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暗黙の了解

費観は余りにも若君が大袈裟な反応を示した事で戸惑う。特に彼に非がある訳では無いが、止めなかった手前、少々罰が悪い。


先に行かせた事がそんなに不味(まず)い事だったとは彼も想いもしなかったから、冷や汗を()く。すると潘濬が見かねたように口を開いた。


「✧(• ຼ"•ꐦ)若君、宜しいではありませんか?どうせ現地で会うのですし、少々辛抱なされませ。費観殿が困っておられますぞ!」


「いゃいゃ…ღ(°ᗜ°٥ღ)✧そういう事じゃない!」


北斗ちゃんは直ぐに否定する。


今度は潘濬が戸惑う番である。費観と顔を見合わせながら互いに若君の意図を探るものの、特に想い当たる節は無い。


となれば当然の帰結として本人に尋ねる他に道は無く、行動を起こそうとしたその時であった。ふいに田穂が横槍を入れる。


「(ღ`⌓´*).。oO ならばアレじゃ無いっすか?ほら、先程からあっしらを誘導してるあのキュッキュ君の事では??」


二人はそう言われて田穂の指差す先を眺める。そこには大空を気持ち良さそうに舞う大地が居た。


二人はその是非を確かめようと次に若君に視線を移す。すると北斗ちゃんは待ってましたとばかりに同意を示した。


「そうだよ!(•́⌓•́๑)✧だって可笑しいだろ?傅士仁の所在はアレが道標(みちしるべ)なんだよな?それなのに張嶷の奴はどうやって先に行くんだ!判るように説明して貰えないか?」


プリプリと怒るその頬は膨らんでいて、まるで駄々を捏ねる子供(ガキ)である。


否…そもそも子供(ガキ)なのだが、日頃との格差(ギャップ)があり過ぎるゆえに、改めて認識させられる所以(ゆえん)であった。


「成る程…⁽⁽ღ(・ᗜ・*)」そういう事でしたか?」


費観は納得したようにそう呟く。そして指摘した田穂の方をチラリと眺めると目配せしてから説明を始めた。


「若君…ꉂꉂღ(・ᗜ・*)傅士仁殿が大地を遣わしたのは親心なのでしょう。若君もご存知のようにそもそも大地は貴方を見失わないように追尾するよう訓練された鷹です。何がしかの問題が生じ、貴方が単独行を余儀無くされても、必ず道標となってくれます。貴方が辿り着くための案内役にもなり、我々が貴方の所在を探り当てる目印にも成るのです。今回若君の従者が少ない事を危惧(きぐ)した傅士仁殿なりの配慮だと言えましょう♪」


費観はこの背景にあるだろう状況を的確に捉え、一つ一つ丹念に材料を拾い集めた結果としてそういう結論を述べた。


視野が広く、当時の状況も知る費観ならではの説明には重みがある。潘濬や田穂ではそうも行くまい。


何故なら彼らは当時の事を知らないからであった。


「何だ…✧(๐•̆ ᗜ •̆๐)そういう事だったのか?傅士仁の奴め!小憎らしい事をする…」


若君は口は悪いが、その口許には笑みが浮かぶ。不意に当時の事を思い出すような含み笑いである。


そんな若君を眺めながら潘濬もようやく全体像が見えてくる。鷹を遣わし案内させるというそんな廻りくどい方法を取らざる逐えなかった傅士仁という将軍の念の入った配慮を想い、敬服していた。


『Oo。.(ღ• ຼ"•ꐦ )余程、若君の事が大切なのだな…』


潘濬は今さらながらも若君と繋っている仲間ひとりひとりがそれぞれにしっかりとした絆で結ばれているのだという事を如実に感じていた。


『(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 僕らはチームだ!』


若君は事ある(ごと)にそう口にする。この団結力こそがチーム北斗ちゃんの本領が発揮される時なのである。


その若君は配下を仲間だと固く信じている。そして一度信じたら最後まで信じると公言して止まない。


潘濬は想う。


『(ꐦ •" ຼ •).。oO 我々が若君を信じて着いて行く限り、この先もどんなに危機に直面しようとも必ず乗り越えられるに違いない。我々の団結力とはそういう事だ!チーム北斗ちゃんとは仲間の絆なのだ♪』


