氾濫から民を守れ
公安波止場を出発した大型船2隻の行く手には、やがて漢江の支流との分岐点が見えてくる。雨足はいよいよ強くなり、濁流が止めどなく叩き付けて船を揺する。
「(((ღ(´皿`;)いよいよだ!漢江に入るぞ…気を抜くなよ♪」
「「「おぉ~♪♪♪」」」
傅士仁は皆の気を引き締め、水兵達も益々懸命な姿勢を示しそれに応える。彼らにとっても初めての試みであるから、真剣に立ち向かわざるを得ない。
一瞬の油断が自分やそして仲間達の命に直結するのだ。ましてやこの船には彼らが大切に想う太子様が乗り合わせている。
皆、精一杯それぞれがその身を鼓舞しながら、大きな声で「エイホ~♪エイホ~♪」と掛け声を合わせる。
分岐点に差し掛かった船は方向を切り換える。濁流の叩きつける様な勢いに逆らい、方向を変えるのは至難の技で在る。けして簡単な事では無かった。
けれども彼らの懸命な連動は、その流れの反発力を覆し、無事に漢江に入る。傅士仁は、河は勿論の事、海での操船経験も在るベテランの手腕を存分に発揮し、この繊細さを要求される苦難を皆と共にしっかりと乗り切ってしまった。
但し懸念もあった。二隻目がちゃんと後に着いて来れるかという事である。彼は黄河で名を馳せたという費観の手腕を信じていた。
無論、これはあくまでも本人の言を信ずればの事であるが、こういった事というのは経験者にしか判らぬ機微があり、その臭いを互いに感じ取ると言う。
『大丈夫ღ(´皿`*)彼ならばやれる筈だ♪』
傅士仁には、その清算があった。ここまでの航行の中でも、費観はその手腕を存分に示していたからである。しかも、この支流への方向転換に最大の関心を寄せていたのは、誰在ろう費観本人であった。
彼は素直に懸念を表明して、傅士仁を質問攻めにしていた。傅士仁も当然の事ながら、出来得る限りの助言を与えた。彼のこれまでの経験を引き合いに出して、懇切丁寧に説明してやったのだった。
そして費観はその期待に見事、その腕前で応えてみせた。二隻目の大型船も無事に後に続き、漢江にその勇姿を見せたのである。
『フゥ~! ε=(・・;)何とか成るものだな…傳士仁殿の助言は的確だった。それにベテランの水兵達が巧く新人水兵達を導いた。さすがは傅士仁殿の鍛えた連中だ!頼もしい♪』
彼は皆の精悍な顔つきが、その苦境を共に乗り込えた経験に基づくものであり、大きな自信に繋った事に満足していた。
傅士仁もまたホッとしていた。費観の手腕がその言に違わぬ力量を示したからである。
『Σ(´皿`*)やるじゃないか!あんにゃろう…可愛い顔して大したスゴ腕だな…』
彼は『ε=(´皿`*)フフン!』とほくそ笑んでひと安心すると、直ぐに気持ちを切り換え、前方を睨む。漢江の水位はますます上がっていて、いつ氾濫を起こしても可笑しくない状況であった。彼は身を引き締める想いで皆を励ます。
「(((ღ(´皿`;)!!野郎共、注意せよ!正念場ぞ!ひとまずは江陵波止場に付けねばならんからな…降りる者は、そろそろ心の準備をしておいてくれ!良いな?」
傅士仁はそう声を掛けると、再び畝る波間に目を投じた。
さて、再び北斗ちゃんである。彼は外から聞こえる傅士仁の声にしっかりと耳を傾け、漢江に入る瞬間に備えていた。
