表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/308

巨人と蟻

北斗ちゃんは管邈の要請に基づき、田穂と廖化を伴うと青空診療所に到着した。


華侘先生の外来診療は変わらぬ盛況を為しており、今日も長蛇の列で賑わっている。


「⁽⁽ღ(◕ 0 ◕*)わぁ~相変わらずセンセの診療は人気だねぇ♪正確で手際よく親身だもの♡然も在らんか!僕も(あやか)りたいねぇ♪」


北斗ちゃんは嬉しそうだ。心酔する先生が民の役に立ってくれる、彼にはそれが堪らないのだ。


『(ღ`⌓´٥)やれやれ…若君は相変わらずだ!自分の価値を判ってない。こん人ほど自分の力を理解してない人も珍しいよ…』


『…それがこん人の善さでもあり、欠点でもあるよなぁ♪奥ゆかしいとかじゃないんだよな!まだそんな事知らないっしょ♪』


田穂は太子がそれを理解して使い始めた時、またひと皮剥けるのでは無いかと感じていた。


そして彼はふと気づくと苦笑いした。以前の自分なら考えもしなかった事である。


『(ღ*`⌓´*)あっしも成長してるんすかねぇ…』


彼はいつの間にかそんな事を頭に描いていたので一瞬、集中力が緩慢となる。


次の瞬間、どよめきと共に民が殺到していた事に気づき慌てて楯と為ってこれを緩和する。既に廖化は若君を制していた。


董斗星は民の光であり、アイドルである。色々な噂が飛び交い、その中には真実も在れば、民の噂が作りあげた伝説も在った。


これは決してプロパガンダとは呼べない代物だが、あちこちに出没して民を救う正義の味方!これは恰好の良いものだ。


北斗ちゃんもまだまだ精神的には子供なので素直に喜んでいるし、統治する荊州組としても太子の人気が高まれば、民を安んずるための一如となり都合は良いのである。


このどよめきで無償奉仕(ボランティア)の若者たちも一時、混乱を来たしていたが、すぐに統制を取るべく、皆に語り掛けたので、民も徐々に収まった。


「(*`Д´*)こら、こら迷惑をかけちゃいかん!人の命が掛かっていると困るだろう、道を空けなさい。お前たちの縁者が困っている時に、妨げられたらどうする?そうだろう?」


人は自分の身に置き換えた時に始めて、その言葉の重みを知る。この時もこの快活で小気味良い語り掛けは功を奏したのである。


北斗ちゃんは最近はとみに忙しく、ここ青空診察には出ていなかったので、驚いたもののすぐに落ち着き払って、目を輝かせていた。まさか自分もこんなに人気があるなんて、想わなかったので少し悦に入っていた。


しかしながらそれと同時に、衆人が瞬時に(うごめ)く躍動にも震えが来ていた。集団の持つ活力の大きさに衝撃を受けていたのである。


『(´°ᗜ°)✧ひょっとしたら、これって活性剤になるかも知れない!やる気と目的が一致した時の人の力って凄いものだ♪…』


『…(˶• ֊ •˶)不可能なんて感じさせない(きらめ)きがある。これからやろうとしている事の指針となるかも知れない♪』


彼はそう想い、ワクワクしたのだ。


一方、田穂は瞬時に出遅れた事に冷や汗を掻いていた。けれども廖化の気の利いた一言で気を取り直す事が出来たのだ。


「田穂殿♪正解が無いって本当ですね!まだまだ私には難しいや…Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾♪」


