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過去との訣別

諸葛亮は丞相府の一室に(もう)けられた客室を訪ねると中に入る。するとすぐに弎坐が気づいて拝礼した。


「Σ(ღ-ω -〃٥)丞相、何か御用でしょうか?」


孔明は目をまんまくして自分を見つめている男を静かに眺めながら頼もしく想っていた。成都で太子付の宦官(かんがん)として務めていた頃は、目立たず黙々と日々をこなすだけで、名前すら記憶にない男だった。


ところが太子が(かわや)に落ちた"肥溜め事件"に偶然、巻き込まれた事が原因となって、ここ荊州まで来る羽目になり今に至っている。


勿論、本人に意識の変化が無ければ、未だに太子付の小者のままで在ったろうが、その太子の影響を受け、本人が自らの目標を見つけ努力して来た結果、彼は医療の分野でも一目置かれる立場に成りつつあるのだ。


『✧(ღ ˘͈ ᵕ ˘͈٥*)若君の才能は本人だけに止まらない。その言動や姿勢が周りの者に影響を与え、人間性や学ぶ姿勢を養う(かて)になっている。一番身近に居た筈のこの男の変わり様がそれを如実に物語る。この波及効果は将来、我が蜀をきっと推し上げてくれる事だろうな…』


諸葛亮はここ荊州の地に来て、実際にその成果を見聞きした事でより強くそう感じていた。彼の希望が確信に変わった瞬間であったのだ。


『考えて行動する自由』簡単なようで実は大変難しい。そしてまたその第一歩を踏み出す勇気も必要だった事だろう。


若君本人に言わせれば、『(´°ᗜ°)✧僕はまだ何も成し遂げていない!』そう答えるに違いない。


けれども孔明はその言葉を肯定しつつも、そんな事は無いと思っていた。他人にこれだけの影響を与え、その身を縛る事も無く、強制する事も無く、自由気儘に考えさせて行動させる。


そこには信頼と相手を思いやる心が無ければ、けして出来ない事である。自分の手足として使う事だけが目的なのじゃ無い。その先の将来を見据えているのだ。


勿論、優秀な人材は喉から手が出る程に欲しいのだから、彼らが将来に渡って自分の許に留まり、共に国の繁栄の為に寄与してくれたなら嬉しいには違いない。


けれども人として生まれた以上、その人の人生はあくまでも本人のものであり、束縛する事は出来ないのだ。本人の意志を尊重し、目的に向かって進む者は温かく送り出してやらなければ為らない。


人と人との繋がりは一期一会。その時に通い合った気持ちを大切にしながらも、やがて進む道が別れる時には、その心を尊重し、その道をけして閉ざしてはいけないのだ。


果たしてそこまで理解してしての姿勢なのか…孔明にもそれは分からない。けれども、関わった仲間の将来の事を真剣に考えてやれる姿勢と、その目的意識を植えつけてやれる気概が若君には在るのだと彼は想った。


広い視野で物事を眺める冷静な瞳。相手を思いやる温かい心。大きな器をそこには感じさせる。時が彼を成長させ、その度量を育んでいるのだと感じずには居られないのだ。


無論その為には本人の努力も必要になってくる。日々過ごす中でその事にいち早く気がつき、自らも目標を掲げて歩みを止めない。


そんな事が出来る人が果たしてどれだけ居るだろうか?孔明にも及びもつかない事である。


けれども意識してか無意識なのかは判らぬまでも、おそらく若君の頭の中では、常に激しく様々な葛藤が行き交い、その目的地に通じる道程(みちのり)を探している気がした。


壁にぶち当たれば、一旦、出発地点に戻り再び違う道筋を探す。その繰り返しである。そして依り確実に引く事の出来る道を探すのである。


そんな姿勢を目の前で見せられたなら、その前向きな背中を眺めていたなら、誰だって自分の行動を振り返り、自らも考えさせられる様になる。


おそらくはその姿勢に皆が共感し、置いてきぼりに成らぬ様に着いて行こうという気持ちになるのだと孔明は結論着けたので在った。


弎坐は丞相が自分を眺めながらも、言葉を発し無いので不思議な表情で観ている。何か目的があって来たのは朧気(おぼろげ)に判るが、どう対処して良いか判らぬまま、躊躇している様であった。


