立場の違い
北斗ちゃんは既に一つの思惑を抱えている。まずはそこの摺合せと趙雲の将軍としての判断が一致するかが焦点と成るだろう。
勿論、費観や費禕の判断も参考にしたい。だからこそ彼らを伴って来たのだ。趙広の若い頭にも期待している。この三人は恐らく将来、自分の小飼の配下と成るだろう。そう期待していた。
「( -_・)子龍…貴方は何か考えが在りますでしょうか?」
ひとまずは自分本意に成らぬ様に、長年の経験と見識を持つ将軍を立てる。そもそもどこの君主も似たような事をしている。但し、大抵の場合、どこの君主も『善きに計らえ!』がその主たる目的ではある。
「( ̄^ ̄)若君…私を立てて下さるのは嬉しい。配下の意見に耳を傾ける姿勢は将来的に国の行く末を担う立場の人にはなくてはならないものですからね!しかしながらこの場合は甚だ難しいでしょうな。この荊州は関羽将軍が総督…私の任に非ずです。しかも私は本来的にここには居ない存在ですからね…その件に関してはご遠慮するしかないでしょうな…」
成る程…言われてみればその通りではある。
「(^。^;)将軍は本国で病気療養中だったな…」
「( ̄^ ̄)その通りです!」
確かに趙雲の言うことは正論である。建て前はそういう事には為っている。けれども彼は確か董允の兵を5千預かり、あまつさえ丞相から兵を5千引き出している。さらに趙雲を信じてなければ張嶷を新たに派遣したりしないのでは無かろうか?
『( ; -_・)大人の対応って事なのね…』
北斗ちゃんはまだ若いのでそこら辺の機微は分からない。趙雲の長年の経験に基づく作戦を期待していただけに少しがっかりする。彼は大人の狡さなのかな?とふと想う。
ところがここで費禕が動く。彼は「若君…お耳を拝借…」と言って彼の耳に口唇を充てるとゴニョゴニョと呟く。
『若君…趙雲殿は難しい立場です。彼は自分の役目を心得ているだけであり、逃げている訳では御座いません。彼は関羽将軍とは義兄弟も同然ですし、その立場を越える事を躊躇うのは当然の事です…』
『…しかも丞相からも正式に権限を与えられている訳では在りません。その丞相でさえ前面に出て来ない秘密裏の行動なのですからね。配下とはその立場を越えない事を美徳としており、それを越える事は主を蔑ろにする行為に他成らないのです…』
『…皆がそんな事をし始めたら国の根幹が崩れます。この事を良くお考えになり、決断、行動されまする様に♪』
成る程…費禕の言葉は正論であり利にかなっている。趙雲はその立場を鮮明にしただけであって、この場合、あくまでも北斗ちゃんの言葉には従うが自分の気持ちは抑えたいという事の様である。
『( -_・)確かに…当然の反応なのだな。僕は太子だから多少の権限はあるが、彼はそれすらも越えられない立場に在るのだ。その気持ちは尊い。どうやら僕の考え方が間違っていたようだ。申し訳ない事をしたな…』
『…しかも趙雲は陛下…即ち父上の股肱の臣だ。ただでさえ難しい立場ではある。既に父上と私の狭間でその立場は揺れ動いているのだし、義兄弟同然である関羽将軍の権限をも侵す事に二の足を踏むのは当然の事だろう…』
『…ここはあくまで僕が意志を鮮明にして、彼らを動かす他無いという事か!まぁ僕自身も権限の逸脱を計る事にはなるが、そこは丞相もその手腕に期待しての事ではあるだろうから、ここはひとまず僕主導で彼らを動かすほか無いだろうな…』
北斗ちゃんはようやく大人の機微の根幹に触れて、何となくでは在るが、理解に漕ぎ着けた。
「( -_・)趙雲悪かった。謝る…、費禕お前も良くこの私を諭してくれた。礼を申すぞ♪ここはやはり僕の考えを伝えて、その上で意見を聞こうと思う。それならば問題無いのだろう?」
「( ̄^ ̄)お分かりに成られたか?それで良いのです♪さすがは若君…何なりと仰せられませ!」
「(*^∀^)御理解頂き嬉しゅう御座います♪御指示を承りましょう♪」
「(*゜0゜)私も従いますぞ♪」
「(* ^.^*)私も!」
