人の道に叛くな!
明くる朝、北斗ちゃんは目覚めるとすぐに患者を見舞った。弎坐はすでに管邈と交代しており、仮眼に入っていたので、彼は華佗老師と管邈に迎えられた。
「先生!(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈおはようございます♪管邈も御苦労様♡」
北斗ちゃんは挨拶を済ませると、患者の容態を聞いた。
「おお、斗星か!✧(ㆁωㆁ*)お前も御苦労だな♪大王は相変わらずだ。容態は安定しておるが、如何せんまだ目覚めぬ。だが呼吸は穏やかだし、心配は無かろう!」
「⁽⁽(ღ • ▽ • ๑ )そうですか、それは良かった。急変する事も覚悟していますが、出来得るならば五体満足で帰郷させてあげたいのです。今は先生だけしか頼る方が居ませんから、大変でしょうが宜しくお願いします♪」
北斗ちゃんは、はっきりとそう告げた。先生も管邈もその点については何も言わなかった。彼らは同じ医者として同じ気持ちを共有していたのだから。
けれども彼自身はこの事が明かるみに出た折りには、一悶着在るだろう事を覚悟していた。
中には曹操に恨みを抱いている者も居るだろうし、それを差し引いたとしても、最大仮想敵国の玉体が何とも都合良く"籠の中の鳥"となっているのだから、良からぬ気を廻す者が出たとしても不思議は無かったのである。
そして、北斗ちゃんが今一番懸念しているその相手が丞相・諸葛亮その人なのであった。諸葛亮が生まれ故郷である徐州を逐われ、親族が離散する切っ掛けを作ったのが曹操に依る"徐州大虐殺"であったのは有名な話しであり、童たちですら皆、知っていた。
そして劉備に付き従って以来、"天下三分の計"を献策し、それを実現させ、"打倒!曹操"を標傍し、"漢復興"を目指すために日夜寝る暇を惜しみ政務に励む彼の姿勢には皆、頭が下がる想いであった。
そんな孔明の骨身を惜しまぬ 努力もこれ皆、"漢復興"に懸ける想いである事は皆、重々承知の事である。それは当然の事ながら、北斗ちゃんも判っていたから、この事実を丞相に打ち明けるべきかどうか迷っていたのだった。
只ひとつ幸いな事には、この荊州に於いて既に限定的ではあるものの、魏蜀同盟が結ばれており、この荊州に於いてのみ彼らは同盟者である事だろう。
北斗ちゃんとしては、おそらく同盟の堅守を理由に丞相を説得する道はあるとは想っていた。そしてそれが一番、事を穏便に収める手立てなのも判っていた。
けれども彼の心がそれを潔しとはしないのである。彼は確かに医術の道を志した医者でもある。だからもしかすると、医者としての立場の自分がそう判断したのだと想われる節もあった。
しかしながら、彼の心の中では人としての道に叛く事は出来ないという強い信念があり、安易な妥協に走る事を躊躇わせていたのである。
確かに曹操は乱世の奸雄であり、人道上潔く無い事にもその手を染めて来た。おそらく怨嗟の念が彼の周りを渦巻いている事だろう。
だがその強引な手腕で数多の敵を討ち果たし、少なくとも中原と呼ばれる北部の中心地は平和を取り戻す事が出来ている。
この戦乱の時代にその手を血で染めていない者が果たしているだろうか。皆、大なり小なり国と国との威信をかけて戦っているのだ。
まさに五十歩百歩。目くそ鼻くそを笑うとまで言ってしまっては不味いのかも知れないが、果たして曹操が逆賊で彼の父・劉備が正義かと問われるならば、それはあくまでも"大義に於いてはそうである"としか北斗ちゃんは想っていなかった。
曹操が人の命を踏みつけにして進んで来た道を否定出来る程、劉備もお人良しでは無い。彼の父もその手を汚して来たひとりであるし、それは丞相ですら例外では無いのだ。
