お日柄も良く
関羽将軍は馬良だけを残し、伊籍は引き取らせた。彼も残ると言ってはくれたが、老齢の身体を想っての配慮である。
彼もそれが判っているから、静々と引き取る。馬良が『必ず情報の共有を計るから!』と約束した事も彼を安心させた。
北斗ちゃんも優しく労う。伊籍は感謝を示して引き揚げていった。傅士仁はその和やかな雰囲気に包まれて心が想わずホッコリとする。
それはまるで家族の様な温かな調和であった。彼にもひと昔前まであった家族の温もりを思い出していた。
関羽将軍に促されて向かった先は、いつもの総督府でも、将軍の屋敷でも無く、城の一角に残された豪奢ではあるが、静かな佇まいの御屋敷だった。
「( *´艸`)ここは暫く使っていなかったが、今日から貴方がここの主だ。」
総督はそう述べると、若君を見つめた。ここはかつて入蜀前の諸葛孔明が一時的に政務の為に置いた府である。
暫く使っていなかった場所とは想えない程に、それは隅々まで綺麗に掃き清められている。これは関羽が北斗ちゃんを太子と認識した日から、毎日少しずつ時間を掛けさせて、準備した場所であった。
当初は短期の滞在と考えていたから、直ぐにも移って頂くつもりであったが、彼が腰を落ち着けてこの荊州の平和の為に尽力すると判ってからは、根本的に新たに手を入れた為に時間を要したのであった。
恐れいる事には、前の自室に在った筈の医療道具から孫子や国語に至る書籍類まで、既に持ち込まれており、恰も北斗ちゃんならこうするという様な的確な場所にそれらは収納されている。
これ程までに細やかな対応を完了させているとは驚きの至りであるが、これにはひとつのカラクリが在った。そう弎坐 σ(-ω-*)である。彼は前々からこの御屋敷の事は関羽将軍から聴いていた。
そして御屋敷の梃入れの際には、将軍からの御依頼に応えて、助言も行っている。だからここには、弎坐や仲間たちが泊まれる設備さえ、整っていた。
そして急患を直ぐにも受け入れられる様な診療部屋や手術室、入院施設まで併用されている。その部分はなんと、わざわざ隣接する様に建て増しすると云う念の入れようである。
北斗ちゃんはびっくりしてしまって、暫く口をアングリ( ̄□ ̄;)!と開けて辺りを眺めた。
「こりは僕の為に…σ(゜ー゜*)ここまでして頂けるなんて爺ぃ~有り難う♪」
「( *´艸`)フフッ…何のこれしき!若君の下さった真心に比べれば、大した事では御座らん♪それに礼を申すならば、あの男に言い為され?」
将軍が差す指の先には、弎坐がちょこんと座り込んで、こちらをニコニコしながら見つめている。
「( ・∀・)弎坐♪お前、居ないと思ったら、こんな所で…準備してくれてたんだな?あれもこれもお前が運んでくれたのか…有り難うな♡」
『♡(-ω-*)~♪』
弎坐は照れた様に、無言で頷く。彼も若君から多大な影響を受けたひとりである。
想えば、それはあの肥溜め事件の翌日から始まった。たまたま廊下で控えていた為に巻き込まれ、突然半ば強引に荊州くんだりまで連れてこられた。
始めはp(`ε´q)ブーブー文句を垂れていた彼が、北斗ちゃんの努力を目の当たりにし、誘拐事件に巻き込まれた辺りから少しずつ変化を見せ始める。
華侘先生に率先して師事し、強きに抵抗し、弱きを助ける仁愛の心に目覚め、人に気を使う事の出来るひとりの大人の男になって居たのである。
関羽も弎坐を認めていた。それが証拠に、彼は先ほど『あの男に言い為され』と言った。以前の彼は宦官を認めていなかった。
後宮に跋扈する魑魅魍魎の類いと蔑んでいたのである。去勢した『人為らぬ者』として、男とは呼べぬと公言すらしていた。
ところが、あの誘拐事件の折りに、気絶した北斗ちゃんを庇い、その身を負ぶって、連れ帰って来てからは、いっぱしの男と認めていた。
関羽将軍も彼を通して、宦官というだけで、色眼鏡で観なくなったという事である。
北斗ちゃんに抱き締められた弎坐は、かなり照れ捲っている。
。・゜・(ノ3`(^-^q)・゜・。
「♡(-ω-*)勿体無い…」
彼はようやくそれだけ口にした。
「( *´艸`)若!そろそろ宜しいか…夜中でそれ程、時間も無い中です♪」
「(*゜ー゜)あぁ…それはすまんな♪そうであった。弎坐ありがとな!」
北斗ちゃんは弎坐に再び礼を言うと、彼も再び頷きながら、静々と引き下がってゆく。
