知識と経験の違い
北斗ちゃんは、相変わらず、関羽将軍と華侘先生の所を往復する日々を過ごす。先生には許可を得た物の、彼はさすがにまだ生きた皮膚を切る事には躊躇いがあった。だから、未だに肉を切って練習をしている。
「お~い!皆、今日は関羽将軍からの差し入れが在るぞ♪喜べ!巨大な牛の塊だ♪この僕が自らそれを捌いてやるから、どんどん焼くのだ!御馳走にも箔が付くと言うものだな(´▽`)♪」
北斗ちゃんはひとりで悦に入っている。でも練習しただけあって、彼は繊細な刀捌きでどんどん肉を調理しやすい大きさに捌いてくれるので、料理人にとっては有り難かった。
皆も美味しい肉を主人自ら捌いてくれるので、とても旨そうに食べている。
「弎坐お前もタンと食べろよ♪ほれ!厚く切ってやるぞ(´▽`)♪」
「(-ω-;)北斗ちゃん!これ舌じゃないっすか!洒落てないで、私にも肉下さいな…肉!肉!肉!」
「(^。^;)エ~!タンて希少部位なんだぞ!こんな美味しいとこをくれてやろうという僕の優しさが判らんとは情けない!じゃあ、お前には普通の肉をやるよ!このタンは没収だ!僕が自ら食すとしよう!」
彼はタンを取り上げると、そのままササッと細かく小刀を入れて、次から次へとそのまま掴んで口に放り込む。
「(人´∀`*)お~こりは旨い!その価値を知る者の腹に召されよ♪こんな感じで美味しさが伝わるかな?ワハハハハ♪」
北斗ちゃんは満面の笑みを浮かべて喉を鳴らし、あっという間に完食してしまった。
その具合を観ていた弎坐は今さらながらに後悔したのか、残念そうな表情で物欲しそうに眺めていた。
「弎坐ちゃん、またね!今度は素直に試してみると宜しい!(´▽`)その機会は得る時に得ないとね!機会は鳥の如し、飛び去らぬうちに捕らえよ、さ♪」
北斗ちゃんは美味しい部位を食べられてご満悦である。彼の肉捌きはこれでさらに乗りに乗ったから、皆に取っては幸いだった。
弎坐もけっきょくタンこそ逃したものの、北斗ちゃんがどんどん美味しいお肉を次から次へと回してくれたので、たらふく食べれて満足ではあったのである(-ω-*)♪
その昼げは愉しいひとときと為って、皆の心に深く刻まれたで在ろう。
さて、北斗ちゃんは今日も華侘先生の所に来ていて、お手伝いに励んでいる。
「( -_・)せんせ♪これこんなんで大丈夫でしょうか?念のため見て下さい!」
「(*´▽`)おお♪いいじゃない!ちゃんときちんと巻けているよ♪中身は何を処方したのかね?」
「茶色の奴と黒いの交ぜて捏ねて塗り込みました。勿論優しくやりましたよ、なぁ嬢ちゃん( -_・)♪」
「うん♪お兄ちゃんが優しくしてくれたよ♪痛くなかったよヾ(@>▽<@)ノ♪」
「(*´▽`)そうかそうか…お嬢ちゃんは偉いね♪ちゃんと我慢したんだね♪傷口に布は貼ったね?」
「( -_・)えぇ、ちゃんと!」
「(*´▽`)良し♪偉いぞ!基本に忠実で結構だ!この道は術だけが大事なんじゃない!地味だが治療の方法は皆大事なのだ!勿論、命を優先する必要はある…」
「…だから緊急時には助かる命を優先する。だが、地味な対応を疎かにしてはいけない。簡単と想える事を医者が怠り、命の危険をけして作っては成らないのだ!」
「( -_・)" はい!せんせ!」
「(*´▽`)ちゃんと手当てする時に、どうするか説明したかね?」
「( -_・)はい!せんせ、致しました!」
「(*´▽`)それで良い!患者に不安を与えぬ様にする事が肝心なのだ…但し、緊急時はそれに及ばずだ!」
「( -_・)はい!せんせ、せんせは関羽将軍にも術の前に説明をされたと聞いています♪必ず私も守りますよ!」
「(*´▽`)宜しい!合格だ♪今日はもういいよ!」
「( -_・)嬢ちゃん、また明日来るんだ♪経過を見るから、いいね?」
