葛藤
「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิ*ง)ブハハハハ♪」
法正は然も可笑しそうに大声で笑う。その在り様は豪快そのもので、蜀の重慎として諸葛亮と双璧を成す威厳が感じられた。
蔣琬は手で顔を覆い、これは駄目だと諦め顔である。けれども長年の経験から、これが良い兆候である事は判ったので、放置しておく事にしたのだった。案の定、田穂は怒る。
「笑うとは何です?(#`罒´٥)੭ ੈ どんなに偉いか判りませんが、自分の子を愚息などとは失礼千万!楼琬殿は旅を経て、とても逞しくなられました。それはこの荊州の者ならば皆、周知の事実です。むしろ誇りに想って欲しいっす!」
この思いの丈を堂々と語るその姿勢に法正は嬉しそうに微笑む。彼の好きなタイプに巡り合う事が出来て素直に喜んで いる。
蔣琬にはすぐに判った。法正という人はまずは気骨のある人を好む。
自分の意見を堂々と言えなかったり、行動を躊躇する者は彼に言わせれば論外なのだ。人は行動や言葉でその姿勢を示す事が出来なければ一人前の男とは言えない。
それが彼の持論であった。そう言った意味では、法正にはこの男が小気味の良い堂々とした論者に想えたのである。
そしておそらくはこの男も息子・楼碗を認めているのだ。だからこそ侮辱されて悔しいのだと想ったのだ。
『成る程…✧(・ิᗜ・ิ*ง)奴も良い経験が出来たのだな。思い切って叩き出して良かった♪許靖殿の文を見て重い腰を上げる事にしたが、こりゃあ瓢箪から駒であったわ♪結果は上々!』
法正はそう想い、顔を真っ赤にしている男を宥める事にした。他人の事を自分の事のように怒れる男なのだ。悪い奴の筈が無い。
『Oo。.(・ิᗜ・ิ*ง)それにしても良い知己に巡り合ったのだな…良かった。本当に良かったわい♪』
それが法正の偽らざる本音だった。彼は早速、火消しに入る。
「いやいや…(・ิᗜ・ิง)これは悪かったのぅ、衛尉殿!否...田穂殿だったな。儂も言葉足らずで誤解させたようだ。実はな、愚息とはヘり下った言葉であって、その意味は"私の息子"という事に成るかな?勿論、儂は息子の才気は承知して居る。但し、気が弱く大成出来るか心配して居ったのだ。だから叩き出した!」
そこには確固足る信念と同時に苦汁の決断が感じられた。だから田穂も真一文字に口を結び、法正の瞳を見つめている。
『(ง・ิᯅ・ิ)いい顔をしておる!』
法正は嬉しくなって饒舌となる。
「⁽⁽(・ิᗜ・ิง)その後の事は成るに任せた!戻って来るようならそれまでの男と儂は諦める事も覚悟の上じゃった。だが、このままで良い筈は無い。だから奴の奮起に賭けたのじゃよ♪どうやら良い経験をした旅だったようだのぅ~♪許靖殿の文で安堵したわ!そして御主のような知己が居る。儂はようやくホッとして居る。そんな心持ちじゃな!怒らせてスマなんだのぅ~♪」
法正は頭を下げた。不思議なように想えるが、それが法正という男である。
自分の認めた男には素直に頭も下げるが、気に入らない奴にはけんもほろろである。彼を怒らせたら取りつくしまも無く、邪険にされる事、疑い無しという訳だ。
田穂は驚く。丞相にも比肩される方が、自分などに頭を下げている。それだけで十分に驚きに値する。彼は想わず頬をつねる。
何かの冗談では無いかと想ったのだ。ところが違った。
「フフフッ♪(๑˃̵ᴗ˂̵)✧田穂さん、この爺が頭を下げたのを久し振りに見れて、私も嬉しいし良い気分です♪この御方はどんなに偉い方でも気に入らなければひれ伏す事は無い。但し、自分が認めた人なら喜んで頭を下げる御人なのです。つまりですね、貴方はこの方に認められたのですよ♪まぁそれが果たしてめでたい事かは貴方次第ですけどね!とにかく直ぐに食ってかかるんだから、全く困り者です…」
蒋琬は笑いながらそう述べた。
「コラッ!:;((・ิ罒・ิ٥ ))));:公琰黙れ!全くお前という男は一言多い…」
法正は暴言を吐きながらもその表情は笑っている。おそらくはこの蔣琬という若者もこの法正に認められた一人なのだろう。田穂はそう感じていた。
