【番外編】ひとときの安らぎ
【前書き】
夏休み企画第一段として【番外編】を書いてみました。愉しんで下されば嬉しいです♡
また8月に気が向いたら書こうかな?と想っています♪ ユリウス・ケイ
張嶷は焚き火に両手を翳してあたっている。そして時折り獲物の向きを返してやり、満遍なく火を通してやる。
剥き身に為った鳥の表面からは、油が滲み出て来て美味しそうな匂いが立ち込める。彼は想わず口許から涎を垂らす。狩猟を趣味としている者にとっては湛らない瞬間である。
「⁽⁽ღ(´﹃`)もう少しだね♪」
彼は嬉しそうにそう呟くと、手を合わせて揉みしだく。焚き火の明りに灯されたその頬はりんごの様に赤く火照って見える。
熱さゆえか、はたまた嬉しさゆえか。
「ピュイ、ピュイ」「チーチーチーチー」
時折り朝靄の中に鳥の鳴き声が谺する。まだまだ寒く、辺りは薄暗い。まだ朝日が射し込むには時が掛かりそうであった。
彼は相変わらずこの習慣が止められない。例えそれが南都城を一手に預かる身であろうとも、彼の行動を規制するものでは無かった。
「⁽⁽(ღ´﹃`)そろそろ頃合いだね♡」
パチパチと爆ぜる鳥の皮も、程良く焦げ目が付いて、これなら肉汁も十分に期待出来る。余り焼き過ぎるのも頂けない。
必要以上に炙り過ぎると身が固くなるので、頃合いで引き上げて、熱いうちにフーフー冷ましながら、かぶり付くのが美味しさの秘訣である。
彼は一羽以外は火元から一旦離し、冷めない程度の距離で火にあてておくと、残りの一羽をゆっくりと引き抜いた。
彼の見立てでは、こいつが一番食べ頃と踏んでいたので、両手で持つと腿の部分に思い切り、かぶり付こうとした。
その刹那、ガサガサっという音と共に人の気配がする。張嶷はびっくりして、背後を振り返る。色鮮やかな装飾を、髪に散りばめた男なんて、ここいら一帯ではただ一人あるのみだ。
「εღ(´皿`*)よぉ~相棒、やってるな!お前ならここだと想ったよ♪」
傅士仁である。彼は夜釣りに興じていたらしく、釣り竿を肩に乗せて持ち、もう片方の手には魚籠を握っていた。
既に処置された魚は釣り竿に通してあり、その重みで竿が時折しなっている。彼はプ~ンと漂ってくる旨そうな匂いに、こりゃ堪らんと言う顔をしていた。
張嶷は一瞬、口許まであと一息だった獲物を恨めしそうに眺めるが、大先輩を差しおいてかぶり付く訳にもいかない。あっさり君もさすがに礼節は弁えていた。
「ღ(´▽`٥)まぁどうぞ先輩♪火にあたって下さい。今朝は御覧の通りの大戦果でして、丁度今食べ頃です。いつも通り、好きにやって下さい♪」
彼は手に持っていた鳥を然り気無く再び火にあてて、傳士仁を導いた。こういった場合、相手を不快にさせず温かく迎え入れるのも、狩猟仲間の配慮である。
「⁽⁽ღ(´皿`*)いやぁ~すまんな!有り難い♪わしも今朝は大漁でな、今焼いてやるから一緒に食おう♪」
彼は釣り竿に通してあった魚を丁寧に抜くと、用意してあった杭一本一本に通しながら、火にくべて行く。慣れているせいかとても手際が良い。
ひと通り終えると、ようやくドカッと座り込み、「(´皿`*)じゃあ、お相伴に預かるかな♪」と言って、鳥を一羽わし掴む。
それを確認して、張嶷もようやくひと安心だ。戻しておいた奴を両手で持つと、再び口許まで持っていく。
チラッと横目で見ると、傅士仁は既に旨そうに頬張っており、かぶり付いた肉の内側からは、旨味をたっぷり含んだ肉汁がトロリと流れ出る。
張嶷は、やはり今朝は焼け具合が丁度良いと満足すると、自分も一口!と獲物に向き合う。すると直ぐに気が付く。心無しか先程よりも焼け具合が良い。いい匂いも手伝って、嬉しさが込み上げる。
「ꉂꉂ(´▽`*)やはり善行は施すものだ♪さっきより美味しいかも知れん♡」などと悦に入っている。
その間に傅士仁は既に二羽目をパクついている。彼らの間では遠慮は無用なのだ。
『いつも通り』『好きにやる』とはそういう事なのである。身体が大きい分、傅士仁は良く食う。巷に轟く大食漢である。鳥の一羽や二羽はあっという間であるから、多めに獲っておかないと追いつかない。
