四人遊び
「何ぃ~!Σ(ღ`⌓´٥)」
田穂は直ぐに反応した。彼は勘が鋭い。
これは死との狭間の中で瞬時の判断を繰り返して来た彼ならではの勘である。そしてその確率は高い。高くなければ今頃お墓の中である。
その研ぎ澄まされた勘は仲間達にも信頼されている。だから皆、この瞬間に『૮₍ - ⤙ - ₎აやはり何かある…』と想った。
桓鮮も実のところ危険な臭いを嗅ぎ取ってはいたが、その確証は無かった。だからこそ多忙な田穂を呼び出したのである。
『やっぱり…૮₍ ᴗ ̫ ᴗ ₎ა』
桓鮮は自分の勘も満更でも無いとほくそ笑む。そして言った。
「૮₍˶ᵔ ᵕ ᵔ˶₎ა頭領、早速ご検分いただけませんかね?」
「あぁ…(〃`⌓´٥)=3 そうだな、でも内緒で覗くだけにしておこう。この後の段取りに差し障るといかん♪」
彼はそう言って、クイッと首を上げる。
「こちらです…૮˃̵֊ ˂̵ ა」
そう言って桓鮮自らが案内を務めた。ご多分に漏れず牢は地下にある。
これは襲撃を受けた時に捕虜を奪還されないための工夫であり、勿論脱獄をさせないためでもある。二人は肩を並べるように階段を降りて行く。
その頃…怪しいと言われた当の御本人様はというと、隔離された牢内でひたすらに壁を見つめている。まぁ捕虜なんだから確かに退屈ではあるのだが、それにしてはその表情は微妙に過ぎた。
『何だこれは…(*`‥´٥)』
彼は驚きに顔を歪める。なぜなら壁という壁には文字が刻まれているのだ。
まぁそれがよくある落書きの類いなら、彼も笑って済ませるのだが、そうじゃあ無い。これは明らかに着工された当初から刻まれたものである。
なぜなら、書き出しが『牢内の心得』だからである。彼は先程から、それを繰り返し読んでいる。何かこの江陵の秘密を探る手懸りになるかも知れないと考えたからだった。
けれども何とも言い難い。簡単に言えば掴みどころが無いからである。それは不思議な文言から始まっていた。
【牢内の心得】
人の生きる力は喜びである。
まずは笑顔を絶やさずに上を向こう。
そして辛い時には悲しみを分かち合おう。
必ず夜明けは来るのだから。
良き睡眠は頭をより良く活性化させる。
そして良き食事は疲れを癒してくれる。
健康の秘訣は、睡眠と食事である。
お替わり自由。遠慮無く食べよ。
活力が湧けばきっと貴方は生きている喜びに気づくだろう。
そして青い空の素晴しさを知る事だろう。
死んではならぬ。
良く考えたら馬鹿らしい事である。
自裁に逸る程、愚かな事は無い。
つまりは阿呆だ。
苦しみの心は誰にだってあるものだ。
自分だけと想うなかれ。
もしかしたら貴方はまだ幸せな方かも知れない。
[荊州の掟] 丞相代理・劉公嗣。
そしてその後にはこう記されている。
追伸 頼むから自裁しないでね。後片ずけが大変だから。
拷問追放宣言の街。
明るく笑って生きたい方は進んで江陵に移住しよう。
職探し手伝います。
高収入保証。
未来の荊州を造るのは貴方だ。
土木作業の熟練者、建築作業出来る者、長期雇用約束。
明日の夢を掴むのは君だ。
読み始めたら切りが無い。おそらく読むだけでもしばらくは退屈しない事だろう。詩の一節のような始まりからして、牢内にはそぐわない。
どうやら捕慮が自裁しないように、くどくどと生の喜びを説いているらしい。その割には、途中暴言を吐いたり、最期は必死にお願いまでしている。
『片ずけ大変だから』と余計な事まで書いてある。
そして標語とも宣伝とも想えるような文言が羅列してある。どうやら人材を募集しているらしい。
しかも良く見ると「君たちも僕と一緒に夢を目指さないか。きっと後悔させないよ♪」なんてのもある。
『やれやれ…(٥´°ᗜ°)囚人まで雇うつもりか?正常とは想えんな!』
彼は深く溜め息を尽くと、目の前の巨大な絵画を眺める。四方に囲まれた壁の一つには壁面いっぱいに若い男の顔を描いたと想われる絵が描かれており、その顔は得意げに笑っていた。
彼はすぐにピンと来た。