一方は爺と罵り、一方は黙れと罵る。口は悪いが、そんなに悪意は伝わって来ない。
『(ღ`⌓´*).。oO おそらくこれがこの二人の口癖なのだ…』
彼は想う。人と人との絆は人それぞれ。
この二人の間にあるのは毒を吐き合える程の絆なのである。それでも信頼は揺らがないという事なのだ。果たしてこれが正常な友誼と言えるのかは田穂にも判らなかった。
けれどもこれなら互いに遠慮はいらないのだ。ちゃんと言いたい事が言える仲。正しいと想う事を諂う事なく伝える事が出来、相手に諫言すらしてやれる事だろう。
羨ましくもあり、耳の痛い仲でも在った。
田穂は桓鮮の事を想い出す。ちょうど彼との仲が似たようなものだと感じたのである。
彼は想わず苦笑する。自分達よりも更に濃い毒を吐く絆が存在すると教えたら、桓鮮は何と言うだろう。彼は先の愉しみが増えたとほくそ笑んだ。
田穂の含み笑いは二人にも伝わる。けれども二人とも何も言わない。相変わらずニヤニヤ眺めている。
この二人は頭の回転が良い。だからすぐに彼にもそういう悪友が居る事を察して、頭に想い描いているのだと理解してやる事が出来たのである。
要はある種の似た者同士という訳だった。田穂はそんな彼らに気づき、襟を正す。そして彼なりの尊意を伝えた。
「法正様…(*`ᗜ´٥)੭ ੈそんな事とは露知らず、大変御無礼致しました。あっしも学があれば良いのですが、誤解とはいえ失言をお許し下さい。謂わゆるあれっすよね!虎は我が子を干甚の谷に突き落とす…でしたっけ?人の親としてなかなかそこまで割り切れるものでは無いっす!心情、お察し致しますぞ♪」
田穂は慣れぬ言葉に苦しみながらも真心を込めてそう伝えた。勿論、それが伝わらぬ法正では無いし、蔣琬も「(๑˃̵。˂̵)ホホゥ…」と感心 している。
法正はおもむろに請一杯の姿勢を正すと真摯に応えた。
「⁽⁽ღ(・ิᗜ・ิ*ง)判ってくれればそれで良い!こちらが逆に礼を述べたい。良く息子の事を庇って下された。儂はそれが嬉しい。それに御主の言葉は小気味良い。愉しく拝聴した。そして難しい言葉も御存知だ。何にも卑下する事、無かろうて!これからも宜しくお願いしたい♪」
そう言って微笑を浮かべた。
田穂もまだまだ褒められる事に慣れていないから、顔を真っ赤にする。
「いやぁ~ꉂꉂ(٥`ㅂ´ღ*)これは若君の受け売りです♪実際のところ、旦那も御存知かも知れませんが、これは若君が大殿様から受けた仕打ちです。そしてあっしにはそれが愛情がとても込もっているとは想えません。実のところ先程の怒りの半分は若君にその姿が被ったからでした。楼琬殿も若君と同じ目に遭ったのかと想い、怒りに駈られたのです。そうで無くて良かったと安心しております!」
田穂のこの言葉はすぐに二人の心にも響いた。
二人も共に劉備に関わるようになったのは、成都にて仕えてからである。だからその話しは荊州閥として参じた者の口から伝聞で聞いているに過ぎない。
けれども凡庸と言われ、宮殿の奥に引きこもる太子の様子を見るにつけ、凄惨な過去に同情するほか無かったのだった。
「あぁ…ꉂꉂ(・ิᗜ・ิღ*)そうだな!御主の言葉はもっともな事だ。儂も見る目が曇っていたとしか言えぬ…あの若君が本来はこんなにも聡明な御方であったとは!今から接するのがとても愉しみじゃな♪」
これは法正の本音であった。あの劉巴から喜びと共に文を貰った時に、当初、彼は驚き呆れた。
けれどもそれは杞憂であり、思いの丈を綴った文を読み進めるにつけ、彼自身の心をも突き動かしたのである。
それでもまだ半信半疑であった彼の許に届いた息子・楼碗の近況を記した許靖の文が、決定打となった。遂に彼は重い腰を上げる事になり、今に至るという訳である。
「ところで…ღ(・ิᗜ・ิ*ง)」
法正はおもむろに語り掛ける。
「ꉂꉂ(・ิᗜ・ิღ*)知っていたら教えてくれんかのぅ?肝心の楼琬はどうしておる…」
今さらである。田穂などは溜め息をつく。どうしてもっと早くそう言えんのかってなもんである。
