劉璋親子
『( ̄^ ̄)士仁殿も股肱の臣のおひとりですな!あの方は劉備様に寄り添って来られた方ゆえ今の地位に在りますが、やはり関羽将軍とは折り合いが悪い様です。その姿勢も糜芳殿とさして変わりは在りませぬ…』
趙雲は確かそう言っていた…そして北斗ちゃんの第一印象も同じで在った。しかしながら、良く話してみると傅士仁の印象はガラリと変わった。
人とは外見や第一印象だけではけして図れない者である。心を打ち解けて、良く話して見なければ、その人の本心は判らないと言えるのではなかろうか?
『(*゜ー゜)あれ?待てよ…もしかして…子龍は爺ぃとの折り合いが悪い点に言及しただけで、傅士仁ちゃんの人柄や能力は個人的には認めているのかな?』
北斗ちゃんはここ公安で、初めて傅士仁と直接に会ってみて、彼がここを死守するために最低限の事は行っていた事は既に理解していた。
だからこそ、今さらながらに思い至った事ではあるが、我々の側が危機感を募らせる余り、少々神経を尖らせ過ぎたのではないか?という事である。
確かに関羽将軍との折り合いの悪さを懸念する余り、"如何に傅士仁の兵権を穏便に剥奪するか?"その事に念頭を置き過ぎていた嫌いは在っただろう。
そうすれば、全ては解決すると思い込んでいたのでは在るまいか?という事である。
ここ公安が要の城で在る以上、絶対に失陥は避けねば成らなかった…だから、それに反する勢力は、気の毒だが事前に取り除かねばならない。
そういった懸念を強く感じる余り、傅士仁の排除ありきに比重を置き過ぎて、全体像がしっかりと見えていなかったのでは無かろうか?という事であった。
『(^。^;)もしかしたら、まだ僕らの見えていない根本的な問題が、ここ公安には内包されているのかも知れない。ここは、しっかりと目を見開いて、事の本質を見極めなければならないかも…』
北斗ちゃんはそう感じていた。
しかしながら、傅士仁の問題に関しては解決を計り、既に一旦、信用が置けると判断したのだから、その姿勢を崩す事は出来ない。
そして彼を味方に付けた事は今後のプラスに働くに違いないとも思っていた。その隠れた才能に気がついた事は収穫で在ったのだから。
『( ・∀・)当面…傅士仁ちゃんは僕の傍で、僕の行いや考え方を見て感じて貰おう♪それに爺ぃ~と仲直りさせねば成らんからな!』
その変わりとして費観をここに配置せねば成らない。まだ何か裏の事情が内在するので在れば、自分の股肱の臣を張り付けて置く事は必然と謂えるだろう。
本音を言えば、傍に置いておきたい費観で在るが、その才幹を示す機会が訪れたのだから、今ここでそれを活かさない手は無いのだ。とは言ってもまだ北斗ちゃんの心の中で決断しただけの事で、本人にはこれから説明し、説得せねば成らない。
自分のお気に入りだからと言って、傍に置いたまま、本人の成長の芽を摘んでしまうのは良くない事だ。経験の機会にも旬な時期というものは在るのだから。
費観が面会を申し込んだ時には、劉璋は月一回の診察だとかで、近隣から招いた医者に掛かっていて、少々待たされる事になった。費観は仕方無く、費禕を共なうと先に劉闡に面会した。
「これは義兄上様、荊州に来られていたのですか?」
劉闡は嬉しそうに歩み寄って来る。
「(*゜ロ゜)ああ、劉闡殿も元気そうで何よりだな?」
二人は嬉しそうに挨拶しながら握手している。
「義兄上、こちらは?」
「ああ…(*゜ロ゜)僕の従兄弟の費禕さ!名前くらいは聞いた事が在ろう…」
「貴方があの費禕殿、祖母に聞いた事があります。相当に優秀な方だそうですな…」
「否、否、(;^∀^)私など体した事はありません。世の中は広い、まだまだ賢人で溢れておりますよ!」
「ご謙遜を!貴方が丞相に目を掛けられているというのは、もっぱらの評判ですよ?」
「(;^∀^)誰がそんな根も葉も無い事を!!」
「え?そう何ですか…私はてっきり…」
劉闡はそう言うと尻すぼみになり、推し黙ってしまった。
費観は費禕がいつに無くムキに成るので、ハラハラしながら眺めていたが、費禕も少々大人げなかったと気づいたらしく、「申し訳御座らん!」とすぐに陳謝したので、その場は一旦、事無きを得た。
