曹仁とは俺の事だ
曹仁は若い頃から喧嘩には滅法強く、腕が立つゆえに、いさかい事では直ぐに手が出た。その拳に依って物事を納める習慣が付いており、常に乱暴者としての烙印が付き纏っていたのである。
けれども従兄の曹操に従った後には、過去の行為を自ら顧みて戒め、成長した。けして暴力では真の解決には為らない事を悟ったのである。
それからはその行動を改め、厳格に法を遵守し、常に法と照らし合わせて信賞必罰を行なう事に努めたので、徐々に周りの評価を高め、信頼を得る事に為った。
その自らを律する姿勢と、弛まぬ努力、そして地道に培って来た叡智と行動力は、自然と諸将の手本になった。皆、曹仁の様に成りたいと想わせる物がそこには在ったのである。
曹操も常々配下の諸氏には、曹仁を見習う様にと訓示していたという。彼はその膂力と胆力とで粘り強い戦い方に定評があり、また騎馬の扱いにも長けていたため、その電光石火の突撃により数々の武功を重ねていた。
そのため曹操はこの従弟を心の底から信頼しており、必ず大事を為す時には、曹仁を重要な要の位置に据えた。
曹仁もその信頼に度々応えて、武功を上げた。彼はそれがどんなに過酷な任務であっても、その役割や使命を良く理解して事に当たった。
各地の戦いを転戦する事も厭わず、東奔西走を繰り返して来た彼は、いつしか名将と言われる様に成っていたのである。
またその武功を重ねる毎に、名声も地位も自然と高まり、彼の果たす役割もその重要性を増したが、彼は粘り強い胆力でどんなに高い壁が立ちはだかろうとも、決して諦めずにその都度乗り越えて来たのである。
そして彼はこの魏国に於いて、いつしか無くては為らない存在と成っていた。その発言力は無視出来なく為っていたのである。
彼は喩え相手が主君の曹操であっても、過ちには直言を以て諭し、揺るぎ無い姿勢を見せた。曹仁の投じる一石には重みが在ったので、曹操も無視出来ずに考え直す事もしばしば在ったという。
曹操が荊州の要衝であるここ樊城に、曹仁を据えたのにもこれで納得が行くと言うものである。実際、ここは都である許昌の喉元に当たる為、重要な地であったのだった。
そんな曹仁も既に齢50を越えていたが、益々盛んで在り、ここ荊州の前線である樊城に於いて、ドシッと腰を据えて、蜀の関羽や呉の呂蒙に睨みを利かせていた。
魏国側も年毎に襲って来る漢江の氾濫には手を焼いており、その対策として曹仁は、河床掘削と河道拡幅工事を申請していたが、なかなかその許可は下りなかった。
この申請においては、同じく荊州を占拠する蜀や呉も利する事に成るのではないかという懸念から、曹操の幕僚の間でも賛否両論があり、揉めていた為、その結論はその都度先送りされる羽目になっていたのである。
そこに来てのこの有り様であった。今年は特に例年と比較してもその時期が早く、またその規模が尋常ではなかった為に、ここ樊城や襄陽城はその憂き目を一身に受けた。
水没して城は半壊したも同然の有り様である。僅かに避難可能な箇所に皆が集まり、窮屈な想いをしながら、都・許昌からの救援を待っていた。
曹仁は、備蓄の全てを開放して、民や兵に供出し、その日その日を凌いで来たのである。その備蓄も間もなく尽きようとしており、救援が来るのを一日千秋の想いで待ち詫びていた所であった。
そんな時に、関羽に不意を突かれた事で、彼は苦虫を噛み潰す。千載一遇の機会を捉えた襲来である事はもはや間違い無かった。少なくとも曹仁はそう想っていた。
