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降伏

「判った!⁽⁽ღ(・ᯅ・٥)そういう事ならもう何も言わん。私は公安砦の城主として、武陵太守である君の意向を追従するだけだ。それで良かろう。私は良いが、君は若君に対してどう申し開きするつもりだ?こんなやり方は若君ならけしてお認めにならんぞ!」


費観は結局のところ了承した。否、了承せざる逐えなかった。


なぜなら陛下と丞相の決定である以上、覆す事は不可能だからである。彼がここで感情に任せて反対しても、既に事が決している以上、元には戻らない。


歩隲も長沙太守として決意した上での申し入れだろうから、覚悟を固めてやって来るのだ。


彼が歩隲を何とか懐柔しようと色々と考えている内に、費禕は長沙ごと根刮(ねこそ)ぎ手に入れる策を考えていたのだから、その尺度の違いに彼は脱帽していた。


人ひとりでは無く、州ごとかっさらうという物の考え方からして、大極の見方が異なるのである。それは人としての器の違いも感じさせたのだ。


「否…特には何にも!(ღ*^⌓^*⊹)申し開きなどする必要すら無いな♪君ももう少し骨のある奴だと想ったが、存外だらしないの一言だ。そんな甘ちゃんでは今後、ものの役に立たんぞ!少しは現実を見ろ♪時は待ってくれんぞ!」


「余計なお世話だ!(ღ・ᯅ・٥)私は自分の本分は貫いている。君の横槍は受けんね♪必要外の干渉は辞めて貰おう。君の才は私も認めている。今回の事も城主としてきちんと追従した。文句無かろう?」


「あぁ…(*^⌓^٥⊹ღ)文句は無いね!これで私も安心して歩隲と交渉出来る。君は嫌なら同席しなくてもいいよ!後はこちらで対応しよう♪」


費禕は諦めるようにそう言った。すると費観は不服を申し立てた。


「いゃ…ღ( - ・ ٥ꐦ)そうは如何(いか)ん!私は公安砦の城主として歩隲殿と最後まで向き合う。参加させてもらうよ!」


「そうかね…(ღ*^⌓^٥⊹)では認めよう。だが異論は狭まないでくれよ♪交渉は大守としてこの私が行う!」


「あぁ…ღ( - ・ ٥ꐦ)言わんさ!好きにしたまえ!!」


その空気感の重さといったら無い。遂に張翼は居たたまれなくなって口を狭んだ。


「文偉殿!⁽⁽ღ(。-_-。٥)貴方らしくも無い。さっきから聞いていたら、まるで貴方は今回の事を自分だけでしょい込むつもりのようだが、それはどうかと想うぞ!」


彼の言葉には懸念が感じられたから、さすがの費観もすぐに反応した。


「伯恭殿!Σ(ღ - ・ ٥)それはいったいどういう事だ…」


すると張翼ははっきりと告げた。


「私を甘くみないで欲しいな!(ღ。-_-。٥)あんさんひとりが悪者になれば、事は丸く収まると考えたんでっしゃろ?勿論、あんさんが考えた秘策なんは判る。それが(あか)しに、無血開城するため必死になって考えたんが良う判るからや♪けどな、それをやるんが賓伯はんの気持ちを逆撫でする事もよく判ってはった。だからあんさんだけで事を進めた。最終的に自分が悪者に成る覚悟さえしとれば、済むんやからな!おそらく丞相もその覚悟を問うたんやろ?で、あんさんは自分の覚悟を示したんやな?だから丞相も決済に進んだ。そういうこっちゃ!」


「何を馬鹿な事を!(*^⌓^٥⊹ღ)そもそも大守になった時に、そんな覚悟はとっくにしている。今に始まった事じゃ無い!」


費禕はスパッと斬った。けれども今まで沈着冷静だった男が少し感情的になっている。


費観もさすがに可笑しいと感じたので口を狭んだ。


「待て!待て!⁽⁽ღ(・ᯅ・٥)穏やかじゃ無いな。伯恭殿♪どういう事だ!」


張翼はここで存在感を示した。


「文偉殿!ღ(。-_-。٥)貴方がここのところ、鎮痛剤を隠れて飲んでいる事は知ってます。多忙な身の上、どこか身体を痛めているのかと貴方の武官に問い質すと、どちらかというと心の病だと言う。私は貴方がそもそも仁義に厚い御方なのは知ってます。自分の心と裏腹な行動を成し遂げるために、誰にも話さず決済されたのだと感じました。まぁ色々な事柄を踏まえて、今さっき判った事ですがね?」