『(´°ᗜ°)✧これがおそらく噂の劉禅君だろう。しかしまだ若いのに、得意満面なのが癪に触る。将来、ろくな大人に成らん…いや、もう壊れているか。気の毒にな…』
『…でもこれだけ歌って在れば殺される事は無さそうだ。しばらく気楽に過ごし、人質交換か救出作戦を待つとするか。ここの生活も落ち着いてみれば悪くない。少しはまともな面も在るのだろう…』
彼はそう想い、絵画から目を背けると、また壁の文言を一から読み始めた。退屈はしなくて済みそうだった。それに、したらしたで寝れば良い。
彼は独房なのを良い事にブツブツと呟きながら読み返し始めた。彼が目を背けると、やがて劉禅君の黒目が少し動いたように見えた。けれども彼は文言に熱中する余り、気づく事は無かったのである。
「カタン!」
柔かい音がして、覗き窓が締まる。勿論、牢内側に音が漏れる事は無い。厚い岩盤がそれを阻んでいるからだった。
「どうです?૮₍´。• ᵕ •。`₎ა」
桓鮮は訊ねる。
「うん、そうだね!Σ(٥`⌓´ღ٥)あれは歩隲殿だな。あっしは潜入中に秦縁殿と飲み歩いた…否、誤解するな!これは遊んでた訳じゃない。調査の一環だからな♪」
田穂には無論やましい事は無いのだが、誤解を怖れる余り、必要以上に強調したのが不味かった。桓鮮はジロリと睨む。田穂は大人げなく、ジロリと睨み返す。
窮屈な場所で良くやるものである。でもさすがに捕虜を覗く隠し窓の前である。機転を利かせた桓鮮が譲歩を示した。
何を言っても一緒に死線を潜り抜け、同じ釜の飯を食って来た仲である。頼りになる兄貴なのだ。
「勘弁して下さいよ、兄貴~♪૮๑ˊᯅˋ๑აまだ何も言ってませんぜ!それよりどうします?そんな大物、手に負えませんぜ!何でこんなところに…」
桓鮮がそういうのも無理は無い。歩隲という男は悔れない。何しろあの士燮を屈服させた手腕を評価されて、長沙の大守となった男である。
本来ならば、今頃、隣接する武陵の費観や費禕と対峙している筈だった。それに南郡には趙雲と張嶷が。零陵にだって費詩が居るのだ。
こんなところで油を売っている場合では無い筈なのだ。ここで田穂の勘がまたまた閃く。
『(ღ`⌓´*).。oO もしかしたら、河川事業の目的に目を付けたかも知れないっすね。歩隲殿はどうも武陵が欲しいらしい。長沙郡もかなり広いけど、武陵はもっと広いからなぁ。あっ!そうか。劉巴殿もかなり神経質になってたな。こりゃあ、やっぱり待機っすね。大人しく劉巴殿を待つべきだな…』
田穂はそう決意した。
それに彼は潜入先の呉で士大夫と名の付く者や将軍のお歴々とはひと通り挨拶を交しているので、既に面は割れている。今のところ、ここ荊州と彼を結び付ける証拠が無いだけで、その面を見られたら一巻の終わりである。
否…その点については手遅れかも知れない。でも出来得る限り、姿を晒さないに越した事は無いだろう。
「さぁな?(*`ᗜ´٥)੭ ੈこのあっしにも判らんよ!でもどうも下手に手を出さない方が良い事は確かだ。"餅は餅屋に任せよ"と言うからね。せっかく劉巴殿が仕込みをしているんだから、ここはお任せしよう…」
「…ꉂꉂ(`ㅂ´ღ*)御苦労だった。でもお手柄だよ♪何せ知恵が回るお人だ。相当、用心深いのでも有名だからね!身柄を拘束された事も無いんじゃないかな?」
田穂は桓鮮の機転を褒めた。
「いや~૮₍˶ᵔ ᵕ ᵔ˶₎აそれほどでも在りやせんや♪全く頭領は褒め上手なんだから♡」
彼は謙遜しながらも、満面の笑みで喜んでいる。根はお調子者なのである。
ひとまず状況の把握も出来た事だし、この事実は良い土産になる。それに彼らが逃げる心配も無いから、もはや慌てる必要すら無かった。
だから二人は取り敢えず劉巴が来るのを待つ事にしたのである。
ところが、それからかなりの時間が経過しているのに、待てど暮せど劉巴は来ない。さすがの田穂も何か不測の事態でも起きたのかと、やきもきし始めた。
桓鮮は後手に頭を乗せると、足は胡座を掻いて寛いでいる。決してやる気が無い訳じゃない。その道の玄人としての身体の管理である。