関羽将軍、馬良軍師、北斗ちゃんが揃って腰掛けに腰を下ろすと、それを見計らった様に、その関羽に向かい、その場で膝を折る人物が居た。
傅士仁その人である。彼は跪く様に頭を垂れるとこう告げた。
「関羽総督、( ;゜皿゜)ノシ 今まで長きに渡り抗う姿勢をみせた事、申し訳御座らん♪謝ります…この通り!」
関羽は傅士仁にチラッと目線を移し、その後おもむろに太子に視線を向ける。北斗ちゃんは期待の眼差しでこちらを見ている。関羽は想わず溜め息を漏らす。
彼は思い出した様に、席を立つと傅士仁に歩み寄る。そしてその腕を優しく取りながら、声を掛けた。
「士仁よ♪( *´艸`)儂もそなたを誤解していたのだ!だから、この儂も悪い…どうか立ってくれ♪そなたとは旗揚げからの長い付き合いよ!これからは仲違いしていた分の時間も、二人で取り戻そうではないか?」
関羽の仕草は、明らかに太子の姿勢を真似たものでは在った。しかしながら、太子の情けに触れて、その態度を改める過程の中で垣間見た、この仕草がこの場にはもっとも相応しい。彼はそう感じたのだった。
「( ;゜皿゜)…関羽様!勿体ない御言葉、この傅士仁有り難く、そうさせて頂きます!」
「あぁ…( *´艸`)一緒に若君に孝を尽くそうではないか?それにしても若から頂いた手紙で全ての辻褄は合った。前から主の態度は可笑しいとは思っておったのだ!お前の揺るがない信念を窺い、この関羽恥ずかしゅうてな…」
「…お前を呼びつけ、叱責した事はこの儂の誤りで在ったわい…すまなかったな!この通り…」
関羽将軍は頭を垂れて陳謝する。さすがは天下に名の轟く男の矜持がそこには在った。
傅士仁も大丈夫たる男であるが、その彼からして、その姿勢には想う所が在ったのだろう。こちらもすっかりその姿勢に魅了されてしまっていた。
「( ;゜皿゜)ノシ 何の♪将軍万歳!!私はこれからは心を入れ替え、貴方に着いてゆきますぞ♪」
「( *´艸`)フフッ♪有り難い!名も変えた事だしのぅ~♪傅士仁殿!」
「( ;゜皿゜)ノシ♪ 全く恐れ多い事に御座います♪」
関羽と傅士仁は互いの逞しい体躯をぶつけあって、相手を抱き留めた。二人の男の仲直りの証であった。
『(*゜ー゜)♪良かったな…』
北斗ちゃんも二人の漢のその懐の広さに、感極まっていた。これで盤石というべきである。
『( ・∀・)…後は南郡を固めれば荊州が安泰に近づくに違いない!』
彼はそう感じていた。
「( *´艸`)お前も腰を掛けろ♪さっそく話し合いに入ろう♪」
「( ;゜皿゜)ええ♪有り難く!」
傅士仁が腰を下ろすと、いよいよ話し合いが開始される。馬良の依頼で、まずは現状の整理からそれは始まった。
北斗ちゃんは公安の兵権を費観に、太守代理を費禕に任せて来た事を述べ、関羽総督と馬良軍師もそれを追認した。この荊州の人事権は総督府にあるのだから、此れは正式な発布と成る。
次に呉の介入があった事に対する備えを考えなければならず、虞翻のやり口を述べて、これからの対策を討議する。
「(´▽`)事が虞翻からの攪乱に依る、寝返りだけで済むとは想えません。必ず陽動も活用しながら、寝返りを引き出そうとの魂胆に違いないと私は想います!」
馬良はさすがに軍師だけあって、既に複数の攻略方法を模索している。その基本は、相手の立場に身を置いて対策を考える事である。
「( *´艸`)呉のこちら方面の司令官は、呂蒙だからな…奴が描いた絵図ならば、武力に依る攻略も必ず絡めて来ると思う!」
関羽将軍も練兵は休まず行って来たので、いつでも出撃出来ると準備万端な点を力説してくれる。
「( ;゜皿゜)ノシ 後、陸遜の動きも不気味です!私は今回の事は彼が描いた絵図ではないかと疑っております!」
傅士仁も陸遜には手を焼きそうだと感じている為、用心を怠らぬ様に釘を差した。
「( ・∀・)僕も御三方の具申を心強く想うと同時に、まさにその通りだと感じている。但し懸念はまだあるのだ!」
北斗ちゃんの力説に、三人はほぼ同時に頷く。
「(*´▽`)それは魏の動向という事ですね?」
「(*゜ー゜)あぁ…軍師!まさに貴方の仰有る通りです♪三國の中で、我々が一番弱小ですからな!互いに連携して、いの一番に潰しに来ても、何も驚く事では無いでしょう?僕はそれを懸念しているのです!」
「( *´艸`)若の言う通りですな…曹仁は一筋縄ではいかぬ男です!樊城からいつ出撃して来ても不思議は在りません。連動された際の手筈は如何されますか?」