確かに諸葛亮は直接手を下した訳では無いが、その献策によって多くの敵を退けている。つまり多くの者の血で汚れているという点では変わりが無いのだ。
この戦乱の時代で手を汚していない者など限られて来る。女、子供がそうだが、そんな立場の者でさえ、身を守るためならば、生きて行くためならば、人を危める。
時代が悪かったと言えば確かにそうなのだが、だからこそ弱って死にそうな者には一時の慈悲を施す必要があるのでは無かろうかと彼は想っていたのだ。
『(٥´°ᗜ°)僕はやっぱり甘いのかも知れないな…』
北斗ちゃんはそう想わないでも無い。けれども正々堂々と渡り合ってこその大義だと彼は感じていたのである。
『(°⌓°٥)いつまでも隠し通せるものでも無い。人の噂に戸は立てられない。仕方無かろうな…』
北斗ちゃんはそう考えて、すぐにも丞相に面会を求める決心をしたのである。
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ では先生方、後は宜しくお願いします。勿論、緊急時は昨夜お話しした通り、いつでも遠慮なくお呼び下さい。僕はこれから孔明に会って来ますので、目と鼻の先に居りますから!」
彼はそう伝えると、ペコリとお行儀良く挨拶した後にそそくさと退出した。そして一旦、執務室に戻った上で、丞相の許へと向かう事にしたのだった。
「✧(ㆁωㆁ´٥)若君もやはり人の子よ!どうやら大王の扱いに悩んでおられるようじゃな♪然も在らん!あの年齢の砌に管邈、お前さんは何をしとった?よくやっていると想わんか?だからゆめゆめ儂らは若君の気持ちに沿わぬ事は避けねばならぬ、ひとまずは今、目の前の事に全身全霊を傾けるとしようではないか?」
「えぇ…(*´꒳`*)⁾⁾ 先生の仰有る通りです♪儂も一度は死んだつもりで励んで来ました。今後も助けられる命とは向き合って行く所存です!」
「よう申した!ꉂꉂ(ㆁωㆁ*)さすがは儂の弟子だのぅ~♪」
華佗先生はそう言うと嬉しそうに頬を緩めた。
「(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈ若君、何か手立てはあるのでしょうな?」
北斗ちゃんはさっそく潘濬の突っ込みを受ける。
「うん♪(°ᗜ°٥)あるにはあるんだけどね…」
彼がそう返事を言い終えるや否や潘濬ははっきりと告げた。
「✧(• ຼ"•ꐦ)では聞かせて下さい!」
久し振りの潘濬節炸裂に、北斗ちゃんも想わずたじろぐ。どうやら事が只事では無いために、彼も慎重になっているようだ。
劉巴は相変わらずのんびりと構えていて、その姿勢は対称的ですらあった。
「うん、そうだね!(٥ •ᗜ•)僕が一応考えた策は"同盟論"で乗り切る事だ、だけどね…」
北斗ちゃんはそう言い掛けた矢先に再び機先を制される。
「あぁ…(ꐦ* •" ຼ •)⁾⁾ それなら結構!そこまで判ってらっしゃれば、後は粘り強く乗り切るだけです。私も助勢致します!」
潘濬はその意気や好しと目を輝かせる。ところが若君は、そこで押し黙る。そのやり取りをじっと眺めていた劉巴はおもむろに口を開いた。
「潘濬!ღ(o'д'o٥ღ)待ってくれ♪若は何かお考えがあるようだ。いつも冷静な君らしく無いな!曹孟徳は確かに大物だが、今はまず若のお心を全て拝聴しようではないか?君は二度も若の言葉を遮っている。そして君はそれに気がついていないのだ…」
劉巴の鋭い指摘に、ようやく潘濬も傍と気づく。
「えっ!(ღꐦ•"⌓•)" そうなのですか?それはすみません!では私も拝聴致しましょう♪」
