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爽やかな風

「法正様…Σ(˃̵⌓˂̵๑)」


蔣琬は想わず食ってかかる。けれども法正はそれを手で制して「⁽⁽ღ(・ิᗜ・ิ*٥)心配するな…」と答えた。


三人が秦縁の許に辿り着くと、法正は一言こう伝える。


「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิღ*)秦縁殿、少し話せるかね?」


その口振りは落ち着いていたから、後の二人も少々安堵する。すると秦縁の方は特にいつもと変わらぬ様子でチラリと老人を見つめた。


「何だ!(ღ❛ ᗜ ❛´*)誰かと想えば楼琬のところの爺じゃね~か?まさかこんなところで会うとは驚きだな。さすがに判らなかったぞ!まぁあんたのご要望とあれば是非も無い。俺は構わないが、あいにくこれから野暮用だ。それでも良ければ一緒に来るかい?それならお相手、(つかまつ)ろう♪」


「Σ(・ิ罒・ิ#ง)相変わらず遠慮の無い御仁だな!良かろう、付き合うとしよう♪」


こうして話しはすぐに決まった。秦縁は手を上げると「開門!開門!✧(❛ ᗜ ❛ ๑)」と叫ぶ。すると門兵はすぐに気づき、門を開ける。まるでこの江陵の城主の様なお気楽さである。


これには若君の配慮がある。何しろ彼はここ江陵を拠点とする荊州への巨額の投資を行う出資者(スポンサー)である。いつ何時でも互いに逐次会合したり連絡を密にするには出入り自由にしておかないと都合が悪い。


当初は田穂を使いにやったものの、それでは決して双方向の意志の疎通とはならないと若君が判断したためであった。いつでも道は開いておかねばならない…そういう姿勢の賜物(たまもの)であった。


門兵の方でももう慣れたもので「あっ!秦縁様だ♪」てなお気楽さがある。だからすぐに門は開いた。


すると秦縁はスルリと愛馬に(またが)り、馬上から法正にむかって手を差し伸べる。法正はその手を掴む。老人はヒラリと秦縁の背に掴まるように跨った。


「田穂!(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈまた後日な♪そこの君!心配するな。彼は必ずこの俺が送り届ける。なぁに、この爺にここの一番良い眺めを見せたいだけさ♪今度君も来ると良い!」


秦縁はそう告げると愛馬に気合を入れた。汗血馬はあっという間に城門を飛び出すと、矢のように走り始めた。


草原を抜ける時の馬上は心地良い。爽やかな風が頬に当たる。


法正はここ荊州まで騎馬して来た程であったから、ちょっとやそっとでは音を上げる事は無い。むしろ馴れたものであった。


「おい!Σ(・ิᗜ・ิ*٥)どこに行く気じゃ?」


背中から問う法正に、秦緑は笑みを浮かべながら語り掛ける。


「⁽⁽ღ(*❛ ᗜ ❛´๑)今日は大型船で運んで来た客人達が武陵に着くのですよ♪それを確認する。あんたも趙蓮や関騎は存じていよう。あいつらももうすっかり逞しい男達だ。あんたに出会った頃はまだ皆、鼻垂れ小僧だったがね?」


「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิ٥ღ)じゃが運河を通すのはこれからであろう。大型船など時期尚早だろうて?」


法正は更に問う。


「あぁ…⁽⁽(ღ❛ ᗜ ❛´๑)勿論!我々の持ち駒はあくまでも海洋船だからな♪士燮の奴には幾らでも貸しがある。それに先頃、関騎に命じて南蛮の地の南端に海洋船の港を一つ築かせてある。そこを経由して南洋経路で人半分、積荷半分を運んで来る。こちらは趙蓮では何かと苦しいので馴れた関騎にやらせている。船団は五隻。凄げえだろ!」


