人としての在り方
北斗ちゃんは、関平の時の二の舞いは御免と、直ぐに彼を抱き取めると、目に留まった水差しをぶっ掛けた。本来はとても非礼に当たる事は承知の上だが、今倒れられたらとても困る。
万やむを得ない思議であった。馬良は我に返ると直ぐに、北斗ちゃんと将軍の顔を一往復させた。(゜Д゜≡゜Д゜)゛?将軍は若君の思い切りの良さに手で顔を覆っている。
「貴方が太子の劉禅様…( 。゜Д゜。)」
彼は一人言を呟く様に呆けて想わず口にする。
「うん!(*゜ー゜)そう♪でも仲間は皆、北斗ちゃんて呼ぶから宜しくね♪」
馬良は反動で「承知しました!」と口にしたものの、言っている意味は、正直良く判っていない。そもそも、そういう問題では無い。彼ら配下の者からすれば、いち監察官だが、珍しく話しの判る良き仲間として接してた者が、あの劉備様の御子の阿斗様だというのだ。
ぶっちゃけ彼は目ん玉が飛び出るんじゃないかと思った程だったのである。落ち着きを取り戻した彼は、想わず我に返り、「御無礼の段、平にお許しを!」と言って跪いたが、頭に地を着ける瞬間に関羽に阻止された。
彼は背後から将軍に両肩を掴まれて引き起こされたのだった。想わず背後を振り向いた彼は、関羽の優しげな表情に触れて戸惑いを見せる。彼はそんな表情の将軍を見るのが始めてだったので、ゴクリと喉を鳴らした。
「止めよ!( *´艸`)そんな事は若君が喜ばれぬ!今まで通り接するのだ、良いな!」
関羽将軍はそう告げると、ガッバッハと笑い出す。
「( *´艸`)そんな事では秘密は守れぬ…そう言っているのだ!心配しなくても、長生きすれば、必然的に跪く事に成るから安心せよ♪」
馬良はようやく事の次第が飲み込めたのか、手を後頭部に持って行くと、ポリポリと掻きながら苦笑いした。北斗ちゃんは今後、何か別の手立てを考えなければと、切実に感じていた。
『(^。^;)毎回、この調子だとさすがに困る…』
そう彼は想ったのである。さて、禊を経たので、北斗ちゃんは改めて、話の続きを二人に述べた。
「( ・∀・)まず趙雲の事は一旦忘れよ♪彼は成都の自宅で病気療養中である…皆もそう想っておいてくれ!」
「ガッハッハ( *´艸`)!趙子龍が仮病とはな…あいつも真面目な顔して、やる時にはやるのぅ~♪こいつは愉快だ!儂は奴を見直したぞ♪」
関羽は高らかに笑った。
「将軍!(^。^;)彼は病気でここには居ないんだから、くれぐれも呼び出し禁止だかんね?勝手に利用もしないでくれよ!彼は僕の守護者なんだからね?まぁ、子龍は真面目だから心配はしてないんだけど…念のためね♪」
「何だ!( *´艸`)若、儂はそんなに信用無いかね?」
将軍は少し寂しそうで、目に哀愁が漂っている。
「否…(*゜ー゜)そんな事無いさ、馬鹿だなぁ、爺ぃ~♪」
「若…( *´艸`)」
そんな二人を見ていて、馬良は不思議と冷静な自分が戻って来た気がして、鼻白んで見ていた。
『(T∀T)あ~超絶、面倒臭ぇ~♪』
当の御本人も苦笑していた。彼は気力を振り絞って先を続ける。
「(*゜ー゜)狼煙台の弱点は今のうちに補ってしまおう!陸側の死角は松明を増やして解消しておく。まずはそこがひとつ…」
「…そして夜間の勤務交代は禁止せよ!陽が落ちる前には交代を完了させる事にしよう♪完全に住み分けすると夜間の人間に負担が掛かるから、無理の無い交代計画を策定したい!出来るかい?」
「(‘∀‘ )あぁ…それなら尚書の伊籍殿の知恵を借りましょう?彼は内務全般に目を光らせていますから、人事の梃入れも上手ですからね?何か良い方法を考えてくれます♪」
「( ・∀・)あぁ…荊州に来た初日に見掛けた方だね?名前だけは僕でも知ってるぞ♪あの方は父上が蜀攻略の折に貢献された方のひとりだったはずだな?左将軍まで勤めた方の筈だが…武官ではないのだな?」
「(‘∀‘ )あぁ…伊籍殿は文武両道の御人!器用な方なのです♪丞相の願いでここに戻って来られて、内務全般を観ておられます。元々私もあの方からの推挙で劉備様に出仕致しました。信用出来ます♪」
「( ・∀・)じゃあ…それで良かろう♪宜しく頼むよ!この際、適材適所に人を振り分けて置く事も大事だからね♪僕も近々彼に話を聞いてみたい♪」
「(‘∀‘ )えぇ…お引き合わせ致しましょう♪この際、彼もこちらに引き込めば、話は早いかも知れません…」
「( ・∀・)そうだね♪彼なら信用出来るかもな…」
「(‘∀‘ )えぇ、それはもう♪かなり気骨のある御仁ですからな…太子の人と成りが判れば、喜んで協力してくれる筈です♪」
「( ・∀・)頼む♪」
「(‘∀‘ )ハハッ♪」