『; ー̀дー́ )ᵎᵎ…ふん!やはりな…関羽が攻めて来る事は判っておったわ♪奴らの目的は北伐に在るのだからな!小賢しい…返り討ちにしてくれるわ!』
彼のこの言葉は、半分は見込み通りになったという自分の予測に対しての自負であり、もう半分は一番不味い時機を突かれたという苦渋の嘆きであった。
関羽に絶対の好機を握られ、さらには機先をも制せられてしまった曹仁には少々焦りが在った。そのため満寵の進言を入れて、龐徳に迎撃を命じたものの、直ぐに後悔の念が襲って来る。
彼は関羽が中型艦艇を密かに製造している事には気づいており、こちらも中型艦艇を造るべく、取り組んでいる最中だったのであるが、なかなか想うようにはいっていなかった。
木材はどちらかというと南岸沿いに多く自生しており、北岸沿いは平地が多かったため、自力で造り上げるには限界があった。北方の森林地帯から輸送して来るにも手間と予算が掛かったのである。
龐徳が小型艦艇を多数出して迎撃に向かったのには、そういった背景も在ったのである。けれども果たして関羽が中型艦艇を出して来た場合に、立ち向かえるのかどうかは、極めて怪しかった。
そこで迎撃するよりは籠城して粘り強く戦った方が良かったのではないかという自責の念に苛まれたという訳であったのだ。
そんな折りに、再び満寵が慌てて飛んで来た。彼は心なしか青ざめて見える。
「( º言º)殿!大変です…龐徳の艦艇部隊が壊滅しました!関羽が攻めて来ます。如何致しましょうか?」
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ…何!やはりか…何でこんなに儂の予測は当たるのかのぅ…自分が恨めしいわい♪しかしそうも言っておれん!こうなっては仕方ない…籠城して今からでも粘り強く戦うぞ!」
「( º言º)…そうですな!それしか方法は在りますまい…直ぐに手配致します☆ミ」
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ…おう!頼むぞ!儂は鐘楼台にて状況把握に向かう!お前も追って来い♪」
「( º言º)…承知しました!後程伺いましょう☆ミ」
曹仁はさっそく重い腰を上げて、鐘楼台に向かった。
「(°ㅂ°٥҂)ガツガツガツ…」
龐徳も関羽や馬良の勧めにより、腹拵えをしている。
彼は先遣隊として迎え討ちに出庭って来たのに壊滅し、どの面提げて飯が食えるか…と当初は断ったのであるが、その分これからこき使うから食えと言われて覚悟を決めた。
もしかすると、誤解を受けて死ぬ羽目に成るかも知れない。それと言うのも、棺まで用意して必死に立ち向かうつもりで在ったのに、この様である。
結果的には、相手は攻めて来たんじゃ無く、救いに来たのだから、救われて問題があるのかと言われると、無いようにも感じるが、曹仁や満寵がそれで納得するかは甚だ怪しかった。
特に彼らはまだ関羽が攻めて来たと勘違いしているのだから、今の自分を観たら、案外頼りに成らない裏切り者だと思うかも知れないのだ。
そうなれば彼の立場はかなり危うい。元々馬超の手の者だった彼は魏では外様である。
そしてかなり無理をして、好戦派の急先鋒で為らしていた立場だったのだから、簡単に折れて降伏したと判断されては、その身も危ういだろう。
見せしめとして粛清の憂き目に在っても、決して可笑しくは無かった。ならば、この飯が最後の晩餐に成るかも知れないでは無いか?
