表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/308

思いやる心

張飛は若かりし頃に妻を娶った顛末を再び語り出す。道中、趙雲に話して聞かせてやった話のくだりの繰り返しだから判りやすく、且つ依り情熱的で在った。


彼はいつになく饒舌で在り、それも北斗ちゃんにとっては驚きには違いないが、その中身が若い太子にとってはエグ過ぎた。


()の趙雲ですら絶句した程の内容である。若君に限らず、今回ばかりは潘濬や田穂でさえ目が点に成る。


それはそうだろう。方や生真面目一徹で在り、もう片方は山賊上がりにしては奥手な男だから、女を(さら)って来るなどまともでは無い。


しかも文字通り"略奪婚"なのだから常軌を逸していた。三人は只ひたすらに白目になったまま張飛の顔を凝視している。


「ꉂꉂ(*°᷄д°᷅*ꐦ)何です?そんなに感動しちゃいました♪そういや子龍も同じ目で感動してましたな!」


張飛は堂々とそう言い放つ。何も悪びれる事無く、未だに互いにラブラブだと惜し気もなく披露する。


『(٥ ꒪⌓꒪)…いゃいゃ絶対に違うから!昔から(すげ)ぇ非常識な人だとは想ってたけど、これほどとは!子龍もたぶん絶句した口なんだろうなぁ。でもそう言ってちゃあ始まらん!ここはスルーだ。忖度(そんたく)だ。それに今は幸せらしいから、まぁいっか!』


北斗ちゃんは絶句しつつも話が先に進まないと忘れる事にした。夫婦の喧嘩は犬も食わないと言うでは無いか…そう想う事にした。


教訓に従い、放っておくことが肝要と先を(うなが)す。すると張飛はお調子者の実力を存分に発揮して嬉しそうに先を続けた。


ところが幸せな生活は突然壊れる。当の本人・張飛でさえ、途中から言葉尻が急にトーンダウンしてしまい、今度は深刻そうに頭を(ひね)る。


戦乱の中で長女を失い、悲しみにくれる夫婦。特に奥方・夏侯氏の悲嘆は悲しみを誘い、三人とも目に涙を溜める。


張飛の献身的な心の支えが時を埋めて、ようやく夏侯氏が立ち直った段では、三人とも目の前の男を少し見直した目で眺めていたのである。


夏侯氏はその後産まれた次女を溺愛しながら生きている。表面上は気丈に振る舞っているものの、けして生き別れた長女を忘れた訳では在るまい。


張飛もそれを判っている。三人も同じ気持ちに成り、この夫婦の悲しみの大きさに心を痛めていたのだった。


そして話しはこの(たび)の道行きの話に進み、希望に光が射した様に想えた直後に終幕を迎える。


結局、会えないまま再び飛び出してしまった娘の心が何とも謂えずに三人の心にも深く刺さる。本人の張飛は言わずもがなで在ろう。


北斗ちゃんはこの叔父貴がそんな深い悲しみを抱えていたとは思いも依らず、言葉も無かったのである。けれども略奪婚の事をふと思い出し、自業自得と溜め息を漏らした。


天に唾する者は己に跳ね返る。それを地で行く顛末である。むしろ生き別れた娘さんと奥方・夏侯氏の事が憐れに想えて成らなかった。


「Oo。.( •̀_₍•́ ٥)それで…叔父貴はどうされるおつもりですか?」


北斗ちゃんは尋ねた。


「(ღ*°᷄д°᷅٥ꐦ)おぅ…儂はいったん江陵に帰る。もしかしたら、行き違いで訪ねて来るかも知れんからな!それからまた様子をみて探しに出るさ。ある意味最後の機会(チャンス)かも知れんのだ。だから坊ちゃんも何か掴めたら教えて使わさい!頼めた義理では無いっすが!」