けれどもそれが男親というものなのだろう。さっさと本題に入らず、妙に回り諄い。それはまるで、親が子を心配しては恥かしいと言わんばかりである。
「あぁ…(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈ楼琬殿ならまた旅に出ましたぜ!」
田穂はすぐに教えてやる。
そしてその時の事を掻い摘んで話してやり、「立派な方ですよ。(ღ`⌓´*)誇りに想って良い。それだけの人ですぜ!」と言った。
法正は驚く。何という変わり様であろうか。
人とは気持ち次第では幾らでも挑み続ける事が出来るのである。勿論、切掛けを掴むまでは孤独な闘いであり、棘の道である。
けれどもそうやって闘っているのが自分だけでは無く、同じ志を持った仲間が他にもいるのだと気がついたなら、今まで苦しく想えた事にもやり甲斐が見出せるのかも知れないのだ。
楼琬が再び旅に出る切っ掛けとなったのは若君との約束だという。それも本人から言い出した事だと聞いて、法正は感無量となった。
立ち直る切っ掛けとなり、あわよくば逞しくなって欲しい。当初はそういう想いで叩き出した。そこに欲は無かった。
にも拘わらず、その結果はそれだけに止まらなかった。旅を経て大きく成長した男はその翼を大きく広げて、見果てぬ地平線の彼方を目指し、羽ばたいて行ったのである。
かつて神童と呼ばれた男の翼は一度は折れたが、長い雌伏の時を経て見事に復活し、再び青き大空に羽ばたく新たな翼を手に入れたのであった。
『それにしても…Oo。.(・ิᯅ・ิ ٥)』
法正は想う。
『今よりも更なる高見で再び会おう♪』とはなかなか言える事では無いし、またそれに共鳴して約束する方も尋常成らざる覚悟がいる事だろう。
そしてその約束の先にある若君の誓いにも法正は感激していた。
『僕は君に必ず素晴しい景色を見せてあげる。その時には一献やろう♪』
つまり若君は楼琬を盟友と認め、誓いを立てた事になる。
『だから君も頑張ってくれ!』
そうエールを送ったのである。互いに立てた誓いを果たし再び逢おうなんて、何て素敵な間柄なのだろう。
二人の若き才能が彩る先の未来を想い描く時、法正は胸の血潮が沸き立ち、心が踊った。自分も後、うん十年若ければと想わないでもない。
けれども幸いな事にはそのひとりがかつて将来を嘱望されていた我が息子であり、そして同じく将来を憂いていたあの若君なのである。
法正でなくとも同じ立場に立った者ならきっと同じ想いに駆られる事だろう。それが人の親というものなのだ。
蔣琬も胸が熱くなっていた。蜀の臣として彼も将来を嘱望される者のひとりである。
丞相が成都に帰郷してすぐに呼び出された彼は、何事かと当初は慌てたものだが、荊州の現状を聞き及ぶにつけ、心が踊って来る自分に気づいた。
自分もそんな人達の輪に入って切磋琢磨したい。そう想ったものである。そんな蔣琬に諸葛亮は提案したのだ。
『君もここで務めを果たすより、新しい世界に身を置き、挑戦してはどうか?若君の傍に居る者達はその影響を受けてどんどん成長を果たしている。これからの我が国を支えるのは若い君達なのだ。費観も費禕も張嶷、張翼も若君の標榜する"考え行動する自由"に沿って成長している。(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )ღ⁾⁾ 君も彼らに混じって揉まれるといいよ♪』
丞相は"機会を与える"と言っているのだ。そんなチャンスを逃がす手は無い。
蔣琬は二つ返事で引き受けた。それに彼の場合、妹の夫である潘濬の活躍を引き合いに出されると、負けて居られない。
諸葛孔明という人は、人の負けん気に刺激を与えるのが上手な人であった。こうしてここにまたひとり荊州の前線に送り込まれる人材が旅立つ事に相成ったのである。
それは漢中王・劉備、向かうところ敵なしの張飛、そして偉大なる鬼才の法正との道行きであったのだ。当初は大人しくしていた蔣琬も元々賢い男だから直ぐに彼らの扱い方を掴んだ。
