軌道修正
傅士仁は北斗ちゃんの配下となった。北斗ちゃんは彼を改めて見る。
髪は三つ編みに編んであり、所々に色鮮やかな布切れを結んでアクセントにしている。今はすっかり八の字に依り下がった太いゲジゲジ眉毛の下にはギョロっとした大きな眼が睨みを効かせる。
口唇は分厚く、開けた口には拳骨くらいなら楽に入りそうだ。鼻の下に生やした髭は顎髭と繋がっているが、手入れが行き届いているのか余り長くは無い。
こうしてみると彼にとっては、かなりお洒落感覚があるとの自負がある様だった。それと言うのも、彼は幽州の出身であるから、北方の騎馬民族の血が流れているらしい。
その民族的な風習が髪飾りや、髭の手入れにも観てとれるのだろう。体躯も素晴らしく、関羽将軍は別格ではあるものの、その将軍を一回り程小さくしたくらいと思って頂ければ良いだろう。
腕っぷしも凄そうだ。その腕の筋肉は、北斗ちゃんの太股くらいは優にある。殴られでもしたら吹き飛びそうである。
見るからに武闘派にしか見えないのだが、この彼に、あれだけの観察眼と分析力があるなんて、誰も想うまい。一見ならば、必ず見た目に騙されるに違いない。
それにこの男は積極的には、その知性を公の場では披露していない様子だ。自分が必要とした時だけ、自分でも無意識に活用しているに過ぎない。
これでは勿体無い。まぁ本人に自覚が無かったようだから、仕方ない事ではあるが。それを見出だした時に、北斗ちゃんの覚悟は決まった。こんな埋もれた才能を活かさない手は在るまい。
『( ・∀・)…いい買い物だった♪』
北斗ちゃんは心底そう感じていた。まだ完全に自覚がある訳ではない傅士仁はキョトンとしたギョロ眼でこちらを観ている。本当に不思議な男であった。
「( ;゜皿゜)…で!殿!この先どうするので?私は着いて行くのは吝かではありませんが、この公安がそうなると瓦空きに成りますぞ?」
「( ・∀・)あぁ…その事なら心配いらん♪考えがある…」
「( ;゜皿゜)…あっそうなんすか?でも人事件は総督にあるのでは?相談しなくて良いので?」
「( ・∀・)うん?そうだな…傅士仁ちゃんお前さん、卒倒したり、気絶したりしない口かな?」
見た目からしても、そんな事は有り得ないとは思うが、今までの経緯があるので、北斗ちゃんは少々用心してそう聞いた。
「( ;゜皿゜)え?私ですか?否、そんな経験は今まで一度も無いですな…それが何か?」
「( ・∀・)あっ!そうなの?じゃあ僕の正体明かしても大丈夫だね?」
北斗ちゃんは、もう彼の事を信頼している。彼は一度決心したら、相手を信ずる。ブレる事は無いのだ。
「( ;゜皿゜)正体?…監察官じゃ無いって事ですか?まさかもっとお偉い方なので?」
「( ・∀・)う~ん、当たらずとも遠からずだね♪僕はね、太子の劉禅なのさ♪びっくりした?」
「( ;゜皿゜)…え?あのデブで馬鹿っぽい太子の…影武者様とか?」
「σ(/_;)ウンニャ…本人本人!酷い言われようだね?まぁ然も在らんか…」
「(゜Д゜≡゜Д゜)゛?マジっすか?あのおデブちゃんの?」
「(*`▽´*)こりゃ!しつこいぞ♪人は変われるって事だよ♪僕も努力したのよ…だから君も、その気に成れば必ず出来るさ!」
「( ;゜皿゜)…お痩せになりましたな!私、実際貴方様を拝見した事ありますが、まるで面影が無い…まさに別人ですな?否、待てよ♪そう言われてみれば少し面影が残っていますね?甘夫人に似ていらっしゃる…」
傅士仁は劉備が旗揚げした当時からのごろつき仲間である。甘夫人が添われる際にも、その内輪の式に出席していた。
「( ・∀・)へぇ~僕は母親似なんだね?残念ながら僕には余り記憶が無くてね…物心ついた時から、縻婦人が僕の母親だったからね♪そうか…僕は母に似ているのか♪」
「( ;゜皿゜)…えぇそうです♪貴方は甘夫人が北斗七星を呑んだ夢を見て生まれたその化身なのですぞ♪」