「(*^-゜)vはい、お兄ちゃん有り難う♪」
「( -_・)もう帰っていいよ♪じゃあね…」
北斗ちゃんは女の子の頭を優しく撫でてやる、
「(*^-゜)vお兄ちゃんまたね♪」
女の子は近くにいたお母さんのお腹に抱きついた。母親も頭をペコりと下げる。北斗ちゃんも相槌で返す。二人は手を繋いで帰って行った。
そんな親子の背中を彼と華侘先生は微笑みながら見送った。
「( -_・)…人の役に立つって良いもんですね♪」
「(*´▽`)そうだな…その気持ちが報酬だと私は思っているよ♪それを君にも忘れないで欲しい♪」
「( -_・)ええ…承知してます♪」
「(*´▽`)御苦労様!もう行っていいよ!」
「( -_・)はい、今日も有り難う御座いました!自分の使った道具はキチンと片して参ります…」
「(*´▽`)礼を言うのは私の方だ♪毎日有り難う…」
「( -_・)こちらこそ!勉強になりますから、気にしないで下さい♪」
北斗ちゃんは道具を片すと帰って行く。そんな彼を誇らしげに華侘は眺めていた。
「( -_・)どうです?将軍、そこ…これで生きましたよね?」
「( ;`Д´)ううむ…やられたわい!若、やりますな?そこ罷りませんかね?」
「( -_・)?それは駄目だよ爺!真剣勝負って言ったのは爺だよ♪僕の黒石が逃げ切ったのは、爺が中盤に気を執られ過ぎたせいだからね♪」
「( ;`Д´)た、確かに!若、拙者は驚きましたぞ♪こんなにメキメキ腕をお挙げになるとは?油断大敵ですな…でも爺は嬉しゅう御座いますぞ( *´艸`)♪」
「( -_・)…だとしたら爺の教え方が良かったせいだね♪師匠!有り難う御座います♪」
「( *´艸`)否、否、こりゃあたまげたわい!若が吸収が早く優秀な生徒だからですぞ♪これで置き碁を置かなく為って、10勝11敗…遂に負け越しましたな、(´~`)全く参りましたな!これでは明日にも白石を譲らねば成りませんぞ♪」
「( -_・)フフ♪爺は大袈裟だな…まだ1つ★を多く落としただけじゃないか?戦場ではやり直しは効かないんだろう…必ず打開策を見つけなきゃ!喩え背水の陣を敷いてもね♪」
「( *´艸`)仰有る通りですな♪爺は仮にそんな事が起きたとしても、今の若の言葉を思い出して、(´~`)けしてギブアップは致しませんぞ!」
「( -_・)あぁ…頼む!爺には僕が国を豊かにする日まで居て欲しいのだ♪( ・∀・)必ずだよ、いいね♪」
「( *´艸`)ええ…無論!」
関羽はそんな日を頭に描いた事もある。それを太子様ご本人から窺って感無量であった。この所の彼には少し変化が現れて来ていた。周りに対する態度が柔らかく成ったのである。
直ぐに癇癪を起こさなくなり、部下を頭ごなしに叱責しなくなっていた。だから始めの内は怪訝な表情でみていた配下達も嬉しかったのである。あの若き監察官がやって来てからである事も皆、理解していた。
皆、若き監察官に感謝していたのである。彼らは監察官とは、ねちっこく粗捜しをして糾弾する存在だと想っていたからであるが、元々北斗ちゃんは監察官では無いので、種を明かせば不思議でも何でも無い。けれどもそれは秘密だから明かせないのは仕方ない。
『( -_・)本来は現地の事実を知る事にあるのだから、実際監察官の様な者なのだが、監察が名乗って堂々と徘徊出来てる事の方が珍しいよな…』
北斗ちゃんは関羽が大好きだった。そんな関羽が部下を怒鳴りつけたり、人を軽んじたりする行為には頭を痛めていたし、見ていて嫌だった。だからもし仮に自分が接する事で、彼の中に何らかの変化が生じれば嬉しいと想っての判断だったのだ。
それが今、日々接する中で変化を見せて来た事に、北斗ちゃんは喜びを見出だしていた。これを地味に続けていけば関羽将軍の考え方その物を根底から覆す事が出来るかも知れないと彼は期待していたのだった。
