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山高のとんがり帽子

楼琬の突然の出現から始まった一連の騒動はこうして幕引きと為った。会が散会されるといの一番に喜んだのは、誰在ろうその楼琬だった。


ようやく部屋に戻り、この官服とも当面の間はおさらばだと考えていたからである。彼はワクワクしながら官服を脱ぎ、ウキウキしながら毛皮を着込む。


まさに野性児の習慣が彼をそうさせるのだろう。一度口を開けばあんなにも皆を感動させる事が出来るのにである。


もしかしたら彼がこんなにも官服を嫌がるのには理由があるのかも…と余計な詮索までしたくなる始末なのだ。けれどもそれは当たらずとも遠からずで在ったかも知れない。


彼は官服を着ると、未だに弱き心であった頃の自分を想い出していたからである。人とは苦しかった時期の事はややもすると忘れ勝ちだが、彼のように大きな衝撃を受けた者には、そうそう忘れる事が出来ないのかも知れなかった。


彼は自分で宣言した通り、徐々に慣れようとは想っていた。そして過去の事を忘れない自分を叱咤するのでは無くて、その頃が在ったから自分は成長出来たのだと前向きに考える事にしたのだった。


彼が部屋に戻り、こうして(くつろ)ぎながらその想いに馳せている頃、若君の周辺ではまたぞろひと騒動が持ち上がっていた。


会が散会されて皆が引き上げる段になって、戸の向こうでは田穂隊長を待つ配下の者が(しび)れを切らす様に待ち侘びていた。


「隊長♪大変です!」


「何だ?ꉂꉂ(`ェ´ღ*)(ぎょうぎょう)々しいな!何があった?」


田穂も只事では無いと想い、聞き返す。すると配下は田穂の耳許でこう告げた。


「呉の者と(おぼ)しき間者がこの二日間で五人も入り込もうとしていました。さすがに殊の次第を憂慮した桓鮮(かんせん)兄貴が呼んでます!頭領(おかしら)の判断を仰ぎてぇそうです♪」


田穂は「Σ(ღ`⌓´٥)何っ!」と叫びそうになって、慌てて口を抑える。ひとまず若君は今すぐに介入させたくない。まず自分が状況を把握してからの方が都合は良かった。


だから配下を追いやるように先に帰すと、廖化を手招く。廖化は相変わらずまじめ一徹に、若君に張り着いている。


田穂は慎重に部屋の外から顔だけ出して、変な恰好で手招きしたもんだから、まるで招き猫のようなプリティな具合になってしまった。


幸いな事に若君は潘濬と背を向けて話し込んでいたし、二人には気づかれないで済みそうだった。ところがこのまじめな男も気づいてくれない。


田穂が困っていると、何と劉巴がこちらに気づいてしまった。劉巴は気づいた途端に何か拠ん所ない問題だとはたと認める。


そこで話し込んでいる二人に「私は別件がありますのでこれで…ꉂꉂ(o'д'o*)」と然り気無く了解を取り、そそくさと部屋を出ると、有無を言わせず田穂を引っ捕まえて、さっさと別室へと連れ出した。


「で?✧(o'д'o٥)やっぱり何か在ったんですな!そして若君にはまだ知らせる段階では無いと見ました♪ならばこの私が相談に乗りましょう。なぁに悪いようには致しません。貴方にとっても却ってこの方が都合が良かったかも知れませんよ?」


劉巴は涼しげな顔でそう(のたま)う。冷静な表情の中にも、内緒で悪巧みするワクワク感が如実に出ていた。


田穂は首根っ子を抑えられた謂わば(とりこ)であるから、仕方無く打ち明ける事にした。


「それがですな…(〃`⌓´٥)=3 一昨日(おととい)の朝から今朝までの丸二日の間に呉の間者が五人も潜入しようとしたらしいのです。そこで隊を委ねてある桓鮮の奴から、呼び出しが来たという次第。今まで静か過ぎた嫌いは在るのでしょう…」


「…(*`‥´٥)何せあそこも秦縁殿の世話に為っている筈です。間者が入り始めたなら、どうやら復興に目処が着いたんでしょうなぁ。まずは事実を確認してからと想った次第っす。でないと、若はノリノリで絡んで来る事、請け合いな訳でして♪それは劉巴殿もお判りかと!」


