公安城にて
士仁は眉毛の濃い見るからに強面の男である。長年の苦労が板に付いているのか、顔というよりは、ギョロッとしたその大きな眼がとても印象的であり、慣れないと少し近づき難いものがあった。
そしてこれまた長年染み付いてしまった癖なのだろうが、相手と視線をなるべく合わせぬ様に、こちらの胸元を見ながら話す。そして時折、こちらの反応を気にする様に、チラッチラッと様子を窺うのだった。
北斗ちゃんもこう言うのは憚れるが、けして会っていて気持ちの良い御方では無い。
『さて…(^。^;)どうやって切り出そうかな??』
彼は考えている。監察官の立場を最大限に利用してやろう♪そう当初は考えていたのに、蓋を開けてみたらこの調子である。けしてビビっている訳では無いが、関羽将軍とはまた違った意味で、凄みを感じたのである。
互いに挨拶をした後、監察官の若者が黙り込んでいるので、士仁は少々面倒臭くなって来た。
『( ;゜皿゜)何しに来たんだ?こいつ!』
本音を言えばこんな具合である。
一方の北斗ちゃんは、開けてはいけない禁断のパンドラの箱を不用意に開いた事に気づき、その中から蛇が出るか蝙蝠が出るかと、戦々恐々としていた。
『(^。^;)いつまでもお見合いしてても、仕方ない!ままよ♪』
彼はようやくの事で、この窮地打開に動き始めた。
『(´ε`;)ゞ僕は士仁と碁を打ちに来たのだ!』
そう想う事にしたのである。
『(^。^;)この人どうみても黒石な人なんだけど、ど~すっかな?』
彼は考える。
『( ・∀・)そうだ♪この人が、天元に打った事にしちゃおう♪』
そうすれば彼の白石は第一手目となる。彼はけして相手を舐めて掛かっている訳ではないが、こう凄まれると、気持ちを切り換えないと、話しが先に進まない。
そこで考え出した苦肉の策である。彼は気遅れしないうちに第一手を投じた。
「( ・∀・)士仁将軍!最近呉の動きは如何ですかな?何か動きがありましたか?」
「( ;゜皿゜)否、特には何も…」
『( -_・)へぇ~大胆だね…諦らかに嘘すれすれだと思うけどな?ひょっとして僕が若いから、舐められてるのかしら…』
北斗ちゃんは少し残念な気がした。彼がもし、この問答によって自分の進退はおろか、生死が懸かっていると考えたならば、もう少しましな態度と言葉になったのであろうが、士仁は自分自身でその可能性を今にも閉ざそうとしていた。
『(^。^;)第三者なら教えてあげたいくらいのもんだけど…さすがに追い込む側との両天秤は適わない事だ!』
北斗ちゃんは自分の甘さが露程した事を自覚していた。優しさと甘さは違うのである。けして同一視しては成らないのだ。
「そうですか( ・∀・)?つい先日、狼煙台の下で魏と呉の小競り合いがあったのですがね…それも御存知無い?」
この若い監察官にその事を指摘された瞬間、士仁の態度はガラリと変った。今まで踏ん反り返っていた姿勢が急にオドオドした態度に豹変したのだ。
埒が開かないと判断した北斗ちゃんの起死回生の一手であった。士仁は可哀想なくらい項垂れている。
「あらら…(^。^;)ちと御灸が効き過ぎたかしらん?」
それはそうである。この場合、『知らなかった』では通らない。事件のあった狼煙台は目と鼻の先である。危機管理能力"0"と断定されると不味い。公安城が危機に陥ったかも知れないからである。
そして『知っていた』と答えるのも不味い。彼はその後、この件を報告していなかったのであるから、報告義務違反、事態収拾能力"0"と断定されると、軽くて更迭、悪くすれば処刑されてしまう。
彼は逃げ道を防がれた鼠の様に、みるみるうちに顔が青ざめてしまった。北斗ちゃんは想わず身構える。
『窮鼠猫を噛む』という言葉を、結果として地で行ってしまったからであった。彼はつい先程、考えた「ブスッ」という瞬間を想い出して、ゾッとしていたのである。
ところが彼は意外に呆気なく陥落した。帯剣を解くと、床の上に放り出し、座り込むと「下知に従います( ;゜皿゜)!」と答えたのである。
ここは北斗ちゃんにとっても正念場である。慌てた素振りを見せてはいけない。彼はおもむろに剣を広い上げると、「( ・∀・)士仁将軍!」と呼び掛けて、その剣を本人に返した。そしてこう言ったのである。
「( ・∀・)この荊州では、処罰の権は総督閣下に帰する物だ!貴方はこのままだと関羽将軍に斬られるでしょうが、一つだけそれを逃がれる術があるのを御存知だろうか?」
少々厭らしいやり方で在る事は、北斗ちゃんも重々承知している。しかしながら、彼が反抗する事なく、兵権を手離すためには、この方法が最善の道とも言えた。かなり途中のリスクは承知の上である。
「( ;゜皿゜)それはどんな事で御在ましょうか?貴方は監察官である筈ですが、罪ある私を庇って下さると言うのですか?」
相手からこの言葉を引き出せば、もはや身の安全は間違いない。彼は安全圏内に入ったと言ってよい。なぜなら、蜘蛛の糸にしがみ付くカンダタは、けしてその命綱を切らないからである。
「( ・∀・)私はね、士仁将軍!貴方の身を惜しんでいるのです。貴方はこの公安では色々しでかしておりますな…でもそれまでの貴方は陛下に従い、懸命にやって来られたと聞いています…ですから、私の質問に正直に答えて、指示に従うのであれば、助けてあげましょう♪どうしますか?」
カンダタだってそれは命は惜しい。この人が提案する糸を自分から切ってしまえば、明日にも移送され、あの憎たらしい髭将軍に罵倒された上に、その首をあの青龍偃月刀で斬られてしまうに違いない。士仁は決断した。この若者に身を委ねる…と!