「(ღ •" ຼ • ٥ꐦ)それが宜しいでしょうな?お気を落とされるな!」


潘濬は機転を利かせてそう伝えた。


「(*`ᗜ´٥)੭ ੈそうですよ、旦那!"果報は寝て待て"でっす♪」


田穂も張飛を慰める。


張飛は二人から励ましの言葉を掛けられ、想わず男泣きする。


「(ღ*°᷄д°᷅٥ꐦ)おぅ…お二方、(かたじけ)ない!そのお気持ちに感謝致す…」


張飛はそう礼を述べてから若君を見つめた。それは何かを言ってくれると期待している目つきだった。


北斗ちゃんは再び溜め息を漏らすとおもむろに伝えた。


「(๑•́⌓•́).。oO それがいいだろうな!判った。心に留めておく事にする。だが期待はしないでくれ♪顔も名前も判らんのだ!それに僕らの目的は視察なのでな!ついでにはなると想うが一応、承ろう。でっ?名前くらいは聞いておこう。そうで無くては始まらんぞ!」


北斗ちゃんは至って冷静にそう言った。冷たいと想われるかも知れないが、探すには材料が無さ過ぎる。


それに安請け合いは却って後日、失望を大きくしかねない。北斗ちゃんなりに叔父貴に寄り添い考えた結論だった。


何も優しい言葉を投げ掛けるだけが、慮りでは無いのである。実利を得られる様に無駄を削り取り、最短の道を行く方が結果は上向くものだ。彼はそう信じていた。


「ꉂꉂ(*°᷄д°᷅٥ꐦ)あぁそれでいい。頼む!娘の名前は"(なぎ)"と云う。見つかり次第、必ず駆けつける。夏侯の為にも頼んだぞ!」


張飛はそう言い終えると、手綱を引き、馬を飛ばして矢のように去っていった。三人は複雑な気持ちでそれを見送っていた。




「(ღ`⌓´٥)今の話どうされるおつもりっすか?」


田穂は訊ねる。潘濬もチラリと見つめる。


北斗ちゃんは真剣な二人の顔を横目で眺めると、フフンとほくそ笑み言い放つ。


「どうって何が?Σ(,,ºΔº,,*)おぃおぃ勘弁してくれよ♪お前たちまで真剣に悩んでどうする?顔も恰好も判らんのだぞ!」


半ば呆れた様な表情をみせる若君に田穂は身振り手振りで問い掛ける。


「(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈそれなら張飛殿が言ってたでは在りませんか?面長で目が垂れていて可愛く、髪は腰の辺りまで長く色白だって!」


それを聞いた北斗ちゃんは溜め息混じりに即答した。


「それで?Σ( ꒪﹃ ꒪)田穂は生き別れて何年も会っていない筈の叔父貴の言葉を鵜呑みにするのかい♪笑止千万だな!大方…侍女の娘の印象の受け売りだろう?否…下手したらそれだって怪しいかもな。父親としてのこう在りたいという姿形が加味されていないとは言えまい。それだけで探せると?」


その一言で田穂はグゥの音も出ずに押し黙る。それを見かねた潘濬が言葉を引き継ぐ。


「(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈ確かにそうですが、では端から若君は探す気が無いと?」


「だって考えてもみろ!ꉂꉂ(°ᗜ°٥)我々の当初の目的は何だ?傅士仁と合流する事だろ!とすれば目的地に行く道のりは端から決まった経路をなぞる事になる。その道中に運良く娘さんが現れるとは限るまい。自明の理だな…」


若君の言葉は正論である。潘濬もまず頭で考えるたちだから理解出来る。


けれども田穂はまず反射的に身体が動く。つまり本能を優先するたちだから聞いた以上放っておけない。感情移入すれば尚更の事である。


以前の潘濬ならば冷静沈着に事の是非を正し、むしろ脱線を嫌い諭したはずである。今の若君の立ち位置に立っていたのは潘濬だった筈なのだ。


けれども今の彼は少々違っている。若君から慈愛の心を学び、劉巴からも多大な影響を受けた彼は、その人間性に深みが増し、人の心の温もりが与える力を充分に理解していた。


それが果たして成長なのか後退なのかは議論の余地有りだが、彼自身はそれで良いと想っていた。だからこそ田穂を(かば)う立ち位置に立っているのかも知れなかった。


逆に若君は潘濬を筆頭とする大人たちから我慢する忍耐を学んだ。急く心を抑え、自分の行動が周りに与える影響をよくよく肝に命ずる事。


潘濬からは口を酸っぱくして、操り返し諭された事である。勿論、だからといって彼はそれで虚勢する事無く、堂々と自分の意見を言い、皆と議論を交わす姿勢を崩さない。


皆にも"自ら考え行動する自由"を推奨している以上、自分も率先して止まない。


けれども王道を進むためには、時に自分の良心を殺しても、突き進む選択も必要になるという事を深く心に刻んでいたので、精査した結果として、目的を優先させる事にしたのであった。