費禕の心の中はまだ複雑に絡みあっている。確かに丞相に可愛がって貰い、自分が本当にその才覚を認められているので在れば、それはとても嬉しい事だ。
しかしながら、自分が回りから、依怙贔屓されていると思われるのは嫌だった。
それに自らの意識の中で、"本当に自分は認められて居るのだろうか?"という疑問にも似た懐疑的な感情も内包しており、素直に自分の才覚を認める事が出来て居なかったのだと謂えるのかも知れない。
そんな感情の一端が、劉闡の言葉で刺激されて暴走し、想わぬ言葉を発してしまったのだろう。
彼は自分の個人的な感情で、この場を騒がせてしまった事を恥じていた。大義のために来ている事を忘れて、個人の感情を優先してしまっては、本末転倒で在る。
費観は費禕が自分を取り戻したのを横目で眺めていて、ホッとしていた。
本来、費親の立場からすれば、「いったい何しに来たと思ってる?」と一言、宣いたい所だが、彼は費禕のその複雑な気持ちが元々判っているだけに、心配こそすれ、そんな薄情な事を言う事は出来なかったので在る。
「(*゜ロ゜)ところで義父殿はどこかお悪いのかな?」
話しを切り換えるように、費観は尋ねた。すると、劉闡は溜め息混じりにこう答える。
「否、父はどこが悪いというよりは、ここ荊州の水が合わないのか、私にも良く判りませんが、とにかくここに来てから可笑しいのです!自分の命が狙われていると言ってみたり、士仁将軍が謀叛を起こすと口走ったり、総督閣下に訴状を書いて、大騒ぎになった事すらありました…」
「(*゜ロ゜)そんなに酷いのか…それではまるで御乱心ぐらいの大問題ではないか?それで良く、今まで何事も無く済んで来たな!成都にすら、そんな話しは伝わっていない筈だ!」
費観は驚いた様で、自然と大きな声になる。
費禕も、話の展開が想わぬ方向にとんだ事に驚きを示している。
「それは士仁様のお陰なのです…あの人が身体を張って下すったんだ!」
劉闡は我慢して来た感情が、一気に噴出したように叫んで、想わず我に返ると、ハッとした顔をして口を止じた。
『どうなっている?』
費観は費禕と顔を見合わせると、両手を広げて問い掛けている。費禕も同意を示す様に相槌を打つ。そして口許に手をやって、少し考え込んでいたが、おもむろに尋ね始めた。
「(*^∀^)劉闡殿…ひとりで悩んでおられても、物事はけして解決しませんぞ♪三人寄れば文殊の知恵というでしょう?まさにあれは真理でしょうな…」
「…ほら?観なさい。今、我々は丁度三人居る。費観殿は貴方の義兄ですし、私の事は貴方が先程認めて下さった筈です!強制は致しませんが、我々を信じて話して下さらんか?きっと心が軽くなる事でしょう…」
費禕はそう優しく語り掛けると、強いて急かす様子も見せずに、のんびりと彼の様子を眺めながら、その決断を待った。
費観も義弟が心配ではあるが、費禕の応対の仕方を眺めていて、ここは従兄弟に委ねる事に決めた。彼はこれまでも費禕に助けられて来た経験から、信頼を寄せている。
劉闡はひとまず気持ちを落ち着けると、チラッと義兄に視線を送り、費観が頷くと、それに促される様に、堰を切って喋り始めた。
「では事の顛末を追ってお話しします。皆様方も御存知の通り、私達親子は、五年程前に降伏し成都を陛下に明け渡しました。そして父は公安太守として荊州に身柄を送られました。ここに来た当初は、我々には未来は無かったのです…」
「…どう贔屓目に見積もっても、太守とは名ばかり。捕虜としての息苦しい生活が待っていると想われたからでした。ところが、当時公安城主だった士仁将軍は、我らに優しく手を差し伸べて下さり、何かにつけて世話を焼いて下さったのです…」
「…自由な行動も認めて下さいました。その変わりとして、始めの半年くらいは監視は受けました。でもそれも形だけだから、心配しなくて良い。自由になさってくれれば、黙って見ているだけだからと言って、それは申し訳なさそうに謝っておいででした…」
「…彼にしてみれば、上からそうする様に指示を受けていたのでしょう。私個人としては何の不足も無かったのです。むしろ想像していたよりも確かに自由でしたし、太守の仕事もその変わり勤めねばなりませんでしたが、それは太守なのですから当たり前の事ですものね…」
