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罪を憎んで人を憎まず

翌朝さっそく三人は旅立つ事に成った。


北斗ちゃんを始め、主だった者達は見送りに出る。


「(*´□`)…短い間でしたが、御世話に成りました。こんな事になり申し訳御座らん…」


糜竺は苦渋の表情で拝礼する。


「( ・∀・)叔父上…貴方のせいでは無い。正直、もう少し一緒に過ごし教えを乞いたかったが、貴方の想いを聞いて、尊重すべきだと感じた。どうか信念の赴くまま努めを果たして下され…」


「…そして問題が解決した暁には、是非またここに戻って来て引き続き僕を指導して下さい♪僕はまだまだ至らぬ点が在り、多くの教えを必要としております!」


北斗ちゃんは成るべく明るい表情を見せようと努力はするものの、やはりその心の内は辛かった。叔父の断罪と、その弟を想い連れ添う様に自らをも罰すその兄の姿を目の当たりにしてその心は暗く沈んでいた。


けれども叔父は表情を歪めながらも、相も変わらずその目には光を宿している。


「(*´□`)若君、そう言って下さると私も少しは心が楽になります。有り難う。しかしながら、若君は今大変な立場を背負い込んでいるのですから、この荊州の事だけをお考え下さい…」


「…私は弟と共に裁きの場に立ち、出来るだけの事をしてやるつもりです。その上での事には成りますが、貴方の為に今後も可能な限り、役に立てるように努力致す所存です…」


「…一緒に居る事だけが貢献の場ではありませぬ。私はどこにいても、どんな立場に身を置こうとも、これからも貴方の叔父であり、味方です。お気持ちを強く持ち、精進されます様に♪」


糜竺のその言葉には、力強さと温かみが感じられた。北斗ちゃんは想わず貰い泣きしそうになるのを必死に抑え込んだ。


やらねば成らない事は山積みであり、その責任を痛感している今、下を向いてはいられないのだ。


「(*´-`*)叔父上の御言葉有り難く、この劉禅…これからも精進致します!お身体には気をつけて、道中の御無事をお祈り致します♪」


彼がそう返礼すると、叔父は拝礼し、「有り難く(*´□`)♪」と答えた。


糜芳は罪人であるから、平服のまま、両腕を荒縄で縛られ、その首には(かせ)()められている。そして檻となった収監用の馬車には乗せられるが、廻りには(ほろ)が掛かり、見た目は護送車には見えない。


これは長い道中を行く事、罪を犯したとはいえ、陛下の親族に(つら)なる者ゆえの配慮である。


彼は馬車に乗せられる前に、責任者である太子の前に引き出される。彼は膝を折り、その場に平伏している。その頭髪は、掻きむしったのか乱れており、その眼は赤く腫れていた。


一晩中、泣き腫らしたのだろう。それが自責の念によるものであるかは、本人にしか判らない。けれども、そう有って欲しいと願わずにはいられない北斗ちゃんであった。


「(´・д・`)何か最後に言いたい事があれば、お聞きしましょう!」


彼はそう告げた。


糜芳は番兵に支えられるようにして上体を起こすと、甥を見つめた。


「(-公- ;)こんな立場で貴方にお会いした事は返す返すも残念です。慚愧(ざんき)の念に堪えませぬ。私が言うのも可笑しいが、こんな私を反面教師に為されます様に…」


彼はそう言うと、再び平伏した。


北斗ちゃんはそんな叔父を見て、こんな事になる前に翻意して欲しかったと想わずにはいられなかった。どうしてやる事も最早、適わないが、これを機に自分を見つめ直し、残りの人生が豊かなものに成るようにと願わないではいられなかった。


「(^。^;)叔父上…」


北斗ちゃんはそう語り掛けた。


「(ノ_・、)貴方のしてきた事は、けして許されるものでは有りませぬ!けれども、今そう心を入れ替えたのでしたら、それを忘れずにこれからの人生に活かして下さい。私も貴方の兄君もきっと貴方が立ち直る事を信じておりますよ!」


