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気骨の人

話し合いが終わると、その場は解散の運びと為った。北斗ちゃんはそのまま馬良と連れ立って伊籍を訪ねる事にした。


『(-´Д`)…これは馬良殿、それに貴方は確か監察官殿で御座ったな?何か私に御用かな…』


伊籍の佇まいは悠然としていて、かつ肩の力が程好く抜けていて、その存在感を感じさせる。自然体とは正にこの事で在ろう。彼は馬良と監察官に対して、礼を失しない様に拝礼し、席を勧めた。


「(‘∀‘ )これは伊籍殿、御機嫌宜しゅう♪本日は少々お願いがあって参じました…」


馬良はそう述べながら返礼する。


伊籍は頷く。そして北斗ちゃんの方をチラッと振り返る。この若き監察官が発する第一声を期待している様である。


北斗ちゃんにもそれは判った。彼が自分の言葉に期待している事が。


『(^。^;)これは参ったな…いきなりハードルが上がった気がする。ここはきちんと挨拶だけはしておこう♪』


彼はそう思い、挨拶する。


「( -_・)伊籍殿、お初に御目に掛かります…僕は董斗星と名乗る監察官です。馬良殿が申しました様に、貴方に御相談が在ります…宜しくお願い致します…」


北斗ちゃんはとても変わった挨拶をした。これではまるで自分を(いつわ)ってますと言わんばかりである。


彼としては新たな試みとして含みを持たせたのだ。もういちいち気絶されたら困るからである。当然の事ながら、打合せをしていない馬良は唖然とした顔をして、彼を見つめる。


伊籍も少し(いぶか)しげな顔をしている。


「まぁ…どうぞ(っ´ω`)っ取り敢えずお掛け下さい♪話は座ってゆっくりと致しましょう…」


伊籍は落ち着いたまま、再度席を勧めて、二人が腰を下ろすと、自分もゆったりと腰を下ろした。


「で!( =^ω^)名乗るとはどういう意味ですかな?」


彼はゆったりとした物腰とは裏腹に、単刀直入に斬り込んで来た。それはそうだろう。そんな含みのある言い方をされたら、誰だって興味を持たざるを得無くなる。


「あぁ…( ・∀・)伊籍殿、僕は劉禅です。太子の劉禅と申します♪」


彼も単刀直入に答えた。馬良は想わず懐に忍んでいた竹筒に手を掛ける。念のための準備である。


「そうですか…(´ω`)やはり貴方が太子様で御座ったか!それは嬉しい。私は貴方が太子様ならば、どんなにか我が蜀にとって喜ばしい事かと想いながら、ずっとそのお姿を拝察しておりました。どうか宜しくお願い致します…」


伊籍はそう言ってスッと立つと、両手を袖口の中に入れて、拝礼をする。その細やかな部分にまで神経を行き届かせた物腰は、人の手本になるに違いない。


これには北斗ちゃんは勿論の事、馬良も驚いている。例え含みを持たせたとはいえ、いきなり名乗り出て、驚く姿すら見せない、その泰然自若たる姿勢は圧巻の一言に尽きる。


馬良はその懐に忍ばせていた竹筒を、慌てて仕舞い込んだ。想わず自分のしようとしていた行動に恥じ入り、顔を赤らめる。


北斗ちゃんは優しくポンポンと馬良のその背を叩いて労い、こちらも礼を失しない様に、二人して改めて立ち上がり、彼を真似て両手を袖口に入れて拝礼を行った。


そして互い違いに「どうぞ!」と着席を促し、先に二人が腰を下ろすのを確認すると、伊籍もおもむろに腰を下ろした。彼らは互いに見つめ合い、伊籍は、相も変わらず、ゆるりと構えている。


やむを得ず、北斗ちゃんが口火を切った。


「( ・∀・)僕が太子と名乗っても驚かれない…それに貴方は先程、不思議な事を仰有られた。貴方は然も僕が荊州に居る事を御存じの様に感じられました。それはなぜでしょう?」


馬良も思わず相槌を打つ。すると伊籍は、「あぁ…(´ω`)」と頷いて、言葉を続けた。


「( =^ω^)私は元々、陛下に従い、共に蜀攻略に向かいました。その際、大きな知己を得ました。それが、誰あろう、董允殿でした…」


「…あの方も私同様に、はっきり物を仰有る方で、気骨が在ります。私も彼も周りの雰囲気に流されない、確固たる信念があると言う意味では、似た者同士なのです…」


「…ですから我らは短期間のうちで意気投合して、酒を(`・з・)ノU☆Uヽ(・ω・´)酌み交わし、友と成りました。私が荊州に下向する折には、彼が見送ってくれました。そして我々の文通が始まりました…」


「…そしてごくごく最近の事ですが、彼から一通の手紙が来たのです♪その中で彼はこう語っておりました。太子様が密かに荊州に下向するから、蔭ながら見守ってやって欲しい…」と!