秦縁は自慢する様にそう告げた。何しろ彼らの保有する海洋船の面目躍如である。ここは自慢しておきたい。


それだけ彼らの海洋船が優れている証であった。彼らの船は今でいう所のインドを経由してアラビア海に入り、ペルシア湾や紅海にも及んでいた。


当時のインドにはマウリヤ朝があり、アラビア半島の北にはパルティア、紅海の西端にはプトレマイオス朝が在った。


彼らの船団は遥か西の諸国とも交易を通じて繋がりがあったから、希望者を連れ帰る事が出来たのである。


「何と?Σ(・ิΔ・ิ*٥)お前さん、やはり既に動いていたな!協力関係は孔明からも聞いておるが、それにしては早過ぎる。お前、端からその気じゃったな?」


法正の眼には疑いの色が見えた。


けれども秦縁は想定内と特に気にするでも無く、笑いながら(とぼ)けて見せる。


「ハッハッハ♪Σ(ღ❛ ⌓ ❛´٥)そうだったかな?まぁ何にせよ、若様の号令は懸けられた訳だ。(さい)は投げられたのだ。だから同じ事さ!それにそれが何だ?誰かに迷惑を掛けたかね?損するとすればそれは勇み足の我らだけさ!連れて来た連中の手当てもそれなりに考えてある。俺は商人だからな♪全ては計算通りと言っておく!」


至って冷静な秦縁の言葉に、法正は呆れたように吐息をつく。


「✧(・ิᯅ・ิ ٥)…先代もかなりやり手な御方だったが、お前さんもやるではないか?血は争えんな!」


「そうかね?⁽⁽ღ(*❛ ᗜ ❛´๑)自分では過去随一と自負しているんだがな!」


「判った!判った!ღ(・ิェ・ิ ٥)そこまで言うな。相変わらず自信過剰な奴じゃ♪鼻につくわ!」


法正は(さと)すつもりでそう言った。少々嫌味も含んでいたかも知れない。


けれども今まで乗りの良かった男の口調はみるみると影を潜めた。それは言い出しっぺの法正が気にする程であった。


しばらくの沈黙の後、彼はボソッと答える。良く聞いてなければ聞き逃す程の低音を法正の耳は、()とく拾う。それは男の(うめ)き声にも感じられた。


「(๑•́⌓•́٥).。oO 自信が無ければ辿り着けなかったのだ…」


それはおよそ秦縁らしくない愚痴であった。かつての知己に会い、それはスルリと口から漏れ出た。


けれども法正が悔いる前に彼は見事に立ち直ってみせた。


「…何てな!ꉂꉂ(*❛ ᗜ ❛´ღ๑)どうだい?驚いたろう。俺がそんな玉か!悪いが、この俺は唯我独尊が信条だ。悔いる事など無い!喩え生き恥を(さら)したとしても、信念は揺るがない。生き恥上等!それで本望さ♪」