太子のその言葉を聞くに及び、糜芳は大粒の涙を溜めた。彼は番兵に支えられて立ち上がると、太子に向かって拝礼した。


そしてそのまま付き添われながら、馬車に乗り込む。馬車には直ぐ幌が掛けられ、糜芳の姿は見えなくなった。


糜竺も拝礼すると馬に跨がる。


北斗ちゃんは関平を手招いて呼ぶと、その耳に口を充ててボソボソっと呟いた。


「( ゜∀゜)…??宜しいのですか!」


「ε- (´ー`*)ああ…構わんだろう。御主も先程のやり取りは見ていたであろう!せめてもの甥の(はなむけ)さ♪」


「( ゜∀゜)判りました…ではそのように♪」


関平は馬に跨がると「(*^-^)出発!」と号礼する。糜竺も馬上から再び頭を下げると、護送の列は出発し、やがて見えなくなった。


「(゜Д゜#)若君、いったい何を指示されたので?」


鞏志は戻りながら声を掛けてくる。


「(´▽`)鞏志殿、それは聞かぬが華です…まぁ何となく想像はつきますがね♪」


張嶷はサラッとそう忠告した。


「( ;゜皿゜)ホホウ…御主判っておるのう?」


傳士仁もそう語るに止めた。


北斗ちゃんは自分が赤子の頃に嬉しそうに抱き上げてくれた糜芳叔父の姿を想像していた。勿論、彼にはその記憶は無いが、それと無く聞かされていたものであった。彼の行いそのものはけして許されるものではない。それは今でも変わる事はない。


けれども本人が罪を悔い、その罪状を認めた上は、罪を憎んでその人を憎まず…それで良いのだと彼は想っていた。


どこで歯車が狂ってしまったのかは定かではないが、根っからの悪人ではないのである。彼の身に振りかかった事は、恐らく誰の身にでも振りかかって来るものなのだろう。


北斗ちゃんは、いみじくも彼自身が述べた『反面教師に為さい』という言葉の重みに、人の中に潜む深い闇を見た気がしていた。




さて、関平に従えられた護送兵は二干、これは関羽が太子に返却した六干の中から選ばれている。南郡城の兵を用いなかったのは、私怨を持つ者が紛れ込まぬための配慮であった。


そして、蜀で育った兵の中には、どうしても荊州の水が合わない者も居たから、敢えて帰京を願う者を選抜して、この任に充てたのであった。


関平は5kmも進んだ頃であろうか…隊列に一旦の停止を命じた。糜竺は何事であろうかと下馬して歩み寄る。すると関平は彼の耳元に口を充てて呟いた。


「(*^-^)(*´□`)!!」


「(*´□`)宜しいのですか?」


これには糜竺も驚いている。


「(*^-^)ええ…これは私の独断ではありませぬ。太子様の御下命ですから♪」


「(;´□`)何と!」


「(*^-^)ですから、貴方もそのつもりで!但し…」


「(*´▽`)判りました、ではお願いします♪」


関平は幌を上げ、檻の(カンヌキ)を外すと、中に入った。


『Σ(((-公-ノ ;ノ)』


糜芳は突然の事で訳が判らずビビっている。彼はそのまま糜芳の前にドカッと座り込むと、罪人と向き合った。


「(*^-^)心配はいりませぬ。此れから貴方の首の (かせ)と手首、足首の縄を解いて差し上げますから…」


彼はひとまずそう告げると、言葉通りの処置をする。糜芳はかなり驚いた様子で戸惑っている。関平は然も在らんとその戸惑いに応えた。


「(*^-^)これは罪を悔いた貴方に対する、太子様のせめてものお気持ちです。道中、これでは辛かろうとのご配慮なのです。ですから、貴方はその事を十分に考慮されて、周りの者に迷惑を掛けぬように御自重下されよ!宜しいですな?」