当初、想定外であった張嶷は、たらふく食おうと五羽ほど獲った時があるが、突然の傳士仁の乱入で一羽しか食えなかった事があり、それからは学習して必ず十羽を基本としている。
別に残っても良いのだ。持ち帰り乾燥させて、干し肉にしたりすれば食べられるからである。傅士仁も想う所があったらしく、それからは二羽食った後は残り数を確認している節があった。
彼は彼なりに気を使い始めたのである。それにこういう寄り合いの基本は、獲物を持ち寄る事だから、例え一匹しか戦果が無くとも、それは相手に施さねばならない。
その替わりとして、相手の獲物を貰うのである。こうした持ちつ持たれつの関係の良いところは、互いに自分の領分外の収穫が得られる点にあるのだ。
だから極端な話し、彼は鳥が口に入らなくても、魚は口に出来るのだが、程好い焼け具合とその漂う匂いは、好事家で無くとも我慢出来ぬ代物だった。
そう言った訳で、彼は口を大きく開けて、ひと口目を愉しもうと、やっとの事で再び口許まで獲物を持っていく。するとガサガサッという音で再度の大きな機会を逃す。目の前から現われたのは今度は周倉であった。
傅士仁も三羽目にかぶり付きながら、突嗟に振り向く。張嶷はまたまた然り気無く鳥を差し戻し、ニコやかに笑顔を振り撒く。こうなるとあっさり君もやや口が歪む。
先輩を立てる気持ちはとても尊いが、二度お預けを喰らった口許は正直なのだ。それでも彼は礼を忘れず、傅士仁の時と同じように周倉を温かく迎えた。
傅士仁でさえも、周倉の肩口からぶら下がる獲物を見留めるにつけ、食べ掛けの鳥をそのまま地面にぶっ刺し、やおら立ち上がると、手伝ってやる。
「ꉂꉂღ(´皿`*)いやぁ~こりゃ凄いですな!こんなん下げられるのは、あんただけですわっ♪」
「ꉂꉂ(ღ^ิ౪^ิ*)だろうともさ♪気持ちの良い朝の散策中にな、向こうから突っ込んで来たので、仕方無くわしの鉞で、コツンとな!撫でてやっただけなんだが、絶命しおってからに…」
「…無駄な殺生をしてしまった!死んだからには供養してやらにゃあ為らんからな♪一人では食い切れんので、ここまで持って来たという訳だ♫これからこいつを焼いてやるから、火を分けてくれないか?」
「⁽⁽ღ(´▽`*)勿論ですとも♪」
「ꉂꉂ(ღ^ิ౪^ิ*)良しじゃあ、少し時間が掛かるが、準備してしまおう♪」
周倉は傅士仁に手伝わせて肩口から降ろした巨漢の猪に菜種油を塗り込んでゆく。その間に傅士仁は大木に周倉自慢の秘密兵器をきつく縛る。
これは周倉が鍛えた鉄で造り上げた直角に曲がる代物で、片方を大木に縛りつけると、その先に重い物でもぶらさげる事が可能なのだ。
そしてその下で、集めて来た大振りの木枝に火を移すのは張嶷の役割である。回を重ねる毎にこの三人の好事家の連携は絶妙さを増す。
そして周倉は匂い袋から香草を取り出すと、油を塗りたくった表面に再びその粉をまぶし、塗り込んでいく。こうする事で匂いが肉に程好く付き、食欲をそそるのである。
薪に火が通ったら、巨漢の二人が獲物を持ち上げて、鉄杭に通す。文字通りぶっ刺すので、この二人くらい腕っぷしが強くないと事は為し得ない。
もう何度か見ている光景なのに張嶷はその瞬間いつも目を瞑る。(★▽★٥)
「✧(ღ^ิ౪^ิ*)まぁこんなもんか?じゃあ、お相伴に預かりながら待つとするか…」
周倉もドカッと座り込む。傅士仁も元の場所に座り、食いさしの鳥を再び口に運ぶ。彼は躊躇しない分、こういった寄り合い向きである。
それに比べて、張嶷は要領が良いのか悪いのか判らない。今も熱心に座り込んで、火の通り具合を確認している。
周倉も鳥にかぶり付くが、美味しく咀嚼しながらも、端と気づき、右手人差し指で宙を突く様に、注意換起してやる。
「✧(ღ^ิ౪^ิ ٥)おい!焦げ臭いぞ!!」
その言葉に「(☆▽☆٥)あっ!」と想わず声を上げたのは、張嶷その人である。
最早、あっさり君も慌てて色めく。彼のとっておきの獲物は旨味を既に通り越して、憐れ黒焦げと化していた。彼は突嗟の事で火から離しておくのを忘れていたのだ。
