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忍び寄る影

午後になると費観と費禕が連れ立って迎えに来た。北斗ちゃんは結局、午前中は弎坐に付き合って面倒をみてやっていたので、遅めの昼食を取っている最中だった。


「(*゜0゜)お食事の最中でしたか…これはすみませぬ♪」


「( -_・)あぁ…構わない。」


「(*^∀^)お待ちしますのでごゆっくり為さって下さい♪」


「( -_・)すまないな…ちと予定がずれ込んだ。」


「(*゜0゜)承知していますから御心配無く…」


二人は別室にて待機してくれたので北斗ちゃんは慌てずキチンと食事を済ませる。少しでも油断するとリバウンドが気になるので、節制した食事を心掛ける。


偏食やドカ食いは辞めて久しいが油断大敵なのだ。食事を済ませると、二人に声を掛けて連れ立って出掛ける。


関羽将軍に誘われて以来の遠乗りとなる。将軍からは再三、文官達が使用する馬車を一台提供する旨の申し出を頂戴していたが、その都度、丁重にお断わりしていた。楽をすると(ろく)な事は無いし、体調管理上も良い事は全くと言っても良い程に無い。


将軍も遠乗りの際の僕の騎乗振りを御覧になっていて、これは確かに不要であると認めたらしい。それからは一切馬車の件は持ち出さなくなっていた。


費観は将軍だから馬の扱いに手馴れているのは当たり前だが、費禕も乗るだけでなく、馬を追って走らせる事が出来たので、今回の遠乗りも愉しいものと成る。


え?僕はどうかって?!それは勿論、乗る事は当然としても馬を追って走らせる事も出来るし、馬上で剣を交える事すら可能なのだ。何しろ僕に馬を教えてくれたのは、あの趙雲だ!


だから、それぐらいは出来るよ。まぁ、裏を返せば、そう言い切れる程の過酷な訓練を受けた事になる。出来なければ、あんなに献身的に教えてくれた彼に、申し訳が立たないのだ。


子龍先生は常に真剣そのものだし、僕も彼が本腰を入れてくれるまでは、ダイエットに成功出来なかった訳だから、その取り組みの中で、彼の指導を素直に受け入れる下地が出来ていたのだろう。しかも、彼はこう(のたま)わったのだ。


「( ̄^ ̄)若君!御褒美に馬の乗り方を教えて信ぜよう…♪」


当然の事ながら僕は大喜びだ♪体型的に無理(ヾノ・∀・`)だった頃には適わなかった事だから、素直に喜ぶのは自然の反応だろう?それに何を言っても『御褒美』なのだ!


ところが次の瞬間入った横槍によって僕は現実の厳しさを知るのだ!


「(o^ O^)シ彡☆北斗ちゃんこれで馬に乗りながらの剣技や学術も学べますぞ♪道中かなり楽に成りますな!」


(~▽~@)『……アハハハハ』


費禕は恐らく僕の為を想って言った事だったのだろう…勿論、当時は遅々として進まない行軍を如何に解決するかが至上命題だったのだから、やむを得ず僕も頑張った♪


誤解の無いように言っておくが、趙雲や費禕には感謝している。僕自身も良く努力したと思う。


ところが、この時から僕は『御褒美』と聞いたら、『トレーニング増し増し!』という幻聴が聞こえる様に成った。その良し悪しは敢えてここでは言うまい…まぁ悪い事ばかりでは無いからな!




まぁ世の中は絶えず良い事、悪い事の繰り返しである。この場合の良し悪しは無論、"自分にとって"という断わりが付く。良い事があった時は素直に嬉しい。それはみんなもそうだろう?


僕も嬉しい。でもね…自分が嬉しい時には、その影で不利益を被って泣いている人が居ないとは言い切れないのだ。そしてその嬉しい事の経験が実際に、次の悪い事を引き起こす遠因に成らないとは言い切れないのだ。


逆に悪い事があった時には辛いし、悔しいし、心が折れそうになる時もある。そんな時は僕だって腐りそうになる。そんな時に幸せそうな人を見ると恨めしく想ったり、(うらや)みや(ねた)みが沸くのが人間の(さが)だ。


でも不思議な事に、その苦しい時の経験がまた新たな良い出来事に繋がる時もあるのだ。フフッ…何が言いたいんだって?そうだな…だから良い事があった時には素直に喜び、悪い事があった時には腐らず前を向くのが良いって事かな…。