孔明もそれに気づき想わず苦笑する。


『やれやれ…Σ(ღ* ˘͈ ᵕ ˘͈٥*)=3 私とした事が!弎坐を困らせてしまったようだ!』


彼は気がつくなり、すぐに訪問の目的を述べた。やや自嘲気味に照れている。


「(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭ ੈ弎坐、悪いが少し席を外してくれないか?この男とは少々過去に絡みが在ってな♪勿論、害するつもりなど無いし、容態が悪化する様ならすぐに声を掛けよう。私もここでこの男に死なれては困る…」


「…ꉂꉂ(ღ ˘͈ ᵕ ˘͈ *)無事に帰郷して貰わねば為らないからね♪それは医者である君たちと心は同じ。だから少し時をくれないか?私はここで過去の(わだかま)りを越えて、先に進む糧としたいのだ…」


「…✧(˘͈O˘͈*)まぁ言うなれば過去の精算をしたいだけだ。迷惑は掛けないから頼む!お前なら少しは私の気持ちも理解出来よう。この通りだ!」


孔明は頭を下げる。


弎坐には詳しい事は分からない。けれども過去の精算をしたいと思う気持ちはなんとなく理解出来た。


自分も成都で(もんもん)々と過ごして来た日々には(わだかま)りが在って、払拭(ふっしょく)するのに時間が(かか)ったものである。勿論、丞相のそれとはかなりの温度差があるには違いないが、今ひとりの男が頭を下げている。


丞相がこの自分に頭を下げる日が来るとは、彼にとっては青天の霹靂(へきれき)であったが、その気持ちは尊重しなければ為らないと即座に感じ取れたのだ。


彼は宦官(かんがん)であり、男と言えるかは最早わからない身の上だったが、そんな過去の蟠りは既に乗り越えていた。終わった事、そして現実は変えようが無いが、この先の事はまた別で在ると気づいたからである。


それに気づく切っ掛けを与えてくれたのは若君のお陰であり、自分を色眼鏡で観ない温かく広い心であった。


弎坐はおもむろに立ち上がると、落ち着いた言葉で一言伝えて部屋を出た。


「|•̀ω•́)✧⁾⁾判りました、何か在れば呼んで下さい。隣室に控えておりますから…」


孔明は静かに頷くと謝意を示した。


「承知した。⁽⁽✧(˘͈O˘͈*)ありがとう…」


戸はバタンと閉まり、そこには孔明と孟徳だけになった。


孔明は孟徳の寝顔を眺めながら、やがて一人言を呟く様に口を開く。そこには冷ややかな感傷は最早無かった。


『孟徳さん♪(ღ* ˘͈ ᵕ ˘͈٥*)✧私の家族は貴方のお陰で離散する羽目になりました。けれども徐州人には気骨がある。貴方はたくさんの人をその手に掛けましたが、その心までは挫く事は出来なかったのです。反骨心とは相手の与える恐怖さえも乗り切れるものなのです…』


『…(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭❁ ੈ今、貴方は中原を制し、三國の中では一番優位に立っていますが、後を追う者の足跡は常にヒタヒタと感じて居る事でしょう。フフフッ♪それでも貴方は否定するかも知れませんね!でも事実そうなのですよ♪我々はまだ中原を回復し、漢の再興を計る事を諦めた訳では在りません…』


『…(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭ ੈ我が君・漢中王もそしてここに来て成長されている若君・劉禅君も貴方の背中を追い、いつの日にか対峙される事でしょうね♪私は彼らの手足となり、必ずや貴方に一矢報いるとここに約束致します。けれども合わせてそれは貴方に対する恨みからでは無いとも断言します…』


『…ε-(˘͈O˘͈٥)あの時には残念ながら私達には貴方を止める力が在りませんでした。勿論、貴方のやった事をけして許した訳では在りませんが、今ここでそれは払拭致します。貴方と対峙するのは、あくまでも大義のため。正々堂々と貴方を倒すとここに約束します…』