特に法正の毒舌は凄まじいものがあったが、彼はそこに負の要素を見ず、先人としての導きを感じた。そこが彼の洗練された常人成らざるところである。
法正もすぐに気づく。そしてこの二人はある種似た者同士であったのだ。そう毒舌家同士なのである。
一見、水と油に見えるがそうでは無い。小気味良い程の毒舌の応酬は見ている者さえ退屈させなかった。
それに観客は劉備と張飛である。どちらかと謂えば口下手であるこの二人には、激しい応酬は然る事ながら、口から生まれて来た如くに続くそのやり取りが心地好く響いた。
何しろ頭が良くなければこのやり取りはそもそも成立しない。見ている者にはまるで早差し碁を眺めている様にさえ見えた事だろう。
旅の道中、やんややんやと囃し立て、日がな絶え間なく続くこの応酬は、二人を退屈させず、本人同士も判り合える機会となった。
だからこそ蔣琬は法正の気持ちを汲み取る事が出来る。彼がそう信じていてもけして不思議は無かったのである。
だから彼はその時、ふと想った。『法正様は今後どうされるのだろう? Oo。.(˃̵⌓˂̵๑)』と。
蒋琬自身にはこれからこの新天地での挑戦が待っている。自分で望んだ事だから望むところだ。
けれども法正は蜀の重慎だから普通に考えれば成都に戻る事だろう。
『簡単では無い…(٥˃̵⌓˂̵๑)』
ところが蔣琬はそう憂う。彼は喜ぶ法正の横顔にそれはかと無い憂いを見ていたのだった。
田穂は初対面だからそこまで深い考察が出来る訳も無い。だから少し考え込むような仕草を見せる法正にキョトンとしていた。
彼は助けを求めるように自然と蔣琬に視線を移す。するとそれに気づいた若者は、困り果てている田穂に寄り添うようにこう告げた。
「そろそろ我々も行きましょう。我が君がご心配になるといけません。田穂殿!✧(˃̵ᴗ˂̵๑)宜しくお願いします♪」
そう言って促す。
「そうだな…Oo。.(・ิェ・ิ ٥)頼む!」
法正もようやくそう口にした。
「さいですか?(ღ`⌓´٥)⁾⁾ ではどうぞ!こちらです♪」
田穂もホッとしたように左手を差し出し、二人を誘う。三人の一行はようやく城門を潜り城内に入る。
田穂の声掛けと共に城門は大きな音を立てて軋む。そして最後にバタンと閉まった。
田穂が二人を案内していると、向こうから勝手知ったる男が悠長にもたったひとりでテクテクと歩いて来る。
彼にしては珍しい事だが、必ず傍に居る筈のお伴が居らず、愛馬の手網を引きながら良い気分で口笛を吹く。
いい気なものである。田穂はすぐに気づき、大袈裟に手を振る。
「秦縁殿~♪ꉂꉂ(`ㅂ´ღ*)お久し振りですなぁ!」
この声に秦縁の方もすぐに気づき、手を振り返して来る。そして叫んだ。
「おぉ♪(ღ❛ ᗜ ❛´๑)田穂!久しいな♪」
二人っ切りならすぐにでも歩み寄った事だろうが、秦縁の方は顔を上げた時点で二人の客人に気づいていたから、歩みを止めて彼らの到来を待つ。
田穂もけっきょく二人の歩足に合わせて歩むほか無かった。
そして蔣琬はその変わった出で立ちに戸惑っている。
何しろ青い長髪を棚引かせ、その瞳は緑陽石のように輝く。そして耳許には金色の耳飾りをしている。
それが時折、シャリンシャリンと重なり鳴るのである。蔣琬はふと法正を見つめる。
すると法正はポカンとしていて、その目はいつの間にか彼の男を凝視していた。そのため一瞬反応が遅れたものの、溜め息を漏らすとこう告げた。
「✧(・ิᗜ・ิ*ง)田穂殿は彼をご存知なのかね?」
「へぇ〜(ღ`⌓´*)⁾⁾ さいですが?」
田穂は不思議そうにそう答える。この老人も知り合いなのかも…そう想ったからだった。
すると法正はフッと微笑み、「⁽⁽ღ(・ิᗜ・ิ*ง)そうか…偉い男に見込まれたものだな!」と言った。
そして二人の顔を交互に眺めると、「悪いが彼と話したい。ღ(・ิᗜ・ิ*ง)我が君には適当に取り繕っておいてくれ!田穂殿、悪いがこいつを連れて先に行っててくれないか?けして悪いようにはしない。節度は守ると約束しよう♪」そう言ったのである。
そんな法正を二人は心配そうに眺めていた。
【次回】爽やかな風