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漢江に到る

傅士仁の指示を忠実に守って、北斗ちゃんは船内に入る。但し、これは大型軍船と言えども、大海原(外海)を航海する程の船では無いので、乗組員はそのほとんどが自分の持ち場で過ごす。仕切り部屋が無い訳ではなく、ごく僅かに有るものの、使用出来るのは一部の者のみであった。


ちなみに北斗ちゃんは曲りなりにも総司令官の立場であるから、専用部屋が与えられている。そこに辿り着くためには、大部屋を通らねばならないが、その一角で座り込み、背中を向けて、懸命に作業に興じている人が視界に入って来る。


「|• •๑)”ㄘラッ♡弎坐!精が出るね♪何を作ってるんだい?」


北斗ちゃんは声を掛けながら覗き込む。


「|•̀ω•́)✧ あ!北斗ちゃん♪」


弎坐は薬草を併せて練り、杵で捏ねているようだったが、一旦手を止めて振り向いた。


「|'◇'*)".。oOこの臭いは、傷薬かな?」


「うん♪ σ)>ω<*)♡そう…傷が化膿しない様にするための薬を、少し多めに作っておこうと思ってるんだ!良い考えでしょう?下熱剤や下痢止め薬もこれから作るよ!」


彼はすっかり見ない間に上達しており、その手際も良かった。そして何より、ニッコリ笑いながら額に汗を流している。その様子を見て、北斗ちゃんは嬉しかった。彼も自分の生き甲斐を見つけたのだな…そう想ったのである。


「そうか…((ღ(◕ 0 ◕*)それはいいね♪僕も手伝おうか?」


彼も手持ち無沙汰であるから、そう提案した。ところが、弎坐は努めて明るく首を横に振ると、「否、(つω`*)…ここはあちきに任せて♪北斗ちゃんはやる事があるでしょう?」そうやんわりと断ったのである。


「??…(◕ 0 ◕*)」


北斗ちゃんは、傅士仁に体よく厄介払いされたばかりで暇だったので、この言葉に少なからず面喰らったが、弎坐には少しも素っ気なさは感じられない。


そればかりか、完全に作業の手を止めて、その顔を近づけると、耳許に向かって小声でゴニョゴニョと呟いた。


「(。•ω<。)若君は船に慣れなきゃ…人々を助けるんでしょう?」


確かにその通りである。彼は今、それが最大の命題と言えるのだ。


弎坐はそれが判っているから、彼を気遣ったのであり、決して冷たく足らった訳では無い。言わば、北斗ちゃんに対して、自分の貴重な時間を無駄にしない様にと、指摘してくれたのである。それはとても有り難い配慮であった。


でも何でそれを弎坐が知っているのだろう…彼は同時にそう疑問を感じたので、「Σ(o'д'o)どうして判ったんだい?」と聞いた。すると公安に向かう道中で傅士仁から聴いたらしい。


「ああ…"(◕ 0 ◕*)そう言う事ね♪」


北斗ちゃんは納得してしまった。


傅士仁は彼なりに船に若君を慣れさせたいと、色々と計画を練り、少ない時間の中で体験させる手立てを組んでいたらしい。


けれども結果は取って返してからの再出撃。いきなりのぶっつけ本番と成ったのだから、当の傅士仁も気を使うというものである。εღ(´皿`")ღ…♡


「(。-ω-)北斗ちゃんは何か計画は無いの?」


弎坐は心配そうに聞いてくれる。彼は南郡城のお濠での取り組みを切々と語った。


まず『泳ぎって何?』という下りで、さすがの弎坐も鼻白んで北斗ちゃんをまじまじと見る。


「弎坐、君だって…• •๑)”」と彼が言い淀む言葉を遮る様に、「ω・`)あちきは泳げますよ…小船くらいなら扱えるし!」と溜め息混りに告白する。それを聞いて驚いたのは北斗ちゃんの方である。