田穂は護衛するに当たり、目立ち過ぎず、やり過ぎず、黒子に徹せよと教えていた。特に北斗ちゃんは民に人気があり、触れ合う事にも気兼ねが無い。


そして民の声すら肥やしにする柔かさを持っている。だからこそ、護るだけでは無い難しさがそこにはあったのだ。


勿論、この場合は結果オーライだったのだが、知ってか知らずか、廖化のこの言葉で、田穂は救われたのだ。彼も人の子である以上、完璧では無く、反省もする。


田穂は細心の注意を払おうと心に留めて、彼の機転に感謝したのである。そして北斗ちゃんも民の歓声に感動し、若者たちの言葉にも謝意を示した。


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 皆、有り難う♪またね~♡」


彼は手を振りながら、先に進んだ。




大歓声が起き、その音が止むや、ひとりの若者が三人を伴い入って来る。そのうちのひとりは先程の先生だが、後の二人は若者の連れのようだった。


一人は敏捷(はしっこ)そうな眼力の強い男で、もうひとりは背筋のピンと張った手の平がブ厚い男である。


曹仁にはその内のひとりは判別がついた。それは田穂であった。彼は再び冷や汗を掻く。


まさか全滅した部隊の組頭だけでなく、副長までこうして生きて姿を現わしたのである。


そして彼が、太子・劉禅君の背後を護っているのだから、それは必然的にこの疑問の背景にこの若き太子が一枚噛んでいる事は明白だった。


『まさか…(٥ー̀▱ー́ ๑)全滅は偽装だったとでも言うのか?ひょっとして部隊丸ごと寝返ったのだろうか。もし仮にそうなら大事(おおごと)だ!絶対に大王に悟られないようにしなければ…』


曹仁はその冷や汗をひた隠しにしながら、微妙な立場に置かれた自分を悔やんでいた。


その田穂はピンピンしているどころか、少し表情に優しささえ称えている。これもこの太子の影響なのかも知れない。


この自分さえ、魅了された若者である。周りに居る者が影響を受けない訳が無い。


先程は判らなかったが、あの管邈さえ晴れやかな良い表情をしており、もはや隠密活動をしていた頭目(カシラ)などと言っても誰も信じまい。すっかり医者らしい優しげな笑みを称えていた。


曹仁は改めてこの若き太子の凄さを感じ取った。誰でも自分に惹き付け、いつの間にか魅了してしまう。


こんな若者は未だかつて見た事も聞いた事も無かったし、恐らくは今後も現われまい。


突然、足を向ける事にした大王でさえ、気づかぬうちに魅了されているのだろうか。この道行きが、それを証明しているように曹仁には想えたのだ。


「( ๑•▽•)۶”やぁ~お待たせしました♪僕が董斗星です!遥々遠くからお越しとか?良くお出でになりました。ここでは落ち着いて話しが聞けません…」


「…(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈそれに長旅でお疲れの事でしょう♪もし宜しかったら、僕の住まいに参りませんか?診療所を併設してますから、ゆっくり診てあげられる。ネッ!素敵でしょう♪」


北斗ちゃんは患者に(いたわ)りの言葉を掛ける。ところがその反応はとっても頂けないものであった。


「(ღ๑°⌓°๑)皆、ここで診察を受けるのじゃろう♪私もここで良い!」


何とも気難しい唐変木な爺さんである。曹仁はさすがにやり過ぎだと、手招きで伝える。丁度(ちょうど)、両手を差し出し、ドゥドゥとやったものだから、自然と周りの笑いを誘ってしまう。


特に護衛の二人は、プッと頬を膨らませた事で、その爺さんの怒りに触れて睨まれた。爺さんは「フン!(ꐦ٥°⌓°๑)」とご機嫌を斜めにすると、梃子(テコ)でも動かぬと腕を組んで踏ん反り返り、押し黙ってしまった。


曹仁は「(٥ー̀⚰ー́ ๑)アワワ…」と困り果てたように慌てている。


ところが北斗ちゃんはまるで意に返さぬように、満面の笑みを浮べるとそのお爺さんの前に立ち、腰を屈めて視線を合わせると、やんわりとこう告げたのである。


「✧(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)お気の毒ですが、それは無理です!」


曹操は(つぶ)っていた眼を片方だけ開けると、太子を見つめた。その瞳は優しげで、決して馬鹿にしてる訳でも無く、高圧的でも無かった。


「(ꐦ٥°⌓°๑)✧なぜじゃ?」


爺さんに扮した曹操は、(いぶか)しげに 訊ねた。


「それは簡単な事です!(´°ᗜ°)✧貴方には後ろで待っている人々が見えないのですか?そもそもここは、今日そこにいる先生の持ち場です。先生に診察を受けるために…」


「…ꉂꉂ(°ᗜ°๑)未だにじっと待っている方々が居るのですから、駄々を捏ねるのはお止しなさい!貴方の尊厳が泣くというものです♪」


その言葉は威圧的で無く、むしろ理路整然としていた。十分納得が行くもので、周りを気づかい、この自分にすら敬意を表している。なかなか出来るものでは無い。


そして全くと言って畏れも無く、相変わらず笑みを称えて(たたず)んでいる。どうやらこちらが譲歩するのを待っているようだ。


腕利きの護衛を二人も連れているのだ。強行しようとすれば出来るのに、じっと待っている。そしてその護衛達すら、勝手に動く者はいない。


この若君の姿勢を信じ、こちらが先に音を上げるのをのんびりと待っているようにさえ、見えたのである。


『負けたわい!ε- (๑°ㅂ° ๑)さすがに待っている者の事など考えもしなかったが、言われてみればその通りだ!この儂は通り過がりのよそ者だからな。通いつめている奴等にこそ一日の長がある。少なくともこの儂ならそう主張するだろう…』


