常識の限界
その日、まるで呂蒙の帰参に呼応するように樊城には曹仁が戻って来た。彼は主君を無事、都・許昌に送り届けると、本来の務めを果たしに舞い戻ったのだった。
彼の務めは国境の防衛もさる事ながら、長江の河川整備にある。
勿論、その任務の主導は魏王自らが指名した魏の若き才能・司馬懿であるが、元々は曹仁の長年の夢であり、その絵図を画いたのは彼なのである。
彼にはその進渉を見極め、皆の意気高揚を計る責任があった。
「(* ー̀ᗜー́ )੭⁾⁾ どうじゃ、順調かな?」
曹仁は、河岸の天幕の中で図面と睨めっこする司馬懿に声を掛けた。
「あぁ…⁽⁽ღ( •̀ 艸 •́ *)閣下、お帰りなさい!!王は如何ですか?」
司馬懿は曹仁を認めると、スクッと立って拝礼した。
「あぁ、そのままそのまま!ꉂꉂ( ー̀д ー́ *)先を続けよ。王は心配いらぬ。都には無事に戻った。治療の方法を会得した今、前よりも元気なくらいだ。しばらくは心配あるまい…」
「…一時はどうなる事かとこの儂も気を揉んだが、無事に連れ戻し、婦人や太子の許に返す事が叶った。面目躍如といった所か。その方にも迷惑を掛けたが、その後どうじゃ?」
司馬懿は即答した。
「えぇ…(* •̀ 艸 •́ )੭ ੈ順調です。張遼殿と楽進殿が皆のやる気を引き出してくれたお陰ですが、予定よりも進んでおります!」
「ホォ~ꉂꉂ( ー̀д ー́ *)੭⁾⁾ それは何より!どうやら御主らは儂の言い付けを守り、一致団結出来たらしいな、褒めて遣わす。後で皆にも労いの言葉を掛けるとしよう。ところで他に変わりは無いかな?」
曹仁は話題を二国の情勢に向けた。
「✧( •̀ 艸 •́ *)荊州のお坊ちゃんは目的に向かって真っしぐらに突き進んでいるようですな!同盟を結んだ手前、満寵殿も大っぴらに間者を入れるのを憚っているようですが、それでもまだ着手には至っていないようです。先頃、諸葛亮や黄忠、魏延などは成都に帰郷したようですがね…」
曹仁はコクりと頷く。
『それにしても未だに着手にも至っていないとは…Oo。.( ー̀д ー́ *٥)我らは大殿の決断で軍を動員する事により既に着手しておるが、劉禅君の場合は我らのように20万もの大軍を投入出来まい。はっきりとは判らぬがせいぜい5万居るか居ないかの懐具合であろうか…』
『…(٥* ー̀д ー́).。oO 良く考えてみれば如何されるおつもりであろう。民に慕われた御方ゆえ、領内の民は接収されても喜んで参じるだろうが、果たしてそんな悠長な事で大丈夫なのだろうか?いかん、いかん!他国の事に気を向けている状況では在るまい。我らは当面の目標に尽力するだけよ…』
曹仁は我に返る。
すると司馬懿がいつの間にかこちらを見つめていた。その澄んだ瞳は全てを見通しているように感じられて、曹仁は想わずドキリとした。
「な、何だ? "( ー̀_₍ ー́ *٥)儂の顔に何かついておるか!」
彼は指で頬を触りながら、司馬懿を見つめる。
「否、別に。ღ( •̀ 艸 •́ ٥ღ)閣下は心ここに在らずといった具合でした。もしやあの船の上の御仁の事を考えておられるのかとふと感じただけです…」
司馬懿は素直にそう語った。彼は魏王には目をつけられているのでかなり用心しているが、自分を買ってくれている曹仁には比較的心を許している。だからこの時も率直にそう口にした。
『見透かされていた…Oo。.( ー̀_₍ ー́ *٥)』
曹仁は想わず冷汗を掻く。
『油断も隙も無いな…(ღー̀ ⌓ ー́*٥)儂が劉禅君の事を買っているのはこの仲達も知っておる。今後は少々用心せねば、在らぬ誤解の許よ!』
彼はそう決断するとゆっくりと口を開いた。
「あぁ…ꉂꉂ( ー̀д ー́ *)੭⁾⁾ そうだ!あの太子も河川事業に着手するのだから、その手足となる労働力を必要としよう。だが果たしてその人材をどこで得るのかと想ってな。かなり多くの労働力が必要になる筈だ。それを考えていた…」
これは嘘では無い。事実だ。差し障りの無い事は正直に答えるに限る。変に誤魔化すと却って勘繰られよう。
その辺りの事は曹仁も心得ている。彼は劉禅君が気に入っており、絶えず気にはかけているが、大殿への忠節にかけては誰にも負けぬと自負していたから、揺るが無い。