張翼も興奮を抑えてそう告げた。彼も興奮するとついつい地が出る。


「おい!Σ(ღ - ・ ٥)そうなのか?」


費観は質した。すると費禕はそれを認めた。


「仕方無いさ!(*^⌓^٥⊹ღ)それが大守というものだ。長沙は長年の宿願だ。けれども歩隲殿はやり手だった。荊州は三國の係争地だが、特に呉と蜀では熾烈な争いが続いて来た。今ここで少しでも有利に立って於いて損は無い。そもそもどんな状況下であれ、見棄てて良い地など在るまい!それだけさ♪」


すると費観は吐息をついた。


「判った♪ε- (・ᯅ・٥ღ)そうならそうと言えば、この私だって支持したものを!全く、君という人はどこまでも繊細な男だね♪悪者に徹するタマかよ?たまには頭を下げる事も学びたまえ!その方が余程、費文偉らしいぜ♪」


費観はそう言って手を差し出した。仲直りの印だった。費禕はその手を握り返した。


「やれやれ…ε- (*^。^٥⊹ღ)打ち明けるのがこんなにも楽な事だとはな!今後はそうさせて貰うとしよう♪それにしても、歩隲の件は本当にこれでいいんだな?」


費禕がそう質すと、費観は笑った。


「何が意見が聞きたいだよ♪ꉂꉂღ(٥ - ・ *)君はさっきそう言ったよな?何か端から君の手の平の上で、踊らされていたような気分だよ♪伯恭、君だってそうかも知れんのだぜ?」


費観は今度、その笑みを張翼に向けた。


「えっ!Σ(ღ。-_-。٥ )そうなんでっか?そらぁ一杯食わされましたなぁ…」


張翼が照れたようにそう吐露したので、二人はプッと吹き出した。それに連られて張翼も笑った。


先程の重たい空気はいつの間にか、いつもの和やかな雰囲気に戻っていた。三人は改めて手を重ね合って会見の成功を果たすべく、一致団結する事になった。


"雨降って地固まる"それを地で行く機会と成ったのである。費観も歩隲と向き合う覚悟を固めていた。そして若君と向き合う覚悟もであった。




結局、会見の場には費禕と費観で臨む事になった。張翼は歩隲が会見に臨む間に、同行して来る直属武官たちの世話をする事になった。


切羽詰まった武官たちが単身、激発しないとも限らない。これはこれで重要な役目と謂えた。


そして当の歩隲は時間よりも少し早目に公安砦に到着した。彼にとっては被災民を受け取りに来て以来の砦であった。


歩隲はとても降伏を申し出に来た男には見えなかった。けして憔悴(しょうすい)しているような無様さは見せず、終始堂々としていた。


それが少しは費観の心の(なぐさ)めと成った。けれどもやはりと言うべきか、歩隲は費観には一切笑顔を見せなかった。というよりは費観を視線から外し、一切見ようとはしなかった。


彼は被災民を返した時の、えもいわれぬ歩隲の笑顔を今でも忘れていない。だからこそ出し抜かれた事に対しての、歩隲の心の在り様をつぶさに感じるのだ。


『(ღ - ・ ٥ꐦ)彼は怒っている、そして悔やんでる。そして民に対して申し訳無いと自らを(ののし)っている…』


費観はそう感じていた。だから歩隲がどんなに自分を批判しようとも、受け入れなければならないと想った。


自分は耐えなければならない。最早、この期に及んで自分に出来る事はそれしか無かった。


会見は申し入れた方から話し始めるのが筋である。この場合は歩隲からという事になる。


勝者はいつの場合でも高見の見物であり、相手の出方を窺って、こちらの出方を決めるものだ。費禕も挨拶を述べると、「(ღ^⌓^⊹)今日は何か?」と告げた。


散々ぱら仕掛けておいて、「(ღ^σ^⊹)何か?」も無いもんだが、この場合はそうする他に無い。何しろ相手は進む事も退く事さえも、最早出来ない袋公路に迷い込んだ憐れな子羊なのである。