田穂の説明は理路整然であったので、劉巴もウンウンと頷いている。


「そうですなぁ…(o٥'д'o).。oO 困った事です。で?その五人は今、どうしているのですか。やっぱりあれですか?拷問(ごうもん)とかで吐かせるとかですか…」


劉巴は自分で言っておきながら、顔を歪める。


田穂は呆れたように苦笑いで答える。


「Σ(٥`⌓´ღ٥)劉巴殿、それは世情の噂に惑わされ過ぎです。我が隊は管邈(かんばく)様の時代から拷問などしておりません。それにあの満寵(まんちょう)様でさえ控えておりました…」


「…ꉂꉂ(`ㅂ´ღ*)まぁ彼の場合は慈愛の精神というよりは、美しくないという理由ですがね?魏では何でも専門性を敷いて居りましたので、拷問官つ~のが存在します。主に彼らがその役目を担い、あくまでも仕事として行う訳です♪」


田穂は淡々とそう述べた。劉巴は口をあんぐりと開けて驚きを隠さない。


「へぇ〜Σ(ღo'д'o٥)そう何ですな…仕事でそんな事をするとはおぞましい。もしや我が国でも在るのでしょうか?」


田穂は劉巴の余りにも無知な言葉に呆れ果てている。高等教育を受けた人でも、やはり知識に片寄りはあるらしい。


田穂はいみじくも楼琬が述べた多才を集め、その道の先駆者になるという話しの一端がこの時初めてしっかりと理解出来たのである。


但し、拷問官や処刑人が果たしてその中に含まれるのかには首を(かし)げる。


「(ღ٥`ᗜ´)੭ ੈそうですね、益州の本国には居るかも知れませんね。あっしはご承知の通り、魏から投降した身ですし、元々は北の生まれです。益州など足を踏み入れた事も有りやせん…」


「…(ღ`⌓´*)ですがこの中華の国の州である限りは、元々漢の皇帝から派遣された州牧(しゅうぼく)が治めていた筈ですから、必ず居るのでは無いっすかね?…」


「…(ღ`ェ´*)⁾⁾ あっしがはっきりと言える事は、この荊州の中で少なくとも若君の息が掛かっている場所には拷問も、それを担う者も居ませんぜ!北斗ちゃんが禁じているからですけどね♪だから御安心下さい…」


「…(*`ᗜ´٥)੭ ੈ五人は牢には繋いでいますが、睡眠も食事もちゃんと取らせている事でしょう。じゃあそろそろ行くとしますか?劉巴殿は頭が良いんですから何か想いついたら耳打ちして下さいね!期待してますぜ♪」


田穂は劉巴をそう諭して目配せすると、歩調を合わせる様に歩き出した。劉巴は潘濬ほどには法に傾倒して居なかったが、この問題には少なからず懸念を感じていた。


人権の擁護(ようご)は人として生きる上で大事な事である。誰だって他人に強制的にいたぶられ、無理強いを強いられる事が在っては為らないのだと感じていたのである。


潘濬は将来的に新法制定に携わると言っていた。若君との約束なのだと熱く語ってくれた。その時に『人の権利』が反映される様に、自分も何か働きかけが出来ないだろうかと想うのだった。


そんな時に劉巴はふと閃く。彼は自嘲気味にほくそ笑む。閃きとはこんな風に降臨するものなのかも知れない。彼は士燮に悪戯を仕掛けた時の事を思い出し、想わずニヤけた。


田穂は両手を頭の後ろで組んで、のんびりと歩きながら、横目で劉巴を眺めている。その横顔がニヤついているのを認めると、途端に嫌な予感に(さいな)まれた。


せっかくあの若君のノリノリな介入を事前に阻止したのにも拘わらず、その代わりとして、自分は毛色の変わった違う厄介者を引き入れてしまったのではないかと感じたのである。


『虎を避けて狼にぶち当たる』そんな格言が在るのかは判らないが、少なくともその時の彼はそう感じて冷や汗を掻いていた。


すると案の定というべきか、劉巴が突如立ち止まり、田穂の方を振り返るとこう言ったのである。


「ꉂꉂღ(o'ㅂ'o*ღ)田穂さん、ひとつ面白い事を思いつきました♡宜しければやってみませんか?」


『やっぱり…Σ(ღ`⌓´٥)』彼は想う。確かに劉巴に着想(アイデア)を求めたのは自分である。けれども今、目の前で笑っているこの男の顔を観ていると、少なからず身震いを感じたのである。