秦縁はそう言い切る。


彼の言う通りなのだろう。この男はその言葉通りにこれまでの人生を走り抜けて来たのだ。少なくとも法正はそう感じていた。


けれども同時に彼の言葉に少なからず強がりも感じられた。法正はそれを見逃さなかった。


しかしながら、次の瞬間、彼はフッと鼻白むとすぐに矛を収めた。これ以上の言葉はいらないと想ったのだ。


秦縁は既に自己完結しており、こちらの言葉など求めていない。それが彼を擁護する(たぐい)のものなら尚更である。


『そうだな…(・ิー・ิ*٥)』


法正は想った。


『⁽⁽(・ิ⌓・ิ*٥)そんな事は喬児殿に任せておけば良い…』


全くの居らぬ世話なのだと法正は自戒していた。


やがて草原を抜け荒野に入ると、馬はさらに速度を増す。吹き抜ける風も砂塵(さじん)を伴う。


彼らが自然と口数が少なくなったのも自明の理だった。




昼頃には武陵に着いた。「ドウドウ!」秦縁は馬の手綱を軽く引き、愛馬に伝える。


賢い馬である。反応の早さが良い。法正もそう感じた。


現地は昼げの時分である。現場には大勢の職人達が列を作り、炊き出しの供与を受けている。皆、朝から働いた後なのかそれぞれの(ひたい)には総じて汗が(にじ)んでいた。


「おう!(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈあそこだな♪」


秦縁は指を差す。一本の川に沿って人の行列が進んで来る。そして見渡す限り、遥か遠くまでその列は続いている。


まるで人の列の動き方で川の曲がり具合が判る程である。彼らは大陸南端の港からここまで、予定通りの行程で歩いて来たのだ。


そしてその到着が今日になる事が、事前に秦縁には知らされていたのである。彼はそれを受けて遥々見に来た。そういう事に成るだろう。


二人は下馬すると秦縁が手綱を引き、その横を法正が並んで歩く。心ならずも法正は現地の検分が出来てしまう。


本国からのお偉いさんの視察である。そう捉えられても何の不思議も無い状況(シチュエーション)である。


秦縁らが近づいて行くと案の定、劉巴が気づき、鞏志(きょうし)の腕をつつく。そして振り向いた男の耳に(ささや)く。


鞏志は驚き姿勢を正す。差配を部下に委ねて二人も歩み寄る。そして言った。


「ꉂꉂ(o'д'o )これはこれは秦縁殿!法正様!遠いところを御足労下さり、感謝に堪えません♪御二方とも初めてでしたな!こちらが今回の工事責任者の鞏志です♪」


劉巴はすぐに紹介を終える。その所作には卒がない。


「鞏志で御座る。ღ(゜Д゜*)宜しくお願い致します♪」


鞏志もすぐに応じる。二人も答礼する。


「(๑❛ ⌓ ❛´ღ)俺は秦縁、こちらは法正殿だ。視察ではないから気にせず進めてくれ!」


秦縁の目配せに鞏志は頷く。


「⁽⁽(*゜Д゜*)では私は段取りがありますのでこれで失礼します♪」


鞏志は勘が良い。すぐにそう言うと、三人に頭を下げて小走りに戻って行く。


それを見ていた法正は微笑む。


「どうやら若君も良い(にな)い手を見つけたようじゃな!劉巴、お前もすっかり馴染んで居るな♪結講!結講!ꉂꉂ(・ิᗜ・ิ*)」


そう言って(ねぎら)う。


「法正様♪(*o'д'o)੭ ੈ御無沙汰しておりました。お陰様で愉しくやっております。何しろ私はこれのために来たようなもんですからな♪若君、立っての願いです。この私も気合いが入るというものでしょう。(はい)りは至って順調そのもの。後は人が増えればそれだけ計画は進みます。そう想っていたところの第一便です。秦縁殿には感謝致します♪」