すると夕刻近くなって楼琬だけがフラリとやって来た。「あっ!Σ(ღ`⌓´٥)楼…」と言おうとした瞬間に田穂は手の平で口を塞がれた。
「(٥ •ᗜ•)シィ~!!」
彼は擦り寄る早さが尋常では無い。田穂が遅れを取る事など滅多に無い事だから、桓鮮も他の者たちも驚いている。ところがこれで、当の本人は相手の正体が判ってしまった。
「やれやれ…(〃`⌓´٥)=3 何で判ったんです?これじゃあ、せっかく避けたのに意味がない。まぁ~いいっす!状況の把握は済んでますんで、報告しますよ♪」
田穂はニヤリとほくそ笑んだ。
「あっ!Σ(,,ºΔº,,*)やっぱり♪判る??」
「そりゃあ、あんた判りますよ♪Σ(٥`⌓´ღ٥)今まであっしが接近を許したのはあんただけです!この桓鮮でさえ無理なんすからね?」
田穂はそう説明を狭むと「(`ー´ღ*)ねっ!若君、そうでしょう?」と言った。これには桓鮮を始めとする他の者も顔がひきつる。
どう見ても若君には見えない。しかしながら当の北斗ちゃんは残念そうに同意した。
「あっ!Σ(˶‾᷄﹃‾᷅˵)そうか、そう言う事なのねん…」
残念そうな若君を横目に田穂は宣う。
「まぁそういう事です。(ღ`ェ´*)⁾⁾ 若君…貴方、楼琬殿に擦り寄る事にも成功したでしょう?楼琬殿はかなり驚愕していました。まだ実力は未知数ですが、あの驚き様は尋常では無い。恐らく初めての体験でしたでしょう…」
「…自分の俊敏さに自信がある者ほど、初見ではビビりますからね?あっしの場合はもう慣れましたから涼しいもんです。それに貴方が特別な事はやってないのも判ってますから、気にもしてませんよ♪」
「そうなんだよなぁ…(⑅˘̳ლ˘̳⑅)♡皆びっくりするんだよね?僕は到って無意識だったんだけど、たぶん痩せた分、動けんだろうな?それにほら、太ってる時に擦り足だったでしょ?…」
「…成都から荊州までピョンピョン跳ねて来たし、体重が程良い重しになって足が鍛えられたんじゃないかと思う訳!まぁ本当のところは自分でも判らないや?で、報告って何?」
北斗ちゃんはまだガッカリした様な微妙な表情である。余程、騙せると確信があったらしい。田穂はちょっと大人げない事をしたと反省している。そして若君の質問に答えた。
「それが実はですな…(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈ」
「ふん!ふん!(٥ •ᗜ•)⁾⁾」
北斗ちゃんは頷く。
「Σ(٥`⌓´ღ٥)五人の間者の中に陸遜の手練では無い大物を見つけました!」
「えっ!Σ( ꒪﹃ ꒪)それまじでぇ?」
「まじです!ꉂꉂ(`ㅂ´ღ*)それもかなりの大物ですよ♪」
「へぇ~そら凄い♪(๐•̆ ᗜ •̆๐)お手柄じゃないか?で、誰なんだい…」
北斗ちゃんは興味津々といった顔で田穂に訊ねた。
「(ღ`⌓´*)それがですなぁ~歩隲殿なんですよ!」
「何ぃ~あの長沙の大守殿か?Σ(,,ºΔº,,*)とするとやっぱり劉巴の読み通り、士燮殿の絡みかもね?」
北斗ちゃんは、ズバリ指摘した劉巴の鋭さに感心している。
「そのようですな!(ღ`ェ´*)⁾⁾ まぁ今のところ大人しくしとります。この桓鮮が捕えてくれたのです。」
田穂は正直にそう披露した。桓鮮は真っ赤な顔で照れている。余程、若君に手柄を披露して貰えたのが嬉しいらしい。
北斗ちゃんは反射的に視線を移す。そして言った。
「あぁ…(๑>•̀๑)" 君か♪君は確かあの時に費禕と一緒に手伝ってくれた人だね?水を汲んで来たり、後片ずけしてくれた青年でしょう♪アハッ♡年上の人に向かって言うのも失礼かな?あの時は有り難う♪」
北斗ちゃんはちょこんと頭を下げて感謝を示した。逆に山高帽の男の方が少し焦って狼狽えている。
「なっ、何でそれを?Σ૮₍ ˃̵͈᷄ . ˂̵͈᷅ ₎ა あの時、私は変装を解いていました。良くお判りになりましたな?」
「(*`ᗜ´٥)੭ ੈ桓鮮、若はそういうお人なのだ。恩は忘れぬ。そしてこの人には見てくれは通用せんな!心の形を見ていらっしゃる…」