弎坐はさすがに泳げないだろう…そう高を括っていたのに、彼は既に経験者であるばかりか、小船まで漕げるらしい。ひつこい様だが、この発想はまさしく"井の中の蛙"であると言えよう。


北斗ちゃんはここに来て、自分以外の人達が、泳ぎは達者で船も漕げる者が総じて多い事に気がつき、愕然となる。


彼はそう想っているようであるが、時は永らく続く戦乱の世の中である。泳ぎくらい出来ないと溺死するし、小船くらい扱えなければ逃げる事すら出来ない。


これ全て生き残るために必要があって身についた(すべ)であるから、ある意味…出来て当たり前だったのである。


北斗ちゃんは、如何に自分が純粋培養された身の上だったのかを、改めてまざまざと思い知ったのだった。しかしながら、落ち込んでばかりも居られない。これからの本番に向けて、役立つ事が出来なければ、行く意味が無い。


傅士仁には、"指揮して下されば良ろしい"と言われたが、北斗ちゃんは元々、自分も率先して皆と取り組んで来たし、それは今回も例外無く、努めたいと考えていたから、意欲を見せていたのである。


彼はそういう性格であり、その姿勢が皆に浸透し、認められた由縁であるのだから、けっして間違ってはいない。けれども、どの分野にも精通している人間など、一握り…居るか居ないかである。


実のところ、彼自身は気づいている面もある筈なのだが、潔しとしないのか、はたまたそこまで想い至っていないだけなのかは判らないが、彼は既にこの時点で役目を終えていると言っても過言ではなかった。


なぜなら…皆、彼に影響を受けて、自分の力でこの難局に貢献しようと前向きに努力し、準備して来たのだから、それで良かったのである。


そういう姿勢を皆が持って、理路整然と(ひる)む事無く、立ち向かっている現時点で、統制指揮官としての彼の役割は、既に終わっていたと言って良い。


けれども実際には、何も為し遂げられていない、これからだ…と彼は想っている。そこが現場に混じり合って、皆と共に汗を流して来た彼自身の感覚であり、人を使うだけの指揮官との違いであったのだろう。


「|ू•ω•)" 何か手立てはないの?」


弎坐は尋ねる。


今まで彼が『想いついちゃった♡』瞬間を何度も目の当たりにして来た弎坐にとっては、そう聞きたくなるのも、ある意味必然と言えるだろう。しかしながら、彼の答えは芳しくなかった。


「(ノ•ㅿ•̀;)否、それが今回ばかりは行き詰まっててね…良い知恵が浮かばないんだ!」


彼は仕方無く、素直に答えた。彼は水練を積み、板の上に乗ってお濠の上で櫂を漕ぐところまでは行き着いていたが、所詮は静水の上である。


船の揺れや河の氾濫に対応出来るかは未知数であった。すると、弎坐は恥ずかしそうに物言いたげにこちらを向く。言うかどうか迷っているようにそれは見えた。


「何だい?(•́⌓•́๑)✧ 何か想う所があるなら教えてくれないか!僕は今、(わら)にも(すが)りたい気持ちなんだ…だからどんな提案でも大歓迎さ♪遠慮はいらない、言ってくれないか?」


北斗ちゃんは必死だった。そしてその真険さは、弎坐にも痛い程に伝わった。彼はそれでも少しばかり、逡巡(しゅんじゅん)していたが、覚悟を決めたらしく、想い切って口に出した。


