遼来遼来
文遠はその日、近衛隊からの要請で一本杉の下に同行する。
「まだ二日目だ…(๑٥•̀ㅂ•́)و" おそらく今日は空振りだろうが、危急の時の道標にも成る事だからな。手を抜く訳には参らぬ!」
張遼は自らを戒しめ、襟を正す事を忘れなかった。何しろ大殿からは、「ꉂꉂ(๑°⌓°๑)我が命綱である!」と面と向かって指名されたのだから、これに優る信頼は無かろう。
それに彼は元々、真面目であり、忠節に厚い男なのであった。
張遼がその時々で仕える主に恵まれなかった事は不運であった事だろう。
袁紹然り、呂布然りである。けれども彼はけして仕える主を見限った訳では無い。最大限の忠節を尽しているのだ。
残念な事にはその彼の忠節が報われる事はけして無く、張遼は仕えた主と永遠の別れを果たす事になったのである。それはどちらかと言えば、彼のせいでは無かろう。
彼の仕えた主の方が張遼の忠誠心に見合わない輩であったという事なのだろう。勿論、彼自身が黙して語る事は無い。過去の事実はけして変える事は出来ないと重々承知していたからである。
そして往々にして過去の出来事には尾ひれが付く。張遼自身は自らの中に疚しい気持ちは欠片も無い。けれども、評価するのは他人であり自身では無いのだから、彼のその後の行動次第では、揶揄される事もあっただろう。
幸いな事には、彼はとても無欲であり、自らを律せる人であった。そして張遼の忠節に見合う主の存在も彼の心を熱くしていた。それが誰あろう、曹孟徳である。
その信頼の証として、張遼がますます励み、魏の功臣と称えられる程になったのは、ある意味必然であった。今や彼の事を外様呼ばわりする者は誰一人としていない。
曹操が起った頃から従っている古参の者でさえ、張遼に一目置いている。勿論、時には対立する事も在ったが、それは互いの信念をぶつけ合った結果であり、張遼の評価を下げるものではけして無かった。
沈着冷静に判断し、的確に状況を把握し、臨気応変に、無尽蔵の力を発揮する彼の姿勢は味方を鼓舞し、敵の戦意を挫く。いつしか彼の事を「遼来遼来!!」と叫んで戦意を失うことすらあったのである。
これは敵兵だけに止まらない。
親が子供を叱る時に、「悪い事をしたら張遼さんを連れて来る!」と脅す程で、子供たちは皆、泣き出したと言われているのだ。恐らくは彼自身が耳にしたら、さぞや困った事だろう。
張遼は浮かれぬように気持ちを切り換えると、長江沿いを南下し、やがてその先には目的地と思しき一本杉が見えて来る。
「おや?(๑٥•̀ㅂ•́)و=3 何だ、あれは??」
彼の視界の先に入って来た光景に、張遼は首を傾げた。そこには曹仁を筆頭に、関羽と見憶えのある傾き者が佇んでいたのであった。
「子孝殿!これはいったい…⁽⁽ღ(•̀ㅂ•́٥๑)」
張遼は驚きを隠す事無く、そう口を吐いていた。
その日の朝、約束通り田穂が迎えに来て、秦縁は曹仁と関羽、ご両人に合流した。
田穂はそれでお役御免とばかりに引き上げて行く。それというのも彼が少々不味い立場にあったからである。
"元魏の間謀"である田穂がそのまま付き従うと、話しが拗れこそすれ、利点が在る訳では無い。特に未だ曹仁からは指摘された訳では無かったが、これから合流するのは応変の才に長けた張文遠である。
どこで見られているか判らぬ者に、これ以上、その身を晒すのは危険であった。田穂が去った直後に曹仁は惚けたように口を開く。
「雲長、そして秦縁…(٥ ー̀дー́ )੭⁾⁾ 御主らとは古い付き合いだ!どちらでも良いから、知っていたら教えてくれぬか?儂はここ江陵で見知った者と二人も会った。勿論、御主らの事では無い。管邈と田穂の事だ。儂の認識では彼らは全滅した事になっているのだがな?どうだ、そろそろ種明かしをしてくれないか…」
これには少々二人も驚いた。この話題がそもそもタブーである事は勿論そうだが、敢えてこのタイミングに持ち出されるで在ろう事を一番懸念していたからだった。
『やっぱり…(ღ`艸´٥*)(ღ❛ ᗜ ❛´٥๑)』
関羽も秦縁もほぼ同時にそう思っていた。けれども二人共、明後日の方角に気を取られているかのように装おっている。
関羽は急に手を翳して遠くの山々を眺め出すし、秦縁は欠伸をすると、両手を思い切り伸ばして、「春眠暁を覚えず…ε-(⑅˘̳ლ˘̳⑅٥๑)ですな!今朝はやけに眠い…」と惚けてみせる。
曹仁はそんな二人を横目で眺めながら、呆れたように言い放つ。