つまりここに細やかな逆点現像が生まれた訳である。


「それも仰る通り…(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ ()()もなく探す訳には参りますまい。しかしながら…」


潘濬は何とか落とし所を見つけてやりたい。田穂の気持ちを察した以上、このままにする 事は避けたいと想う心が強かった。


するとその時に若居は、あ・うんの呼吸でそれに応えた。潘濬は目を見張り、田穂は感じ入る。


北斗ちゃんはニコリと笑って口を開いた。


「まぁ待て♪⁽⁽ღ(* • ᗜ •*ღ)今のは少し正論に過ぎたかもな!でも冷たく聞こえたかも判らんが、まずは本分を忘れぬ事だ。そう言いたかっただけさ!本音は僕も君らと一緒だ。叔父貴のためにも娘さんを探してやりたい。だが()に受け過ぎると目の前が見えなくなり、人は総じて目的を見失う。そうだろう?」


若君は一時的な感情に流されるなと言っているのだ。そう言われると二人も言葉が無い。そして想い当たる節もある。


潘濬は自分が叩き込んだ教えだから当然だし、田穂も幾多の死との狭間の中で感情を殺して生き延びて来た訳だから直ぐに腹に落ちた。


北斗ちゃんは二人が頷く仕草から、それぞれに腑に落ちた事を感じ取り、締め括る。


「判ってくれたかい?ꉂꉂ(• ▽ •๑ )まずは目的を果たす。けど叔父貴の頼みは常に頭の片隅に留めておくさ!万に一つの偶然て事もあるからな♪人生って驚きに満ちているから面白い。ひょんな事から娘さんがひょっこりと現れるかも知んないぞ♪その時は少しばかりの道草なら、傅士仁や他の者達だって許してくれるさ!」


北斗ちゃんは優しい瞳で二人を見つめた。


「そうですな…(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ 私もそう想います!」


潘濬はそう答えながら田穂を見やる。これなら彼も納得出来よう。


当の田穂もコクリと頷き、二人を交互に見やりながら、嬉しそうに口を開いた。


「(*`ᗜ´٥)੭ ੈ愉しみがひとつ増えましたな!せっかくの冒険の旅です♪そう来なくっちゃ!あっしは幾らでも受けて立ちますぜ♪縦横無尽に働きます!何でも言って下せぇ~♪」


北斗ちゃんも潘濬もそれで彼が納得した事を察した。三人は大地に導かれて引き続き馬を疾走させる。


やがて長沙との国境線が間近に迫る頃に、費観がむこうから馬を走らせやって来た。




「若♪ꉂꉂღ(・ᗜ・*)お久し振りです。お待たせしまして…」


費観は溌剌(はつらつ)としており、それはかとない威厳も漂わせている。それは意識的なものというよりは自然と滲み出て来るものだった。


長年の経験が彼をして城主たらしめたのだと謂えよう。北斗ちゃんは久し振りに費観と間近で接して、その風格に感じ入る。


堂々としたその(さま)に嬉しさが込み上げていた。


「おぅ♪費観!(๑*´° ᗜ °๑)੭ ੈ✧会いたかった♪随分と立派になったね?君にはいつも負担をかけてすまないな。でもお陰様で国境線も安定してるし、何より大きな労働力を得る事が出来た。君の采配の賜物だ。有り難う♪」


北斗ちゃんは再会するなり礼を述べた。すると費観はニコやかに微笑みながらやんわりと否定した。


「いや何!⁽⁽ღ(・ᗜ・*)お安い御用です。でも私の手柄という訳ではありません。皆の力です!特に目立たぬところで大守(費禕)や伯恭さんが支えてくれています!それに伯岐は元より、そこに居らっしゃる衛尉殿だって協力してくれてのものでしょう♪勿論、実際の実行部隊はより大変です。桓鮮殿にはお世話になっております!」


