魏には構うな!
「「「「おぉ…」」」」
北斗ちゃんの第一声は座を少なからず動揺させる。けれども彼はあくまでも冷静沈着に語り出す。
「(*゜ー゜)…彼の指導力と実行力は伊達じゃないって事さ♪勿論、僕は彼の行いが正義なのかと問われるならば、それは否定する…否、否定したいね。でもそれはあくまで個人的感情に依るものだ…」
「…それは僕が医療の道に傾倒したゆえかも知れないし、元々人を人とも思わず手段を選ばない彼のやり口が気に食わないからかも知れない。たが、それこそが彼が台頭出来た由縁さ…」
「…それだけこの乱世は荒れ果て、あらゆる群雄割拠に依って、御政道が捻曲げられてしまった。民は未曾有の苦しみに喘ぎ、先は見えなかった…」
「…その中で群雄たちが果たして民の事を省みた事があっただろうか?皆、漢室を守る為だとか、乱世を終わらせる為だとか、口では綺麗事を宣う輩ばかりで、彼らの事を振り向く事は無かった…」
「( *´艸`)兄者は違いますぞ!」
「( ・∀・)フフッ…爺ぃ~判ってるよ♪子としては僕もそう信じたいからね!でも結局、父は大義名分に拘る余り、せっかくの機会を常に潰して来たろ?否、それが悪いかどうかは今は置くとして…」
「…その事がその目的に対して遅れを取る事に為った事は確かな事だ!」
「( *´艸`)それはそうですが、それは貴方の父君が、情けのある仁徳の御方だからです…」
「(^。^;)それは否定しない…否、否定しては我々の此れからやろうとしている事は、大義を失うからね♪」
北斗ちゃんは多少の疑問が無い訳じゃない。何しろ彼は、赤子の時にその仁徳の御方に、地面に叩きつけられているからだ。
幸いなのは、彼が赤子でしっかりとした記憶が無かった事だろう。そうでなければ、唯一の血の繋がった肉親を恨む事になったかも知れないのだ。
彼にはその記憶が無かったから、それは他者から聞き及んだ事実に過ぎなかった。しかしながら、これは最早、公然の事実として知られているのだから、限り無く真実なのだろうが…。
「( ・∀・)鯔のつまり、父上は時間を掛け過ぎた。例えそれが情けの為だとしてもね。その間に曹操は非情に徹してでも、今の体制を築き上げた。それは事実だ…」
「…まぁ今さらそんな事を言っても詮無い事だけれどねε- (´ー`*)でもこの差は大きいね、限り無くね。僕はタラレバな事を言う為に、こんな事をお喋りした訳じゃない…」
「…父上も実際、限り無く遠廻りした筈なのに、国を興しているのだから、その信念足るや凄いと思う。けれどもそのやり口は別にして、曹操はその間に劉協様を玉座に付け、自身は漢の丞相として辣腕を奮って来た…」
「…そして長年に渡る功績に依り、魏王に昇り積めている。彼我を比較した時に、その遅れは数十年に及ぶ。それだけの長い期間を疎かにせずに実績を貯めて来た彼に対して、我らは未だ設立したばかりの新興勢力に過ぎない…」
「…つまりね、曹操という御仁は善し悪しは別にして、自分の目的に向かって一直線に邁進し、政敵は取り込んで味方にするか、その存在その物を排除してガムシャラに突き進んだ傑物だという事さ…」
「…こう言っては申し訳ないが、今すでにこの体制が確立されている現在、例え父上が信念の人で在っても、諸葛亮が稀代の天才で在っても、曹操が生きている限りは、なかなか隙はできないだろうね…」
「…そして仮に曹操が死んでも、その後継者で在ろう曹丕はかなりの人物だ。それを覆う様に、曹操が集めた優秀な人材がこれを補佐すれば、なかなか難しいと言わざるを得ない…」
「…新しい人材の発掘という意味では、爺ぃ~も持論を展開したけど、もう既にその人材獲得についても曹操の遅れを取る事、数十年て事になる。我々の挑もうとしている魏国とは、簡単な説明ではあるが、これだけの強国なんだよ…」
「…だから今、焦って命のやり取りをする相手では無いのだ。相手の体制が確立される前に叩く…これは既に手遅れなんだよ!十年前に今の体制が在ったならば、可能だったかも知れないけどね…」
