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商売の神様

「秦さん!( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)✿そろそろじゃ在りません事…」


喬児はそう声を掛けた。


「あぁ…(ღ❛ ᗜ ❛ ๑)喬児!お前の言う通りだろうな。さすがは俺の見込んだ女だ♪いつもすまないな!」


秦縁は素直に礼を述べる。喬児はニッコリ微笑むとすぐに切り返す。


「フフフッ♪( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)まぁ貴方にはいつもの勘てのが在るんでしょ?珍しく潮時(タイミング)が合ったわね♪私の調査に基づく予測と、貴方の商人としての勘が一致するなんてね…」


喬児は少し嬉しそうである。ところが秦縁は急にゲラゲラと笑い出す。


「いや…(ღ❛ ᗜ ❛ ٥๑)実はな、既に関騎(かんき)を行かせてある。どうも今回は俺の勘も日頃より切れが在るらしい♪あの坊主の才幹に当てられたかな?それに今日は懐しい友人が訊ねて来るみたいだな!どうだい?凄いだろう…」


彼はそう言いつつも、喬児の目が点に為っている事にすぐに気づいて言葉尻を濁す。そして速やかに「=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)スマンな…」と言った。


いつの時代も似た様な夫婦は多い。それでも喬児はすぐに何事も無かった様に微笑みながら優しい言葉を返してくる。


「フフフッ♪✿( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)あのお坊ちゃんに余程、入れ込んでいるのね?まぁ確かに良く出来た子ですもの!でもあの歳であれだけ切れると少し可哀想ですわね♪遊びたい盛りの筈ですのに…」


「…( ◍ ❛ ᗜ ❛ ٥◍)私は大きな使命を背負っているあの子が少し気の毒ですわ!何か運命に翻弄(ほんろう)されて居る様に感じるのよねっ。あっ!ごめんなさい…」


喬児はそこまで言った後に気がついた様に謝る。彼女の目の前に居る秦縁も似たような者だったからで在った。


「(ღ❛ ᗜ ❛ ๑)ハッハッハ♪確かにな!だがそれは端の者から見た感情論だと俺は想っている。まぁ俺と劉禅君は確かにその境遇だけを見れば、似通う点は多々ある…」


「…俺も十歳で強制的に追い出されて、たった一人の従者である趙蓮と一緒に中華を放浪していた訳だからね♪だがそれを言うなら君だってそうだ…」


「…趙家の者は我ら本家の手足となって一家を盛り立てる宿命を背負っている。小さい頃から商売の担い手として英才教育を受け、実施で仕込まれて来ただろう?…」


「…今や右に出る者が居ない程の能力(スキル)を持っているのも頷ける。たまたま縁合って我らは夫婦となった訳だが、仮にそうでなくても君は俺にとって必要不可決な存在だったろう…」


「…つまり俺も君も今こうして居られるのは、その遊びたい盛りとやらの犠牲の上に成り立っている訳さ♪でも君は後悔しているのかい?悪いが俺はちっとも後悔はしていないさ!…」


「…この仕事はなかなか面白い。一番の醍醐味は旅を通じて色んな世界を見れる事と出自の違うあらゆる国の人々と付き合い、その生き方や慣習に触れる事が出来る事かな?」


「…その結果、人の知らない多くの知識を学ぶ事が出来るんだ!こんなに愉しい事は他に無いさ♪それに何と言っても儲かるからね!おっと、話しが逸れたな?君はどう想う?」


秦縁は少し罰が悪そうに照れながら聞き返す。喬児は相変わらずノホホンとしていて、悪戯っぽい瞳で切り返した。


「✿( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)そうね、私も貴方も周りがそんな人達ばかりだったから、それが当たり前だと思って過ごして来たんですもの!でも私は幼い頃に父や母が遊んでくれた記憶があるのよ♪…」


「…父は幼い私をよく肩車してくれたし、母は毎年欠かさず誕生日には御馳走を作ってくれたし、子供として愛されていた自覚はあったわ♪だから私は今の人生に悔いは無いの…」


