男ならば大志を抱け!
江陵河畔の状態はここに来て落ち着きを取り戻しつつ在った。避難民の南郡移住も順調に進んでいるとの報告も鞏志から届いている。
張嶷は、相変わらず防衛体制を崩す事なく、索敵も進めているが、今の所は特に何の動きも無いらしかった。彼の索敵は趙震譲りであるから、信用度はかなり高いと言えるだろう。
公安に目を向けてみれば、避難民の移住が終わった後に、既に復興計画が進められているようだ。さすがは費禕というべきで、その内政手腕は高いと言える。
費観は公安砦の防衛体制の見直しを計り、その線に沿っての実行に専念している。
この二本の施策を一手に引き受け助けているのが、名門・張氏(漢臣張良)の子孫である張翼である。彼は武に隔たらない文武両輪の活躍でこれを支えたのである。
さて江陵であるが、復興計画に基づいた采配が伊籍の手で始まろうとしている。関羽は馬良と共に防衛計画の修正を計るべく、行動を開始していた。
傅士仁は、大型船の秘匿とその補修に当たっており、江東に負けない船団造りに励んでいる為、しばらくは戻らない。
但し、緊急時には駆けつけるとの事であり、何か在れば費観が知らせに行くそうだから、公安砦付近に秘密基地があるのは確かな様である。
弎坐は、相変わらず華佗先生と一緒に医学の道に励んでおり、もしかするともう既に北斗ちゃんよりも 腕の良い医者になっているかも知れない。華佗先生も、良い後継者育成に心血を注いでいるようだ。
こうして、てんでバラバラに行動をしているのかと想いきや、全ては荊州の維持と発展の為と、その行く先は、皆、同じ目線の先に在ったのである。
そんな中、北斗ちゃんは毎日の様に潘濬を帯同しては、小船に乗ったり、乗馬に興じたりしている。
そして時折、小声でボソボソと呟き合い、端から眺めていると、その様子はかなり怪しく見えるのだが、彼らは決して遊びに興じている訳でもなく、操船技術や馬術の向上を計っている訳でも無かった。
それはそうだ。あんなにお固く貴真面目な潘濬が同行しているのに、そんな半端な行動を許す筈も無い。ではいったい何をしているので在ろうか?少しその動きを注意深く観察してみよう。
ある時、北斗ちゃんは城で随一の長槍を持ち出して 小船に乗ると、あろう事かそれを河に向かって突き刺す様に投げ込んだ。けれども、巧く刺さらずそのまま流れに乗って槍が流されそうになると、慌てて飛び込んでそれを捉えた。
見方によれば、槍投げや水練に見えなくもないのだ。ところがそれを見ていた潘濬がボソボソと助言すると、一旦小船を返して、出直したのだった。今度は何と、関羽総督から周倉と共に中型船まで借りて来ると、再び同じ地点まで三人で戻る。
「ღ(◕ 0 ◕*)ここらで良かろう♪親方頼むよ!」
北斗ちゃんは周倉に頼んで、錨を沈めて貰う。『ポッチャン』という音と共に沈んだ錨は、鉄の鎖と共に河底に着く。
「(•• ๑)沈んだ?」
「へい!(* ^ิ౪^ิ)ლ着きましたな♪」
「( ๑•▽•)۶じゃあ、潘濬頼む♪」
「ええ…♡(• ຼ"•ꐦ)把握しました♪」
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)えっ!どういう事?大丈夫なの?」
「太子♪(ꐦ•" ຼ•)鎖に所々、印が刻んであるでしょう?」
「あ!✧(°ᗜ°´)本当だ…これで判るのかい?」
「(ꐦ•" ຼ•)✧そうです!だから、わざわざ取って返したのですぞ!印は一定の長さで刻印してあります。これで船長は水深を測っているのです♪じゃないと船が座礁してしまいます!」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾なるほど!それは知らなかったな…」
彼らはこうしてポイントと、思われる地点の水深を計測していく。潘濬は抜群の記憶力でそれをいちいち頭に入れて行く。
