災いの種
「(‘∀‘ )私も悪かったのです。観て観ぬ振りをして来たのですから…この際です!ここはひとつ冷静に考え、慎重にその対処方法を話し合うべきだと存じます!確かにこのままでは不味いですからね!」
馬良は二人の間を取り持つ様にそう提案する姿勢を示した。彼の言う事には筋が通っている。そして関羽将軍も北斗ちゃんもそれに異論は無かった。
これは確かに避けては通れない事なのだ。無論、この三人の話し合いだけでは事は解決しない事ぐらいは北斗ちゃんも理解している。
けれども、その端緒に立つ為には、まずここでその膿をまず出し切り、その上で対応を行わなければならない。人と人とが関わりを持つ以上、片方だけが一方的に悪いという事には成らないのだ。
端的に言えば、ひとりで喧嘩が出来ない事と同じ事である。相手の存在が勘に触るから、軋轢は生まれる。どちらが悪いかなんて、検証する必要性はその時々に応じて必要かも知れないが、その結果非難しようものなら鼬ごっこにも為りえる。
或いは、堂々巡りとも言う。時には埒が明かないと表現したり、水掛け論と言ってみたり、千日手などと上手い事を仰有る方も居る。
少し面白いので、この言葉たちの起源について紹介しておこうと思う。
『鼬ごっこ』はあのイタチとは特に関係が無いらしい。調べてみると、江戸時代後期に流行した子どもの遊びに由来しているようだ。
子供達が、『鼬ごっこ、鼠ごっこ』と唱えながら、互いに相手の手の甲をつねって、自分の手をその上に置く。
互いにそれを交互に繰り返す、謂わばその際限の無い戯れ…これが同じ事を繰り返すだけの無益な行為に見えることから出来た慣用句で在るらしい。
一方、『堂々巡り』とは、似たような思考や議論を繰り返して、同じ所を繰り返し、少しも先へ進まない事を表した言葉である。その由来は、僧侶達が祈願の為に何度も御堂の周りを巡る事を指しており、これがその語源と言われている。
『埒が明かない』は、解決して欲しい物事の決着が着かず上手く先へ進まない事、話に成らない事を表している。そもそも『埒』とは馬場の周囲に設けた柵のことである。それを物事の区切りや限界の意味合いで使う様になったと言われている。
『水掛け論』は互いが主張を曲げない為に、一向に進展しない議論の事である。双方が自己主張を繰り返す余り、時間を無駄に費やす事に対しての、揶揄とも受け取れる言い回しで在る。その起源は、互いに自分の田に水を引こうと争う事で在るらしい。
『千日手』とは、将棋やチェス等の対局において、互いが同じ手順を繰り返し、いつまで経っても局面が進展しない状態を言う。
こうして調べていくと、日本語の醍醐味がとても深く感じられて楽しいものである。そして時には、その中からその時の気分に応じて、或いはその話の流れに相応しい表現方法を取捨選択出来る事は、書き手に取って愉しみでさえ在るのだ。
少し話が逸れたが、改めて言葉の意味合いを考えていく事の愉しさを、この機会に感じて頂ければ、幸いである。
「儂( #´艸`)も言い方が悪かったのは認める。儂は剛毅さを尊ぶ。それは皆、承知してくれると思うが、あの二人は打てど響かない太鼓の様な物だ…」
「…儂はこの荊州の総督で在るから、命ずる立場にあるのだが、一向に聞く耳を持たないのだ。そして何かにつけて反抗的姿勢を見せる。そして、矜持だけは高いらしい。ならば堂々と宣えば良い物を、その姿勢を明確にせず、牛歩戦術で対抗して来るのだ…」
「…さらには、自負が在るならば、しっかりとした行動を取れば良いものを、下らぬ失敗を繰り返す。これではこちらもより頭が痛くなる。儂の立場に立てば理解出来ると想うのだが、如何で在ろうか?」