「…そりゃあ他の年頃の子と比べたら、あれもこれもって気持ちには為るかも知れないけど、上を見始めたら切りが無いんですもの。少なくとも私は今の人生で満足よ♪」


喬児はそう答えた。


「そうだな♪(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ君のお父上は子煩悩だったからね!」


秦縁はそう応じると結論を述べた。


「 Σ(ღ❛ ⌓ ❛´٥) 我々は彼の過去をそんなに詳しく知っている訳じゃない。只、彼は本国に居る時分は見込みの無い凡庸(ぼんよう)な太子と見られていたらしいから、さぞや肩身が狭かった事だろうよ…」


「…それが今や最前線である荊州までやって来て皆の先頭に立ち、率先して行動する事で皆の手本と成り、着実に実績を積みながら皆の信頼を勝ち得た訳だ♪…」


「…ここ荊州はちょうど三國の緩衝地帯に為っている難しい場所だ。当然の事ながら統治する者の力量が問われる事になる。だからこそ魏は曹仁を配置しているし、呉も呂蒙を配置している…」


「…蜀はここ最近まであの関羽総督に任せていたらしいが、各地の将軍との折り合いが悪く、付け入る隙がある分、三國では一番分が悪かった筈だ。そんな所に現れた救世主があの劉禅君という事になる…」


「…考えてもみろ♪普通に考えればそんな凡庸な太子にこんな重要地点を任せると想うかい?確かに本国を拠点にすれば"島流し"という考え方も出来るだろうが、生憎(あいにく)とここ荊州は蜀にとっても要衝(ようしょう)だからね…」


「…つまりは失う事は出来ない重要拠点だ!そんな所に凡庸な太子を送り込む事などまず有り得ない。わざわざ要衝を失陥する様なものだからね。さらには例えボンクラだったとしても後継ぎには違いないのだ…」


「…太子を最前線に送るなんてそもそも常軌を逸していよう。だが送り込んだ。こんな事が出来るのは漢中王か丞相である諸葛亮以外には有り得ない。では敢えて送り込んだ意図は?そりゃあ生産性があるからだろう…」


「…となると劉禅君は蜀を出る前からまともで有り、彼を送り込む事によって彼らが荊州という要衝を守り切れる確信が在ったと見るべきだろう♪勿論、彼は今のところその期待に見事に応えている…」


「…そればかりか新たな策を練り、河川整備に着手し始めた。まぁこれは元々頭に画いていたものでは無いのだろう。現地の状況を把握しなきゃそもそも始まらないからね♪…」


「…こんなに積極的な姿勢をみせる彼が、自分を取り巻く状況を忌避(きひ)し、後悔など果たしてするかね?俺はむしろその状況を愉しんでいる様にさえ見えるけどな…」


「…まぁとはいえ彼はまだ若い。年相応の生き方をさせたいと願う君の気持ちも判らなくは無いさ♪俺も何か出来る事が在れば(やぶさ)かでは無い。どうせあの方とはこの先、長い付き合いに成るからな!せいぜい気を配るとしよう♪」


秦縁はそう述べたものの、実際には大して気にも留めて居なかった。あの太子がそんな事で精神的に追い詰められる事など無いと確信していたのである。


確かに幼少期の心的外傷(トラウマ)が引き起こす精神的打撃が大人に為ってから表れて可笑しな方向に向かう事例(ケース)も多々ある。


けれども劉禅君の場合はどうもそんな感じには見えなかった。むしろ今の状況を受け入れ、困難が降り懸かる時にはそれを上手く回避したり打破する手を考えている。


全体を俯瞰(ふかん)して観ており、目標に向かって着々とその地盤を固めて一歩ずつ着実に目標に近づいている様に見えた。そこには焦りは露程(つゆほど)も無く安定感が(うかが)える。