「✧(・ω・و)馬鹿馬鹿しいと笑って下さいますな…これでもあちきにとっては良い(ひらめ)きなんで!」


「|ૂ•ᴗ•⸝⸝)あぁ…馬鹿になんかしないさ!僕は閃かないんだからね!」


「|ू´꒳`)では、申します!」


「|ૂ•ㅿ•̀ )うん!頼むよ♪」


「(กー̀ωー́ )…北斗ちゃんは現在、既に船に乗っていますよね?」


「そうだな…(((• •๑)” 確かに!」


「|•̀ω•́)✧ これは費観が大型船の操船をする事になった際、言っていたのですが…」


「|*'ー'*)")))ふんふん…」


「|•̀ω•́)✧ 長江からその支流である漢江に乗り換える時に、流れの勢いに押されて、船が大きく揺れると話してました!」


「(•́⌓•́๑)✧ へぇ~♪そうなのか…」


「|•̀ω•́)✧ そこでそれを利用したら、若君言うところの"体験"が可能なのでは?そう想った次第です!」


「ああ…(((• •๑)” そうだね、確かに!」


弎坐の言う事は理に叶っていた。しかしながら体験版で命を落としても困る。そこを指摘すると弎坐はおもむろに笑った。


「ョ'ω'〃)北斗ちゃんは専用の貴賓室をお持ちなのでしょう?狭い船室の特性を活かして寝台の上にでも立ち、バランス感覚を体験してみては?」


「あ! ✧(•́⌓•́๑) 成る程、それは面白いかもね♪」


普通の感性を持つ人が聞いたら、一笑に付す様な、世迷い事であるが、藁にも縋る想いの人であれば、飛びつくに違いない。


「弎坐♪(∗˃̶ ᵕ ˂̶∗)♡有り難う♪早速、試してみるとしよう!」


北斗ちゃんはそう言うなり、「お互いに頑張ろう(o^^o)♪」と言って、彼の肩をポンポンと軽く叩くと、そのまま自室に引き上げたのだった。


『(ฅωฅ`〃)否、否、あちきが貰った励ましの言葉に比べたら…』


まだまだ足りない…そう想い描いた所で、彼は頭を切り換えた。自分は自分の本分を全うしなければ成らない。彼は再び杵を握ると、薬草を捏ね始めた。ˉ̞̭⋆´ω`⋆˄̻̊




さて、北斗ちゃんは早速、弎坐の計画を試すべく、部屋に籠ると寝台の上に立つ。波の(うね)りに合わせて、船室も揺蕩(たゆた)っており、立っただけでも何度もすっ転ぶは、頭を打ちつけるはで、枚挙に暇が無い。


ただ立っているだけの事が、これ程に困難を極めるのだから、波の畝りが激しくなれば、それどころでは無いに違いない。彼は自然と縄で自分の胴体を括り付けて、身体が反動で持っていかれない様に、工夫を始めた。


『(ฅ∀<`๑)ああ…これなら自分も流される事無く、人を救えるのではないか?』


そう想ったのである。


『(๑>؂•̀๑)" でも自分で自立してこそ、一人前の船乗りなのでは?』


彼の心は、また変な方角に迷走を始める。これで良いのである。この程度の揺れでする対処かどうかは別にして、かなり良い線まで自力で到達しているのだから、大した者なのだが、経験が無い分、これが正解なのかの判断はつかないのだろう。


まあ、それが当たり前なのだが…。(うね)大時化(おおしけ)の中で、何かにしがみつく事無く、耐えられる人間なんてこの世に居ない。どんなベテランの船乗りでも、自分を縄で船に縛り付けるものなのである。


要は無知の為せる技なのだが、彼は全くの素人であるが所以に、そう想い込んだだけなのであった。


ところが、結果的にはこの所置は正解となる。突然、船内に居ても判る程に、天井を叩く程の激しい雨が降って来て、船も波の畝りに巻き込まれる。


その反動たるや半端無い。縄に縛りつけていたからこそ、吹き飛ばなくて済んだくらいの衝撃を受けたのだった。いみじくも、外から大声で叫ぶ傳士仁の言葉が耳に入って来る。


「皆、εღ(´皿`*)嵐に備えて胴体を縄で(くく)りつけよ!急げ!」


何という事だろう…船乗りさんも、縄で自分の身体を縛るらしい。


北斗ちゃんは始めてその事実を知り、嵐の中、船の甲板の上を直立不動で立たなくて良いし、ましてや悠然と歩かなくても良い事を初めて理解した。冗談のようであるが、本当の事である。