すると司馬懿はポツリと呟く。
「あぁ…(* •̀ 艸 •́ )੭ ੈそれでしたら文遠殿からお聞きしましたが、あそこには今、秦縁様が居らっしゃるそうですね?」
「あぁ…そうだ。なっ!( ー̀_₍ ー́ *٥)お前はまさか奴が協力すると申すか?」
曹仁は狼狽する。実際は彼も心のどこかでその事は念頭にあったのである。
けれども司馬認はいたって冷静である。すぐに反応を示す。
「まぁ…⁽⁽ღ( •̀ 艸 •́ *)私には関係無い事ですがね、未だ滞在されているようですし、そう考えるのが自然です。どうも件の若君は人を惹き付ける魅力があるようですし、決して在っても不思議は無さそうですけどね!それに秦縁様がその気になれば、あの方…」
「…(* •̀ 艸 •́ )੭ ੈ大型商船を十隻はお持ちなのでしょう?あらゆる国、あらゆる港を知り尽くした御方です。人集めなどお手のものではないでしょうか?」
司馬懿はサラリと言ってのけた。
『確かにな…( ー̀_₍ ー́ *٥)』
曹仁も内心それは認めた。
『(٥* ー̀д ー́).。oO だが果たしてそう上手く行くだろうか…』
結論の行き着くところ、それが曹仁の本音である。国内の民をその労働力として接収する事は出来るかも知れない。
しかしながら、他国の民を労働力として運んで来ても、果たして使い物になるだろうか。余程の甘い汁でも与えない限りは動かしようが無さそうだった。
そもそも対価も無く他国のために働く者など居まい。筋道を建てて検証して来たが、どうやらここいらが曹仁の限界で在った。
この時代、民は国のために奉仕する者という絶対的概念があった。たとえ死んでも替えが利く。これが支配者層の本音である。
民のために良い国を造るというのはある意味、本当の事だろうが、見方を変えれば建前と同義であった。彼らが真に大事にするのは国を支える労働力としての民であったのだ。
そして彼らがどうしても民の支持を得んと欲するのは国主として崇め奉られるためであった。何故なら民のいない王など、それこそ裸の王様であるからだ。
そんな訳だから、果たして民の命の重みなど、どれだけの為政者が考えていたか、誠に怪しいもので在ろう。
対価を与えて労働に従事させる、この事はこの当時ではかなり奇抜な考えだったのである。
それが証拠に諸葛亮を始め、劉巴、潘濬など当時の知識人と知られる者達でさえ、劉禅君のこの着想には驚き慌てた。
そしてその財源の支えとなる巨額の投資を産み出すために、利害の一致するだろう秦縁と取引きしたのだ。
勿論、そんな事を曹仁は元より司馬懿も知る筈が無かった。考えればそうなる。そう想っただけであった。
そしてそれはどうも有り得そうになかった。単純に考えても即日、国の財政が破綻し、持たないからである。
もし仮に、あの劉禅という若君がそんな事を本気で考えているとしたら、それはもうキ印という他無い。それに財政破綻ともなれば国は傾き、民は一家離散の浮き目に合う。
あれだけ民想いの若君がそんな愚策を行う筈が無い。それだけこの当時は、"民は使うもの"という観念が強く幅を利かせていたのだった。
"対価を与えない限り"ここまで思考を巡らせた曹仁ではあったが、すぐにその可能性を捨てたのは、そうした理由が在ったのだといえよう。
「馬鹿な事を!Σ( ー̀д ー́ *٥)仲達、我々が民を接収する手立てを捨てたのは何のためぞ。戦乱とそれにまつわる疫病、農作物の減少などで餓死する民が増え、人口が極めて減少しているからに他為らない。我が魏国でさえ、そんな状態なのだ。蜀の国など推して知るべしだ!」
曹仁はハッキリとそう告げた。
司馬認はしばらく考えていたが、「そうですな、そうかも知れません…✧( •̀ 艸 •́*٥ )」そう言って、再び図面と睨めっこを始めた。
曹仁は邪魔をせぬよう、静かに天幕を出た。降り注ぐ日光の下では、兵達が懸命に働く姿が見えた。彼はその足で皆を激励に向かった。
「Σ(,,ºΔº,,*)へぇ~呂蒙さんが戻って来ましたか?それに曹仁殿も無事に戻ったんですね!じゃあ、魏王も都に戻られたのかな?」
北斗ちゃんは久し振りに関羽将軍と碁に興じていた…否、これは一応作戦会議である。それが証拠に、馬良も潘濬も同席している。