商人にとってはそういう相手は投資の対象として申し分無い。確固たる信念の許、ブレが無いからである。


但しやろうとしている事はほぼ賭事(ギャンブル)に近い。果たして目的が達成出来るかについての確証は無かった。


けれどもそれは人が明日、何が起こるかが分からないのと同じ様なものだ。投資するに当たっては信じる根拠と為るものを持っていないと先には進めない。


劉禅君にはその点、嘘が無かった。彼は(みずか)らこう述べている。目的が達成出来れば我々の勝ち。出来なければ滅亡すると。


つまりはオールオアナッシングという事に為る。簡単に言えば生きるか死ぬかである。


それは危うくも見えるが、見方を変えればそれだけ本気だという事に為る。後には一歩も引かないという決意の表れなのである。


そしてそれを支持し、皆が太子を信じて身を粉にして同じ方向を向いて励んでいる。その姿勢に秦縁は打たれたのである。


あの歳でそれだけのカリスマ性を発揮し、皆を主導するなんて尋常では無い。しかしながら彼には焦りも不安すらも感じている気配は見えなかった。


まるで親や先生の期待を一身に背負った子供が、その喜ぶ顔が見たいと懸命に励む(さま)だと表現すれば御理解頂けるだろうか。


その発想力といい、その行動力といい、皆を先導する求心力といい、どれを取ってみても簡単に為せる技では無く、あどけなさを残した子供の神業(みわざ)などと果たして誰が想うで在ろうか。


けれども裏を返せば、そこには子供にしか為し得ない"遊び心"がふんだんに練られており、敵国を攻め屈服に追い込まなければ天下統一など夢のまた夢と考えている大人達とはその根本の発想が完全に一線を画していたのである。


『(ღ❛ ⌓ ❛´*)劉禅君にとっては"考える事"が(すなわ)ち"愉しさ"なのかも知れない。だが何の制約も無く遊んでいる訳じゃない。何故なら彼の持論は命の尊さで有り、あの慈愛の心が在る限り、その発想には多くの人々の命運が懸かっている事も承知していよう…』


『…だからもし仮に面白い(ひらめ)きを得たとしても、実用として扱うまでには頭の中で検証実験(シミュレーション)を繰り返し繰り返し行っているに違いない。或いは日頃からそんな事を繰り返して居るのかも…』


『…とすれば、もしかすると彼の行動は趣味と実益を兼ねているのかも知れんな♪そうで在れば、彼がこの先曲がることは決して無い!』


秦縁はそう想いながらもひとり苦笑いしている。幼さが残るとはいえ相手は荊州の一方の盟主で有り、自らが決めた取引相手だ。


趣味と実益を兼ねた行動などと考える事自体が不遜(ふそん)と言うものであった。但し彼が聞いたら案外笑いながら肯定するかも知れない。


()の太子はまだまだ発展途上とはいえ、在る側面では大人顔負けの内面を持つ。大人の倫理(モラル)と子供の柔軟性を内包している稀有(けう)な存在なのである。


『 Σ(ღ❛ ⌓ ❛´٥)おっと!』


秦縁はいつの間にか喬児を置き去りにしている事に気づき頭を掻く。考え始めるとひとり(えつ)()る彼の悪い癖であった。


けれども喬児は相変わらずのほほんとしており、悪戯っ子の様な眼差しで笑みを浮かべながら秦縁の表情を愉しそうに眺めていた。


秦縁はそれを観て取ると、申し訳無さそうにすぐに言葉を返す。喬児も彼がようやく我に返った事を歓迎してクスりと微笑む。


「(ღ❛ ⌓ ❛´٥)ハハハ…面目無い。申し訳無いね♪どうも劉禅君の事と為ると想像の翼が拡がるらしい!」


「✿( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)ウフフッ。判ってますわ♪貴方の肩入れの仕方ったら相当の入れ込みようですものね。でも私も何となくその気持ちが判る気がしますの♪河川整備どころか運河を構築するなんて前人未到の事柄!…」


「…今まで誰も踏み込んだ事が無い未知の領域に果敢に挑むその姿勢に貴方が共鳴しても何ら不思議は無くてよ♪だって貴方も自ら進むべき道程(みちのり)を考え、切り拓いて来たひとりですもの♪彼の思考に自らの行動を投影したのでしょうね!」