「…ところが父はそう感じてはいない様でした。士仁将軍の風貌からして好きでは無かった様です。父は都の暮らしに憧れがあり、むしろ曹操の配下として、北の中原の暮らしを望んでいたのかも知れません…」
「…そして父がここ荊州の暮らしが嫌いに成ったのは、ここに来てから身体の調子を崩した事にありました。成都に住んでいた頃には、風邪すら引いた事が無かった父が、しきりに咳き込んだり、お腹を壊したりと体調不良に悩まされ始めたからです…」
「…士仁将軍はそれはもう心配して下さり、親身になってくれました。しかしながら、父にはその思いが伝わらなかった様でした。皆さんも経験がお有りかも知れませんが、生理的に合わない者っているでしょう?父は士仁将軍をけして身近に近づけ様とはしなかったのです…」
「…ですからそんな時には必ず、私が間に入って、応対を図る必要が在りました。私は士仁将軍に申し訳なくて、その都度、謝ったものです。そんな状況にも関わらず、士仁将軍はけして腹を立てる事も無く、狭間に立たされた私の苦労をかえって、労って下さいました…」
「…あの方はとても良い方なのです。あの方がいたから、我らは安全に、そしてその面目を失う事無くやって来れたのでした。ところが父はそんな士仁将軍に感謝をしないばかりか、在ろう事か彼を貶めようと画策したのでした…」
「…人の目も憚らず、士仁が私の命を狙っていると大声で喚いたり、謀叛を企んでいると大騒ぎしたり、関羽総督に直訴状を送るという暴挙まで起こしました。私は何度も諫言したのですが、父は次第に私まで彼に洗脳されたと騒ぎ出す始末でした…」
「…士仁将軍はその騒ぎの繰り返しにより、関羽総督の信頼をすっかり失ってしまいました。それはもう気の毒な程でした。直訴状の折りには、江陵に呼びつけられて、叱責すら受ける始末でした…」
「…今度不始末をしでかしたら、その罪状を問うとすら蔑まされたそうです。それでも彼は我らを庇い、その後も何も無かったかの様に、助けて下さいました。私は彼が気の毒で成らず、総督に真実を述べようと提案しましたが、それでは太守の体面が傷つくからと言って譲りませんでした…」
「…私は彼に尋ねたのです。自分の得には成らない筈なのに、何でそんなに庇ってくれるのかと…。すると彼はこう言ったのです。あなた方は成都を追われ、その意志に反してここに来られた。その上、その体面まで失ってしまっては、甚だ気の毒で成らない…」
「…私が多少の辛抱をすれば、あなた方が安らかに暮らせるので在れば、私はその程度の事は甘んじて受けよう♪私にとってはそんな事は些細な事である。貴方はそんな心配はむしろせずに、父上に孝を尽くしてあげなさい…彼はそう言って下さったのです…」
「…だから非難されるべきは父の方であって、けして士仁将軍では在りません。私はその事が申し訳なくて、何度も口から出掛かりましたが、その都度彼に止められました。そして父に孝を尽く様に諭されました…」
「…皆様は恐らく士仁という御方を誤解しておられるかも知れません。けれども彼は仁愛の心をお持ちの方です。けして責められる様な方では無いのです!」
劉闡はようやく長い説明を終えた。
「「何て事だ!!」」
費禕も費観も想わずそう叫んでいた。彼らが事前に把握していた公安の有り様は、現実とはかなり掛け離れた偶像で在ったのである。
そしてそこには、まだ判明していない謎が内包されている様にさえ、想えたのだった。
『(*゜ロ゜)…これは若君ともう一度折衝せねば成らないようだ…』
費観はそう感じていた。
『(;^∀^)…これでは事実と完全に真逆では無いか…』
費禕もプランの変更を余儀無くされたと思っていた。
そして彼らはまだ知らないが、丁度同じ頃に、北斗ちゃんも軌道修正を余儀無くされていたのである。
費観は劉闡におもむろに提案を行った。
「(*゜ロ゜)取り敢えず、我らの主に会ってくれないか?聡明な御方だ…けして悪い様にはしないだろう♪」
彼はそう言うと、優しい眼差しで劉闡に微笑んだ。