「(*゜ー゜)え♪そうなの?だから婦人も夫人も僕を北斗ちゃんて呼んでたんだな?まさかこの僕にそんな逸話があったとは?驚き桃の木山椒の木だね…」
(^^;今どきそんな表現を使う人は恐らくいない。既に死語である。
ここで婦人と夫人の違いについて少々触れておこう。両方とも『ふじん』と読む。婦人とは簡単に言うと『正室』の事である。そして夫人とは『側室』の事である。つまり時代が時代なら劉禅君は『庶子』という事になる。
『庶子』とは正妻以外から生まれた子供の事であり、大抵の場合はお妾さんの子供を言う。或いは私生児として認知された子供の事も指す。
劉備には縻婦人以外にも甘夫人が居たが、二人とも劉備が漢室再興の夢を追って戦いに明け暮れている間に、亡くなられている。
呉と同盟していた頃に、新たに正室に迎えた孫婦人とは離別していて、現在は呉婦人という新しい正室を迎えている。呉婦人は蜀の大将軍で在った呉懿の妹である。
劉備も沢山の婦(夫)人たちを迎えながら、結局、跡取りは劉禅だけという状況である。
但し、劉禅君が生まれる前に、養子にした兄にあたる劉封が同じ荊州の北西に位置する上庸に居る。10数歳上の兄である。彼は文武両道の俊才で、孟達将軍と上庸を守る。
上庸郡は元々、漢中郡に属していたのを切り離したものであるが、荊州に属していた。逆に言えば元々は漢中郡だったのだから、同じ荊州とはいえ、かなり江陵からは離れている。
ゆえに魏領に近く、魏にとっては口を大きく開けて刃を突きつけられた厄介な場所である。そして蜀にとっては魏の地に楔を打ち込んだ様なまさに橋頭堡と言うべき要所で在った。
自分の息子をその地に置いた劉備の強い執念と言うべき物を感じさせるで在ろう。
話が逸れた。元に戻る事にする。
傅士仁は改めて北斗ちゃんを見つめた。
あのおデブちゃんがこんなにもスリムになって、この荊州にまでやって来ている。
そして自分を説得して、その力をまざまざと見せつけ、配下に納めた。何という変化なのだろうと、彼は感心していたのだ。
『( ;゜皿゜)…これぞ運命の為せる技に違い在るまい!私もこの運命を素直に受け入れて、変わる時なのかもな…』
傅士仁はそう思った。
傅とは、親や親代わりの者が、子を大切に養い育てること。後見として大切に世話をやくこと。庇護者として手厚い保護を加えること。愛護などを言う。傅くとも読む。
北斗ちゃんが、士仁に傅を敢えて付けた事を考える時に、その想いが感じられるだろう。
傅士仁に、自分の親代わりとして観ていて欲しいと願う気持ちも在るだろうし、太子が後見に付くから生まれ変わって欲しいと願う気持ちも含まれていると考えられるからだ。
『( ;゜皿゜)…完全に負けたな♪』
傅士仁はこの太子を観ながらそう思っていた。そしてそれで良かったのだと思ってもいた。そう考えれば、何と自分の心狭き事よ!つまらぬわだかまりで、関羽と袂を別っていた自分が情けなく想えて来てならなかったのだ。
『( ;゜皿゜)…この太子様になら付いていける。この方のためにこの自分の最大限の力を尽くそう…』
傅士仁は心底そう思っていた。
「( ;゜皿゜)…でその方策とは?」
彼は改めて、この公安の後事を託す策を尋ねる。
「( -_・)あぁ…暫くは費観将軍に任せる。彼は肩書も裨将軍だし、何より劉璋殿の娘婿だ♪説得が出来てその制御も効くだろう。そして彼は僕の信頼厚い配下のひとりであり、友と呼べる男だ♪…」
「…ここだけの話だが、僕は彼を将来、大将軍にしたいととても期待している。それだけの逸材だから、公安城程度守れなくてどうする?大船に乗ったつもりで観ていてくれ!そして傅士仁も彼を育てる手助けを頼む!」
「( ;゜皿゜)心得ました!喜んで♪」
「( ・∀・)じゃあこれで決まりね♪いゃ~話がまとまって良かった良かった♪」
北斗ちゃんはホッと胸を撫で降ろした。後は費観と費禕の結果次第という所だろう。