『…ꉂꉂ(˘͈O˘͈*)貴方もそれをじっと待っているだけの人では無いでしょう。今は互いに河川事業所に力を注いでいますから、しばらくは同盟を享受すると致します!待っていて下さいね♪私は必ずや貴方の目の前に再び見参すると約束しますよ!』


孔明はそう独り御馳ると満足した様に踵を返した。そして「⁽⁽(˘͈O˘͈*)お大事に♪」と呟くと静かに部屋を跡にした。部屋を出た孔明の顔は晴れやかそのものであった。


「弎坐♪(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭❁ ੈ終わりました。後は引き続き頼みましたよ!」


「はい!(-ω-*)♡承知しました。お任せ下さい♪」


弎坐はそう応えると、再び部屋に戻る。彼は丞相のその表情から、過去のしがらみから解放されたのだと感じていた。そして丞相も葛藤のあるひとりの人間なのだとふと感じたので在った。




孟徳は夢の中を彷徨(さまよ)っている。そして今までの人生が走馬灯の様に(よみが)っていた。その中には竹馬の友である子孝とはしゃいだ悪巧みや決起から今までの数々の困難が次から次へと頭の中を流れて行く。


そして彼が行った中でも(むご)たらしい行いが彼自身を責めて来る。それは陳宮と逃げる際に誤解から殺してしまった呂伯奢(りょはくしょ)であったり、自分に異を唱えた荀彧(じゅんいく)、献帝の妃・伏皇后だったりした。


その中でも大量虐殺した徐州10万の民が彼の頭を押さえ付ける様に重くのし掛かって来る。


けれども彼は持ち前の胆力を発揮してその全てを払い退ける。何とも凄まじい程の精神力である。


彼には決起以来、彼の目指す闘いの為に個人の自由や感情を捨てて走り抜けて来た自負があったから、そこには一切の妥協は無かった。全ては数々の列強を押し退けて天下をこの手に握るためだった。


そして中原を制覇し、献帝を傀儡(かいらい)として押し戴き、自らは魏王と為って皆を従え、呉や蜀に(にら)みを利かせている。彼は自身の成果をけして満足はしていないものの一定の評価はしており、自身の行動に後悔は全くしていなかった。


『ꉂꉂღ(๑°ㅂ° ๑)儂がやらねば誰がやる!天下の人に背くとも、天下の人を背かせはしない…』


彼の苛烈な程のこの決意は今も変わる事はなかった。まさにその一心で突き進んで来たのだ。


そんな中、彼の夢見に突然介入して来たのは、色鮮やかな(うろこ)(まと)う一匹の龍であった。彼はすぐに『Σ(๑°ㅂ°٥๑)臥龍(がりょう)だ!』と感じた。


なぜなら龍は(しき)りに彼の身体に纏わり付き、身体を締めにかかるのである。


『ღ(๑°罒°٥๑)徐州大虐殺を責めているのか…』


彼は当初そう想った。しかしながら、龍はそんな曹操を嘲笑う様にニヤリとほくそ笑むと、やがて彼の束縛を解いて、クルクルとそれは見事な円を描きながら、やがて天空の彼方に去って行った。