糜芳は「(-公- *)有り難く!」と言って、頭を下げた。そして改めて顔を上げると、「(-公- ;)貴方は閣下の御子息ですな?」と言った。


関平は「(*^-^)ええ…」と答えて、「何か父に伝言があれば承りましょう♪」そう言って彼に向き合う。


「(-公- ;)否、そんな大それた事は申しません。私はただ貴方に少し話しがしたかっただけだ…」


「( *゜A゜)え?そう言う事ならお時間を割きたいが、兵の手前もある。移動しながらで宜しければ…」


「(-公- ;)本当に宜しいのですか?」


「(*^-^)ええ…構いません♪」


彼は糜竺に声を掛けると、檻の閂を填めさせ、幌を元に戻させて、行軍を委ねた。


「(*^-^)ではどうぞ♪お聞きしましょう!」


開平は、涼しげな瞳で相対(あいたい)した。


糜芳は少し頭の中を整理していたが、やがて話し始めた。


「(-公- ;)貴方もご承知の通り、私は陛下がまだその力を持たず、旗上げした頃に付き従う事になった。私の父はやり手の豪商で、生活には何の不自由も無かった…」


「…そして姉を陛下の妃とする事になった時に、我ら糜一族は陛下の将来にこの身を捧げる事にしたのです。それからが苦難の始まりだった。陛下は何度も(つまず)かれ、然したる地盤すら持てない。ジリ貧の連続で、さすがに父の見込みは間違っていたのじゃないかと想えた程です…」


「…ところが、貴方の父上や張飛将軍達は違った。どんなに腐っても挫けなかった。恐らくそこに信念があり、目的意識が明確だったからでしょう。私には元々、信念という程のものは無かった…」


「…父が投資した人物が将来、化けてくれればそれで良かったのです。そして私が一番、感違いしてしまったのは、"その財政基盤を支えている我ら"が、どうして他の者と同じように手足となり働かねば成らないのか?でした…」


「…情けない話しですが、私の姿勢たるやその程度のものです。こんな具合ですから、関羽将軍と共に荊州を預かった時に、金庫番としての自負から踏反(ふんぞ)り返っていました…」


「…私と貴方の父上が、"どうして反りが合わなかったのか"これでお判りでしょう?彼には何にも生み出せないのに、陳情ばかり増やしてくれる。やれ大義のため、やれ民のためと、理由は高尚ですが、どんどん財政を圧迫してくれる…」


「…だから私はある日、切れたのです。どうせ無駄になるなら、(ドブ)にお金を捨てるようなものだ!だったら自分で面白(おもしろ)可笑(おか)しく残りの人生を謳歌(おうか)してやろう!とね…」


「…でも私にも矜持(プライド)は有ったから、呉の誘いは跳ねつけた。第一私は、元々商人なんですぞ!大金を投資した先を裏切ってどうします?…」


「…一文無しは嫌だ!私の現在の体たらくはこんな所です。さすがの私もやり過ぎてしまった。それは認めます。(まつりごと)(かえり)みず、遊び呆けていたのですから、仕方ありませんがね…」


糜芳はそこで一旦、言葉を切った。冷静に立ち返り話し始めた筈なのに、途中から少々感情が剥き出しに成ってきたのを恥じている様だった。


関平は腰に下げていた水の入った皮袋を渡してやる。糜芳は軽く会釈して、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。


余程、喉が乾いていたのだろう。あっという間に飲み干してしまった。彼は申し訳なさそうに皮袋を差し出す。開平は気にしない様に諭して、付け足す。


「(*^-^)その皮袋は持って入れば便利です!どこか飲み水が手に入るところで、入れて貰うと良いでしょう♪」


「(-公- *)それは(かたじけ)ない!」


糜芳は感謝を示した。


「(*^-^)ところで…貴方は自分には信念は無いと仰有られるが、一時期は一本筋の通った人物だったと聞いています。だからこそ皆、今の貴方を憂うのではありませんか?」


「(-公- *)ハハハ…それこそが誤解なのですよ!私は豪商の子。蛙の子は蛙です。私は自分で言うのも何ですが、商才は有ります。父の財産を倍にしたのは私ですから…」


「…ところが、世は乱世真っ只中です。幾ら商才があっても、物の役に立たない。せいぜい有力者に投資するのが積の山です。ところが、兄の糜竺には政治力と指導力があった。金儲けはカラッキシですがね…」