関羽将軍はそう語ると、二人を交互に眺めた。それは二人の理解を得たいという、切実な願いに満ちた言葉の様であった。
馬良はひとまず口を挟む事無く、北斗ちゃんの方に振り向いて、聞く姿勢をみせている。彼は太子の判断に期待している様である。
「Σ=(´□`;)フゥ~何となくそんな事じゃないかとは前々から思っていました…」
「( *´艸`)おぉ♪若は御理解下さるか?」
「(´□`)…そうじゃ無い。爺ぃ~良いですか?貴方は確かに荊州総督だし、二人を監督して指示を出す立場の人間です!でも立場が上で在るからこそ、まず部下は大切になさい…」
「…上に立つ立場で在る以上、好き嫌いで物事を判断したり、人に依って差別をしては為りませぬ。勿論…人である以上、感情には支配される物です。それは判ります。それが人としての業ですからね…」
「…でもこついは真摯な奴だから可愛がる。こいつは気に入らないから怒鳴りつける。そんな事を繰り返していては、物事は悪い方向に向かうだけです。けして良い兆しは現れないでしょう…」
「…人はね、爺ぃ♪相手が自分を嫌っていたり、ましてや敵視されると、けして良い感情は持たない者です。相手に好かれようと、必要以上に謙れと言っているのじゃ無いのです…」
「…立場に相応しい広い心を持てと言っているのです。懐の広い所をみせて欲しいと願っているのです♪上手く言えないのでひとつ喩えを述べましょう…」
「…水は高いところから低いところに自然と流れるものですよね♪老子は上手い事を言いました。上善水の如し…」
「…それは、最高の善は水の様な物である。万物に利益を与えながらも、他と争わず器に従って上手に形を変え、自らは低い位置に身を置くという水の性質を、最高の善の喩えとした言葉です…」
「…相手を従わせるのは強硬な姿勢だったり、強い口調では無いと僕は思うのです。それは部下を常日頃から思いやり、何か困った事があったら相談に来いよ♪って広い心を示す事だと僕は感じています…」
「…人に依っては甘い態度に写るかも知れませんが、まずはそう言う姿勢をこちらが見せないと、人は着いて来ないと思います。将軍は剛毅な御方で部下思いの所も在ります…」
「…それを誰に対しても示す事が肝要なのです。寛容な心を示しても、なおもそれに従わず、足掻く者が在れば、それは相手の資質の問題ですから、諦めねば為りませんが、まずはそういう姿勢をお見せ下さい♪そうすれば必要以上のわだかまりは無くす事が出来るでしょう…」
「…それにね、爺ぃ~♪相手が貴方を尊敬に値すると感じれば、人と云うものは自然と頭が下がる者です。これは部下に対してだけで無く、他国の人に対しても当てはまるものです♪まずはこちらの姿勢を見せる事から始めませんか?如何でしょう♪」
北斗ちゃんはそう述べた。関羽将軍は総督として、この荊州で睨みを利かせる為には絶対的に必要な存在である。彼を外す事は出来ない。だからこそ、その姿勢を改めて欲しい。北斗ちゃんの切なる願いであった。
「( *´艸`)…判った!若君…そう努力すると約束しよう。儂も冒頭で触れた様に、悪かったとは思っているのだ!馬鹿では無いのだから、そのくらいの事は判っていた…」
「…否、貴方と付き合ううちに、そう素直に思える自分に成ったと言うべきかな?貴方の姿勢は、そう願う気持ちと愛情に溢れていた。儂も随分と変わって来たのは、貴方もを感じていたのだろう…」
「…そうでは在りませんか?儂は最近なんだか不用意に怒鳴らなくなったと自分でも感じている。そしてそれは若君のお陰だともね♪違いますかな?」