唖然と身守る彼を尻目に、二人の食欲は止む気配が無い。傅士仁は四羽目に突入しているし、周倉は腹が減っていたと見えて、両手に鳥を持ち、交互にパクついている。
人は好敵手を目の当たりにすると、食欲に拍車が懸かるものらしい。この場合は、傅士仁と周倉の事である。
十羽あった鳥の丸焼きはあっと言う間に消えて無くなり、既に残り一羽になってしまった。それでも動揺が大き過ぎたあっさり君はうっかり君と化して、未だ黒い墨となったそのブツを茫然と眺めている。
彼は二度も機会を逃がした我が身を嘆いている。その変わり果てた墨を見つめる内に、想わず涙が頬を濡らす。
残り一羽を手に取った傅士仁はさすがに気が咎めたのか、おもむろに周倉を横目でチラッと眺める。周倉は口許をクイッと捻ると神妙な顔で合図を送る。
傅士仁は優しくそっと、最後の一羽を張嶷の目の前に差し出してやる。ほのぼのとした光景である。目が潤み鼻水が垂れた小僧は、頭を上げると二人を交互に眺めた。
⁽⁽(・▽・٥)(٥・▽・)⁾⁾
「✧(ღ^ิ౪^ิ ٥)悪いな!お前の鳥、旨かったぞ♪」
「ꉂꉂ(ღ´皿`٥)ああ…旨過ぎたな!ついつい我を忘れた♪勘弁な!」
張嶷は想わず口をつく。
「⁽⁽(・▽・٥)えっ♪いいんですか?」
「ꉂꉂ(ღ^ิ౪^ิ *)当たり前じゃあないか!元々お前さんの獲物なんだからな♪」
「⁽⁽ღ(´皿`*)そうだ!そうだ!自分で味逢わないでどうする?」
二人共、根は良い奴等だ。落ち込んだ者は放っておけない。彼らなりに懸命に励ましているつもりであった。
張嶷は頬を袖で拭いながら、「(T▽T٥)皆さんが優しい言葉を掛けるもんですから、涙が溢れて止まらないじゃないですか?参ったな…」等と、どさくさに紛れて、泣き出した恥ずかしさを転嫁しようと試みる。
さすがの二人も想わず苦笑いだ。『『このしっかり者(ღ^ิ౪^ิ ٥)(ღ´皿`٥)♪♪』』と心の中で激しく突っ込む。
当の本人は揶揄されているとは露程も想わないので、『(☆▽☆٥)今度こそ!』と最後の機会とばかりに集中する。
その顔は今まで見た事も無いような満面の笑みである。想わず気持ちが入り過ぎて、口許からは白い歯が溢れる。
そして二人が温かい目で見守る中、ニッコリ笑顔で口を大きく開くや、『(´﹃`٥)今度こそ!』とパクッと行こうとした時であった。
二人も『(ღ^ิ౪^ิ ٥)(ღ´皿`٥)早く行け♪早くかぶり付け♪』と自然と右手を振りながら、応援している。するとまたである。昔の人がいみじくも、『二度ある事は三度ある』とはよくぞ言ったものである。
再びガサガサッと藪の擦れる音がすると、そこに飛び込んで来たのは北斗ちゃんであった。彼はさすがに勘が鋭い。飛び込んだ瞬間に張嶷と目が合い、突如悪寒が走り抜けた。=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)
他の二人の動きもチラッと見ると、両手にぐっと力を入れて腰を踏ん張っているのだ。彼は再び、張嶷を見つめる。張嶷はもはや半べそを掻いて、目に大粒の涙を溜めている。
そしてその片手には、最後の一羽が力強く握られていた。その場の空気は途端に険悪そのものである。二人も自分達の事は棚に上げて、間の悪さを目で訴える。
北斗ちゃんは、判り過ぎるこの雰囲気に、想わず冷汗が迸る。しばらくの静けさの中で、頬に伝う涙が止めどなく流れる張嶷に皆、酷く同情していた。
そして固まっていた状態から、いの一番に抜け出したのは北斗ちゃんである。彼はフゥ~と息を吸い込むと、プハ~と吐いてから口をついた。
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)いやぁ~河の水が引いた後から、蜆が大量に見つかってさ!砂抜きするのが大変だったよ♪猪の丸焼きなんて凄いね!良い所に来たな♪お相伴に預かろう♡…」
「…おぉ~間も無くじゃないか?じゃあ焼けたらこの鍋で蜆汁を作ろうか?張嶷!手伝って欲しいから早くその鳥、食っちまいな♪冷めたら美味くないぞ!(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾」