費観はそう謙譲の姿勢を示し、三人にコクりと頭を下げた。北斗ちゃんを始め、後の二人も感心したように答礼する。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ勿論、それは判ってるよ!皆にも感謝している。でも君は馴れない城主を引き受け、これまで立派に務めてくれている。君も憶えているだろう?傳士仁から緊急且つ速やかに城を引き継ぎ、様々な苦労もあった事だろう。でも未だ何の齟齬(そご)も無く公安砦を起点とした武州は安定し、今や発展に向けて本格的に着手する事が出来ている。劉巴や鞏志が安心して作業に取り組めるのは、州内の安全があってこそだ。僕はどうも軍の成果よりも 内政の成果を重じると誤解され勝ちだが、そうじゃない。戦は人の命を損じるものだからなるべくなら選択枝から避けたいとは想う。けど世の中そんな綺麗事だけじゃ済まない事も痛感している。君は兵を鍛え、専守防衛という方針を堅持してくれている。誇りに思うよ♪」


北斗ちゃんは今出来る限りの最大級の賛辞を示した。潘濬も田穂もその言葉に同意を示すように、深々と頷く。


費観は困ったように顔を赤らめる。余り褒められるのには彼も馴れていないようである。


よくよく考えてみるに皆、一様(いちよう)にそういう者たちがこの荊州には多い。


やり過ぎは禁物だが、正しい行いには称賛で応えてやる。北斗ちゃんは今後、そういう姿勢が益々必要になるとこの時、感じていた。


まぁ彼は気づいていないが、端から見れば若君は既に実践しているのだが、どうやら自然とそれが出来ていたためにようやく自覚したらしい。


彼が日々の何げない行動の中で慈愛の精神を発揮しているからこそ、この言葉には深みが出てくる。その若君の称賛だからこそ、皆それを自然と受け入れる事が出来たのである。


費観も素直に嬉しいのだ。けれども自分がその称賛を一身に受けてしまって良いのかという戸惑いがあったのだ。


彼も若君から慈愛の心を引き継ぐ一人なのである。だから彼は戸惑いつつも言葉を返す。


「有り難き幸せ!ღ(・ᗜ・*)これも日頃、この私を支えてくれる同僚や部下のお陰です。皆に若君のお心を伝えましょう♪皆、きっと喜ぶ事でしょう!」


これには北斗ちゃんも苦笑する。でもそれと同事に謙虚な姿勢を変えぬ費観のその態度に心の中で最大限の賛辞を送っていた。


どうせこの男はまた褒めても遠慮する。そう想ったのである。


潘濬も費観の事は聞いていた。彼と一度でも同行した経験のある者は口々に費観の人と形を称賛した。


人格者としての素養を感じさせるその発言の数々に、一度会ってみたいと潘濬も想っていたのである。今回の旅の道行きの愉しみの一つが彼らと会い、交流する事であった。


敢えて彼らと示したのは、大洪水以降に見出され、抜躍された潘濬は、若君の直参としては比較的新参者の部類に入るからであり、未だ面識の無い者も居たからだった。


この費観がその内の一人であり、張嶷もそうだったのである。彼はその事をふと思い出し、反射的に呟く。


「あれ?(ღ• ຼ"•ꐦ)そういえば、張嶷殿はどうされました??」


その言葉に若君も想い出したように問い質す。


「あれ?Σ(,,ºΔº,,*)そういえば…どったの??」


若君がずっこけた様な物言いをする時は素が出た時に限る。


彼は常日頃、立派な姿勢と行動により皆に手本を示すが、年齢的にはまだまだ子供なので、久し振りに古参である費観と再会した事で心がワクワクと踊っていたからなのだろう。


潘濬や田穂にしてみればそこまで察する事が出来る。それだけ彼らが身近で接している事の(あらわ)れであった。


だから特筆すべき反応は示さない。只々微笑みながら、注目している。


それに引き換え、久方振りの費観は感情豊かに反応を示した。


「ハッハッハ♪ꉂꉂღ(・ᗜ・*)若は相変わらず面白いですな!左様、当初は伯岐の奴もここで合流の予定でしたが、早々と先に行きました。何でも傅士仁殿の指示だそうです。大方(おおかた)、何か準備でもあるのかと想い、そのまま行かせましたが何か?」


費観は不思議そうにそう尋ね返す。


すると(ただ)一人、若君だけが「=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)何だってぇ~!!」と大袈裟な反応を示した。三人はポカンとした表情でそれを見つめていた。


【次回】暗黙の了解

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