但し、その時を待つまでもなく、雨粒の叩きつける音はどんどん強くなり、それに比例するかのように濁流も容赦なく船の横腹に打ち掛かるのだから、のんびりと構える暇など無く、とにかく丈夫な縄を信じて、身体のバランスを崩さぬようにその身を支えていた。
『(•'д'• ۶)۶まるで生き物だな…河ってこんなに凄いものだとは想わなかった。お濠の水面なんて可愛いもんだ!でも皆は外で頑張ってくれている、泣き言は言って要られないぞ♪』
彼は既にあちこちをぶつけて擦り傷や打僕を負っていたが、持ち前の根性で耐え忍ぶ。彼方からは「(((ღ(´皿`;)!…!…!」と叫ぶ傅士仁の声が響いて来た。
『(๑`•᎔•๑)σ いよいよだ…』
彼は身体全体を引き締め、その反動に備える。ところが在らぬ程の衝撃に耐え切れずに手を離してしまった北斗ちゃんは、その瞬間に宙に舞った。
「‼(º ロ º )あっ!」
それは刹那の事であり、彼のふくよかな名残りを感じさせるその体躯は、見事に寝台の上をゴム鞠の様に、ポワワ~ンと弾むともんどりうって転がる。Σ≡ ฅ(゜ロ゜ฅ)
そしてピンと張った縄に遮られる様にその反作用が働くと、その反動で寝台の角っこにある壁との間の溝に嵌った。
⌒・⌒ヾ( ゜⊿゜)ฅ)))丨丨
本来なら助けを呼ぶところであるが、皆、懸命にこの揺れに耐えて操船に臨んで いるのだからと、彼は我慢する事にした。
それにまだ大きな揺れは続いており、溝に嵌った状態であれば、却って都合も良かったのである。丨(;⊙..⊙ ) 丨
但し、三半規管は揺れに合わせて震えるし、内臓も揺すられるから、今度は覿面、気持ちが悪くなって来てしまい、彼は想わず吐いた。(;๑ᵕ⌓ᵕ̤)◞。
いわゆる船酔いという奴であるが、彼にとってはこれも初めての経験となったのである。
「うわぁ~臭っさ!。:゜( •᷄ʚ •᷅ )゜:。参ったなあ…」
彼はみるみる顔色が青くなり、その恥しさから、今度は赤くなり、散々な目に合いながらも、気持ちを強く持って耐え忍んだ。
そして彼は幸か不幸か、そのまま意識を失ってしまうのである。Zzz(¯﹃¯*)
彼が目を覚ましたのは、残念ながら船が江陵波止場に無事に接岸した後であった。
耳元でざわめく言葉のやり取りは、「HOK…CHA…KUT…AN…O…ちゃん…北斗ちゃん!」そんな耳障りがけして良くない濁音からやがて彼を心配する言の葉へと変貌を遂げる。
パッチリと目を開けた彼が眺めた景色は、心配気に見つめる傅士仁と弎坐の眼差しであった。丨Σ(⊙..⊙ ) 丨
彼は一瞬、そこがどこであるのか、頭が朦朧として理解出来ずに居たが、やがてその窮屈さゆえに場所を認め、事の成り行きを想い出して、冷や汗を垂らす。
「(〃'皿')" 若君!大丈夫ですか?」
傅士仁は想わず苦笑いする。
「(〃'ω')" 北斗ちゃん…プププッ♡」
弎坐も想わず失笑を漏らす。
「ごめん、ごめん…(,,>ლ<,,)でも誂えた様にスッポリ嵌まってるもんだから、感心しちゃってね…ごめんね♪」
弎坐に言われて改めて見るに、確かにオーダーメイドの如き有り様である。偶然にしても、これだけ採寸した様にきっちり嵌まる事もなかなか無いと言えるのではなかろうか?