以前の関羽将軍ならば、『儂の武功で抑える』くらいの強気の発言をしよう物だが、今の彼は、連携こそ大事と、揺るがない。
これは弱気に成っている訳ではなく、依り慎重に動くべしと認識を改めたゆえである。
北斗ちゃんはそんな爺ぃが頼もしく感じられてとても嬉しそうな表情をみせた。
「(*´▽`)若君は何か服案はお在りなのでしょうか?」
「(*゜ー゜)…こんな事を言っちゃうと怒られるかも知れないけどね…服案と言える程の物は無いんだ!」
「( ;゜皿゜)…と公安でも仰有っていましたが、呉に対する策は相手の誘いに乗る事が基本路線だった筈です♪虞翻の策は失敗だったのですから、こちらが有利だって仰有ったでは在りませんか?」
「(*゜ー゜)…まぁ虞翻の策の中核、離間の策はね…確かにそう♪僕が公安に行ったのは、まず相手の仕掛けの中でこちらが下手に動揺し、連携の楔を自ら切らない様にする事に在ったんだ!今はそれが一番大切だからね♪」
「(*´▽`)仰有る通りかと!」
「( *´艸`)だが、若!それだけでは根本的な解決には成りませんぞ!奴らは虎視眈々とこの地を窺っておるのです!」
「( ・∀・)まぁね♪」
「( ;゜皿゜)ノシ 随分と余裕ですな…でも夜中に我々をわざわざ集めたんですから、何か考えが無いと困りますぞ!」
「(*゜ー゜)ププッ…それも正解だね!僕だって全く考えが無い訳ではないんだ!それにお前たちだって考えくらいは無いと困るぞ♪これは文殊の知恵の結集を図る場だからね♪まぁいいや♪まず僕の手札を見せよう…話はそれからだろうからね…」
北斗ちゃんはそう告げると話し始めた。
三人は再び腰を据え直して、若君を見つめる。
「( ・∀・)僕はね、爺ぃ~、もとい関羽将軍と荊州に来た初日に碁を打ったんだ。これは爺ぃ~、もとい…」
「( *´艸`)カッカカ♪若君、爺ぃ~で宜しい!」
「( ・∀・)あ♪そう、じゃあ爺ぃ~と碁を打った時にね、僕は初心者で碁の打ち方そのものを知らなかった…碁盤には白石が九つ置いてあるしさ!」
「( ゜Å゜;)え?あれってあのまま打ったのですか?」
馬良は、関羽将軍の毒矢の処置をしていた華侘医師の施術を眺めて、気持ち悪さゆえに吐いた。その後直ぐに退出したので、この話は初耳であった。
「( ・∀・)うん!そう♪碁を嗜む人には有り得ない状況だろうけど、これは上位者の馬良の具合が明らかに良くない事を察した爺ぃ~の悪戯心だったんだ!彼は切られた腕の骨や肉を目の当たりにして動揺していたからね!その引き換えのハンデだったのさ♪」
「( ;゜皿゜)ノシ ちょっと待って下さい!閣下は碁を打ちながら、施術をさせたのですか?何と剛毅な事ですな…」
「(*゜ー゜)ププッ…そうなんだよね♪有り得ないよな?」
「( *´艸`)そうですかな?碁を打ち、酒を喰らう!麻酔薬など打たれては、頭や身体が麻痺しますからな!いざという時に役立ちませぬ…当たり前かと!」
『( ;゜皿゜)(; ゜Å゜)否、あんた可笑しいから!』
「( ・∀・)ま!そんな事で僕はハンデは貰ったものの困った♪何しろ碁を知らないからね!でも爺ぃ~が碁は実践に通じるからというので、費禕せんせに習った戦術を活用する事にしたんだ…」
「…始めは局地戦に数多く勝利する事だけを考えていたが、そのうち、いつの間にか包囲されている事に気がついた。そこで初めて、碁とは戦術の力だけでは駄目な事に気づいたんだ…」
「…大局的に物事を眺めて、盤上を戦略的に考えて、構築しながら、局地戦では戦術を駆使する。此れが大事だと気づいたんだな…」
「( *´艸`)若は素人の癖に、そのやり方でこの儂に勝利したのだからな!大した御方よ♪」
「( ;゜皿゜)(; ゜Å゜)え!勝ったので?」
「( *´艸`)そうだ!」
「( ・∀・)まぁ、あれは気づいたのが早かったのと、まぐれもあるよ!ビギナーズラックって奴さ♪」
『( ;゜皿゜)(; ゜Å゜)いやいや…それは無理っしょ♪』
「( ・∀・)そんな訳で…僕が何を言いたいのかと言うとね、戦術だけ考えてたんでは駄目だという事だね♪ここはひとまず大局的な戦略眼で全体像を観なきゃって事かな?戦略策定!此れが僕の結論かな?」
北斗ちゃんはそう言うと含み笑いしたのか、苦笑いしたのか分からない様な複雑な笑みを浮かべた。