その瞳には悪戯心がたっぷりと見て取れ、やる気満々な怪しげな黒い光を放っていたのだ。


田穂はゴクリと喉を鳴らし、恐る恐る問い質す。


「(ღ`⌓´٥)⁾⁾ ハァ…何ぞ思いつきましたか?」


「ꉂꉂ(o'д'o*)アレですよ♪アレ!」


「(*`‥´٥)ハァ?何すか?」


「ꉂꉂღ(o'ㅂ'o*ღ)だからぁ♪奇妙(キテレツ)な方ですって!こんな時には相手を混乱させるのが一番でしょうが!!ねっ♪面白いと想いませんか?」


「:;((`罒 ´٥ ))));:あっ、あんたまさかアレっすか?でもそれって大丈夫なんすかね!やり過ぎなんじゃ…」


「ꉂꉂ(o'д'o*)アッハッハ♪だって拷問しないんでしょう?相手を傷着けず、こちらも傷着かずが一番良いでしょうが!確かに一時的に(かわ)すだけですが、相手を(けむ)に巻けば、しばらくの時間稼ぎに成りますからね♪やってみる価値は在ると想うのです!如何ですか、やってみませんか?第一その方がこちらも愉快でしょうがっ♪」


劉巴は愉しそうだ。田穂は再びゴクリと唾を飲み込んだ。


「(〃`⌓´٥)=3 グッ…まぁ確かに!でも何かあってもあっしは知りませんぜっ?それで良ければ…」


「ღ(o'д'o*ღ)あぁ…いいよ!私が責任持つから♪第一、今は呉を相手にしてる時では無いんだ!安全に、より安心して河川整備には着手したい♪その為には相手を刺激しないに越したことはないからな。じゃあそういう事で早速、私は相談してくるから、先に行って待っててくれ♪」


そう言うと劉巴はそそくさと行ってしまった。


取り残された田穂は咄嗟に引き留め様と手を差し出したが、彼はノリノリでスルリと躱すと、身軽にスタコラと行ってしまったのだ。


『Σ(#`罒´٥)੭ ੈ…あの人あんなノリだったっけ?それにしても若の周りには可笑しな人達が多いな!何で皆、あんなに愉しそう何すかね?やれやれ…せっかく若君を躱したのにな!参った…』


田穂はホトホト困りながらも桓鮮(かんせん)を始めとする仲間の許へと急ぎ足で向かったのであった。




桓鮮は田穂が到着すると、待ちくたびれた様に深い溜め息を漏らした。


頭領(おかしら)、遅いですぞ!何、油を売っとったんです?全くもう(´~`٥)…」


桓鮮は少々御冠である。田穂は(なだ)める様に優しく諭す。彼だって溜め息を吐きたいくらいなものである。


「(〃`⌓´٥)=3 まぁそう言うな…お役所仕事にも苦労はあるのさ!それにちと訳ありでな♪今少しカラクリを組んでいるから、少し待て!場合によっては面白くなるかも知れんぞ♪」


すると現金な者で、桓鮮は途端に御機嫌と成り、その瞳を輝かせた。


「(*♡∀♡)♪マジっすか♪そりゃあいい!何だぁ♪頭領(おかしら)ぁ~そんな事なら早く言って下せ~や!こりゃ愉しみだなぁ♪何かな?何するんかな??」


桓鮮は先程とは打って変わってノリノリとなり、勝手にそのハードルを上げる。


田穂はその様子を目の当たりにして、ますます嫌な予感に苛まれる。そう言えばそうなのだ。この目の前に居る男も変わった奴なのである。


『やれやれ…(*`‥´٥)そう言えばそうだった。』


田穂は想う。この桓鮮という男もかなり変わっている。そもそもその風体からして可笑しな奴なのである。田穂は改めて彼の風貌を眺めながらそう感じていたのであった。


その出で立ちはかなり変わっている。端的に表すとすれば、ズバリ案山子(カカシ)である。そう…あの田圃(タンボ)や畑に立っている藁人形(ワラにんぎょう)である。


山高のとんがり帽子と表現すれば、より判りやすい。その言葉通り、彼は山高の帽子を被り、その身体は(ひょうひょう)々としていて、身体の線が判らぬ様な大きめの服を着込んでいる。