彼の顔は見る見るうちに可愛い林檎ちゃんの如く赤く染まり、とても恥かしそうにモジモジした。そしてその羞恥心に堪え切れずにやがて呟く。
「頼む…。°(°´ᯅ`°)°。手を貸してくれないか?」
彼がそう頼むと二人共、「喜んで♡」とニコやかに微笑ながら、手を差し伸べて、彼をその見事な淵から引き上げてくれた。
彼が胴体に巻いて縛った縄を手解きながら、傅士仁は感心そうに呟いた。
「若君♪ ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)自力でここまで対処しておられるとは感心しましたぞ!なかなかやるじゃないですか?」
「有り難う…(´°ᗜ°)でも皆、あんな反動にビクともしないんだな?確かに貴方の言う通りだ…船内に居て正解だったな…」
傅士仁はその判断を評価されて、コクリと頷く。まんざらでも無さそうだ。
「あれ?( ´-ω・)" 北斗ちゃん結構、擦り傷や打撲があるね…手当てしなきゃ!」
弎坐は腰に両の手を充てながら、吐息を漏らす。
「あぁ…(°ᗜ°٥)大丈夫、唾付けときゃこんなの治るよ!」
北斗ちゃんはあっけらかんとそう答えた。
「何言ってんの?( •᷄ὤ•᷅)油断は禁物だよ!これから再び発つつもりなら、手当てする事!じゃないと行かせないよ…それでいいの?」
「判った判った…ღ(°ᗜ°٥ღ)やるよ、手当てします!」
彼は弎坐の剣幕に驚きながらも感心していた。
『(,,•ლ•,,)弎坐も良い医者に成りつつあるんだな…』
北斗ちゃんは嬉しそうに彼の表情を窺っていた。それはひとりの若者の成長を、肌で感じた喜びであった。
「で!( *¯ ^¯*)降船は進んでいるのかい?」
「ええ! ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)提督♪予定通り…再出発に向けての準備と点検に入っております!」
傅士仁はニヤニヤしながら、そう応えた。
「ああ…(*´°ᗜ°)それは御苦労様♪それにしても提督って…?」
「若♪ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)船の指揮を担う者の事をそう呼ぶんですぜ?恰好いいでしょう…」
「え?(´°ᗜ°)そうなの…それは知らなかったな♪確かに恰好は良いけど、"淵に嵌まった提督"では恰好はつかないなぁ…あ!これ笑うとこだから大いに突っ込み宜しく♪」
北斗ちゃんはそう言って苦笑いする。大型船を二隻も波止場に止めて置くのも不味い。三人は早速動き始める。
傅士仁はそのまま準備に戻り、北斗ちゃんは弎坐と共に一旦、下船する。すると波止場には、管邈が心配そうに佇んでいた。
「やあ♪(•'д'• ۶)管邈殿!もう身体は大丈夫かい?」
北斗ちゃん声を掛けられた管邈は、拝礼しながら、お礼の言葉を述べた。そして『何か出来る事はないか?』と尋ねて来る。
その合間にも弎坐はテキパキと薬を擦り込んだり、忙しく働く。そして答えに悩んでいる北斗ちゃんを気遣って、代わりにこう答えた。
「( ´-ω・)"貴方はもう完治したとは言え、まだ激しい運動は許可しかねます!どうしてもと仰るならば、あちきと一緒にいらっしゃい♪その変わり覚悟して下さい?こき使いますから♪」
「あぁ…望むところです♪有り難い、感謝しますぞ(*ᴗˬᴗ)⁾⁾♡」
管邈も、彼が今この時に引き留めておく程、北斗ちゃんが暇では無い事を感じ取り、弎坐と共に行く事にした。
「じゃあ…(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑頼むね♡」
北斗ちゃんもそう声を掛けて、彼らを見送る。まさにそんな時である…どこからともなく、怒号が起き、そこを起点として叫び声が谺する。
「決壊したぞ!氾濫する!皆、注意せよ!」
口々に伝わるその言の葉は、停泊中の大型船にも影響を与えた。いつの間にか傅土仁が甲板の上から手を差し伸べており、「若君!!(((ღ(ᵔ皿ᵔ;)早くお乗りに!出発です☆彡」そう言った。
北斗ちゃんは咄嗟に、弎坐達の行く手を振り返る。けれども彼らはもうそこには居らず、早々に走り去った後であった。
「判った!(*•̀ᴗ•́*)و行こう♪」
北斗ちゃんは仕切り直す様に気持ちを切り換えると、再び乗船する。既に費観の船は離脱に入っており、先行するが如くに前に出ていた。
「ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)あいつなかなかやりますな♪こっちもうかうかしていられませんや!」
傅士仁はそう言いながら、カラカラと大笑いしている。素早い咄嗟の難しい判断を、自分の頭の中で的確に精査して、単独で動き始めたその姿勢を評価したのであった。