そして田穂と廖化も少し離れた場所に佗んでいた。北斗ちゃんは特に碁を打つ気持ちはサラサラ無かったのだが、関羽に強請られてはやむ得無かった。
馬良も呆れている。潘濬が一言、小言を言わないのはそのためである。
田穂は過去に何度も経験があり、すでに承知の事なので、一切関与しようとはしない。その替わりとして、僚友の廖化に小声でブツクサと、「そういう訳だ…ꉂꉂ(`ㅂ´ღ*)」と事情を話す。聞いていた廖化も少々戸惑いを見せた。
「昨日、趙累から伝令が来ましてね。そういう事のようです。ꉂꉂ(*`艸 ´**)孟徳殿は無事に都・許昌に帰られたそうで、この儂も安堵した次第…」
関羽は黒石をペシッと打ちながら、顎鬚を擦った。
「それは何よりだね!(´°ᗜ°)✧一時はどうなる事かとヤキモキしたけど、終わってみればお互いのためには良いひと時だったな♪」
今度は北斗ちゃんが白石をペシッと打ち込む。途端に、関羽は旗色が悪くなって、「あっ!若、そこは待って 下さい!Σ(ღ *´艸`٥*)」と悲鳴を上げた。
すると北斗ちゃんはニンマリと笑みを浮かべて、「✧ ⁽⁽(•̀ •́๑)(๑•̀ •́)⁾⁾ و✧駄目だよ、爺ぃ~♪まからないよ!」と答えた。
これも既に既定路線となって久しい。もはや若君の磨き上げた腕には、たとえ関羽が黒石を全ての星に六個置いても何の事も無いのである。
関羽はもはや北斗ちゃんの敵では無かった。関羽も口惜しいから、防衛計画の合間を縫っても定石の研究に忙しい。
けれどもそもそも若君の打ち手はその都度進化するので、関羽がどれだけ躍起になっても追いつかない。最近の北斗ちゃんは周りに敵なしとなった事で、仮想敵を自分自身に定めている。
自分が大勝ちした棋譜を諳んじ、頭の中でそれを如何に崩すかに余暇を充てていた。そもそも彼の碁には定型的な定石は無く、ざっくり言うと碁盤を中華そのものに見立てて包囲殲滅するやり方である。
そして局地戦では実態に則した戦術を導入する。つまりは戦略を建て、大胆に打ち回し、細部は戦術で追い込んで行くのである。
だから彼の頭の中の構造が透けて見えない限りは向かう所、敵無しであった。
「いやはや…ε- (*`艸 ´٥*)参りましたな!若の進化には敵いませぬれ」
関羽は遂に匙を投げた。
「爺ぃ~♪(ღ • ▽ • ๑ )諦めるのはまだまだ早い!日々修業だよ♪僕だってまだまだだ!世の中は広いからね。孔明や楼琬とは残念ながら手合せする機会が無かった。残念な事をしたが、僕には今、優先すべき目標がある。おっと!そういえば玄直先生とはまだだったな?今度聞いてみるか!」
北斗ちゃんもついノリノリとなって口を滑らせる。その時だった。
「(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈ若君!」と一言、潘濬に釘を刺される。彼はそれ以上は何も言わず、ジロリと見つめた。
北斗ちゃんは眉間から冷汗を掻き、タジタジとなって、ゴホンと咳払いすると、襟を正した。
「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ今日の議題は呉の牽制と河川整備で集まる人々の処遇についてだ。まず呉の動きだが、昨日呂蒙殿が江夏に戻って来たのは皆も承知の通りだ。先頃、江陵に入り捕えた者を解放してやったが、今の所、目立った動きは特に無い。歩隲殿は都・建業には向かわず長沙に戻り、その後特に動きは無いらしい。都に戻った他の捕虜達がどんな報告をしたのかも、生憎と情報封鎖が厳しく掴めていないのが現状だ…」
「…(´°ᗜ°)✧只、呂蒙殿が荊州に戻ったところを見ると、まだまだ御し易しとは見られていないのだろう。まぁこちらも嵌まればラッキーくらいにしか想っていなかったんだけどね!当面、呉の動きは引き続き桓鮮たちに探らせるが、趙累にも探りを入れさせて欲しい。ひょっとすると、魏を経由すれば何か判るかも知れない…」
「若、ღ(。◝‿◜。)そう言う事なら探らせましょう♪お任せを!」
「|• •๑)”ㄘラッ♡うん♪頼むね、馬良!」
馬良は頷く。
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ それから爺ぃ~は引き続き国境地帯の警備を頼む!呂蒙は元より歩隲殿の動きも重要だ。長沙側の動きは費観にも探らせるから頼むね?」