劉巴に嗜められた潘濬も、姿勢を正して若君を見つめた。北斗ちゃんは冷や汗を感じながらも、自分の言葉で素直な気持ちをぶつけたのだ。
二人がそれを聞いてどう想うかは判らなかった。けれども身内の二人さえ説得出来ない者が、どうしてあの丞相を納得させられようか。彼の想いはそこに集約されていたのである。
「ꉂꉂ(⑉•̀ᴗ •́ ⑉)二人共、良く聞いてくれ!僕はあの方を助けた後に、無条件で開放しようと想っている。そこには理由も条件もいらない、そう思っている…」
「…(*`•o•´)੭ ੈ何ゆえか?あの方は元々老齢だし、先も長くない。そして華佗老師の見立てでは完治は難しいという事だった。今、弱っている者を慈愛の気持ちで見逃してやれないで、何の大義だろうか?…」
「…⁽⁽(੭ꐦ •̀Д•́ )੭*⁾⁾ 否、そもそも大義すら盾にしてはいけないのだ。僕の考え方は甘いのかも知れないが、人の道に叛く事は僕には出来ない。人の命を軽々しく出汁にしてはいけない。僕はそう想っている…」
北斗ちゃんはそう述べた。
真剣な眼差しで二人共聞いていたし、北斗ちゃんは以降、押し黙ってしまったのでしばらくその場には静寂が流れた。
そしてやがて、潘濬は劉巴を一瞥した上で口を開いた。まず深い溜め息を漏らした後にそれは続く。
「✧(• ຼ"•ꐦ)正直、甘いですな!若君は仮にも将来、王となる御方です。貴方が人に優しく、民を慈しむ心を持った方である事は理解しております。ですが、その人々を全べる立場の君主とは、個人の想いや感情では動いてはなりません…」
「…(ꐦ* •" ຼ •)੭ ੈそんな慈愛の精神で国を治められたのは、黄帝の御世だけです。そして礼節のみで国を治められたのは、周の代までです。春秋を経て戦国時代に入り、秦が台頭したのはなぜですか。法の精神により鍛え上げられた強い兵が席巻したからでしょう…」
「…(ꐦ •" ຼ •)今、問題となっている曹孟徳がいち早く大勢力を築き上げる事が出来たのはなぜです。儒家を重んじ、政治の腐敗を止められなかった漢の没落を反面教師としているからでしょう?そして彼が視野を広く持ち、儒家の精神に囚われない強い意志を示したからだと私は推察致します…」
「…(° ຼ"° ꐦ)皆がそのやり方を非難した"非情に徹した"その姿勢も賛否両論は在りますが、その一つなのでしょう。若君はまだお若い。勿論、その若さでこれだけの慈愛の心を示される御方はなかなか居りません。それはとても尊く、その聡明さと合わせて、皆だからこそ貴方に心服しております…」
「…(ღ •" ຼ • ٥ꐦ)ですが国家を束ねる君主とは本来、孤独であり、常に冷静かつ非情に徹しなければ務まりませぬ。今はまだ判らないかも知れません。ですが、いつの日にか必ずそこに行き着きます。私はその時にも貴方がそれを判った上で、今と同じ決断を下せるのかに期待しております…」
「…(ღꐦ•"⌓•)" 要は今、必要なのはしっかりと皆を納得させるための手段で宜しいのです。将来についてはまだ先の事ですが、貴方の器が曹孟徳を越えてさえ居れば、何を恐れる事がありましょうか。私は真面目な性格ゆえに気の効いた言葉は苦手です。後は劉巴に引き継ぎましょう。私の言いたい事はそれだけです!」
要は感傷的な心で決断するなと潘濬は言っているのだ。そして相手にその器ではまだまだ遠く及ばない身で、情けをかけるなど不遜であり、百年早いという事である。
潘濬は若君の将来に期待している者のひとりとして、情に流される事無く、あくまでも理性的に事を運ぶ様にと示唆したのだった。出した結論には異議は無いが、その結論を出すに至った過程が誤っていれば、万人を納得させる事は出来ないのである。