「( ;゜皿゜)監察官様、何でも聞いて下さい。正直に答えます!どうか命ばかりは助けて下さい…お願いします!!」
士仁はもはや必死の形相を隠さない。
『(^。^;)やれやれ…僕が提案した事とは言え、ちと情けない気がするなぁ!最初の強面はどうしたのかね?でもゲジゲジ眉毛が八の字にへたると、ちと可愛いかも♪』
士仁を観ていた北斗ちゃんは、人が状況の変化でこれだけ変わるとは思わず、その変化に怖さを感じていた。恐慌を来す程に、人を追い込むのはけして良くない。今後避けようと心に誓った。
しかしながら、今回ばかりはキチンと始末を着けなければならない事も確かだった。尻拭きはせずば成るまい。
「( ・∀・)では士仁将軍!ひとつ目の質問だ♪君の所に投降を誘う文は来たかね?」
「( ;゜皿゜)な…なぜそれを?た、確かに虞翻から何度も誘いがありました!しかし…私は誘いには乗っておりません!」
「(゜.゜)本当に?」
「( ;゜皿゜)ノシ 本当です!まぁ少し危なかったですけど…」
『(^。^;)ちと正直過ぎる嫌いもあるが、こちらの希望に沿っている姿勢は買うほかない…』
しかしこれで虞翻なる人物の周到な工作が与える影響力が馬鹿に成らない事も証明された。
「( ・∀・)では二つ目の質問だ♪虞翻に会った事は在るかね?或いは人と成りを知っているか?」
「( ;゜皿゜)…会った事は在りませぬ!まぁでも会える方法は無くもありませんな…しかし公安城を引き換えにする程の人物かは怪しいと申しておきましょう!奴は元々、孫権には嫌われていた筈です!それが最近、ちょっかいを度々掛けてきます!どうも裏に支援者が居るのではと思っています…」
『( ・∀・)へぇ~♪この人、観察眼も分析力もなかなかいいじゃん!こいつは不思議な驚き☆彡』
北斗ちゃんは従順になって来た士仁がちと可愛くなってきた。大の大人を相手に可愛いも無いもんだが、こうなってくると、あのゲジゲジ眉毛すらなかなかプリチ~に見えてくるから不思議なもんだ。
「( ・∀・)虞翻て人は何で孫権に嫌われてんのかな?」
「( ;゜皿゜)そうですな…確か直言を躊躇わない、気骨のある御仁だとか?簡単に言うと耳に痛い事を平気で言う輩ですな!それが嫌われた許だそうです♪」
「( ・∀・)へぇ~♪その人なかなかいいじゃん♪伊籍殿や董允殿の様な感じかな?」
「( ;゜皿゜)" え?いいですか??貴方は変わった人ですな?そうです!伊籍殿の様な感じですな…」
「( ・∀・)" あぁ…だって直言て勇気のいる事じゃないか?ナヨナヨしてるよりはよっぽどいいぞ♪それにわざわざ自分の参考になる事をただで教えてくれるんだ!まぁ時にお節介に映る時もあるけどね?僕は嫌いじゃないな?」
北斗ちゃんは、人の話に耳を傾けなくなったらお終いだと思っている。特に自分は将来君主になるのだから、直言を避けてはいけない。
それに直言をいちいち採用するかは、あくまでこちらの裁量であって、聞く事そのものを躊躇ってはいけないと思っている。
ただで教えてくれるのだ。自分の記憶の中に留めて肥やしにしておけば、いつか役に立つ事も在るというものだ。
「( ;゜皿゜)ホゥ~ただですか?面白い事を仰有りますな…若いのに学がお有りになるのですな…」
「( ・∀・)否、士仁殿!貴方もなかなかの見識でいらっしゃいますよ?虞翻の分析はなかなか判りやすい…」
「( ;゜皿゜)=3 えっ!!そうですか?そんなん言われたの初めてですが?」
「( ・∀・)…否、なかなかのもんです!もっと自信を持ったらいい♪」
話の流れが何か怪しくなって来ている。士仁を糾弾する所か、いつの間にか北斗ちゃんは、完全にこの人に興味を持ち始めていた。
恐らくそれは彼がとても人なつっこく、その人の中に良さや面白さを垣間見ようとしてしまうからだろう♪その気持ちは当然の事ながら、相手にも伝わるものである。
元々、士仁も逃げ場を絶たれた為に降参したのだが、話をしてみると一風変わった考え方の持ち主で、自分でさえ気づかない様な良さをどんどん引き出してくれるのだからびっくりしない訳はなく、尚且つ、話してるうちに好意すら感じてくるのだから、不思議な感覚に陥っていた。