偉そうに聞こえるかも知れないけど、そうじゃない。これは実際に僕もまだ判っている訳ではないのだ。今の自分がそう思っているに過ぎないのだ。


でも少なからず経験の中で、どうにもならない事を憂いてやったり、軽はずみな慰めをしても、けして良かった試しはない。そっとしておいてやるのが一番なのだ。


もし本当に気の毒に思って声を掛けるのならば、最後まで付き合ってやる覚悟が必要な気がする。中途半端な気持ちならば辞めておいた方が良い。


人は弱い生き物かも知れないが、けして立ち直れない生き物でもない。勿論、どうにもならなくて自ら死を選ぶ人もいる。でもその人達だって心の中に躊躇(ためら)いが全く無かったとは思わない。


もしかしたら立ち直る切っ掛けが無かったとは言い切れないのだ。心を強く持つ事は難しい。けれども絶望の中にも一筋の光を見いだせたなら、その先の未来には明るい希望が待っているかも知れないのだ。


自分を信じる心はきっと先の未来を明るく照らしてくれる。そう信じて前を向くほか無いのではないだろうか。




三人は馬を励まし、広大な平野を駆ける。草原は爽やかな風に包まれて、肌に心地好い。風を切るこの感触は馬を制御し、走らせる事の出来る醍醐味のひとつだろう。


「( -_・)つけられていないな?」


「(^ー^)大丈夫でしょう?辺りは見渡す限り草原で隠れる所はありませんからな…予定通り無事合流出来るでしょう!」


「(*^∀^)まぁ…心配要りません。待ち伏せしようにも我々が行く先を知る者は居ませんからな!」


「(^。^;)そう願うよ…隠し玉は繊細な立場だからな…最悪、切り札を切る時までは隠し(とお)したい!」


「(^ー^)まぁ…あの御方は下手を踏むお人ではありませんからな♪心配無いかと!」


「(^。^;)そう、願いたいな♪」


彼らの行く手には森の入り口が見えて来る。そう彼らは荊州に来た折りの集合地点に間もなく差し掛かる。彼らの目指すのは、趙広が待機していた森の中であった。


左右を森に挟まれた小道をひたすら突き進む。すると、その先にひとりの若者が待ち受けていた。趙広である。三人は手綱を引いて馬を減速させる。


「ヒヒ~ン…ブルルルッ♪」


馬は(いなな)きながら、若者の前で止まった。趙広は笑みを称えながら、拝手している。


「若君♪お待ちしておりました…」


「( -_・)あぁ♪御苦労様!」


「(*^.^*)こちらにどうぞ…ご案内します!」


「( -_・)頼む…どうだ!皆、その後だいぶ南の気候には慣れたかな?病人は出ていないか?」


北斗ちゃんはついつい医者としての顔を覗かせる。否、もしかしたら単に配下を想う主人としての自覚かも知れないし、または仲間を想う絆…所以なのかも知れない。


「(*^.^*)えぇ…若君の持たせて下すった煎じ薬のおかげで、皆健康を維持出来ております…だいぶ水にも馴れましたので、大丈夫かと!但し、念のためご指示通りに煮沸した飲み水を飲ませております!」


「( -_・)ならば良い!河の水には目には見えない"(きん)"と言うらしいが、それがうようよいるからな…なぁに身体の中で悪さしなきゃ問題はないが、用心に越した事は無いからな♪」


「(*^.^*)そこは父の訓示が行き届いておりますから懸念には及びませぬよ…」


「( -_・)そうだったな♪どうも僕は心配症のようだ!気にしないでくれ…」


「(*^.^*)否、我々の事を想っての事です…嬉しゅう御座います♪」


「(*゜0゜)趙広殿、無理を言ってすまんな…」


「(*^.^*)…否、否、費観様!父も骨休めの機会と喜んでいますゆえ多少の待ち時間など問題在りませんよ!南にも変わらず兵を半数以上割いておりますし、丞相の計らいで、新たに張嶷(ちょうぎ)とその精兵二千を加えて九千名を密かに展開させておりますから心配ないかと!」


張嶷(ちょうぎ)は益州巴西郡の人でこの年、24歳。若き才能を買われて、丞相から派遣されている。二千名も彼が手掛けた精鋭の騎馬隊である。


そのため趙雲は趙広を伴い、安心して三千の精鋭騎馬隊を再び、ここ江陵に連れて来ている。費観の連れて来た九千名の増援兵は、関羽将軍に渡してしまったが、その後、太子を守る名目でうち三千名は太子直属の兵と成っている。


つまり、この時点で趙雲の持つ董允の私兵五千と丞相から借りた五千、新たに張嶷が持ち込んだ二千、そして太子直属の三千の兵で、彼らチーム北斗ちゃんが動かせる兵の総数は一万五千に及ぶ。


そのうち騎馬兵の数は趙雲精鋭の三千、張嶷精鋭の二千、そして太子直属の千であるから、その内訳は騎馬六千、歩兵九千という事になろうか?