「( -_・)…まずこの虞翻という男は厄介な存在だと思う。この文を読んだだけでもその叡知が窺えるだろう。私は公安太守の士仁という人は知らんので何とも言えないが、叔父上の糜芳は良く知っている…」
「…叔父を悪く言うのは甚だ遺憾であるし、長幼の序を尊ぶ事の意味合いは費禕にも教えられている。確か孟子の言葉だったな!だがそれを敢えてここでは置く。そうしなければ話が先に進まないのでな!やむを得ないだろう…これは皆も判ってくれる筈だ♪」
北斗ちゃんはそう言って一旦言葉を切った。皆、それぞれが頷く。やむを得ない事は皆、承知している様である。それを確認した後に彼は言葉を続けた。
「( -_・)叔父上は父上の股肱の臣では在る。それはつまり長年労苦を共にして来たという意味だが、特にこれといった手柄が在った訳では無い。地味に付き従って、たまたま妹が父上の后と成った事で一目置かれる存在と成っただけの人である…」
「…鯔のつまりはその忠誠心だけが頼りの御方なのだ!だから南郡を任されている。そう言っても過言では在るまい。しかしながら、この所のあの御方は関羽将軍と折り合いが悪い。つまりはだ…」
「…長年の付き合いにも拘わらず、関羽将軍という人の性格を理解しておられない。しかも関羽将軍と張り合おうとさえ為さっておいでの様だ。恐らく自尊心の為せる技なのだろうが、これでは本末転倒だな…」
「…無論、関羽将軍も必要以上に彼を下に観ている所は悪いとは想うが、それだけ彼が打てば響くという手合いでは無いからだろうね…つまり笛吹けど踊らずといった所かな…」
「…本人がそれを自覚していればまだ良いのだが、如何せん矜持の塊の様な所があるのだ。つまりは意固地だという事になるかな…だから追い詰められると何を仕出かすか判らない不安定な存在という事になる…」
「…今はまだ彼の立場が危うくないから虞翻の誘いに乗らないだろうが、もし仮に何らかの状況の変化が在ればどうかな?彼の忠誠心とは残念ながらその程度のものだと僕は感じている…残念だけどね!」
「( ̄^ ̄)…話は判りました。私も恐らくはそう思います。丞相でさえ、今はそうお思いかと!但し、荊州を預けられた時にはまだ、関羽将軍と糜芳将軍は関係が悪く在りませんでした…」
「…しかも蜀を得て、地盤を持つ事が陛下には最優先課題だったのですから、荊州に残す人材には、他国に睨みが効く関羽将軍という稀代のカリスマを充てるほか無く、忠誠心第一で後の人材は埋めるより他に手が無かったのです…」
「…力の在る将軍を連れて行かねば蜀を得られないとの陛下の御判断も在り、当時は丞相ですら荊州に残っていた訳ですから、問題は無かったのでしょう?また当時は龐統様が存命でしたから、蜀の攻略はあの方に委ねられました…」
「…龐統様が落鳳坡で亡くなる事がなければ丞相が手当てをする事も出来たのでしょうが、急遽丞相は蜀に向かわれたため、今もその状況のまま現状維持体制と成っております。ここで大切な事は非の無い人物を更迭する事は出来ないという事でしょうね!」
趙雲の意見はもっともな事である。確かに何の失策も無く務めている人が、凡庸な人であり、裏切る可能性があるからと言って即時更迭する訳にはいかないだろう。
『( -_・)…思っていた通りの反応だったな!それが聞きたかったのだが、仕方ない。方針を示すほか無いか…』
北斗ちゃんも自信が在る訳ではない。だが、このままの体制では恐らく荊州は守れないだろう。
「( -_・)そう言えば…士仁という人はどんな人ですかね?」
「( ̄^ ̄)…士仁殿も股肱の臣のおひとりですな!あの方は劉備様に寄り添って来られた方ゆえ今の地位に在りますが、やはり関羽将軍とは折り合いが悪い様です。その姿勢も糜芳殿とさして変わりは在りませぬ…」
「( -_・)え!そのなの?それってかなりヤバいじゃん…事は叔父上だけでは済まないのか…それは困ったな。しかも公安て江陵の要にあたる要衝じゃなかったっけ?」
「(;^∀^)左様です…しかも先の蜀主・劉璋殿とその次男である劉闡殿がいらっしゃいます!」
「( -_・)へぇ~!あれ?それって人質としてって事かな?立場はどうなのかしら?」