伊籍はそこで一旦、間を空ける様に太子を見つめた。彼の瞳の中には確かな輝きが秘められていた。


「( =^ω^)そこには董允の殿の嬉しさが込められておりました。太子は昔の太子では無い。私も丞相も認めた天賦の才と努力の人である。そうお手紙を頂いたのです…」


「…この私はその日から、太子様をお待ちしておりました。そしてあの日…そう関羽総督が毒矢を打たれ、治療していたあの日ですが、馬良殿の代わりに碁を打ち始めた貴方がそうなのだと目を付けました…」


「…ところが、貴方はその日以来、華佗殿のところににっ参して、医学の手伝いばかりやっておられます。名も董斗星と名乗られておりますし、間違いないと思ったのですが、医療現場と碁打ちのみに興じる貴方を見ていて、もしかすると太子の影武者なのでは?と想い始めました…」


「…太子は荊州に来て、いったい何をするつもりなのか?そう考えた時に一番に思いつくのは、この地の防衛のため…私がそう結論付けても、けして可笑しくはないでしょう。私もそれだけ貴方に期待していたのですから!そして私がもうひとつ疑問に想ったのは、費観や費禕のあの態度です…」


「…彼らは貴方を北斗ちゃんとちゃん付けで呼びます。太子を相手にその様な暴挙は在り得ません。恐らく宦官と想われる御人が付いてはおりますが、この人物は殆ど公の場には姿を現わしませんので、影武者が動き、本人は部屋に籠っておられるのかと思った次第です…」


「…ですが、影武者殿の姿を追っているうちに、周りで接する者に変化が現われ始めました。特に総督閣下のここの所の変化には驚いておりました。直ぐに部下を怒鳴りつける姿がだんだんと無くなり、労いの言葉すら掛けて下さいます…」


「…そして馬良、お前もこの人が気に入っていたろう?馬良に限らず、兵達にも貴方は絶大な人気があります。その人柄と接し方の柔らかさです。皆、とても監察官とは想えぬと口々に申します。ですから、私もいつしか貴方が本当の太子様で在れば、どんなにか素晴し事かと、想っていたのです…」


伊籍は長い話を終えた。馬良も思い出す様に、所々で相槌を打っていた。北斗ちゃんも伊籍の評価がかなり高い事に、まず驚いた。そして自分の身を心配して、見守ってくれていた事に感謝していた。


彼は伊籍の発した一言目で、既に董允か丞相が知らせている事には、察しがいっていたから、最早(もはや)、種明かしの部分では驚く事は無かったのである。


「( ・∀・)伊籍殿、身に余る評価を頂き、感謝する。貴方は董允殿と知己で在られたか?皆、この僕の事を心配してくれているのだな…有り難い事だ。僕もその期待に応えられる様に、ますます励まねば成らないだろう。良く話してくれた。これからは貴方の力添えも、得なくては成らないのだ。今日は実はそのためにお伺いしたのです!」


北斗ちゃんはそう告げた。伊籍は感慨深げに太子・劉禅を見つめている。彼にしてみれば、あの肥え太った凡庸なイメージがあるだけに、期待を込めて願っていたとは言え、目の前にいる若者が本当に太子様であった事が嬉しくて仕方ないのだ。


彼は今の気持ちを素直に表した。


「( =^ω^)♪御努力されたのですな…その御身体からしてそう察せられます。また董允殿や丞相を唸らせたとも聞いております。かく言う私も、貴方が額に手をやって、汗を拭いながら、懸命に医療に従事していた姿からも、それは判りました…」


「…華侘殿も貴方の飲み込みの早さに舌を巻いておられます。そして貴方の人柄と、その情け深さを尊いものだと仰有っておられた。黄帝(こうてい)に感謝しなくては成りませんな…我が蜀の跡継ぎに、貴方をもたらして下さったのですから…」


「( ・∀・)これ以上は無い御褒めの言葉に感謝する…だけどね、伊籍!僕はまだまだだ。この荊州に来て、自分がどんなにか無知蒙昧(むちもうまい)であったのか、良く判ったのだ。まさに井の中の蛙であった。日々勉強だね?僕は元々は自分に自信が無かった。だからこの荊州に来たのだ…」


「…ほら可愛い子には旅をさせよと言うだろう!努力は一日にして成らずともね…全ては自分を高めるためだったのだけれど、ここに来てから違う目標が出来た。ここは随分ときな臭く、危うく見える。僕の今の目的は、ここ荊州を失陥しない事だ。そのために貴方にも手伝って貰いたい!!」