これだけの数が不意を着けたなら、戦場に於いても大きな影響力を持つ事に成るに違いない。だからこそ秘匿しておく必要があったのだ。


「( ̄^ ̄)…若君♪御無沙汰しております!おや♪また一段と(たくま)しゅう成られましたな…これは重畳(ちょうじょう)!この機会に感謝せねば成りますまい♪」


趙雲であった。彼は報告のためにここ江陵に戻って来ていたが、先の誘拐事案の折りに費観の要請に応えて、太子一行の解放まで見守ってくれていたのである。


「( -_・)子龍…昨日は無理を言って済まなかったな♪おかげで安心して事に当たる事が出来た。感謝するぞ♪」


「( ̄^ ̄)フフッ…太子は相変わらず無茶な御方だ!でも今回のは悪く在りませんぞ♪人の命の尊さを御理解されたか…私は嬉しかったのです!ですから喜んで参じました…お礼には及びませぬ!」


趙雲がいみじくも語ったのは、荊州に行くと言った判断や馬に自らを括り付けた暴挙を指す。けれども、それも経験のうち。正しい判断が成された場合には、例えそれが端から観て暴挙であったとしてもその信念で貫けば良い…そう言っているのだ。


『( -_・)さすがは子龍よ!僕の事を良く理解してくれている。彼を無理にでも引っ張り出して良かったな…』


北斗ちゃんは趙雲の存在にとても感謝している。彼の存在はそれだけ大きいと謂えた。


「( -_・)さっそくだが、報告を聞こうか?」


「( ̄^ ̄)そうですな…ではあの木陰の下にて語り合いましょう♪おい…手筈は良いな?」


「(*^.^*)えぇ…父上、各所には配下を散らせて在ります!善からぬ者どもが近寄る術は在りませぬ!」


「( ̄^ ̄)宜しい…では若君!それに費観殿、費禕殿、どうぞこちらにお座り下さい♪」


木陰の下にはちょっとした机と椅子が何脚か置かれていた。全て木を削って組み立てた趙雲達の力作である。


「(*^.^*)茶を用意致します!少々お待ちを♪どうか森林浴でお(くつろ)ぎ下さい♪」


趙広はそう言うと、その先に作られた小屋に入って行った。この小屋も先の滞在の折りに、調理場として彼らが造り上げた物のひとつである。さらに奥には趙雲や趙広が寝起きする大きめの木造りの家まであった。


「( ̄^ ̄)探ってみた所、ちと厄介な事に成っております!虞翻(ぐほん)の手の者がここの所、再三再四、訪ねて来ている様です。今の所は糜芳殿も士仁殿も門を閉ざしてお会いになってはいない様ですが、その後も手紙を送りつけるなどまめに繋ぎを取ろうとの姿勢を崩しません…手紙のひとつを入手した事でそれが発覚したのです!これです…」


趙雲はその書簡を北斗ちゃんに差し出した。


因みに虞翻(ぐほん)とは揚州(ようしゅう)会稽郡(かいけいぐん)の人である。御歳55歳…気骨のある人ではっきりと物を言う人なので主君・孫権には余り好かれていない。呂蒙将軍の立っての願いで今はその下で働いているという。


「( -_・)へぇ~文才のある方の様だな…関羽将軍には面と向かって敵わないので南郡や公安から崩しに来たか…やれやれ魏も呉も水面下での動きは進行している様だね!油断の成らない事だな…」


「( ̄^ ̄)ん?魏とは?」


「( -_・)あぁ…昨日の間諜達は魏の奴等だった。費禕が気がついてくれたのだ!」


「( ̄^ ̄)"そうなのか?」


「(;^∀^)えぇ…徐州訛りがあったのです…」


「( ̄^ ̄;)そうか…青州兵崩れかも知れんな!成る程、お前は丞相と親しくしておるからな。それにしても魏までとは?きな臭く成ってきましたな…」


「( -_・)あぁ…しかしながら、叔父上や士仁がまだ弄絡(ろうらく)されていなくて安心した。多少の良識はあるらしい…まだ打つ手は在りそうだな?」


「( ̄^ ̄)えぇ…この際、その辺りを話し合っておき、共通認識を持っておく必要があると思ったのです…」


「( -_・)確かにそうだな…少し時間を掛けて考えるとしよう…」


北斗ちゃんはそう言うと改めて趙雲を見つめた。その存在感が彼の心を安堵させて、冷静な判断力を研ぎ澄ませていた。

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