救いの手を差し延べる事が出来ない以上、その申し入れを聞いてやり、こちらの条件との折り合いを見出す以外に道は無かった。


歩隲はまずこう述べた。


「ε- (´^д^ღ٥)こんな事を願い出るのは本末転倒ですが、我々の窮状をお察しあって、助けて頂きたいのです!」


「ほぉ~!(ღ*^⌓^*⊹)具体的にはどういった事ですかな?」


費禕はあくまでも努めて冷静に訊ねる。聞いていてその態度も姿勢も口調さえも歯痒(はがゆ)い。


費観はチラリと歩隲を覗き見る。けれども意外な事に歩隲は口を真一文字に結び、堪えている。そしてその瞳もけして輝きを失っていない。


『殺生な事だ…(ღ - ・ ٥)』


彼はそう感じていた。


自分ならすぐにでも交渉に入るだろうに、費禕はけして慌てない。手順通りに相手からの窮状を聞き、それに対する条件交渉に持ち込む腹である。


これはこちらから求めた事では無く、あちらからの申し入れによるもので、当方は救いの手を差し延べただけである。


そういう体裁をとっておけば、最悪孫呉側と後々揉めた場合でも、その正当性は主張出来る。


これが仮にも同盟中ならそうもいかないが、そうでない限り、切り取りの方法は多岐に渡るという事になる。


戦で勝利するのもそのひとつだが、今回のように策を用いて追い詰めて行き、相手から身売りさせるというのも立派なそのひとつなのである。


これは一見、単なる兵糧攻めのように写るかも知れないが、そうでは無い。元々費禕の策は相手の心を攻めるというものであった。


兵糧攻めの形を造り上げたのは、あくまでもその条件を整えるためであり、相手からの譲歩を引き出すためのものであった。


それには本国からの支援が得られない事が絶対条件だが、士燮から大量の米を借り入れている時点でそれは(おの)ずと察せられた。


否…この場合はその逆だろう。むしろその情報から辿り着いた策だったと謂ってよい。


本来在り得ない事柄のように感じるが、こうして条件さえ整えれば、隔絶した地で無くとも兵糧攻めの形を成すのは可能なのである。後は才量と行動力、そして見極めという事なのだろう。


歩隲にとって不幸だったのは、復興したばかりで本国に余裕が無かった事、そしてこの三つの力量を示す事の出来る費禕という男が隣り同士に存在した事であった。


その費禕の言葉が歩隲に重くのし掛かる。互いに嵌めた、嵌められたという事は承知の上での会見であり、交渉である。


それを廻りくどく、判り切った手順を踏むというのは、何も歩隲だけが辛く苦しい訳では無い。


それに付き合う方もしんどいのだが、後々起きる抗議の芽を事前に摘んでおくためには、必要な事だったのだ。


彼はだからこそ歩隲の返答を辛抱強く待っている。歩隲は覚悟を決めて口を開いた。


屈辱であった。


「お恥ずかしながら、もはや州庫にも蓄えが無く、このままでは実りの秋までとてもじゃないが持ちませぬ!ღ(´*^д^ *٥)どうか慈悲の心在らば、お助け頂きます様に、お願い申し上げる次第です!」


歩隲は真摯な態度でそう願い出た。自分の建て前を(つくろ)ったり、言い訳がましい事は一切、言わなかった。


費禕は手を(アゴ)の辺りに置きながら、少々考えを巡らせている。彼は既にどうするのかは決めていて、然して手間取ったり、今さら考える事などまるで無い。


場合によっては譲歩も在りと、複数の条件すら頭の中に入れておき、いつでも切り換えるつもりであった。


けれども、彼も必要以上に恩を着せたり、嫌味を言う趣味は無いので、ひと呼吸置くと話し始めた。


「ふむ、お申し出の件は、しかと受け賜りました。実はですな、歩隲殿!ꉂꉂ(^ᗜ^⊹)長沙には劉表様の時代より、我々の陣営に属する者たちの所縁(ゆかり)も在るのです。ですから、密かに支援の輪を広げておりました。具体的には人をやり、復興を手伝わせていたのですがね?」


然り気無く、恩を着せる事と事実を、同時に臭わせる事を忘れない。そしてこの場合、『それが原因』とか『そのせいだ』とか、こちらの非に繋がる事は、一切言わないのが味噌である。