「なぁ…(°ᗜ°´)河幅を測るのはどうする?今度こそ、この長槍でやるかい?」
「(ꐦ•" ຼ•)槍を持つ太子はどこに居るので?」
「(•• ๑)もち、船の上だけど?」
「(〃•" ຼ•)=3それは駄目ですな…船が動けば、槍も動きます…」
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)あら…そらそうだね!ではいったいどうするの?」
「(ꐦ•" ຼ•)੭⁾⁾ 河の流れがありますからね…例え地に足が付いたとしても、河の流れで誤差が出ましょう。ならば船を幅いっぱいに並べるのです。もちろん錨を降ろし固定します。これなら、流れに左右されませぬ…」
「…そして船の幅に船数を掛け合わせます。さらに誤差を限りなく無くす為に、船と船の間の隙間の長さも足し上げておけば、河幅が出ましょう!」
「成る程…(´⸝⸝• •⸝⸝)✧流石に凄いね!ではこれもポイントを決めて計測してしまおう♪」
再び計測が始まり、潘濬の頭の中には数値が沢山入って来る。でも彼はまだまだケロッとしている。
「ꉂꉂ(❛ᴗ❛ و)今度は河の長さだ!流石にこれは船を並べるという訳にも行くまいが…」
またまた北斗ちゃんは、"(•• ๑)どうする?"てな顔で潘濬を見つめる。
「必要ありませんな…ε-(• ຼ"•ꐦ)太子は何を求めておいでか?曹仁殿の仰有られていた工事は、河床掘削工事と河道拡幅工事でしょう…水深と河幅は把握したのですから、もうここは宜しいかと!次は陸です♪」
彼はどうやら合理主義者らしい。無駄な労力は、一斉掛けない。再び取って返した一行は、今度は馬に乗って益州との国境近くまで闊歩する。
「ꉂꉂ(• ຼ"•ꐦ)太子…この辺りはちょうど土地の起伏も有り、流れを別つには都合が宜しい。どうでしょう?この辺りに"枝"を掘られては?」
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)うん…そうだね!でも鞏志の居ない所でホイホイ決めちゃって良いのかな?」
「(ꐦ•" ຼ•)੭⁾⁾ それは構いませぬ…その辺りは私も重々心得ております!それに私もその道の専門家です♪彼は避難民の方の要望に応える為に取り掛かりが遅れるそうです。そこで例の二人を介して、私に相談があったのですよ♪」
潘濬の話しでは、鞏志は自分の提案が通った事をとても喜んでいたという。
新たな支流を造る場所はもう決めてあるそうなのだが、それとは別に漢江の流れを逃がす手立てとして、長江の支流を自領内に造り上げ、新たに通す事以外に、漢江に枝となる川を造り上げる事。
この二つを大きな柱に掲げていると言う。
そして例の二人とは、船の構造に詳しいという理由で、若君の要請に応えて江陵と公安に配置した組員の事であった。
彼らが今、潘濬の許を訪れ、連日打合せが行われているらしい。今日は、支流の予定地域の調査に行っているそうだ。
「( ๑•▽•)⁾⁾ 判った…そういう事なら、安心してサクサクと進めよう♪」
「⁽⁽(• ຼ"•ꐦ)それが良いでしょう♪伊籍様の方で既に董允様を介し、丞相の許可は得ております!但し、この工事には、莫大な資金と人手が不可欠でしょう。それはどうするおつもりなのですか?」
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ へぇ~さすがに伊籍殿は手廻しが良いな♪有り難い!そしてね…君の答えは簡単だ。資金の手立ては考えてある。恐らくは何とかなる筈だ。後、人手だが…それはある方針を打ち出す事で解消出来ると想う。たぶんそんな事、誰も考えないからね…面白い事になると想うよ♪」
北斗ちゃんは自信満々と言うが如く、悦に入っている。潘濬は少々不安になるものの、この太子の"閃き"が馬鹿にならない事をちゃんと心得ているため、敢えてこの場では流しておく事にした。