若君の喜ぶ顔を見つめながら、費観も満足そうに頷いている。潘濬はそんな二人を眺めながら、絆こそが我らの強みと改めて感じていた。


「おい!潘濬♪|• •๑)”ㄘラッ」


不意に声を掛けられ彼は応える。


「✧(• ຼ"•ꐦ)何ですか、若君♪」


すると若君は嬉しそうに答えた。


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 仲間っていいな?最高だな♪」


そんな嬉しそうに言われると潘濬も想わず苦笑する。でも彼も嬉しかった。


「そうですな♪(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ 私もそう思います…」


潘濬は感慨深げにそう応じた。


それを眺めながら費観も再びコクリと頷く。絆はさらに深まり、和やかな雰囲気に包まれる。


田穂も場が収まりをみせた事に安堵していた。彼はチラリと空を見上げて"大地"を見つめる。


キュッキュ君も嬉しいのかクルリと施回し、ジグザクに飛ぶ。


『はて…(ღ`⌓´*).。oO』


田穂はポカンとそれを見続ける。呆けたように見ているとそれはやがて完成したらしい。大地は再び滑降を始めた。


空にはちょうどいい感じのハートマークが出来上がる。少なくとも田穂にはそう見えた。そしてそれはまるで彼らを祝福しているように想えた。


『まさかな…(ღ`⌓´*)』


田穂はゴシゴシと目を(こす)る。


再び見上げた空にはもう無く、広く青い空が続くのみであった。


「おい!(*゜ー゜)田穂、何をしている。出発するぞ♪」


若君にそう声を掛けられた彼は、想わず空を指差し、今見た吉兆を告げようとしたが、止めた。


そんな事をしなくても彼らの絆は固く太い。田穂は慌てて騎乗すると、三人を追う。


「ε-ε-ε-(*`⌓´٥)੭ ੈねぇ~待って下さいよ~♪」


甘えるような仕草で声を掛ける田穂に、若君は答える。


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 早くしないと置いて行くぞ!皆で競争だ♪」


そう言われた田穂も負けじと皆に並んだ。四頭の馬は仲良く並んで先に進む。その少し先を導くように大地が飛翔していた。




しばらくの時を経て、おもむろに若君が口を開く。


「お~い!費観♪(๑•́⌓•́).。oO それはそうと張嶷はどうして知ってんのよ?」


まるで想い立ったように唐突である。不意に話が和やかに流れたせいか煙に巻かれたように感じたのかも知れない。


確かに傅士仁の美談は大地の説明にはなっているものの、張嶷の単独行の説明にはなっていない。つまり若君の問い掛けに対する答えには少々辛い。そういう事であった。


何しろ気がついたら梃子(てこ)でも動かない若君の事である。その好奇心を充たしてやる必要があったのだ。


「ハッハッハ♪ꉂꉂღ(・ᗜ・*)そういえばそうでしたな!いゃ別に他意は無いのです。若君は張嶷殿に流民の世話をさせていたでしょう?」


費観はふと一計を案じてそう尋ねた。話しは順序立てて進めるに限るからである。


費観も様々な経験の中で相手を引き込む話術を自然と学んでいたようだ。諸葛亮から問い掛けの妙義を学んでいたのは何も若君の特権では無いという事になる。


特にこの費観は若君を荊州に送り届ける役割を担わせるために、孔明がいの一番に白羽の矢を立てた男なのだ。一番弟子としての力量を大いに発揮して来た事も納得である。


「うん♪(๑*´° ᗜ °๑)੭ ੈ✧桓鮮に拾わせ田穂の仲介でまず南郡の張嶷が(バトン)を受け、公安城主の君に渡す。張翼は劉巴への繋ぎを担う。鞏志がその人達を持ち場に振り分ける。だいたいそんなところかな?」