「野郎ども!ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ#)出発だ♪費観の後に続け!」
彼はそう言うと、持っていた頭巾を北斗ちゃんの頭にスッポリ被せて後で結わえてくれる。その合間にも船は錨を上げて、波止場を離れる。
傅士仁は有無を言わせぬままに、北斗ちゃんの胴に荒縄を巻きつけて、きつく縛った。それは手慣れた程に洗練された船乗りの神業であった。
カラカラと錨を上げる船、弾力性のある頭巾…そのひとつひとつが新鮮であり、操船というものの奥深さをまざまざと見せつけられた北斗ちゃんは、呆気に取られており、全て傅士仁に委ねる他無かった。
その間にも彼はテキパキと水兵達に声を掛けたり、指示を送ったりと忙しく動き廻っている。
彼らが波止場を離脱するのがまるで合図であったかのように、背後から大波が襲い掛かり、寸でのところで呑まれる事なく、退避する事が出来たのである。
『間一髪だったな…(;°ᗜ°)危うく波に呑まれてしまうところだった。しかし…さすがと言うべきか、傅士仁は何事も無かったかの様にケロッとしている。あの度胸も経験の為せる技なのだろうか?』
北斗ちゃんは甲板に打ち掛かる波飛沫を頭から被りながら、そんな事を考えていた。
『あれ(°ᗜ°٥)?』
彼は想う…というのも、気絶する前に在れだけ揺すられて、あっちにぶつかり、こっちにぶつかりして、挙げ句の果てには吹き飛んだ体躯が、今は特に影響を受けていないのだった。
『ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)身体が大分、環境に馴染んだのかしらん?』
彼はそう想っていたが、そうでも無かった。実際には、氾濫が広範囲に一気に広がった事。河上に近い側から波動を起こすが如くに決壊を繰り返したために、江陵に至る頃には然程の脅威と成らなかった事などが理由として上げられよう。
但し、それは勢いが弱まっただけの話であり、雨が降り続く限りに於いては、今後どう被害が拡大するのかは予断を許さない事も確かな事実であった。
そして可能な限り、流れに逆う事なく、その流れに身を任せる様に、巧みな操船を行い、本艦を導いてくれた費観の技術力とその判断が功を奏したというべきであろう。
傅士仁が諸手を上げて称賛を送るのも判る気がした。そして彼が黄河で培ったというその経験もこれで無事に証明されたと言うべきかも知れない。但し、そんな事に今更 拘る費観でも在るまいが…。
改めて落ち着いて四方を眺めるに、江陵一帯の状況はやはり芳しく無い。河畔は完全に濁流に呑み込まれてしまい、波止場が在った辺りも水の底である。
被害は予想以上に甚大であった。傅士仁は操船技術を駆使して、費観の船に並走し声を掛ける。
「(ᵔ皿ᵔ")二手に別れよう♪下流に行くかい?」
傅士仁としては、その方が安全と判断したからそう提案したのだが、費観からは意外な返事が返って来た。
「否、(((ღ(・・*)少し戻ってみますよ…なぁに心配しないで下さい!意外に良い経験になるかも知れません…」
彼はケロッとした顔でそう宣う。彼には経験に基づく自信もあったのだろうが、優しい彼の事だ…若君を便乗させている本艦に危険を冒させたくはなかったのだろう。少なくとも傅士仁には、その程度の事はお見通しなのであった。
「(ᵔ皿ᵔ")恰好つけやがって!…本当に優しい男だな♪」
彼はそう想い、ニヤっと笑うや、「悪いな!ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)借りておくぜ♪」と声を掛けて、手を振りながら、「交信終わり♡後でまたな♪」と送り出す。
「ええ…(((ღ(・・*)♡勿論♪では若君♡後程…」
「うん♪(❃•ᗜ•)ღ 頼むね♡」
北斗ちゃんも手を振った。
費観は氾濫流域の幅を上手に利用して、なるべく河の流れに抵抗を受けぬ様に大きな弧を描きながら、反転し、来た道を引き返して行った。二人はそれを見送ると、再び行動を開始する。
「(((ღ(•ᗜ•❃)では我々は下流域だね?宜しくね♪」
「承知致しましたꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)♪北斗提督殿♡」
傅士仁は妙に畏まる様な仕草を見せると、フフンとほくそ笑む。
「ꉂꉂ(ᵔ皿ᵔ*)野郎共♪閣下から許可が下りたぞ!気張れよ♪」
彼の咆哮に包み込まれた艦上は、大いに盛り上がる。皆、「「エイエイオー♪♪」」とその指示に応えて気合を入れた。
辺りは一面の濁流に呑まれており、他に人の気配は感じられなかった。遠くで豆粒ほどの船が行き来して居るのが、垣間見られるだけであった。