「…諸葛丞相の隆中策だって、そもそも劉表殿が亡くなる折りに、その遺言として、荊州全土をそっくりそのまま頂けるという事が前提に在った訳で、それを同族から奪い取るのは仁義に悖ると躊躇した父上の判断ミスだと僕は思っている…」
「( *´艸`)それは…」
「( ・∀・)まぁ、待ってくれ!だってその後は同族の劉璋殿から蜀を奪い取っている訳だから、その手腕の是非は別にして、同じ事をやってるんだ。それに劉表殿がくれるというのに対して、劉璋殿からは戦いで奪い取った訳だからね…」
「( =^ω^)まぁ確かに若の言う通りでは在るのぅ…が!しかし…あの時は反対勢力も居りましたから、必ずしも荊州が手に入ったかは判りませんぞ…何しろ我々劉備陣営は少数派の余所者でしたからな…」
「( ・∀・)そうだね!確かに♪逆に荊州を身内同然の間柄で争っている間に、曹操の南下で取られてしまい、結果は変わらなかったかも知れない…」
「…アハハ(;゜∇゜)タラレバ論争に為ってしまったな!そんなつもりじゃ無かったんだが、要は彼我の体制、富国状況、兵力差を認識する今は、魏に手出しする事には僕は反対なんだ…」
「…曹操は患っている持病があると聴く。いつ死んでも可笑しく無いともね…だから暫くは敵愾心を見せない事だね!ひたすら阿ってでも、敵対意識を躱して置く事だな…」
「…世代交代の折りには、何かしらの揉め事が発生するものだ!そう為れば付け入る隙は必ず出て来よう。その時までに今よりも我々の陣営が力を付けていれば、必ず勝機は見出だせよう…」
「…呉が天下二分の計を発案した様に、我らも時間を掛けて、その計を構築し、提唱出来ればなかなか面白い事には成ると思うね!だから爺ぃ~や皆には極力、健康に留意して貰って長生きして欲しいね…」
「…それが僕の願いであり、魏に対する方針だと言っておく!まずは如何に呉の挑発や仕掛けを去なすかだ!皆、宜しく頼むよ♪」
北斗ちゃんはひとまず自分の考え方は示す事が出来たので、安堵していた。多少、批判めいた事は口に出した物の、それは事実なのだから仕方ない。
必要以上に人目を憚る必要も無かった。批判は甘んじて受ける覚悟である。けれどもこの事実を認識し、共有しなければ話は先に進まないのだ。
誤解を受ければ、父親から粛清の憂き目に合う事さえ、この時代は当たり前だったのだから、勇気の必要な発言であったろう。
彼は臭い物には蓋をする、そう言った風潮を無くし、真実のみを追及する事から、この現状を打開しようと考えていたのである。
『(^。^;)どの道…もう漢の皇帝・劉協様には見込みが無い…』
これは同じ根を先祖に持つ蜀の太子・劉禅でさえ、そう諦める程に、皇帝・劉協の先行きに見込みは無かった。そのくらいは童子でも判る、当時の常識であった。
そして表向きは、それを補佐する曹操の偉大さと恐ろしさも併せて、万人に理解されていたのである。
こんな事を公然と言う程には、さすがの北斗ちゃんも厚顔無恥では無い。劉協様の事は禁忌とされて居た訳ではないが、皆、恐れ多くて口には出さなかった。太子でさえ、言えば父・劉備や諸葛丞相に叱責を受けたかも知れない。
彼は直接わだかまりが無い分、口に出来ない事もなかったが、衰退したとはいえ、光武帝の再興した漢の国が、長きに渡って政治を担って来た事も確かなのだ。そして自分もその末裔である。そういう認識が、彼をしてそこまでは言わしめなかったと言って良いだろう。
これらの事は、彼が真剣に学問を修めるまでは全く考えもしなかった事だし、その興味すら無かった事である。ところが勉強すればする程に、現実は厳しいという事を思い知らされたのであった。
彼は三國の体制が整いつつある今、各国の人口がどの程度居るのかに興味を持った。黄巾の乱の混乱期以降で漢民族の人口は劇的に減っており、その人口は推定でも約1/5に減少している。
参考までに記しておくと、後漢第11代皇帝・桓帝の永寿3年(157年)に後漢全人口が 5,648万人だったらしいから、単純にその1/5として考えるならば、1130万人という事に為る。
その人口割合を先の三國の比率に分けてみると、【魏】565万人【呉】340万人【蜀】225万人…となる。