それだけ教わる暇が無く、教える側も含めて、疾風怒濤の日々を歩んで来た事になる。これがまだ江陵に拠点を置いていた頃であれば、まだその時間も取れたのかも知れないが、それを言うのは今更であろう。


それに、この程度の揺れにビクともしない水兵達が、これから身体を縛るというのだから、これから来る嵐の状況が、どんだけ凄いのか、恐ろしくなると言うものである。


北斗ちゃんは、"この程度の揺れ"で十分、吹き飛んだのだから…。でもお陰様で、実施と持ち前の勘とで、正解を導き出した彼は、少し自信を持ちつつあった。


今まで様々な試練を乗り込えた中で培った筈の経験値が、今回ばかりは発揮出来ないと悩んだものだが、水練を習得したのみならず、水の上に浮かぶ板に乗ってお濠を周回した事、縄で胴体を船に縛り付けながらの行動を想定する事が出来たのは、大きな成果であった。


『(๑>؂<๑)♡後は本格的な揺れに慣れる事だ♪』


彼はそう想い、弎坐に感謝していた。彼の助言が無ければ、このタイミングで実際に、縄を手に取る事も無かっただろう。彼はますます縄をきつめに縛りながら、その時を待つ事になったのである。




さて再び江陵城である。こちらでは、馬良の許に管邈(かんばく)が尋ねて来ている。(あるじ)である北斗ちゃんが不在の今、軍務の責任者は本来、関羽総督であるが、その関羽も出撃中だからだった。


「ღ(。◝‿◜。)管邈さん♡、すっかり身体は宜しいのですか?」


「ええ…(*´꒳`*)♡お陰様で!」


「(。◝‿◜。)" それで、今日は何用でしょう?」


「(*´꒳`*)すっかり養生出来、有り難い身分だったのですが、その御恩返しにも、我らは今回の救助支援を行う必要があると考えた次第です。どうか如何ようにもお使い下さい♪」


「成る程…(。◝‿◜。)その主旨には賛同致しますが、間もなく若君もご到着になる筈です。到着するまでお待ちになると宜しい…」


馬良はそう伝えると、兵に指示を与えに戻ってしまった。ここ江陵城も、既に避難民の受け入れが始まっており、城内は(いくさ)さながらの喧騒である。


「(˙˘˙*)(˙˘˙*)(˙˘˙*)(˙˘˙*)(˙˘˙*)管邈様、如何致しましょう?」


配下の者に尋ねられた彼は、ひとまず手が足りていないであろう華佗医師の所と、食事の配給元に配下を振り分けて、支援させておく事にした。城全体が動き始めた今、彼らだけボケッとしている訳にも行かなかったのである。


『(*´꒳`;)田穂は若君と一緒なのだろうか?どうも奴が居ないと勝手が悪いな…』


管邈は元々一味の頭目では在るが、田穂と意気投合してその身を委ねただけで、その根を辿れば北国郡で高名だった管寧の嫡子である。


彼の父・管寧は曹操から何度も出仕を乞われながらもそれを良しとせずに、山野の庵で在野の士として生涯を終えた男である。気骨があり、決して権力に媚を売らない清廉潔白な人物であった。


彼もそんな父親の血を受け継ぎ、金銭や権力には屈しない気概を持っていたものの、時の流れでやむ無く魏に付く事に成り、忸怩たる想いがあった。彼ひとりならば拒否していたかも知れないが、田穂や仲間達の事を想えばそうもいかなかったのである。


けれども今回ひょんな事から、北斗ちゃんという信じて身を任せるに足る人に仕える事になり、彼はやる気に満ちていた。そして命を救って貰ったその御恩に報いようと、彼の全精力を傾ける気持ちに溢れていたのである。


管邈はひとまず馬良に教えられた江陵の波止場にて若君を迎える事にした。既に雨は本降りとなり、河畔一帯を包み込もうとしていた。

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