『(°ㅂ°٥҂)ならば食おう…この際、死ぬ前に上手いもんでも食わねばやっておれん!』
そういう論理である。彼の気持ちの中では、部下を殺される事なく、腹一杯食わせてやれただけでも、この船の奴等に感謝しなければ為らんと、そういう一念であった。
この際、疑われるのは自分だけで十分だ。死ぬなら自分だけで良い。疑いを掛けられた暁には、自分が責めを負って、この腹をかっさばいて死のう…そう想っていたのである。
そこまで覚悟が出来れば、怖い者など無かった。その一念が、腹一杯飯を食らう事だったのである。
『(*`艸´)良く食うなぁ…余程、腹減ってたんだのぅ✧』
関羽将軍は少々勘違いしているが、それほど龐徳の様子には危機迫るものがあった。
「ღ(。◝‿◜。)それで…龐徳さん、ご協力は頂けるのですな♡」
「(°ㅂ°٥҂)あぁ…勿論!満寵は別にして曹仁なら何とか話が判る筈だ!あいつは少なくともあっしの性格や姿勢は理解してくれているだろうからな…同じ将として判ってくれる筈だよ!」
実際には半々だろうと龐徳は見ている。けれども、敵対しているにも拘わらず、わざわざここまで助けに来てくれた、その仁義には信義で報いてこそ、人としての道理が通るのではないかと彼は想っていた。
「(°ㅂ°٥҂)あっしの事なら心配いらん!恩義には恩義で報いる。それがあっしの流儀何でね♪如何様にも使って下せ~よ✧」
「(*`艸´)フン♪良くぞ申した!お前の気持ちは受け取ったぞ!何か在れば儂が身体を張ってやるゆえ心配致すな!」
「(°ㅂ°٥҂)ハハ…お言葉は嬉しいですがね、関羽殿!自分の不始末は自分で着けますよ♪貴方のお手は煩わせませんや!」
「ღ(。◝‿◜。)おやおや…ここにも総督好みのお人がおひとりですか…龐徳殿!それは却って逆効果ですぞ!これで総督は意地でも貴方を庇う事でしょうな…」
「"(°ㅂ°٥҂)!何…そうなのか!だったら今のは無しだ♪あっしの事は構わないでおくんなせぃ~♪」
「ꉂꉂ(`艸´*)ガッハハハ♡もう手遅れじゃ♪お前みたいな面白い奴は死なせてたまるか!絶対儂が何とかするわい!」
関羽はそう宣うと激しく笑い跳ばした。馬良もクスクスと笑っている。龐徳は可笑しな奴等に救われたもんだと苦笑いしている。でもその心意気は嫌いでは無かった。
「(°ㅂ°٥҂)ガツガツガツ…」
彼は涙を浮かべながら御飯粒を飛ばして豪快に食い続けた。
やがて樊城の城壁が近づいて来た。城壁の上に立てられた鐘楼台の上には、体格の良い男が立ち、こちらを窺っている。曹仁であった。
関羽はここぞとばかりに、その咆哮を十分に発揮して、語り掛ける。
「(*`艸´)"おう♪曹仁、久しいのぅ…元気にしておったか?」
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ…関羽!貴様…人の弱みに漬け込むとはいつからそんな人でなしに成った?魏王の大恩を忘れたか?」
「(〃`艸´)=3何を馬鹿な事を!大恩ならば、赤壁の敗走の際に返しておるわ!命は助けてやったろう?そんな事をいつまでもほじくり返すとは、未練がましい奴め!」
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ…こなくそう、どの口が言うか!この薄情者が!」
「(*`艸´)なっ!何じゃとぅ…」
「ღ(。◝‿◜;)ちょっと!閣下!あんた何しに来たか覚えてます?喧嘩吹っ掛けられて、まともに買ってどうするんです?あんた馬鹿なんですか?それとも若と交代します?」
「(*´艸`*)あぁ…そうだったな♪すまんすまん!売り言葉に買い言葉で忘れておったわ♪」
「ღ(。◝‿◜;)全くもう…頼みますよ!遊びじゃ無いんですから!」
『(°ㅂ°٥҂)…阿呆だوو˚』
龐徳は、この単純なくらい挑発に乗り易い性格にたまげていた。関羽に比べればまだまだ自分は可愛いもんだと苦笑いしていた。
これが関羽には馬良が欠かせない由縁である。関羽には冷静な馬良が付いていないと、そもそも話が先に進まないのだ。