若君は費観の話しに自然と乗る。言葉の掛け合いは彼らにとっては日常の出来事だから手間は惜しまない。


相手の話しには真摯に耳を傾け、的確に応える。それこそが若君の真骨頂である。


もちろん費観もそれを承知で話しを振っているから、直ぐに反応する。潘濬も興味津々と聞き入っている。


田穂はまた始まったぐらいの(おもむき)で口許を僅かに歪めたのみであった。彼には常に周辺警戒の責務が付き(まと)うのである。


「その通りで♪…⁽⁽ღ(・ᗜ・*)若君は流民の方々を自分の民として受け入れ、彼らを地に根付くための事業に参入させています。彼らだって作業に携わり努力した結晶として、河川整備が完了すれば、一大事業を為し逐げたゆえに愛着が沸くはず。若君はそこまでお考えなのですよね?」


費観は自らの見識を示し、若君の真意を言い当てる。そして褒めながらも再び問い掛ける事を忘れない。


張嶷の事を認めている彼としてもここはきっちりと理解を得ておきたい。それまで主導権を握っておくための彼なりの工夫であった。


若君もどうやらその辺りの事にようやく気づく。けれどもこれはどうしてもひっくり返さなければ為らない程の局面でも無いので、全てを承知の上でそのままその流れに乗り続ける事にしたのである。


「へぇ~さすがだね♪(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ費観、君も成長しているんだな!その通り…一言一句、間違っていないよ♪でもそれがこの先どう繋がるのかな?なんか愉しくなって来たな!」


若君は益々話しに乗ってくる。それを受け、費観はここで指針を示すようにさらに問う。


「✧(・ᗜ・*)若君は運河を構築しての海洋交易を提唱しました。おそらくそれは、あの漢江氾濫時に活躍した大型船の力を実際に目の当たりにしたからでしょう?だから傅士仁殿を海軍総督にして全てを委ねた。それは彼が若君の事を良く理解出来る人物だった事もその大きな理由なのでしょうな?」


「うん♪(∗˃̶ ᵕ ˂̶∗)またまたその通り!ここまでは完璧だね?でっ!どうなるんだい?」


最早(もはや)ちょっとしたおとぎ話を聞いているくらいの感覚に陥る。費観はここでようやく重い腰を上げるようにそれに答えた。


「ღ(・ᗜ・*)傅士仁殿は大工を始めとして、実際に操船させるための水夫や水兵も鍛えておいでです。つまり人手がいるのですよ!その手法も若君に倣って踏襲しておられます。先に鍛えておいた水兵に新人を教えさせる。そういう事です!張嶷殿は桓鮮殿から受け取った者達の中で向き不向きを的確に判断して傅士仁殿に人材を流していたのです。それが答えです!」


費観はそう伝えてから若君の反応を伺うようにチラリと眺めた。


北斗ちゃんは少し考え込むような仕草をみせている。


それは今まで早指し碁の如く対話に挑んで来た姿勢とはうって変わり、まるで長考に及んでいるが如し(おもむき)であった。


そしてようやくニコリと微笑むと悦に入った様に言葉を返す。


「話しは判った。(* •ᗜ•)⁾⁾ 苦労を掛けるな♪後で張嶷も(ねぎら)うとしよう。でもな、費観!まだ先があるんだよな?僕も君に倣って今まで聞いた事柄から予測を立ててみた!聞きたいかい??皆も聞きたいだろうね!」


北斗ちゃんはほくそ笑む。


費観はコクりと頷いた。


『ホホゥ…(ღ・ᗜ・*)』


彼は感心している。否…おそらくはその事を若君が看破するであろう事も想定内であったのだろう。


だからこそ、言い終えた後に若君の反応を伺っていたのである。それは彼の好奇心と懸念を併せ持つものであった。


勿論、北斗ちゃんも只者では無い。費観の所作から“まだ先がある”と踏んで考え込んでいたのである。費観の洗練されたところは最後に相手に華を持たせる事にある。


彼は北斗ちゃんにとっての師のひとりでもあるから、荊州への道行きではかなり自信をつけて貰ったものであった。


そんな経験から話しを聞いていた北斗ちゃんも当たりをつけたのだろう。師の期待には応えなければと彼は率直に告げた。


それを潘濬も田穂も固唾を飲んで見守っていた。


「まず始めに言っておく!✧(๐•̆ ᗜ •̆๐)君の懸念を(はら)っておきたい。心配するな♪僕は前向きな奴は好きだし、興味を持つ事がどんなに素晴しい事かも判っている。だから褒めこそすれ、怒らないさ!それで安心してくれるかい?」