田穂の言葉に桓鮮は感心している。言い方も恰好が良い。"心の形を見る"なんて、何て素敵な言い廻しだろうか。
すると北斗ちゃんは照れながらこう答えた。
「やだなぁ田穂!(∗˃̶ ᵕ ˂̶∗)♡褒め上手なんだから♪でも心の形か?それって素敵な言葉だね♪でも褒め過ぎだよ!実際に僕は見てくれに騙される事もあるからな♪でも有り難う…」
北斗ちゃんは満面の笑みで感謝を示した。そして心の中で『今度使おう』とほくそ笑んでいた。悪戯心は健在なのである。
桓鮮は改めて若君の細やかな心配りに感じ入っていた。そして頭領が若君と良い関係を築いている事が判って安堵していた。
「で?(ღ`⌓´*).。oO 若はどういう経緯でここに?」
田穂はようやくその質問に辿り着く。青天の霹靂とは正にこの事である。彼は良かれと想い、若君を煙に巻いたが、結局のところ、この御方にまやかしは通じないと改めて感じたのだった。
すると、北斗ちゃんはフフンと胸を張ると、こう応えた。
「⁽⁽ღ( •̀ ᗜ •́ *)良くぞ聞いてくれました♪」
彼はそう宣うと田穂の疑問に答えてくれたのである。
劉巴は田穂と別れるとすぐに楼琬の許に急いでいた。ところが楼琬のところへ辿り着くと、何と若君が二人でじゃれ合いながら、着替えの最中だったのである。
劉巴はその瞬間に冷や汗を掻く。すると「ゴホン♪✧(• ຼ"•ꐦ)」と咳払いする声が聞こえて、振り向くと潘濬が佇んでいたという訳だ。
「劉巴殿♪(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈせっかくの機転を申し訳無かったが、この様です。そう安々と若は騙す事など出来ませんよ。何しろ愉快な匂いを嗅ぎ分ける能力はピカいちですからね♪」
潘濬は苦虫を噛み潰すように、両手を大きく広げた。劉巴も同じ想いに至っていたので苦笑している。すると北斗ちゃんが目敏く気づいて叫んだ。
「こらっ♪(๐•̆ ·̭ •̆๐)潘濬、この僕をまるで野次馬の如く言うとは失礼千万!僕は常に事態の推移を見守っているのだ。遊び半分に務めている訳じゃない。全体像をより明確に推理すれば、こんな事くらいは朝飯前さ♪…」
「…⁽⁽(੭ꐦ •̀Д•́ )੭*⁾⁾ それはそうと、劉巴も悪いが殊の次弟を説明して貰うよ!君ももう計画の絵図は引いてるんだろ?どうだい互いに手の平に書いて見せ合いっ子しないかい?」
北斗ちゃんは愉しげにそう告げた。
「⁽⁽ღ(°ࡇ°*ღ)若、僕もそれやりたいなぁ♪それってあの孔明先生と周瑜殿が、互いに手の平に"火"って書いて見せ合いっ子した奴でしょう?ねぇ混ぜて下さいよぉ♪」
楼琬も猫撫で声で頼み込む。
「勿論!いいよ♪(ღ • ▽ • ๑ )潘濬も一緒にやろう!皆でやればより愉しい筈さ♪」
北斗ちゃんは悦に入った。潘濬も溜め息混りに、仕方無いと参戦する。
「じゃあ、いいね♪(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ各自、手の平に書いたらせ~ので見せ合いっ子だ!!」
北斗ちゃんは嬉しそうに号礼を掛ける。
皆、手の平に文字を書き終えたので、若君の「せ~のっ♪(๑>•̀๑)"」という掛け声と共に四つの手の平が一斉に開いた。
そこには、皆全て「躱」と書かれていた。劉巴は驚くように三人を見る。皆、一致したのでかなり興奮している。
「ワァ~凄いね♪✧ ⁽⁽(•̀ •́๑)(๑•̀ •́)⁾⁾ و✧まさか四人で一致するなんて想わなかったな!感激しちゃった。前からこれやってみたかったんだよねぇ♪」
北斗ちゃんも嬉しそうにそう告げた。
それから四人は話し合って段取りを組み、役割分担を終えると一勢に動き出したという訳だった。結局のところ、田穂の所に行くのは若君に決まった。
「✧(•́⌓•́๑)僕を騙そうとした罰だかんね♪」
劉巴はそう言われては引き下がる以外に無かったのである。それに北斗ちゃんも、田穂が果たして自分に気づくかと、お茶目な悪戯心を発揮して、ワクワクしていたのであった。
【次回】踊る阿呆に観る阿呆