劉巴は謝意を表わす。


法正は『(٥・ิ؎・ิ)おやっ?』と想い、首を(かし)げる。元々面白い男ではあったが、こんなにまめな男だったろうかと感じたのである。


『こやつも成長している…(・ิー・ิ*٥)』


法正はいみじくもそう想った。一方の秦縁はまた捉え方がちょっと違う。


『へぇ~卒がないね!✧(❛ ࡇ ❛´٥๑)こいつ、こんなにテキパキ動ける男だったんだな♪否、ちょっと待てよ?ハハ~ン!潘濬殿の受け売りか?成る程な…』


勘の良い男である。すぐにそこいらの機微を感じとる。


潘濬が最近、落ち着きが出て来た事は確かであり、それは劉巴の影響が大きい。それと同じように劉巴も潘濬の影響を受けていても何の不思議も無かったのだ。


これは彼らが若君の提唱する"考え行動する自由"の許、相互理解の上に立ち、"互いに高め合う力"の実践を行った成果であった。


まだほんの些細な結果である。否、その経過と捉えても良い。


けれども(ささ)やかながらもその成果は浸透しつつあったのである。そんな劉巴を秦縁も微笑ましく眺めていた。




「(๑❛ ⌓ ❛´ღ)ところで受け入れは順調かね?」


秦縁は問う。


「えぇ…(ღo'д'o*)勿論!受け入れ側の人数も益々充実しております。若君の肝煎(きもい)りが功を奏しましたな♪」


「そのようだな…Oo。.(٥•́⌓•́๑)」


秦縁はそれとなく答える。劉巴が言っている肝煎りとは、流民受け入れの工作の事を指しているのだろう。


けれどもそこをはっきりと言わない所が劉巴の美徳であり、秦縁の(おもんばか)りである。


既に若君の民となった者の中には、つい先日まで流民だった者も居るし、河川氾濫の折りから世話になっている者達だってたくさん居るのだ。


そういった者達を束ねて、扱う側に立つ者はそこいらの機微を心得ていなければならないのだ。


そういった事を上に立つ者が自然と出来なければ、いつの間にか意識的差別の土壌を作ってしまう事に繋がるのだという事を劉巴は理解出来る人だったのである。


そして秦縁もそうだ。但し、彼の場合はそもそも相手を唯の人としか見ていない節がある。王であろうが陪臣であろうが民であろうが彼にとっては()したる違いは無い。


人の間にそもそも差別化を計ろうとするのはその"人"である。ならば相手を理解し、相努めるのが自然の(ことわり)であり、そのためには(しか)るべき確かな眼を持つ事が大事なのだ。


それは人の噂や影響に左右されず、独自の見識を持ち、見定める事なのである。劉巴は秦縁の反応(リアクション) から、彼が既に若君の動きを掴んでいると確信していた。


そして法正も何気無く、その事は理解していたのである。




それは諸葛孔明が今まで発動していなかった機密費を荊州のために供出すると宣言したからである。これには王の同意は無論の事、陪臣最高位の者の同意もいる。


そして王は許可を出し、丞相の名の許に発動したのである。当然、法正は問い掛ける。


何故(なにゆえ)か?」と…。すると孔明はこう言ったのだ。


「国のためであり、民のためであり、()いては万民の幸せのためである♪(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )ღ⁾⁾閣下に詳しい事は申し上げられぬが、若君の計は"百年の計"です。ならば王もこの私も先行投資するまでの事と考えた次第!我々の判断を御信頼下さい。貴方が私の立場でもきっとそう成される事でしょう♪」


涼しげな瞳でそう語る孔明を眺めていて、法正も納得するほか無かった。




けれども法正も只物では無い。劉巴の言葉尻で何となくそうピンと来たのだ。


『人だ!彼らは例の金で人を買ったのだ…』


勿論、この言葉は正確では無い。


流民を誘い、信用を得るためには当座の手付金がいる。彼らも長距離移動の懸念(リスク)と同時に、果たしてそんな新世界があるのかと疑問に想う事だろう。


だからこれは謂わば保証金である。それに移動中でさえ、人は日々食事もするし、まともな衣服も与えてやらねばならないのだ。


だから彼らに報いるための手付金だったのである。勿論、彼らが納得し、定着してくれさえすれば、いずれそのお金は働いて返して貰う。そういう約束だった。


先を見通す力と言えば聞こえは良いが、世の中、善行を施すにもお金はキッチリと掛かるのである。只のお人良しなだけではままならないのだ。


若君が自腹を切り、潘濬が丞相を動かしたこの事件は先に話した。法正は長い時を経て、ようやくその答えを見出だしたのだと謂えよう。


『しかし考えたな…』


法正は想う。人を(いざな)うにしても、いきなり人口が爆発的に増える訳では無い。


それに魏や呉と民を食い合おうとしても、蜀では歩が悪く、小競り合いから戦に発展する危険もあった。その時、閃いたのが流民の存在だったのである。


『そういえば、我が国にも流民は居た。誰もが見て見ぬ振りを決め込んでいた存在だった。若君はそこに目を向けた訳だ。成る程…孔明の奴が振り回されるのも納得だ!』


法正は若君の見識とその行動力に賛辞を示した。皆が忌避(きひ)していた者達を全て受け入れ、面倒を見ようなんて、何てお人良しで慈愛に満ちた御方なのだろう。


誰もがそう考える。けれどもそこには深謀遠慮の考えがちゃんとあり、入口は大変でも、後日の力になるという先見の明に基づく考察が在ったのだ。


そしてそれを支える者達も言わずもがなである。この劉巴は勿論の事、潘濬、田穂、そして鞏志を見ていても、一枚岩でしっかりとガップリ四つにまとまって居り、若君と同じ目線に向いている。