「えぇ…⁽⁽(・ᗜ・*)仰る通りです!さすがは若君ですな?感服致しました♪」


費観は()も感心したように頷いている。二人の間ではこれで話しは済んでしまった。


けれどもそれでは真険に耳を傾けていた潘濬や田穂は収まりがつかない。だから怪訝な顔つきにもなる。


費観はそれを認めた上で若君に先を(うなが)した。これで自分の役目は完了と胸を撫で下ろす。


「若君!ღ(・ᗜ・*)私も貴方も碁を(たしな)む癖が抜けないようです。どうも先を読み過ぎるのですな!二手、三手と先読みして答えれば、他の者は困るというもの。ここはひとつ種明かしをされては如何ですかな?」


「そうだね♪(๑>؂•̀๑)" 才をひけらかすつもりは(さらさら)々無いが、久し振りに君と向き合ったのだ。僕の成長振りを見て欲しくてな、ついつい先走った。皆も悪かった。では種明かしといこう♪」


北斗ちゃんは一呼吸置くと話し始める。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ簡単に言うと、張嶷は人の斡旋(あっせん)だけで傅士仁の許に通っていたのでは無いのさ!おそらく今後は三番艦の船長をも担うつもりなのだろう。これは皆は知らぬ事だが、彼はこの費観を尊敬して止まない。彼が二番艦の船長だと通う内に知ったのだろう。だから自分もその気になったのだと想うぞ!海軍の業務に携わる者は傅士仁の創設した"桃の種"の組識に名を連ねる必要があるのだ。この費観もメンバーの一人なのさ!どうだい?図星だろう♪」


北斗ちゃんはそう言ってから、然り気無く人指し指を口許に置いた。


費観は(うな)るように目を見開く。そして言った。


「…⁽⁽(・ᗜ・٥)仰る通りで♪ですからこの私が居れば、大地は休ませてやっても良かったのですが、傅士仁殿から若は大地が苦手だと言われていたものですからね。奴も大空を滑空していた方が気が楽だろうと想い、成るに任せました。元々あくまでも不測の事態の保険ですからな!」


費観はそう言い終えるや、胸を軽くポンポンと叩いた。


後の二人も『そういう事か!』とようやく胸を撫で下ろし、納得したようである。


潘濬はそんなやり取りの中で何げなく違和感を覚えたものの、その確信は無く、気のせいかと想い済ませた。


けれども田穂は目敏(めざと)く気づく。何しろそれは初期メンバーしか知らない暗号(サイン)だったからである。


何より田穂が二人に伝授したのだ。


という事は当然の事ながら自分にバレる事は想定内だろうから、(とど)のつまりは潘濬に気づかれないようにするための煙幕と考えるのが妥当である。


人指し指を口に当てる仕草は『黙ってろ』という意味であり、胸を二度ポンポンと叩くのは『了解した』という事になる。


田穂ももちろん彼らが何を隠しているのかについては全く知らない。


けれども今ここでそれを行うという事は、この先で何やら良からぬ隠し事を行おうとしている事だけは明らかだった。


彼は嫌な予感を(ぬぐ)えず、顔を(ゆが)めた。


『やれやれ…(ღ`⌓´٥).。oO』


田穂は深い溜め息を漏らした。彼は然り気無く横目で潘濬をチラリと眺める。


『気の毒な事だな…(*`‥´٥)』


彼は久し振りに唾を飲み込み口唇を噛む。田穂の昔からの癖である。


戦場で歯を食い(しば)った過去をそれは想起させた。彼はふと眼前に広がる空を眺める。


清み渡る青空の向こうに暗雲が垂れ込めているように、田穂は感じざる逐えなかった。

【次回】死の縁に入る

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