要はあくまで善意の姿勢を見せる事が、大事なのである。


「そういえば、長沙は孫権様の御尊父・孫堅様の生地で御在ったな?ε- (*^。^٥⊹ღ)先祖代々の所縁(ゆかり)の地をお見捨てになるとは、孫権様も無慈悲な事ですな!」


この場合、『それに比べて…』とは口が裂けても言わない。既にそう言っているようなもんだから、これ以上強調すると角が立つ。


費禕は既成事実を完全に言い終えると、こう伝えた。


「判りました♪ღ(*^。^*⊹)我々は敵対する陣営同士とはいえ、元々は同じ荊州の領袖(りょうしゅう)です。私と歩隲殿との間にも過去に何の遺恨も御座らん!ならば、同じ荊州の中で助け合うのは当然の事。但しですな、晋の恵公(けいこう)の如き不誠実な対応では、こちらも困るのです。私は秦の穆公(ぼくこう)ほど人間が出来ていませんのでね♪」


費禕はそう告げた。


これは事実上の救済宣言と謂える。だから歩隲は『ひとまず助かったε- (´^д^ღ٥)』と吐息をついた。


けれどもそれと同時に、只では済まない事も理解していた。費禕が引き合いに出した故事は、史記に司馬遷が著したものだったのである。




春秋の時代に、中原(ちゅうげん)に股がる一大強国を築いた晋という国が在った。後に戦国時代に入ると、魏・趙・韓に別れたために三晋(さんしん)と呼ばれるように成る国である。


少し後にこの国は文公(重耳)という稀代の名君を輩出するが、恵公とはこの文公の一代前の晋の君主であり、実弟でも在る。


これにはその前提としての事情が在った。詳しい事はこの話に関係が無いので割愛するが、晋の恵公の時代、晋は大飢饉に見舞われた。


その時に隣国である秦の穆公(ぼくこう)はこれを助けた。大量の米を送って、大国・晋を救ったのである。


そのお陰で晋の民は救われる事になったのだ。当然、この時は恵公も感謝の意を示した。


ところがこの話はこれで終わりでは無い。翌年、今度は秦が大飢饉に見舞われた。


当然の事ながら、穆公(ぼくこう)は晋の恵公に助けを求めた。すると恵公はそれを拒否したばかりか、征服の機会(チャンス)と捉えて攻め込んで来たのである。


これぞまさに『恩を仇で返す』を地で行く振舞いであった。




費禕はこの故事を引いて、歩隲に示したのである。何とも粋な男であった。


当然、歩隲もその意図には気づく。


『私は穆公(ぼくこう)ほど人間が出来ていない』


即ちこれは、善意だけでは支援しない事を意味する発言なのだ。但し、見返りを求めている訳では無い。


どちらかというと、相手の覚悟を問うているのだ。だから考えようによっては、それよりも重い言葉であった。


歩隲は覚悟を決めて来てはいたものの、想わず生唾を呑み込む。そして言った。


「判っております!⁽⁽(´^д^ღ٥)どうせこのままご支援無くば、我々は飢死か野盗に成るより在りません。飢死は避けたい。そして野盗は美しく在りません。それに一部の者しか恩恵を受けず、命の危険にも民を(さら)します。そして何より秩序が崩壊します。それだけは何としても阻止せねば為らないと想ったのです。我々はこれまで精一杯、抗いました。それは自負している。ですから全面降伏致します!」


歩隲は遂に降伏を宣言した。覚悟を問うた費禕の言葉にその覚悟を示したのである。


"降伏"は考えられる限りで一番重く、また一番潔い選択だった。費禕は遂にコクりと首を縦に振った。そして答えた。


「歩隲殿!⁽⁽(*^。^*⊹)善くぞご決心なされた。只、今一度確認させて欲しい。後々揉めると我々も困るのだ。それは貴方の判断か、それとも皆の総意か、どちらですかな?」


非常にくどい質問であるとは思う。けれども慎重に石橋を叩いて渡る事が、この場合の費禕には求められたのである。


歩隲も頷くと、すぐに答えた。もはやその口調はあっさりしたものだった。


「はい!⁽⁽(´^д^ღ*)皆の総意であり、私の判断です♪」


すると費禕も笑顔で告げた。


「判りました♪!⁽⁽(^ᗜ^⊹)では貴殿方(あなたがた)を歓迎致そう。我が陣営にようこそ!」


二人はそして堅い握手を交わした。

【次回】雨降って地固まる

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