『( -_・)爺…僕は爺を信じているよ!だから無茶をしないでくれ!必ず軽はずみな事をしないと信じているよ…』
北斗ちゃんはそう想っていた。関羽自身がそこを自覚して自ら直す事が出来れば、もはや彼は誰にも負けない、文字通りの仁徳者である。彼に弓を引く者や彼を蔑ろにする者は居なくなるだろう。
そうなれば他国の者も彼を今まで以上に恐れて身動き出来なくなるに違いない。彼は只、そこにじっと居るだけで、相手の敵対行動を許さない存在と成れるのである。
彼に今、求められているのは、相手に敵愾心を如何に持たせないかであって、相手を怒らせたり、袋小路に追い込む事ではないのだ。
『( -_・)フフ…孫氏の兵法さ!用兵の道は心を攻むるを上となし、城を攻むるを下となす。心戦を上となし、兵戦を下となす。これを爺にも当て嵌め、魏や呉にも当て嵌めてみたい…』
『…今はその時では無い気がする。まだ力を蓄えねばここは危うい。だが、相手が仕掛けてくればそれも適わない。だからこそ趙雲を巻き込んだ。子龍には悪いと想っているが、なるべくならば、この手が必要に成らなければ、その方が平和が維持出来る…』
『…だからそれに越した事はない。だが、それも相手在っての事だ。後は魏や呉がどう考えるかだろうな…準備は平行して行わねばな。まずは南郡の安定が絶対的に不可欠だ…頼むぞ!趙雲♪』
趙雲はまめに使者を寄越していた。それもここに居る者達には判らない様に、彼が民の慰問や華侘先生の手伝いをする時に限定されていた。だから趙雲は身体の調子の悪い者の中で必要な人選をしたりと、既成概念に囚われない方法を採用していた。
但し、必ず二人対で行動させた。病人をひとりで行動させる事は出来ないからだ。そして北斗ちゃんが自室で作った医薬をその都度与えて返した。南郡地方は水に当たるとも言う。体調の維持が慣れない者には厳しい事を聞いていたからだった。
こうして北斗ちゃんは趙雲との連携も密にしていた。その中で関羽将軍の叱責や人を軽んずる気風が明るみに出た為に、彼は日々努力していたのである。
『( -_・)…後は叔父上の気持ちを知り、和らげねば成らない。爺と叔父上の仲違いはけして味方に利はもたらさない。それどころか敵に利する事になるやも知れぬ…それだけは避けねば成るまい…』
彼は今でも費禕せんせの講義を休まず受けている。その中で得た知識は実践に成るべく応用する事にしていた。些細な日々の応対の中ですら、それは生きて来る。
知識は頭の中で腐らせて置く物では無い。ましてや鍵を掛けて大事に保管する物でも無い。活用出来る物からどんどん使い、使った事でそれを経験として貯め込み、また繰り返し活かして行く。
華侘先生がいみじくも語った基本に忠実もとても大切ではあるが、それだけでなく応用が叶えばその根底にある考え方その物さえ覆す事が出来るのだという事を、彼は頭の中で感覚として捉え始めていたのである。
『この方はなんて不思議なお人なのだろう…丞相が認めた理由がなんとなく分かる気がする。私も教えていてこんなに手応えを感じるのは初めてだし、とても嬉しい。この方が陛下の後を継ぐ日が愉しみで仕方ない…』
費禕はそう想っていた。彼はあの日に『来て良かった…』そう思ったものだが、最近はこの太子様の傍に仕える事そのものに喜びを感じ始めていた。
『恐らくそれは費観や弎坐でさえもそうだろう…弎坐も最近は愚痴を言わなくなった。日々の暮らしを愉しんでいる様だ。これも太子様の人徳に違い在るまい。将来が楽しみな事だ!』
費禕はまた先の愉しみが増えたと喜んでいる。それは関羽将軍や趙雲将軍も同じ気持ちで在るにちがいない。彼はまた明日の授業が待ち遠しくて仕方なかった。また、たんと準備して置こう…そう想うのだった。