「( ・∀・)それと狼煙台については、ひとつ面白い仕掛けを作る…耳を貸せ!」
北斗ちゃんは二人に耳打ちする。
「そら、面白そうですな…( *´艸`)」
「(*´▽`)確かに良い案かと!」
二人もニヤニヤしている。こんな悪戯が出来るのも、こういう時の副産物であり、醍醐味と 言えるだろう…計り事や準備も愉しく進めた方が捗るに違いない。
「(‘∀‘ )ところでこの際です!陸路そのものには手を加えないのですか?」
「(*゜ー゜)さすがは馬良殿!貴方はやはり大した御方だ!それはね…子龍が考えてくれると言っていたから、彼の事だ!今頃既に取り掛かっているだろうね♪有言実行してくれると助かるよな?まあ、仕掛けを御覧じろってね!」
北斗ちゃんは嬉しそうにそう答えた。
「さて…(*゜ー゜)いよいよしんどい部類の話しになって来るけど、これはさすがに処理しておかないと不味い事になるだろうよ!」
彼はそう宣うと、議題を伝えた。
「(*゜ー゜)僕のこれまでの見立てだと、江陵城内は落ち着いて観えるが、今後大事な事は、この城と公安城、そして南郡が、果たして守るに足る兵の適正基準をまず満しているかどうか、次にこちらが出撃する時に、残留させる兵の数も試算しておくぞ!当然それに足る武器、兵糧の量も数値化する!」
「(*´▽`)それは今まで有るようで無かった基準ですな…地味な作業ですが、面白そうです♪是非、私にやらせて下さい!どうせですから、こちらの案件も伊籍殿の御力添えを頂きましょう♪宜しいでしょうか?」
「( ・∀・)そうだね!貴方の判断に任せるよ♪」
馬良が立候補したので、彼に任せる。まずは信じて任せる事だ。そこがしっかりして居ないといけない。勿論、任せる以上は責任は伴う。それはこちらで取るより無い。
『(*´-`*)ゞまずは隗より始めよ…か!あの言葉は思いの外、深いな…でもこうして事が進み始めた。ありがたい事だな…』
『隗より始めよ』は戦国策という書物に掛かれた戒めの言葉である。
戦国七強の中では一番弱小と言われた『燕』の君主であった昭王が、賢者の求め方を配下の郭隗に尋ねた時に、彼が回答した言葉である。
『賢者を招きたければ、まず凡庸な私(郭隗)を重く用いて大切になさい。そうすれば私より優れた人物が自然と集まって来る筈です…』とそう答えた故事である。
『隗より~』の隗は郭隗の名前から取られたものである。やがて郭隗の読みは当たり、趙からは政治家の劇辛、斉から陰陽家の鄒衍、さらには当時、魏に居た中山国出身の楽毅も参じて来た。
そして燕は次第に国力を増していった。その結果として、燕の昭王は辱しめを受けた斉を滅亡寸前にまで追い込む事が出来た。
大事を為すには、まず身近な事からコツコツ始めよ。或いは、言い出した者から実行せよ。そういう戒めの言葉である。そして人を大切になさいという意味も込められた言葉であろう。
北斗ちゃんはまず自らの姿勢を戒めて学び、ダイエットにも取り組んで来た。そして部下を大切にしながら、人脈の輪を少しずつ広げて来た。そうする事で信頼を得て来ていた。そしてこの荊州の防衛に着手する今、改めて人と人との信頼関係の重要性を認識して居たのである。
「では…(^。^;)そろそろ一番の核心に移るので、真剣に聞いて欲しい!」
北斗ちゃんは想わず唾を飲み込む。この言葉を発してしまえば、言葉はひとり歩きを始めるかもしれない。ここは慎重には慎重を期して、進めねば成らない。彼はそう感じていた。
「( ・∀・)この荊州を防衛するためには、その地の重要性をもっと深く認識しておかねばならない。つまりこの場合は、江陵を中心とした公安・南郡との連携強化が必須だと僕は感じている…」
「…この三角関係は、それぞれを守る橋頭堡としての役割を担わねば成らないと想うのだ。その為には、常に連携し、連動し、認識を共有して、その役割分担をそれぞれが全うせねば成らない…」
「…鯔のつまりはこの三角関係が、常に信頼で繋がり、固い絆で結ばれていないといけない。その一ヶ所でも綻びが出ると、強固な関係が崩れてしまい、敵に付け入る隙を与えてしまう事になると僕は想うのだ…」
「…そこで今敢えて問うが、公安城と南郡との連携は万全と言えるだろうか?連動性は保たれているだろうか?信頼関係は損なわれていないだろうか?御二方はどうお考えですか?」
北斗ちゃんは敢えて、士仁や糜芳叔父の名指しを避けた。まだ彼らの言い分を聞いた訳ではない。だから生半可な思い込みや噂を鵜呑みにして、悪い奴と決めて掛かる訳にもいかない。
人には色々な物の考え方がある。その姿勢や思想が違うからといって、それを批判したり、排除したりする事が果たして正しい事なので在ろうか?