いずれ正式に、皆の前で発表される事になるであろうから、今ここで彼が心配する事でも無かったのである。こうして彼らはサクサクと日々工事予定箇所の選定に励んだのである。
「ꉂꉂ(゜Д゜*)張嶷殿♪」
「ꉂꉂღ(´▽`)やぁ~鞏志殿♪いよいよですか?」
「✧(゜Д゜*)うむ…ようやく移住して来た民達の様子も落ち着いて来たのでね!これからは貴方がここの太守です♪宜しくお願い致しますよ♪」
「ꉂꉂღ(´▽`*)えぇ…任せて下さいよ♪鞏志殿がしっかりと引き継ぎして下さったから何とかやれるでしょう!何か在ったら江陵の伊籍殿にお伺いを建てますし、少しの間らしいから…追って後任の方は来るのでしょう?」
「✧(゜Д゜*)えぇ…そう聞いていますが、その手配も少し遅れている様ですな!そらぁそうでしょう♪先の漢中奪取から日も置かず、本国もそちらの安定も在りますし、それで無くとも、丞相は若手の有望株をこちらにかなり投入し、配置してしまっています…」
「…糜竺殿の後任さえまだお見えに為っていない様ですからな!然も在らんという訳です!なぁに、私は心配しておりません。貴方なら立派にやれる事でしょう♪」
「ꉂꉂღ(´▽`;)有望株ですかぁ…アハッ♪、あいやすみません!僕は正直、張翼殿などとは違って、政務には明るく無いのですが、大守不在となると色々と支障がありますからね♪特に移民を多く受け入れたばかり…貴方の御配慮には感謝しております♡」
鞏志が出遅れた理由はここにある。彼は、組員を引き連れて河川工事に携わる事になるが、そうなると、南郡太守としての役目を担う訳にもいかない。
太子経由で成都に後任を要請して貰っていたが、先日丞相から伊籍経由で「もう少し待つ様に!」との返事が来ていたのだ。そこで、この難局を買って出たのが張嶷という訳だったのだ。
張嶷は鞏志の遠大な構想を聞いていたし、早くその計画に彼を携わらせてやりたかった。伊籍と相談した結果、潘濬の推挙もあり、「しばらくの間は張嶷に任せよ!」とのお達旨であった。
そこから、引き継ぎが始まり、併行しての移民の方々のケアも始まった。連日の出入りを繰り返しながら、鞏志は張嶷への引き継ぎと移民の方々の訴えに耳を傾けた。
その多くは、生活する上での支障であったため、環境や家屋に関する事は全て組員で担う事が出来た。そうして毎日の訴状にも目を通して、その都度決裁を行い、可能な限り張嶷にも立合せて、その様子を見せておく事も忘れなかった。
張嶷が述べた"配慮"とはそう言った事であった。彼はこうして繁忙な日々を過ごしながら、南郡の政務を安定させた。そうして、張嶷に引き継ぎを済ますと、いよいよ旅立つ事になったのである。
「ꉂꉂ(゜Д゜*)否、貴方は飲み込みが早い♪大丈夫ですよ!きっと上手く行く事でしょう♪貴方はまだ若いのに、立派に兵権を掌握しておられる。これも良い機会と捉える事です…」
「…この経験は必ず貴方を一段も二段も成長させてくれる筈です♪だから心配していないと申しました。決して根拠の無い戯言では無いのですよ♡」
鞏志はそう言うと、頼もしげな顔で張嶷を見た。
「ꉂꉂღ(´▽`*)有り難う♪そう言って下さると、心無しかやり遂げられそうな気がして来ました。これ以上は無い餞の言葉です♡貴方も良く頑張って来られましたな♪…」
「…どれだけの期間が掛かるのかは、僕には想像もつきませんが、貴方のやりたかった事がこれから叶うのです!この荊州のためにも必ず成功させて下さい。貴方の成功を心より祈っておりますよ♡」
張嶷も答礼として、鞏志に餞の言葉を送る。二人は互いに瞼に熱いものを感じて、目頭を押さえた。そしてやはり互いにニコやかに笑った。
鞏志は別れ際に、溌剌とした表情で張嶷に振り返る。
「✧(゜Д゜*)発つ鳥、跡を濁さず…ですよ♪」
すると、張嶷もそれを受ける様にやり返す。
「✧(´▽`*)為せば、為る!…ですかな?」
二人はこうして、しばしの別れを迎えた。別れだというのに、その表情は清々しく心は晴れやかだった。