しかも薄汚れた橙色のその上衣は茅葺きで編んだものだから、遠くに佇む彼を眺めた時には、本当の案山子(カカシ)に見える事だろう。


誰も疑わぬ事、請け合いである。だがこれは彼の詐術のひとつであり、そう思い込み舐めて掛かった瞬間には、もう彼の術中に()まっているのであった。


恐らくは呉の手練れの者どもも、彼のその風体に見事に騙された口で在ろう。彼は先の尖った長く細い針の様な物で相手を仕留める。


それは決まって頭の後ろの首筋を狙うか、心の臓をひと突きである。でも若君の傘下に(くみ)してからの彼は殺生は控えていた。


あの時の治療の様子を眺めていた時に、彼なりに想う所が在ったのである。そう管邈の命を救った若君の懸命な姿勢を見つめていたあの時である。


だからそれ以降の彼は、必ず手刀を首筋か鳩尾(みぞおち)に入れて相手を気絶させ、その戦意を奪っていた。彼も御多分に洩れず、若君の影響を受けたひとりなのであった。


日頃はこの"山高のとんがり帽子"は気のいい奴であり、仲間からも慕われている。そして今、彼は手を真っ直ぐに上げながら妙な恰好でひとり小躍りしている。


本当に妙な奴だと田穂も溜め息混じりに苦笑いしていた。でもそんな彼を観ていると、まんざらでも無い。もしかしたら、劉巴殿の策がより一層に効果を発揮するのではないかと想ったのであった。


「(ღ`⌓´*)✧で?呉の間者はどうしてるんです?何か引き出せましたか?」


田穂は浮かれる桓鮮を引き締める様にそう訊ねた。どうせこの件はこの後、自分の手を離れる可能性大だが、それまでは現状を維持するのが自分の務めである。


それに万が一という事も見据えておかねば為らないから、彼は配下を一度引き締め直したのだ。桓鮮もそれは感じたらしく、直ぐに応えた。


「(〃´o`)=3 まぁよく寝てよく食う奴等です♪捕えた当初は皆、拷問を怖れ緊張していましたが、そうで無いと判ると、途端にガツガツとよく食います。さすがは陸遜配下の手練れとみえて、油断はしていないようです。皆、牢で大人しくしていますな。ただ…」


そこで桓鮮は一旦、口を閉じた。それは言い淀んでいる様にも考え込む様にも見えた。人は言い放つ瞬間に、間違いがあると不味いと考え込む場合がある。おそらく彼も引っ掛かるものが在ったのだろう。


「(〃`⌓´٥)=3 何だ!何か気に懸かるのか?なら言ってしまえ。何かの足しになるかも知れんぞ♪」


田穂はこういう場合、必ず吐き出させる事にしている。情報が増えれば選択肢も増えるから…という訳ではない。


彼は情報が増える事が必ずしも良いとも想っていなかった。その分、迷いも増えるからである。


おそらくは若君や劉巴殿の様に頭が切れる方々にはその方が良いのだろう。どちらかというとその悩む選択肢を考える事が彼らの愉しみの様に想えるからであった。


田穂が吐き出させる理由は只ひとつ。本人の迷いを無くさせるためにほか為らない。間諜にとって迷いは禁物である。


その一瞬の迷いが生死の一線を別ける事がある。長く死線の上を彷徨(さまよ)って来た田穂だからこそ判る事であった。


田穂の意向を入れた桓鮮は、山高帽子を直しながら、こう答えた。


「(٥ ^∀^)頭領(おかしら)、どうも毛色の変わった奴が紛れ込んでますぜ!ありゃあ間者では在ってもプロの間諜じゃ在りませんぜ♪全く好き好んで潜入するなんてかなりの物好きか被虐的(ドエム)ですな?」


山高のとんがり帽子は澄ましてそう言い放った。そして冷ややかに笑みを浮かべた。

【次回】四人遊び

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