「あぁ…⁽⁽(*`艸 ´**)心得た!陸遜の事も在るしな。警戒するとしょう♪」
関羽も頷く。
するとここで珍しく田穂が割って入り、注意を喚起した。
「Σ(٥`⌓´ღ٥)皆様、お忘れのようですから敢えて申しますが、あっしはまだ虞翻の奴の事を忘れちゃいません。しばらく見掛けませぬが、ゆめゆめお忘れ無きよう!」
「あぁ…✧(๐•̆ ᗜ •̆๐)そうだったね!さすがは田穂だ。各城にもこの際、再度注意を促すとしよう♪皆も頼む!」
「「「心得ました!!!」」」
皆一様に頷き合う。
「では次に河川整備で集まって来る人々の処遇についてだが…⁽⁽(•̀ •́๑)(๑•̀ •́)⁾⁾ و✧これはまず潘濬に説明して貰いたい。頼むよ♪」
北斗ちゃんは話しを振る。
潘濬はおもむろに頷くと口を開いた。
「(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ 本来であれば、劉巴殿から説明願うのが筋と言えます。けれども彼はまさに現在、現地に入り、鞏志殿と受け入れに不備無きように最後の確認に取り組んでおり、ここには来られません。ですからこの不肖・潘濬が彼に成り代わり説明させていただきます…」
潘濬は前置きを終えると言葉を継ぐ。
「✧(• ຼ"•ꐦ)まず皆様ご承知の通り、河川整備には大勢の働き手が必要になります。そこで若君の御意向により、我が国の者達は勿論の事、他国の者でも働きたい者には参加させる、所謂、自由参加型の方針で臨みます。募集は各城、村落の広場に立て看板を設置する事により、大々的に募集します…」
「…(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈ街宣活動も合わせて行い、随時受け付ける窓口も設置します。ここまでの準備は既に完了しており、若君のGOサインでいつでも始められます。今回は作業に従事する者には衣・食・住を提供します。そしてそれに身合う賃金も払う事になります…」
「…(ღ• ຼ"•ꐦ)これは領国外の希望者にも対応するに足る条件です。ご承知の通り、領国内の人員だけではとても働き手が足りませんので、どちらかというと領国外の働き手に頼らざる逐えないのです。家屋は十分に足るだけ用意しました。若君の指示の許、鞏志殿が集めた志組の連中が、武陵内、 零陵内は勿論の事、我々の手が及ぶ範囲の至る所に邑を設けています…」
「…(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ 所謂周代の邑に近いので想像し易いのではないでしょうか。皆が邑毎に協力出来るように、五家屋毎に共同の田畑も在りますから、いずれ工期が完了しても、各人が望めばそのまま暮していく事すら可能です。これは将来的に民の誘致を見込んだ若君のご意向に添う方針に依るものです。造り上げた物は何一つ無駄にしない、そういう事ですな!」
潘濬はそこまで説明を終えると若君に会釈した。
「潘濬、有り難う♪(๑>•̀๑)"皆、聞いての通りだ。少々準備期間を要したのはそういう事だ。決してボケっとしていた訳では無い。かくいう僕も然り気無く抜け出しては現地視察に及んでいる。潘濬ですら忙しい中、時間を割き見学に行っている…」
「…ꉂꉂ(• ▽ •๑ )各邑ともなかなかの出来だ。さすがは鞏志殿!やる事が卒ない。劉巴の統制も見事だ。各地の豪族や村主の説得工作が順調に進んだのは彼のまめな交渉の賜物だからね。志組の連中も専門能力を存分に発揮してくれた。今は確か交州に行ってるんだよな?」
「えぇ…✧(• ຼ"•ꐦ)左様です!許靖殿の交渉成立が判明した当日に既に立ち、今はあの辺りでトンカンやってる筈ですな♪」
潘濬は若君の問い掛けに即答する。
「まぁ、そういった訳だ!既に知っている者も居ろうが、今回の作業には多くの人手が必要だから、秦縁殿のお力も借りる手筈になっている。あの方の事だから、僕のGOサインも待たずに、既に動き始めている事だろう。˚ (๑*´° ᗜ °๑)੭ ੈ✧大型船に人を乗せて続々と送り込んでくれる筈だ!」
北斗ちゃんはふと閃いた様にそう告げた。
【次回】起死回生の策