「(;^∀^)え?知らんのですか…劉璋殿は公安太守!劉闡殿はその太守を輔佐されております。士仁殿は元々彼らが荊州に移される前に公安を任されていただけであり、正確には太守では在りません。但し、兵権は士仁殿が握っております。太守の目付の様なものですかな!」
「( -_・)う~ん?そうなのか…知らんかった!じゃあ僕の策はちと当てはまらんかもなぁ…叔父上だけなら何とかなると思ったんだけどね…」
「(*゜0゜)…あの!すみません!」
「( -_・)ん?何だい…費観?意見があるなら遠慮無く言ってくれ!その為に連れて来てんだし!」
「(*゜0゜)…それって士仁の兵権をどうにかすれば済む話ですかね?例えば兵権を劉璋殿に持たせるとか?」
「( -_・)?…否、否、だってそれって先の蜀主から権限を奪って、荊州預かりにした謂わば傀儡の太守な訳でしょ?だから士仁に見張らせているんじゃないの?士仁が信用出来ないからと言って、依り信用の置けない人に兵権委譲してどうすんのよ?」
「(*^∀^)あぁ…成る程!そういう事か♪若君…これはもしかしたら上手く行くかも!」
「( -_・)ん?費禕…どういう事なんだい?」
「(*^∀^)劉璋殿は費観の義理の父なのですよ♪つまりですなぁ…費観の奥様が劉璋殿の娘さんなのです!」
「Σ(゜Д゜ υ)え?そうなの??」
「(*゜0゜)…まぁ、そう成りますかな?我が費一族は元々、益州の族人ですからな、しかも劉璋様とは縁が濃いのです!」
「( ̄^ ̄)そういう事か!それなら話は簡単ですな…まぁ多少の根回しは必要ですが…」
「( -_・)そんな都合の良い事があるのね…世の中、捨てる神あれば、拾う神ありとは良く言ったものだな!こりゃあ驚いた♪まぁ嬉しい驚きだけどね?」
「(*゜0゜)…もし仮に劉璋様を説得して、その忠誠を若君に誓わせる事が出来れば、大きな味方と成りましょう♪劉璋様さえ説得出来れば恐らくは劉闡殿もお味方になる筈…そうなれば兵権は安泰と言えます!呉がすり寄って来たとしても心配無いでしょう!」
「( -_・)成る程…上手く行くかもな!これは思わぬ誤算だが有難い。まず劉璋殿の説得から入って、理解を得た後に、策を使って士仁を公安から切り離すとしよう♪わだかまりは持たせたく無い。何か餌を用意しないといけないね?」
「(*^∀^)その前に関羽将軍への根回しも要りますな!荊州の人事権は彼に在ります♪むしろそこが一番厄介かと!」
「( -_・)…だよねぇ?これはさすがに僕がしないといけないだろう。やってみよう!まずはそこからだな…」
「( ̄^ ̄)まだ多少の時間的余地は在ります…焦る事の無き様に!私はその間、南郡と公安を引き続き見張るとしましょう♪」
「( -_・)…頼む!また何か動きがあったら知らせてくれ!後、そのなんだっけ?虞翻だっけ?彼の事をもっと知りたい。後、呂蒙将軍の事もだ!色々頼んで申し訳ないが、宜しく頼む!相手の人と成りが判らなくては対処のしようが無いからな!」
「( ̄^ ̄)お安い御用です♪手分けして事に当たりましょう!」
「(*゜0゜)…私もご提案が!劉璋様を説得する前に、劉闡殿に然り気無く誘いを掛けてみましょう!義理の弟ですから、私が呼べば来るでしょう。如何ですか?」
「( -_・)あぁ…成る程、それはいいかもね?だが慎重にな…まだ私の存在は明かさぬ様に♪」
「(*゜0゜)…勿論♪それは承知しております!」
「( -_・)判った…任せよう♪」
「(*゜0゜)ハハッ♪」
「(*^∀^)私も同族ですから、その時には私も同席致します♪」
「( -_・)そうだな…許す!」
「( ̄^ ̄)それにしても南郡の御方はどう為さるおつもりですか?」
「( -_・)あぁ…これは策という程の策では無いのだが…糜竺叔父が関羽将軍の幕僚のおひとりだからな…彼に会って相談する事にしたい…私の独断では決められぬ!糜竺の許可を得てからまた決意を述べる事にしたい…今日の所は以上かな…」
北斗ちゃんはそう言うと席を立った。ひとまずそれぞれの取り組みの方向性は出来た様である。荊州動乱に向けた準備はこうして端緒に着いたのだった。