「( ・∀・)じゃあ最後の質問ね♪虞翻の支援者ってのは、誰か見当ついてんの?」
北斗ちゃんの言葉尻はだんだんとフランクになってくる。もう完全に士仁を怖がっていない所か、完全にお友達感覚である。
「( ;゜皿゜)…まぁ、無い事も在りません!呂蒙が大ボスでしょうが、たぶんその下で暗躍してる陸遜辺りじゃないかと?」
『( ̄□ ̄;)!!…何だってぇ?またアイツか?』
驚くべき事には、士仁の口からも陸遜という男の名前が出て来たのである。田穂に始めて聞いて以来、頭の片隅に入れていたあの男の事であった。
彼は狼煙台の下で管邈を斬った男である。
「(; ゜ ロ゜)士仁?貴方はなぜ陸遜を知っているのだ??」
それはそうだろう?あの総督閣下ですら御存知なかった御仁である。
「( ;゜皿゜)…まぁそらぁ、腐っても公安の守将ですからな?国境を隔てているとはいえ、民の往来はある訳でして、隣接県の県令は必ず挨拶に来ます!かくいう私も就任の際は挨拶に行きましたが…それが何か?」
「(^。^;)自分で腐ったは不味いっしょ?自分を卑下するのは辞めたまえ…でも、そうか!そんなもん何だな?往来があるから、挨拶に行くのか…」
「( ;゜皿゜)…それは普通の事だと思いますが?陸遜という奴は元々隣接県の県令でしたから、顔は知ってます!しかし、奴は程なくして県令を解かれて、呂蒙に引き抜かれたそうです!」
「( ・∀・)へぇ~そうなのか?これは凄い情報だぞ♪これで君は助かる見込み有りだな?」
「( ;゜皿゜)…?えっそうなんすか?民の往来が?えっ?」
「(^。^;)ちゃうちゃう!陸遜だよ!君、もしかして狼煙台のいざこざ知ってたろ?そろそろ本当の事を話してくれないか?」
「( ;゜皿゜)…やっぱり?判りました?えっ?そうっすか…仕方ない!本当の事を申し上げます!どうせ貴方に預けたこの命ですからな!…あの狼煙台の一件は知ってました!そりゃあそうでしょ?目と鼻の先ですからな!でも調べさせたら、どうも魏と呉の潰し合いだそうで…ですから勝手にやらしておいた訳です!まぁこちらに害はなかったらしいですし…」
「( ・∀・)やっぱりそうだったのか♪でも場所が蜀領だかんね?ある意味、二国同時に侵犯されてんだからさ!報告は必要だったのでは?」
「( ;゜皿゜)…えぇそうですな、確かに。でも報告してたら…たぶん今、私は貴方と話していません。恐らく総督閣下に斬られて墓の中でしょうな…」
『ヽ(ヽ゜ロ゜)…!!なんだなんだ、そういう事だったのか?驚きの事実発覚!』
士仁は事実を正確に把握していた。けれども相手は軍というよりは隠密同士の殺しあいである。彼らからすれば日常茶飯事の鬩ぎ合いなだけであり、特別な事ではない。
しかしながら、事実を報告すれば潜入を許した時点で、総督閣下は良しとしないだろう。元々報告する程の事では無いから、バックレた…そういう事であるらしかった。
『( ・∀・)…取り敢えずこんなとこかな?今、必要な情報は全て引き出した気がする。それにこの御仁を押さえておけば、まだまだ叩けば埃が出そう…否、情報を引き出せそうだ♪こいつは割と大事な人物だぞ!ちと今後の予定を軌道修正しなくては成らないかも知れないね♪さてどう裁定しようかな?』
北斗ちゃんは考えた。
確かに『報告義務違反』は不味い。けれども危機管理能力が無いとも言えないし、事態収拾能力が無いとも言えない。態度は改めさせれば良いから、この際は不問に出来る。
そしてゲジゲジ眉毛に惑わされて気がつかなかったが、この男は観察眼と分析力に優れているし、情報収集能力も抜群だ!特に陸遜や虞翻の情報は大きい。この際、反則点と相殺出来るだろう。
北斗ちゃんは決断した。
「( ・∀・)士仁将軍!君を僕の直属武官に迎える。君は暫く僕と行動を共にしたまえ。これは出世と思ってくれていい♪関羽総督には僕が取り成すから安心したまえ♪後、君は今日から生まれ変わったつもりで僕に仕えるのだから、名を与えよう♪今日から君は、傅士仁だ♪いいね?」
「( ;゜皿゜)真ですか!!ハハッ♪では信を以てお仕え致しましょう…」
こうして傅士仁は、大逆転の裁定で配下に加わった。北斗ちゃんの器量に惹き付けられた人々の集まりに、また一人の男が加わったのである。