北斗ちゃんは亀仙人の如くに背中に縛り付けてあった鍋をモジモジしながら取り出す…何ともはや、良い事を吐いた割には恰好が付かない。
「⁽⁽(T▽T٥)北斗ちゃん…」
けれども、然り気無い中にも気配り上手な若君の姿勢に、二人も感極まっている。そして肝心要の張嶷は、悲し涙を再び嬉し涙に変えて、今度はエーンエーンと泣きながら、ようやく肉にかぶり付く。
かぶり付いた瞬間、彼は想わず「⁽⁽(T﹃T٥)美味い♪」と叫んでいた。二人の先輩の優しさと、若君の機転の効いた一言が、旨味をさらに引き立たせる呪いと成った事は言うまでも無かった。
張嶷は紆余曲折を経て、今まで食べた事も無い旨味をそこに見出したのである。ちと大袈裟に過ぎる嫌いもあるが…。
こうして偶然に次ぐ偶然が重って、集った四人の好事家たちは、その後、大量の魚と猪肉をたらふく食べた。
若君の作った蜆汁の臭いも手伝ってか、いつの間にか傅士仁も周倉も、北東の酒だ!北西の酒だ!と、地元のどぶろくを持ち出して来て、その場は宴会宜しくどんちゃん騒ぎである。
「”(•• ٥๑)僕まだ子供だけど…」とやんわりと断る北斗ちゃんであるが、「聞いてますよ♡飲める口なんでしょう?」と半ば脅される様に一口飲んだから大変である。
何せ酔っ払った勢いで厠の肥え溜めに墜ちる人である。後は為すがままの勢いで、四人とも酔っ払って肩を組むと歌い出す始末であった。
ようやく一人寝、二人寝と皆がそれぞれ大の字になってスヤスヤと気持ち良さそうに夢の中に入った頃に、森の中には遅ればせながらも朝日が射し込んで来た。
やがて昼になり、陽も傾き暮れかかる頃になって、皆一人また一人とおもむろに起き出す。皆、互いに顔を合わせると、絶句したのは言うまでも無かった。
特に原因を作った二人の猛者は、予定が無いからケロッとした顔をしているが、張嶷も北斗ちゃんも冷や汗ものである。
張嶷は午前中に予定していた会議も、午後からやっつける筈だった書類の山も素っ飛ばしているから、頭を抱えた。
そして要の存在である太子の北斗ちゃんは、それどころでは無い。あの竹を割った様な性格の潘濬と免疫の無い劉巴との会合を無断で欠席したのだから半ば恐慌状態である。
誤魔化そうにも、どぶろくの混合された臭いは強烈で、河に飛び込んで行水したくらいでは取れそうに無かった。彼らはけっきょく先輩達に付き添われながら、半泣きの状態で帰城する羽目になったのである。
『ひとときの安らぎも、悲しからずや、その時を得ず…か!油断大敵~もはや後の祭り。ここは素直に謝るほか在るまい…(˶‾᷄﹃‾᷅˵)』
神妙な顔が、さらに強張っている北斗ちゃんの表情を見つめながら、傅士仁も冷や汗ものである。
『こりゃ参ったな…(ღ´皿`٥)』
若君のその悲想感は尋常ではない。彼は急激にシュンとなって申し訳無さ気である。実は若君を脅して、いの一番に酒を飲ませたのは彼であった。
「⁽⁽ღ(´皿`*)中華の男は酒くらい嗜まにゃあ♪」
威勢良く無理に勧めた傅士仁であったが、途端に彼も後悔していた。彼も潘濬の気難しさは目の当たりにしていたからである。
実際、彼らが二人で連座して潘濬の御小言を長々と喰らったのは言うまでも無かった。
そして張嶷も当面の間、外泊禁止令を言い渡されるのであった。
【番外編・おしまい】
【後書き】
如何でしたか?なかなか面白く書けたと想うのですが…面白かったら『いいね!』『高評価』頂けると、とても励みになります♡
読んでいるうちに、美味しそうで涎が垂れて来たら、筆者の想いが伝わったかな?と想います。
また次の企画も考えますので、本編の方も引き続き宜しくお願い致します♪
因みにすでに8月分までは書き終えました。
少しずつ増える皆様からの評価がとても励みになっております。やる気倍増です♪♪いつも読んで下さり有り難う御座います♫
構想を練り、また引き続き9月分に挑戦しようと想っています♪宜しくにゃん♡
【著者】