「…そして、姉の存在です。姉は陛下に嫁いでからというもの、想いの他、財政に重きを置く事が、どんなに大切か身に沁みて判ったらしく、私をせっついて、裏でどんどん稼がせる様に仕向けました…」


「…そしてこれからは、それだけでは駄目だ、いっぱしの腕も磨くようになさい、そうすれば貴方は外戚として、大きな存在に必ず成れますからと、太鼓判を押してくれたのです…」


「…そんな信頼してくれる人の存在は大きい。これは貴方にも判って貰える筈だ。私は姉の期待に答えようと、戦場では踏ん張り、裏では金儲けに明け暮れました。想えばあの時が私の全盛期と言えるかも知れません…」


「…そのお金で陛下は何度もやり直す事が出来たでしょうからな!これは黙っていたのですが、陛下には何度も土下座されました。糜芳どうか私を助けてくれ…とね。その都度、私は助けました。姉の喜ぶ顔が見たかったからです…」


「…でもその姉がある日突然亡くなってしまった。御存知の通りあの忌まわしき逃避行で、甥を助けた上で足手まといに成るのを恐れて、井戸に身を投げたものでした。それを聞いた時の私の絶望をお察し下さい。その瞬間、私の中で何かが弾け跳んだ気がしたのです…」


関平はその話しの内容に驚きを禁じ得なかった。このどうしようも無いと思われたこの男が、影でその商才を発揮して、我々の活動を支えていたのだ。


これが事実なら、何となく父と反りが合わなかったのも理解出来た。父・関羽は気高く、武と人情に秀でた傑物であるが、こと経済力に関しては、赤子にも劣る節があるのだ。


経済勘念が無いから、無駄が発生しやすいし、無ければまた作れば良いと短絡的に考える。質素倹約よりも、戦場は速度が命と無駄使いを(かえり)みかったのだから…。


「(-公- ;)私は父君と荊州を任された時、これは自分の任では無いなと感じていました。だってそうでしょ?商人が最前線に居てどうします?もっと他に沢山候補の人材は居た筈ですよ…」


「…私は必死に陛下に請願しました。成都に呼んでくれ!私をこんな不穏(ふおん)な所に置かないでくれってね!でも陛下は無視された。その理由が判った時には驚きました…」


「…私を見ると、姉の事を想い出すからだそうじゃありませんか?私はそれを聞いた時に最後の糸が切れたのです。陛下は私を見捨てられた…そう感じたのです。貴方の父君に恨みは無いが、私はもうそれから張り合いを失くしたのです…」


「…今回この様な無様な形とはいえ、ようやくあの忌まわしき南郡域から逃げ出す事が出来て、私はホッとしています。私は壊れる寸前でした。否、もう壊れていたのかも知れませんね…」


「…でもあのまま、あそこに居たら、完全に人では無くなっていたでしょう。そうなれば何をしたか判りません。呉にだって(なび)いていたかも知れないのです。そんな私の目を覚ましてくれたのが、あの可愛かった甥の阿斗です…」


「…だから彼には感謝しています。私の人としての、最後の欠片(カケラ)を拾ってくれたのですから。私は想うのですよ♪これは天啓だ!姉が阿斗を遣わしてくれたのだとね…」


「…私はこの先、裁かれる身ですが、今心の中は安堵で一杯です。どんな結果に成ろうとも、受け入れたいと思っています…」


糜芳の話しはそこで終わった。


関平は人の無情というものをそこに感じていた。この人をもっと活かせる手立ては無かったのだろうかと、真底残念でならなかった。


「φ(..)この話しは太子にせねば成らんだろうな…」


彼はそう感じていたのである。


糜芳と別れる時に彼はエールを送った。


「"塞翁(さいおう)が馬"と申します!決して世の中捨てたもんじゃない。これからきっと良い事もあるでしょうから、絶対に諦めない事です。先ずはお身体を大切になさり、健やかにお過ごし下さい♪」


そう言って別れたのだ。


糜芳は関平の情けに深々と頭を下げて礼を述べた。そしてその懐にはしっかりと皮袋を大事そうに握り締めていた。

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