その人口の1/10が兵の割合だとするならば、【魏】57万人【呉】34万人【蜀】22万人…くらいで在ろう。
但し、曹操が北方の異民族を慰撫し、引き入れて居た事は先に述べているので、かなりの人口と兵力の増加を付与しなければならないだろうから、赤壁の戦いで曹軍100万の兵が実際に居たとしても不思議は在るまい。
呉も交州以南の蛮族を従えていたから、多少の数は膨れ上がる。蜀は劉備が亡くなった後まで、蜀以南の蛮族には手を付けていない。また西に跋扈していた羌族を味方に付けれたかどうかも定かでは無かったから、人口増加も至難の技であったろう。
これらの数値はあくまでも参考に乗せただけで、真実かどうかは判らない。色々な仮説が在り過ぎて、実際にはこうだと言いきれる保証は無い。ゆえに小説を読む上での参考にのみして頂ければ幸いである。
『(^。^;)その差を少なく見積もっても今の蜀は魏と比べて、兵力は1/3なのだ♪呉でさえも2倍の兵力を有するだろう…』
『…そして多くの騎馬兵を抱えた魏に対して、我々は未だ歩兵が主力…勿論、騎馬兵が居ない訳じゃないが、圧倒的な差が在り過ぎるのだ…』
『…そして人材の問題も在る。それだけの人材が曹操に与するという事は、彼にはそれだけの魅力があるのだろう♪で、在るならば、我々も頭の片隅には必ずその事を念頭に置いておき、事ある毎にヘッドハンティングして行く他に道は在るまい!』
北斗ちゃんはそう感じていた。
彼我の、圧倒的な兵力差についは、皆も薄々は感じていたのだから、特にこれ以上の異議を唱える者は無かった。
今後は早期の内に、如何に本国・成都と連絡を密にして、事を進めるかに懸かっている。荊州だけでやっても無駄なのだから…。
「( ・∀・)まずは各人の準備から始めて欲しい…僕は糜竺叔父が戻って来たら、会うつもりだ♪そうだ!君たちにお願いしていた兵力の数値化は済んだかい?」
馬良と伊籍は互いに顔を見合わせている。すると伊籍が顎をしゃくる様に、相槌を打つ。
「(‘∀‘ )はい!では私から…江陵はさすがに郡都ですから、その兵力は元々3万人といった所でした。そして新たに丞相が遣わした費観将軍から引き渡された兵が9千人、うち3千人は太子の護衛に供出していますので、現在総兵力は3万6千人…」
「…そんなところですね!但し呉領との境界線から造り上げた砦に割いた兵が約2千いますので、江陵に残す守備兵を4千と見積もっても、自由に出撃出来る兵力は3万人が限界かと!」
「( =^ω^)公安と南郡は私の方で報告いたそう♪公安城には1万2千人、うち4千の守備兵を残すと出撃出来るのは8千人じゃな…ここは元々南郡の駐屯地の位置付けじゃからのぅ、兵は少ないのじゃ♪」
「( =^ω^)南郡は兵力1万8千人、同じく守備兵を4千残すと、出撃出来るのは1万4千人じゃな♪そんな所かのぅ~♪」
「( ・∀・)二人とも御苦労様でした♪今後は軍屯と民屯を増やして兵糧を貯めて、依り兵を増やさねば成りませんから、今後はその計画策定もお願いしますね?」
「( =^ω^)( ‘∀‘)心得ました♪」
『(*゜ー゜)そうか…て事は我が方の総兵力は現在、6万6千人…うち出撃出来るのは、5万2千人だな!それ以外に僕の護衛兵3千と趙雲の1万と張嶷の2千が使えるからな…計6万7千在るなら人智を結集すれば、魏も呉も去なせるだろうな…』
北斗ちゃんはさっそく胸算用を素早く済ませる。
「( ・∀・)爺ぃ~♪例の仕掛けはもう出来たのかい?」
「( *´艸`)あぁ…こちらに近い狼煙台には全て設置したぞ♪但し、呉領に近い側は、どうしても夜間の暗闇でしか進められぬからな…なかなか往生しておるわい♪」
「(^。^;)そうでしょうね…判りました!何とか増援を考えましょう!」
「( *´艸`)悪いな!頼むよ♪」
「( ・∀・)えぇ…任せて下さい♪生命線なんですからやりますよ♪」
北斗ちゃんは即断した。いずれにしても仕掛けて来るなら早晩やって来るに違いない。彼は改めて緊張を解す様に吐息を吐いた。