「(*`艸´)=3おい!曹仁…儂は戦いに来たんじゃない♪災害救済に来たのだ♪お前達を助けに来たのだぞ!判ったか!」
「ღ(。◝‿◜;)もそっと抑えて!挑発しながら言っても駄目だから…」
馬良の心痛足るや今に始まった事では無いが、この調子でやられたら、溜まったもんじゃない。彼が早死にするとしたら、関羽の責任大である。
「(*`艸´)"あぁ…そうだったな!すまんすまん!曹仁殿♪と言う訳である。困った時はお互い様だ♪助けに来たのだ♪他意は無い。何の策も弄して居らぬから、素直に受け入れて貰いたい!」
関羽はトーンダウンして、曹仁に訴えた。関羽と曹仁は目と目が互いに見つめ合う恰好と為って、しばらく牽制しあっている。
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ=3 ば、馬鹿な事を!こんな大いなる機会を失ってまで我らを助けるとぬかすか!お前、何か変なもんでも食ったんじゃ無いのか?それとも阿呆か?」
曹仁の立場で言うならば、至極まともな反応である。この状況下で、そんなよ迷い事をまともに受ける者は居ないだろう。
「Σ(`艸´;)な、何じゃとう…」
関羽も再びいきり立つ。馬良はまたまた冷や汗を掻く。
「ღ(。◝‿◜;)ღちょっと総督!」
馬良は慌てて関羽の袖を引いて翻意を促す。すんでの所でそれは間に合い、関羽はいきり立つのを抑え込んだ。
「ღ(。◝‿◜;)"チラッ」
馬良は龐徳の方に視線をやって、その時は今だと合図を送った。『出番です!』そう目で訴えたのである。
『(҂٥°ㅂ°)⁾⁾…おぅ♡』
龐徳も直ぐにそれは察知した。彼も様子を眺めていて、ここしか無いと感じていた。
『(҂٥°ㅂ°)…存外、関羽殿は挑発に弱いな!これでは馬良殿も大変だ!ここはあっしの出番でやんすね♪』
彼は覚悟を決めた。身体を張る時が来たのである。龐徳は腹を据えて事に臨んだ。
「(҂٥°ㅂ°)⁾⁾…閣下!関羽殿が申し出てくれた事は本当です!この艦艇には武器らしい武器は乗って居りませぬ!積載物は食料と医薬品です!信用せねば為りませんぞ♪お願いですから聞いて下さい!兵や民の命が懸かっておりますぞ!」
龐徳は関羽を庇う様に身体を張って両手を広げた。突然のその乱入は、関羽も驚かしたが、曹仁はもっと驚いた。
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ なっ!お前それはどう言う事だ!」
曹仁は驚愕している。それはそうだろう…好戦派としていの一番にやる気を見せて突撃した筈の男が向こう側に立ちはだかり、自分を嗜めているのだ。
彼はいったい何が起きているのかと一瞬、躊躇する事に成った。その時である。
「( º言º)射て!射ち殺せ!」
その掛け声と共に、前面に出てきた弓隊の兵が放った矢が一斉に降り注ぐ。
満寵であった。彼は鐘楼台に駆け付けるなり、その異変に気づき、矢を射させたのだ。兵は軍師の命であるから即座に斉射する。
「; ー̀дー́ )ᵎᵎ なっ!馬鹿な!!」
曹仁は慌てて満寵と兵を遮り、第二射は抑え込んだものの、第一射は時既に遅し…放たれてしまっていた。
馬良は咄嗟に兵に盾を持たせて防がせたが、矢は中型船の甲板を容赦無く襲う軌道を目指して弧を描く。
誰もが駄目だ…そう思った時である。突如、中型船と鐘楼台の間に大型船が突っ込んで来て前を塞ぐ。
大方の矢は大型船の側面に当たり、それを乗り越えた矢も大型船の甲板に刺さって留まった。
その甲板の上には盾が全体を覆う様に並べられており、誰ひとりとして傷つく者は無かったのである。
関羽も龐徳もお互いを庇い合ったまま、固まる様に目を剥いている。その目の前には大型船が立ちはだかり、やがて大歓声が沸き起こった。
そしてその船の縁からはヒョッコリと可愛い若者の顔がこちらを覗き込んでいた。
(´°ᗜ°)✧龐徳の目にはあの子供の円らな瞳が映っていたのである。