「おい!おい!(٥ ー̀дー́ )੭⁾⁾ 急にどうした?雲長、お前はとんと自然を愛でるなど趣味では無かったよな!それに秦縁、お前とは三日三晩酒を囲んで飽きる事が無かった!お前達は本当に嘘が下手だな?バレバレなんだよ!!」
これには関羽も秦縁も想わず顔を見合わせる。確かに互いに柄でも無く、らしくない。
すると関羽がこう言い放つ。
「ꉂꉂ(`艸´*)ほぉ~秦縁殿はいける口か!なら、どうかな?今度お近づきの記しに一献?」
「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈおやおや、雲長殿も酒豪ですか…それは良い。子孝、お前も一緒にどうだ?自然を愛でるなら、やはり月夜が良い!三人で酒でも酌み交わそうや?」
そうは言ったものの、二人とも表情が硬く真実味には到底欠けていた。曹仁も最早すっかり呆れを通り越して、少々おかんむりである。
目を細め侮蔑の眼差しで睨んでいた。そして深く大きな溜め息を漏らすと、やがておもむろに口を開く。
「判った!判った!(٥ ー̀дー́ )੭⁾⁾ お前たちの気持ちを汲まず、事実だけを引き出そうとした儂が間違っていた。でははっきりと言おう。この儂もお前たちとは"同じ穴の狢"よ!大王にも仲間にもこの事実は伏せておきたい。話しがとんとややこしくなるからな!しかもあの二人の表情を見る限りでは、とても晴々とした爽やかな顔をしている…」
「…恐らくは、あの太子と出会って人生観が変わったのだろうな!この儂も、あの大王でさえ、少からず影響を受けているのだ。末端で隠密と謀報に明け暮れていた者なら尚更の事!儂は責める気も暴露する気も無い。この胸に秘めておくと約束しよう。儂は何が彼らを変えたのか、どういう経偉でこうなったのかが知りたいだけだ!どうだ?儂の本音はこれで明かした。今度は御主らの番だと想うが?」
曹仁は話し終えると二人を見つめた。二人も同時に曹仁を見つめる。そしておもむろに今度は秦縁が口を開いた。
「✧ღ(❛ ⌓ ❛´๑)知らぬが仏という事もある。一度口に出してしまえば、その言葉は一人歩きを始める。そうなると、もはや止める手立ては無い。お前がどうこうとか、信用していない訳では無い。ただ人の生き死にが懸かっている事柄に興味本位に土足で上がり込まれては甚だ迷惑だな!…」
「…俺はそもそも部外者だし、義務は無いね!奴は…お前の言う末端の者共は、この俺の掛け替えのない友なのだ。一度友誼を交わした以上は、こちらから裏切る事は無い。聞く相手を間違えたな!俺は知らんぞ!」
彼は頑なに拒否した。そこには一切の妥協は無かったのである。
「判った!(* ー̀дー́ )⁾⁾ 確かにお前の言う通りだ。儂も友を裏切る事は出来ぬし、裏切らせる事も出来ない。強制はしない。但し、こうは想わぬか?誰かひとりこちらで仰える者が居た方が都合が良かろう…」
「…儂は必ず彼らを守るつもりだ。それは約定しよう。それに聞いた事は墓まで持って行く覚悟も出来ている。それでも駄目かな?関羽、御主はどうだ?」
互いに見つめ合う事となった二人は、しばらくそのまま微動だにしない。そんな二人を秦縁も冷ややかな瞳で眺めていた。
「判った!ε- (`艸´*)そんなに知りたければ話してやろう♪秦縁殿も悪く思うな♪だがこれは若も始め、本人達すらも端から覚悟している事なのだ。若は彼らを迎え入れた際に必ず守り抜くと覚悟をされた。そして儂らは無条件で彼らを受け入れ、守り抜くと固く誓ったのだ…」
「…強い覚悟を示された若の気概に皆が共鳴したのだと言えよう。そして彼らも時間と共に、若こそ真の主と考えるようになったのだと云える。そして若は、彼らが自分の将来像を自らの意志で描く事を切に願われている…」
「…元々はそちらの決めた定期連絡の縛りがきつ過ぎた事が原因で在り、深手を負った管邈殿を皆が見捨てられなかった事が発端なのだ。だからこそ田穂が全面降伏を願い出て来た。これが事の真相だ…」
「…全滅したとの流言を流したのも、証拠をでっち上げたのも彼ら自身さ!彼らは何と言っても間謀のプロなのだからな!全ての真相は以上だ。どうだ?満足したかね?彼らに手出しする者は、この関雲長が容赦せぬから、そのつもりでな!✧ღ(`艸´ꐦ٥)」
関羽は総督であり、日頃自らこれほど饒舌になる事も無い。それに元々、生粋の将であり、頑なな性格である。
曹仁は少なくともそう思っていたから、まさかこの関羽から真相が明かされようとは想いもしなかった。彼はどちらかというと、秦縁にこそ期待していたのだった。