喬児はそう言って彼に寄り添った。秦縁もまた彼女の包み込む様な優しさに触れて再びポリポリと頭を掻く。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ判るかい?そうなんだよな♪劉禅君を観ていると何かひと昔前の自分を思い出す。恐らく代々の御先祖様も試行錯誤して歩んだ道程(みちのり)なのだ。いざ始める時には肩に力が入り、自分がまるでこの世界の全てを背負(しょ)って立つ様な気分に為るもんさ!…」


「…劉禅君はあの歳で気負(きお)って当たり前なのに、周りにはそんな雰囲気は微塵も見せない。大した度胸だと感心するよ。まぁそれでも(いず)れ実施に臨んだ矢先には身震いが来る瞬間が必ず来るだろうね♪…」


「…そんな時には先達(せんだつ)の者として、自分の経験から学んだ事くらいならば助言(アドバイス)しても良いと想っている。これは内政干渉には当たらないだろうから、然り気無く兄貴分として接するつもりだ!何しろ我々としても大金を投じる計画(プロジェクト)だから、そのくらいは許されるだろうよ♪」


秦縁はそう答えるとほくそ笑んだ。喬児もにこやかな表情で言葉を添えた。


「( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)そうね♪いいんじゃありません事?私達は共同経営者の様なものですもの!そのくらいの事なら許されるでしょうね♪」


「ꉂꉂ(ღ❛ ⌓ ❛´*)まぁそういう事だな!だが俺はきっちりと境界線は引くつもりだよ♪甘やかすつもりは無いからね!」


秦縁ははっきりとそう述べた。自分主導の事業では無いのだから"でしゃばる事は無い"そういう事である。


喬児もコクりと頷く。


「( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)大丈夫よ!男の子ですもの♪」


「そうだな!(´°ᗜ°)✧それにあの太子には人を観る目が在るからね。周りの者達が彼を全力で補佐(バックアップ)する事だろうよ♪」


秦縁は"民の心を掴んだあの若君ならば必ず果たせる"そう想っていた。ある意味これも冒険なのである。


若者はその心に大志を秘め、失敗を怖れずに躍動するべきで在ろう。そしてその先には挑んだ者にしか見えない素晴しい景色が広がっているのだと秦縁は想った。


『(ღ❛ ⌓ ❛´*๑).。oO そして彼は必ずその景色を眺める事になる…』


これは秦縁の経験に基づく考察であり、彼は確信に近い信頼を劉禅君に寄せていた。


『(๑ •̀_₍•́ *๑).。oO でなけりゃあ大金など投じない…』


彼は再び苦笑した。


彼も人である以上、当然の事ながら、未来を見通す事など出来ない。けれども最大限の経験を駆使して商人としての勘を働かせる事は出来た。


この世の中、まだまだ商人目線で物事を見る者は少ない。だからこそ今この時に彼ほどの確信を持つ者は存在しないだろう。


皆、恐らくは蟷螂(とうろう)(おの)(たか)(くく)っているに違いないのだ。


『(๑•́⌓•́).。oO それもこの計画を成功に導く助けと必ずや成る(はず)なのだ…』


秦縁はほくそ笑みながらそう感じていた。


喬児はまたぞろ彼が瞑想(めいそう)に入ったのを見てクスりと笑い、今度は放っておく事にした。


子供の頃からの長い連れ合いである。その辺りの機微(きび)を心得ていない喬児では無かった。




しばらく後に来訪者があった。さすがに秦縁の予感は当たる。喬児は出迎えると直ぐに彼に伝えた。


「✿( ◍ ❛ ᗜ ❛ ◍)貴方、楼琬様と仰る方が尋ねて来られたわ♪客間に通してありますよ!」


喬児の声にすぐに反応した秦縁は小踊りするように飛び出して来た。


「へぇ~まさかね♪(ღ❛ ⌓ ❛´*٥)古き友、遠方より来たる、愉しからずや…か?」


秦縁はそう(のたま)うとその足で客間に向かった。と言っても(パオ)から(パオ)への移動である。駐留している彼らにとっては(すこぶ)る当たり前の日常であった。


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈお茶を頼む!」


秦縁は一旦、振り返ると喬児にそう告げた。

【次回】竹馬の友

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