「(*´-`*)ゞ何だ♪爺ぃもやっぱり判ってくれていたのだな!ならば話は早い。この事は今後の糧として胸に納めてくれたら良いのだ。それで事は改善の方向に向くだろう♪」
「( *´艸`)そう在りたいものですな…」
事は終息するかにも見えたが、ここで馬良が異を唱える。
「(‘∀‘ )しかし…これは私の見立てですが、事は簡単には収まらないでしょう!完全に拗れておりますし、あの二人を素直に従わせるのは難しいかと!反旗を翻したり、敵に寝返らないのが不思議なくらいだと、私は正直思っています!」
北斗ちゃんも勿論、その懸念は抱えている。但し、相手に物申すだけが御政道の在り方だとは思っていない。相手の非を諭す前に、身内の非も改めて、こちら側の膿をまず徹底的に出しておかねば、話は先に進まないのだから。
「(^。^;)馬良…それは僕も承知の上だ!その前に、我々三人の認識として、こちらの非も認めなければ成らないと想っての事だ。だから心配しなくていいよ♪彼らの事は、改めて僕が対応するからね♪そしてその策も考えてある!」
「(‘∀‘ )そうでしたか!さすがは太子様です♪あ、否…すみません、慣れないもので。私も北斗ちゃんに従いますよ♪」
「( *´艸`)おぅ♪儂も従うぞ!只、若君…余り無茶はいけませんぞ!御身は大切な御方♪玉体なのですからな!」
「( -_・)?あぁ…判ってる♪心配するな!僕が対応するとはいえ、きちんと皆と連動は計るつもりだからね…良く聞いてくれ!」
北斗ちゃんはゴニョゴニョと説明を行った。
「(‘∀‘ )へぇ~成る程、それは面白いですな!」
「( *´艸`)ホォ~あの費観が劉璋殿の娘婿だとは想いませんでしたな♪それは確かに妥当な方針ですな♪認めましょう♪」
「有難い♪( ・∀・)では公安の件は早速、取り掛かってみるか?費観にもゴーサインを出しておく事にする…」
「( *´艸`)…で南郡の糜芳はどうします?」
「( ・∀・)あぁ…ひとまずは士仁の件を片してしまおう…糜芳叔父の件はその後だ。ちと糜竺叔父にも相談したいのでな?」
「( *´艸`)あぁ…若はまだこの荊州では、糜竺には会っておられないですからな!あやつには今、公安と南郡を周らせておりまして、間もなく帰還するでしょう♪」
「( ・∀・)へぇ~それで会わなかったんだね?為らばそれは帰還してからだな♪爺ぃ~帰還したら僕も一緒に会いたい!宜しく頼むね?」
「( *´艸`)無論ですとも♪是非その様に成されませ!」
「( ・∀・)助かる♪ではそうしよう…当面はそんな所かな?また公安の決着が着いたら、その先の事は考えようか?但し、今日の課題には早速、取り掛かってくれよ!」
「(‘∀‘ )判っておりますとも♪取り敢えず伊籍との橋渡しをしなければ♪後は彼とやれる事を進めておきまする♪」
「( ・∀・)頼むね♪」
「( *´艸`)おぅ…儂は趙累に命じて、魏に探りを引き続き入れさせよう♪そして当面は兵の教練だな!あと、儂に出来る事は相談に乗りますぞ♪これで宜しいのですな?」
「(*´∀人)うん♪爺ぃ、有り難う!後、この機会に趙累も紹介してくれ!」
「( *´艸`)そうですな♪承知しました!」
「( ・∀・)良し!今日はこんな所だろうね♪内容の深い話し合いが出来て良かった♪費観たちには僕から話して情報の共有は計っておこう!」
「(‘∀‘ )忙しくなりますな!でも充実して私も遣り甲斐を感じていますよ♪」
「( *´艸`)儂もだ!愉しくなりそうだのぅ~♪」
こうして三人の話し合いはひとまず終わった。荊州の頑強な橋頭堡構築に向けて、その目的は走り始めたのである。