「( =^ω^)喜んで!そう言う事であれば、幾らでもこの老体をお使い下さい。やれる事は全てやりましょう!」


「( ・∀・)有り難う♪そう言ってくれると思ったよ!」


「否、何…( =^ω^)私は元々そうなればと願っていた口ですからな…想定通りの御方で嬉しかったのです!」


伊籍はその瞳に満面の笑みを讃えた。


「( ・∀・)では早速だが、話しを進めよう!馬良、悪いが貴方から説明を頼む!」


「ええ…(‘∀‘ )承知しております!」


三人は頭を突き合わせて、馬良の説明が終わると、当面の二点の課題に向き合った。


「ふむ…(´ω`)まず狼煙台の人員配置の件については、特に問題は在りません!防衛のみに従事してしまうと、その修練度は上がりますが、時と共にその士気も下がります。これは必然ですからな…」


「…停滞する空気は如何ともしようが無いでしょう!それを新しい(いき)の良い兵で埋めれば、一石二鳥です。この江陵から元気な兵を定期的に送り込み、交代させます。半月ごとにローテーションを組めば理想的ですな!」


「半月か…(^。^;)ちと早くないか?」


「否、否、若君、(´ω`)良ろしいですか?狼煙台の江陵側半分と呉の国境に近い側半分とで、ちょうど同数ずつに担務を分けます。最初の半月は近場…この場合は江陵側になりますが、そこで初担務の兵には、研修を兼ねた訓練を行います…」


「…半月も在れば、十分に感触を掴む事が出来るでしょう。そして充分に馴れた半月後には、より敵に近く、勤務も厳しい国境側で勤務させる流れです。これをまた半月行わせます。こうして約1ヶ月掛けて、一周をこなせた兵達は既に一人前に鍛えられて、次回以降、立派に勤務出来る事でしょう…」


「…このローテーションが確立出来れば、兵にも1ヶ月という交代の期日は理解出来ている訳ですから、士気も下がらず、江陵の兵達がまんべんなく訓練されますし、火急の時にはいつでも戦える事でしょう…」


「…ものの役に立つとはこういう事をいうのです!そしてこのシステムの利点はもう一つ在ります。馴れた兵が多くいれば、緊急時に勤務交代を適正に行えます。例えば、集団食中毒など、有り得ない事では無いのです…」


「…いつでも交代出来れば、こちらも安心ですからな♪それともう一つ。一ヶ月の後には、江陵に戻れると判っていれば、兵のひとりひとりのやる気が違ってきます。あとひと踏ん張りという力が湧きましょう♪」


話を聴いていて、北斗ちゃんは利に適っていると強く感じていた。元々スキルの在る兵同士の交代では無く、依り多くの兵達にその責任と経験を積ませる事が肝と成っている。


平和が暫く続いて、厭戦気分(えんせんきぶん)に陥っているで在ろう江陵の兵達にも、意気高揚と訓練を施す機会を設けようという、なかなかに気の効いた方策である。これは上手く行かない筈が無い。


「成る程…( ・∀・)考えたな!確かに多くの兵達が修練出来て、士気も下がらぬ。おまけにあとひと踏ん張りとはね…素晴らしいな♪」


「(‘∀‘ )若君!伊籍殿!これは一石三鳥の策ですぞ!」


馬良が(のたま)う。


「( =^ω^)ホォ~それは何ゆえかね?馬良殿♪」


伊籍は思った以上の評価を受けて、驚いた様に聴き返した。


「(‘∀‘ )これは若君の受け売りなのですが…」


馬良はそう念を押した上で、言葉を続ける。


「(‘∀‘ )我が荊州兵の中にも、南方の水に馴れぬ者は未だに居ります!兵の健康を維持する上でも、この策は良いと思うのです!♪如何ですか?」


「成る程…( ・∀・)♪それで一石三鳥か!上手い事を言う。それに僕の学んだ事も生きるというものだからね!そうだ♪この際、解熱剤、腹痛薬、風邪薬等の備蓄もする事にしよう!」


北斗ちゃんも嬉しそうにそう言った。


「( =^ω^)後、帰還した者には必ず、一定の休みと手当て、それに健康診断を受けさせるというのは如何でしょう?」


「(‘∀‘ )さすがは伊籍殿♪若君、私もそれに賛同致します!」


馬良がすかさず同意する。


「( ・∀・)それは良いな!兵は大切にせねばな♪二人共良いぞ!良いぞ!」


北斗ちゃんも英断を下す。こうして一つ目の課題はあっという間に解決をみた。伊籍という人が文武両道の人というのは、確かな様である。


北斗ちゃんは二人を眺めながら、心強い味方を得た事に感謝するのだった。

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