だからこそ潘濬は、在らん限りの喩えを持ち出しながら、理路整然と話を進めたのだった。それは日頃から感情論を否定している潘濬の想いの丈を切々と語るものであった。
けれども、その意に反して、そこには親が子を育くむような真心と情熱もあった。潘濬は理性を重んじながらも、いつしかこの若君に傾倒していたのだろう。
自分はあくまでも理性を貫き、後は熱い血の通った劉巴に任せる。二人の役割はいつしか「直言」と「抑え」という均衡の取れた色合いを為して来たのだと言えよう。
北斗ちゃんも次々と繰り広げられる駄目出しに、始めの内こそへこんでいたものの、途中からはだんだんと潘濬の熱い気持ちが理解出来て、目頭が熱くなっていた。
この男がこの自分の事を良く理解した上で、敢えて諫言に及んでいる事が伝わって来たからだった。潘濬の言葉を受けた劉巴は、変わらず身の丈の姿勢を貫いた。
「ꉂꉂ(o'д'o )若、貴方の仰有っている事もけして間違ってはいません。慈しみの心は、いつの時代でも大切な事です。それはとても尊い事です。それを私は否定したくない。ですが、現段階に於いては私も潘濬の意見に参同致します…」
「…(*o'д'o)貴方はそのお歳で良くやっていると私も感じています。それはおそらく丞相も同じで在りましょう。ですが考えてみて下さい。貴方の今出来る最大限の力を発揮されたとしても、彼の曹孟徳には遥かに及びますまい…」
「…✧(o'д'o )貴方が示された慈愛の心とは、すべからく今の貴方よりも力の無い者にこそ示されるべき行いであり、貴方の遥か及ばない高みに居られる方に向けられるべきものでは無い筈です…」
「…ღ(o'д'o٥)一時の油断が命取りになるこの乱世の時代ですから、こんな言い方はお好みでは無いでしょうが、この際、奴の寝首を掻くくらいの気概があっても良いとさえ、私は想います…」
「…ꉂꉂ(o'д'o*)何を言いたいのかはもう判りますね?優しさや慈しみとは、強い者、即ち心身共に強く、力を兼ね備えた者だからこそ成し得るものなのです。平たく言えば、"人は己が強く成ればより優しくなれる"そう私は想います…」
「…(ღo'д'o*)まぁあくまでも個人の意見では在りますがね!それに曹孟徳本人にしてみても、憐れみから情けをかけられたくは無いと存じます。却って若君に侮られたと考えましょう…」
「…ღ(o'д'oღ)ですからこの場合、策を弄したと蔑まれようとも、"同盟してるから当然だ"くらいに堂々と宜っておれば良いのですよ♪」
劉巴は淡々とそう告げた。
それを聞いていた潘濬も、のめり込むように話しに没頭しており、感心している。
北斗ちゃんも静かに聞き入っていたが、話しが一段落すると、これまで見た事も無い程に破顔していた。
「良く判った♪(⑉•̀ᴗ •́ ⑉)君たちの言う事は一言一句その通りだ!僕が間違っていた。あの曹操の器をこの僕が越えられるかは、今はまだ良く判らない。でも潘濬は将来の事は僕次弟だと言っているんだよね♪ならば僕は今日からより一層、努力しよう。そして劉巴の言った強い男に僕は必ず成るよ!そうすればより多くの人々の寄り所となれるだろうからね♪」
北斗ちゃんの言葉は二人の胸に熱く響いた。この若君が自分たちの言葉を理解してくれた事も喜びであったが、それを受けてより成長しようとする気概を見せてくれた事がとても嬉しかったのだ。
「「(ꐦ •" ຼ •)(*o'д'o)仰有る通りです♪♪」」
二人は復唱する。
そしてその結果として、丞相には"同盟遵守"と"河川事業達成"という二つの理由で推す事に成ったのでした。
【次回】伏龍の涙