ところが蓋を開けてみたら、意外な抵抗に遭い真相を引き出す事が出きず、むしろ絶対に譲歩を引き出せぬと諦めていた関羽から事の真相が暴露されたのだから、少々驚きを禁じ得なかったのである。
『あの官渡の戦いの折りに、奴が顔良、文醜を縦続けに斬った頃には、まだ口よりも手が先に出る男であった。それはまるで"男は背中で語る者"と言わんばかりであったのに、龐徳を助けた頃には角が取れていた…』
『…(٥ ー̀дー́ )=3 心境の変化を起こしたのは、やはりあの若君であろうが、沈着さを身につけたこいつは手強いな…そして一本筋を通して来るのは相変わらずだ。儂も見習わねばならんな…』
それは曹仁の素直な気持ちだった。彼はそんな関羽に謝意を示した。
「判った!(٥ ー̀дー́ )⁾⁾ 儂は事実が判ればそれで十分。男の約束だからな、ゆめゆめ違える事は無い。二人にも安心するよう伝えてやって欲しい…否、他の者もだ!例外は無いのだからな♪」
曹仁はまるで喉の奥のつかえが取れたように清々しい表情をみせた。関羽はコクリと頷くのみであった。
そうこうしているうちに、張遼に率いられた近衛隊が対岸から姿を現わし、こちらに接近して来る。そして恐らくはこちらの面子がはっきりとその眼に留まったのだろう。
張遼は渡岸したところで、近衛隊を停止させるために手を上げて合図している。二言三言隊長に指示を与えてから、やおら馬を切り返すと、只一人ゆっくりとこちらに近づいて来た。
「子孝殿!…⁽⁽ღ(•̀ㅂ•́٥๑)お待たせ致した。お二方とも御無沙汰で御座る。大王からは三日待てと言われていたが、昨夜届いた伝書鳩で慌てて駆けつけた次第です。しかしながらこれはいったいどういう事です?訳が判らぬが!」
張遼はキョトンとした瞳で曹仁を見つめた。
「あぁ…(٥*ー̀дー́ )⁾⁾ 然も在らん!委細を敢えて伏せたのでな!それにしても、近衛を待機させたのは流石だな♪良い判断だ、そしていい度胸だな!大殿が御主に白羽の矢を立てたのも理解出来るというものだ♪」
曹仁は張遼を褒めた。
「いえいえ…⁽⁽ღ(•̀ㅂ•́*๑)それはどうも♪仔細が示されてなかったので念を入れました。それに雲長も秦縁殿も男気の在る方々ですからな♪危険は無いと承知しております。で!その仔細は如何に?何ぞまた大王のお戯れでも在りましたかな?」
張遼は露ぞ異変が在ったなどとは想いもよらなかったので、また王のおふざけかと苦笑している。その表情で曹仁にも彼の本音が手に取るように判った。
「(* ー̀дー́ )=3 その事だがな、御主は大殿が示した三つの苦言を承知していよう?」
「はぁ…⁽⁽(•̀ㅂ•́٥๑)無論です、ちょっと待って下さい!て事はまさか??」
張遼は突然、冷や汗を掻く。
「あぁ…(٥*ー̀дー́ )⁾⁾ 実はそのまさかだ。良いか、落ち着いて聞くのだ。けして態度や表情に表すな!距離が多少あるとはいえ、近衛が見ておる。今からいう事はお前の胸にだけ留めよ!…」
「…そして様子を窺った後に固く口止めをしてから、楽進と司馬懿には打ち明けて良い。御主一人では心許無かろう。三人寄れば文殊の知恵と言うからな!相談すると良い。では腹を決めろ!」
曹仁は単刀直入を避け、慎重に入った。出来得る限り、関羽や秦縁の手を煩わせる事は避けたいようだった。
そして張文遠ならば、この難局を乗り切れるだろうと踏んでいたのである。そしてその信頼は見事に果たされた。張遼は間髪置かずにそれに応えた。
「⁽⁽(•̀ㅂ•́٥๑)勿論、腹は当に決まっております。何せ私は同じ穴の狢ですからな!大王に"一枚噛ませろ"と言ったのはこの私です…」
「…その時から今まで、あらゆる可能性を考えていました。何しろ大王は、いい歳こいて、未だ自分だけ若い気でいますからな、どうせ倒れたと言われても私はけして驚きませんよ!」
そう言い放つ。
「✧(ღー̀дー́ *)へぇ~そらぁ頼もしいな!しかし御主、良く事情が判ったな?千里眼でも持っているのか?それとも早耳かな?そうなのだ、孟徳の奴、調子に乗ってたら倒れてしまってな!…」
「…今、若君や雲長の世話になっておる♪華佗先生が付いているから、今のところ心配は無いが、しばらくは動けぬのだ!だから当面、物見遊山の旅の途中と皆には煙に巻いておけ♪後は頼む!」
曹仁は今度は安心して淡々と済ませた。張遼は驚きの余り叫びそうになり、慌てて口を押さえたのだった。
【次回】人の道に叛くな!