に教えに来て下すった。それに貴方が暴露した暁には、どうせ我が君からお呼びが掛かろうと言うものです…」
「…今行くも後で行くのも大した違いはない。それに、ここはひとつ正々堂々と立ち居振舞うのが、男という者で御座ろう…」
「有り難い♪ではご一緒に…ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )」
二人が頭を突き合わせて覚悟を決めた時に、その機を捉えた者が居た。
「ꉂꉂ( ω-、)そう言う事でしたら、この私もお伺い致します!ご一緒させて下さい♪」
糜竺であった。彼は先日、正式にお咎め無しという事になって、拘束を解かれていたのである。二人はそんな彼の申し出に懸念を表明した。
「し、しかし…✧( ˶ˆ꒳ˆ˵ ٥)貴方は先日、首が繋がったばかり!これ以上、矢表には立たせられないが…」
董允はその身を心配してくれている。諸葛亮も太子の事を伏せさせた手前、立場上、積極的では無かった。けれども糜竺は至って涼し気な眼差しでこう応えた。
「ハハハ…ꉂꉂ( ω-、)お気遣いに感謝します♪でも考えてみて下され!一度死を覚悟した身です。一度も二度も同じ事ですからな♪何か在れば、この私を二人の盾としてお使い下され…」
「…私は弟の命を助けて下さっただけでも満足しております。丞相の取り為しがあったればこそ!また董允殿もその際、お口添えをして下さったと聞いております。恩には報いたい。是非、御一緒させて欲しい!」
糜竺の意気込みは尋常ではなかった。彼は一歩も引かない気構えを見せている。
諸葛亮は吐息をつくと、「仕方が無い方ですね…ꉂꉂ( ˘͈ ᵕ ˘͈ )判りました♪有り難くお受けしましょう♡」そう応えるほか無かったのである。
三人は、その足で並び立つと王の間へと向かった。もはや隠し立てするには、些か問題が大きくなり過ぎたのである。
まず第一に、太子は単独で魏国と講和を結んでしまった。勿論、災害時の一時休戦であり、その範囲も荊州に限定されているから、問題は無い様に想えるが、これで太子の身が危うくなる可能性が出て来る事になった。しかも公になった以上、いつ王の耳に入るか判らない。
第二に、河川工事にはぶっちゃけお金が掛かる。しかも太子は使役では無く、賃金を払おうと言うのである。これには諸葛亮も驚いたが、端と気づく。
さすがは糜氏の外戚を持つ太子である。荊州一円の経済効果を狙っているのだと判ったのだ。それにしても、その概要足るや些か規模がデカ過ぎる。それは氾濫を抑制するだけに止まらなかったからである。
太子の構想はまさに南北を貫く、運河を造ると言うものであったのだ。