彼の自負を打ち砕き、挑戦的な眼差しを投げ掛ける様にそれは見えた。けれども不思議と恨み辛みの類いは感じなかった。


彼は冷や汗を掻くとその反動で目が覚めた。上半身を起こし辺りを眺めるが、曹仁は居なかった。すると、外で話し声がする。


『弎坐♪終わりました。後は引き続き頼みましたよ!』


『はい!承知しました。お任せ下さい♪』


二人の男の声が聞こえる。内容が短く、はっきりとした事は判らないが、片時も自分の傍を離れる事が 無かった曹仁は居らず、自分は寝倒れていたらしい。


『Σღ(๑°罒°٥ღ๑)捕われている??』


彼は咄嗟にそう頭に浮かんだものの、すぐに否定した。そんな記憶は無かった。


そこで『Σ(๑°ㅂ°٥๑)もしや倒れたのでは?』と思った次第である。もし仮にそうであれば、記憶が無い事や曹仁が傍に控えていない事にも納得は行く。


するとその時、外から人が入って来る気配を感じて、彼は瞬時に倒れた振りをする事にした。状況が判るまでは目覚めた事を悟られぬ方が得策である。


様子を窺った後に、万難を廃して起きた振りをする方がこの際、安全だと判断したのだ。彼が再び寝倒れた直後に、ひとりの男が入って来た。


その男は自分の前に座り込むと腕を取り、脈をみている。そして安定している事を確認すると、立ち上がり、テキパキと動き始めた。


どうやらロウソクの火を付けて廻っているようだった。薄目を開けて覗き込むと、その男はかなりのやさ男ながら、まるで女人のような顔をしている。


ところが、彼の腕を掴んだ時には繊細な細長い指をしていたのに、机の上を水手拭いで()く腕は筋骨隆々だった。


『(๑ °⌓°๑)どうやら宦官のようだが、脈を取るところをみると本業は医者のようだな…』


曹孟徳はそう想いながら、時折、さり気なく観察を続けた。何しろ目覚めてしまった手前、何か気を紛らせてないと暇である。


彼のように元々行動派であり、じっとしていられない者には、暇潰しが必要不可訳であった。


しばらくすると、厄介な事にはお腹が空いて来た。そりゃあそうである。今までさんざんぱら倒れていた訳だから、健康を取り戻した今、お腹が空かない訳が無い。


腹は時折、鳴っているが、彼は布団の中で気づかれぬようにお腹を押さえて我慢した。


彼は戦場では三度の食事もまともに食べれないという経験は何度もしているし、現在も政務の合間に小腹を満たす程度だったから、我慢出来たのだろう。


それに本人は知らない事だが、倒れてから実際は然程の時も経っていない。未だ一日経過するかしないかと言ったところだったのだ。


ひと通りの作業を終えると、やがて女人の如きその青年は、そそくさと部屋を出て行く。そしてその替わりとして、見慣れた男が入って来た。


どうやら自分は相当容態が悪かったらしい。手厚い看護を受ける身のようだ。


交替で入って来たのは管邈だった。彼もしっかり脈を見て、それからひと通りの状態を観察すると、少し離れて腰を降ろした。


その後、華佗老師の診察があり、鍼治療を受ける。これは過去にも経験があったから、何とかやり過ごす事は出来た。


但し、痛がる訳にも行かず、果たして医術の粋を極めた華佗に見破られずに済むのか肝を冷やしたが、特に何事も無く治療を終えた華佗は、管邈に声を掛けるとそのまま退室したのだった。


ところがしばらくすると、けたたましいくらいドタドタとした音が聞えて来て、懐しの従弟の声が耳をつんざく。


「ε-ε-ε-( ー̀дー́٥)੭ ੈ兄者、兄者~♪」と、自分を呼ぶその叫び声が嬉しくもあり、面倒でも在ったのだ。だがこれだけ騒々しく近づいて来ると、却ってこちらに対する注意喚起(サイン)なのではないかとさえ、想えてくるから不思議である。


『ひょっとしてバレたかな?(๑°ㅂ°٥๑)さすがは華佗じゃ、(あなど)れぬ!』


曹操はそう想い、片目をわずかに開けて様子を窺う。すると曹仁は部屋に入るなり、寝台に横たわる曹操に抱きつく。


何とも暑苦しい歓迎振りである。むしろ看護で付き添う管邈の方が驚き慌てて駆け寄った程だった。


「大王!(*ー̀ᗜー́ღ*)良かった♪目を覚まして本当に良かった♪」


曹仁はもはや脇目も振らず、彼の顔を見つめている。孟徳はこれも素性がバレた事に対する注意喚起(サイン)なのかと想った程であった。


彼は深い溜め息を漏らすと、仕方無く片目ずつ開けて辺りを見回す。一番に飛び込んで来たのは、曹仁の満面の笑顔だった。

【次回】化かし合い

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