世の中、確かに付き合い難い相手がいる事は確かな様である。それは相性の問題も在るだろうし、時には礼を欠いた態度によるものも在るだろう。
意見の相違なども関係しているかも知れない。生理的に合わない事もある。さらに言えば、最初に会った時の印象を引き摺っての事であったりする事さえある。
ちゃんと向き合えば、或いは落ち着いて話し合えば、案外それが互いの誤解であって、割りと良い奴だったりするものだ。
人は人である以上、自分の気がつかない色々な癖を持っている。『無くて七癖』なんて言うが、自分でも気がついている悪い癖も在れば、時には自分で気がついていない癖もあったりするものだ。
そしてそれを直そうと懸命に努力する者も居れば、克服出来ない者も居るし、努力すらしない者も居る。
本来、人と付き合う時には、それを受け入れてやる事から始めなければ成らないだろうが、これがなかなか難しい。或いは面倒だと感じる者もいるだろう。
一対一の関係性で在れば努力出来るかも知れないが、大勢の人と付き合う世の中において、それをいちいち実行するのは難しい。
為らばそのまんまのその人を受け入れてやり、その人の良い所を見つけてやる事から始めた方が良いのかも知れない。
人と人との意見の交換や触れ合いは、一種の化学変化の様なものだ。他人と交流する事で、自分の非に気づかされたり、時には自分の気がついていなかった長所を引き出してくれたりする事さえ在るのだ。
だから人生は面白いと想う瞬間も在る。そして相手の良い所を見つけると、案外感情移入して放っておけなくなったりするものだ。
これはとても不思議な感覚だと想うのだけれど、それが人間の感情であり、人間そのものだと想う事もある。
それとは相反する感情として、一度許せないという感情が芽生えると、それに抗う事が出来なくなるという側面も人間は抱えている様な気がしてならない。
全く関係の無い第三者から見れば、それはとても稚拙で未熟な者に写る事だろうが、それに気がつき、改善しようと考える道程のなんと長き事で在ろうか。
人はそれぞれが自分の人生を精一杯生きている。自分の道を決めるのは、最終的には自分自身では在るが、可能な限り他人と認めあって、自分も相手も切磋琢磨して成長し合える関係性を築きたいものである。
「( ;´艸`)それは儂と士仁、糜芳の関係性を示唆した御発言で在りましょうな…」
関羽はそう述べると『やれやれ…』という表情を見せた。馬良は日頃から頭を悩ませているので、核心に触れた言葉に躊躇をみせており、押し黙っている。
将軍の姿勢に異を唱える事も無く、二人の態度を正す訳でも無く、曖昧な状態で放置していた自分自身にも非はあると彼は考えていたからである。
この若い太子は、そのデリケートゾーンに敢えて踏み込んで来たのである。それは恐らく、その事を解決しなければ、この荊州が守れないと考えての事に、違いは無かった。
馬良もようやく遅巻きながらも、ここに覚悟を決めたのだった。関羽将軍もそう思っている節があり、先程からの和やかな雰囲気とは違って、表情を強張らせている。
片やの太子も涼し気な顔で、冷静そのものの様だった。まずは二人の意見を聞き、自分の意見を述べる。その上で、今後の方針を決めたい。そう思っている様に感じられた。
「(^。^;)そうか…将軍はそう自覚が在るのだな?為らば否定はしない。この荊州を守る為には、まずそこから始めねば成らないと僕は想うのだ♪仮に他の全ての準備が万端で在ったとしても、その事が解決出来なければ、この荊州は持たないだろう…否、準備どころか早晩陥落の憂き目に遇う事に成るかも知れないのだ!」
北斗ちゃんは沈着冷静にそう述べた。彼の瞳には覚悟を決めた人の揺るがない決意が滲んでいた。