更にはお互いを支え合いながらも、切磋琢磨して互いを高め合う。それは考え無しに指示を待つだけでなく、皆それぞれが考え行動する力を備えているからなのだ。


『我が蜀の将来は明るいかも知れん…楼琬も良き仲間を持ったものよ♪』


法正は感じ入っていた。そして秦縁の誘いに乗り、ここに来た事を心底良かったと想っていたのである。


『まさか、こやつそこまで計算して連れて来たのでは在るまい な…』


ふと法正はそう閃いたが、すぐに考えるのを止めた。


『まさかな…』


彼は秦縁を横目でチラリと眺める。


秦縁はそんな事はどこ吹く風と劉巴から現地の様子を聞きながら、いちいち頷き快活に笑う。場慣れしている男の表情だった。


法正は想い出す。彼は先代の(おさ)と親交があった。そして息子・楼豌の竹馬の友であるこの秦縁の事も良く知っている。


彼らの一族は十歳になるとこの中華にひとりで放り出される。否…正確には伴の者がひとり付くが、後はたった二人で修業の旅をせねばならない。


そして結果を出さねばならないのだ。彼の現在はその修業の旅が支えとなっている事は言うまでも無い。


どんな苛酷な生き方をすれば、こうなるのか法正自身も詳しくは知らなかった。けれども先代といい、この秦縁といい、商人にしては妙に垢抜けていて洗練されている。


『きっと彼らには裏がある。妙な事だが王佐の輝きがあるのだ。否…棟梁の材と言うべきか?おそらく儂は生涯その秘密には到達出来んだろう…だが或いは楼琬なら辿り着けよう♪』


法正はそう想い苦笑した。そんな秘密が果たしてあるのかさえ怪しいものだ。なのについついそこに頭が行く。彼は根っからの現実主義者だったから、自嘲したのである。


彼はまだ知らない事だが、桜琬は既に秦縁の事実は聞いて知っていたのだ。それは彼が秦縁と張翼という稀有な出自の者と知己となった事が切っ掛けだった。


けれども法正も只者では無かった事になる。知り得無い事実から、その核心の一歩手前まで辿り着いたのだから…。


彼が思考を切り上げ顔を上げると、二人とも不思議そうにこちらを見ている。法正は冷や汗を掻く。


けれども二人とも何も言わない。それは法正の思考を(さまた)げまいとする思いやりだった。


そして秦縁が話し掛ける。


「この先に高台があるでしょう?あそこが彼らの住居となるそうです♪見張らしも良いらしいし、何より昼食にも在りつけそうだ。ご一緒しましょう♪」


劉巴の好意に甘える事にした二人はこうして高台を目指す。愛馬にも水と飼葉をつけてやれそうだった。働いたものは(すべか)らく例外は無いという事である。


するとその時になってようやく懐かしい声が秦縁の耳に届いた。彼は反射的に振り向き、視線を合わせる。


彼は嬉しそうに手を上げて走って来る若者を認めた。関騎であった。


秦縁は両手を上げて飛び込んで来る若者を抱き留める。その表情には満面の笑みが浮かんでいた。


「良くやって来れた。関騎!御苦労だった♪」


その言葉は関騎の心にも熱く響いた。劉巴も法正も既に面識はあったから、二人に遠慮はいらなかった。


「関騎さん有り難う!」


劉巴も直ぐに感謝を表わす。


「関騎!見違えたぞ。立派になったのぅ~♪」


法正も鼻垂れ小僧を想い出しながら笑った。


こうして四人は高台を目指して坂道を登る。河を渡って来た心地好い風が、一行を温かく包み、そして流れて行った。

【次回】河の流れに任せて

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