『…(ꐦ٥°⌓°๑)=3 ここはもう少しゴネても良い所だったが、この儂の尊厳にかかわると言われてはそれも無い。大人しく引き下がるとしようか?それにしても落ち着いたものだ、感心感心♪』


曹操は決断するや、手の平を返すのは得意としている。


あくまでも冷静に、そして冷徹に事を運んで来たからこそ、今の地位を築いて来れたのである。その程度の事なら朝飯前と、すぐに応ずる事にしたのだった。


「斗星殿!(๑ °⌓°๑)੭ ੈ確かに貴方の仰有る通りじゃな!この(ジジイ)、面目無い事じゃ♪貴方(あなた)わざわざこの儂を招待してくれると仰有る…」


「…✧(๑°ㅂ° ๑)そしてこの()()れを、ゆっくり診て下さると言う。初対面のこの儂に、なぜそこまで親切なのかね?」


曹操はあくまでも、演技を続ける中で、この太子の本質を見極めようとしていた。すると、北斗ちゃんは何の事は無いと、落ち着いた姿勢を崩さず、まるで寄り添うようにこう答えた。


「⁽⁽( •̀ ᗜ •́ *)いえ、患者さんと真摯に向き合う事は医者として当たり前の事です♪そして年長者に敬意を表する事は人として当然の事であり、この僕を訪ねてわざわざ遠くから足を運んで下さったと聞けば、診察せぬ訳には参りますまい♪…」


「…✧(❛ ࡇ ❛´٥๑)それに貴方は頭痛を患っておいでのようです。頭は知恵の泉と先人も伝えるところです。医学の道でも頭の中の事は未だ解明されていない事が多いのです。つまりそれだけ大事な場所だって事です♪…」


「…✧(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)だから脅す訳じゃあ有りませんが、命にかかわる事だってあるのですよ!だから、ゆっくり診ると申しました♪これで貴方の問いの答えになりますかね?」


北斗ちゃんはいつの間にか医師の顔になっている。その瞳には温かささえ、宿っていたのである


「えぇ…(๑ °⌓°๑)੭ ੈ勿論!貴方を訪ねて遠くから来た甲斐があったというものじゃ♪喜んで世話に為ろう。後ろの列の皆々様にも迷惑をかけたのぅ♪儂はもう去るゆえ、この先生にのんびりと診て貰って下されよ!」


曹操はそのまま得意満面に演じ切ると、列に並んでいた民たちに頭を下げ、管邈にも謝り会釈する。管邈は想わず太子を振り返り、その瞳を見つめた。


「先生♪(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈそういう訳でお邪魔したね!手間をかけて申し訳無かったが、後の事は頼む♪患者さんを見てあげてくれないか?宜しくね♪」


北斗ちゃんもそう告げるとニコリと笑った。


「えぇ…⁽⁽(*´꒳`*)それは勿論♪医者の務めですからな!」


管邈はそう言うと、列を為して待っていた患者たちに向き直り、診察を再開した。北斗ちゃんの情熱に当てられたためか、心無しかその診察には日頃より寄り添う気持ちが感じられたのだった。


管邈を後に残し、北斗ちゃんは謎の旅人二人組を先導しながら、歩き出す。


田穂と廖化は、念には念を入れて用心を解く事なく、その二人を警戒していたが、表面上は尾首(おくび)にも出さなかった。田穂の説いた黒子戦術の一環であった。




彼らはそのまま歩みを進めて丞相府に辿り着く。北斗ちゃんはさっそく宿泊の準備をさせて、二人に部屋を(あて)がう。


そして落ち着いたところを見計って、診察所を開けて二人を(いざな)った。


曹操も曹仁も丞相府に到着した折りには、緊張感が先に立ったが、事ここに至っては郷に入れば郷に従えと覚悟を決めた。


諸葛亮とニアミスした時には、さすがの曹操も肝を冷やした。


かつて徐州虐殺を招いた曹操の失策に依って、彼の徐州の民たちは故郷を逐われ流浪の身となり、中華のあちらこちらに移住を余儀無くされた。


諸葛亮の一族もそれは例外では無く、孔明は荊州に、兄の諸葛謹は孫呉に逃れる事に為ったのだ。


バラバラにされた徐州の民は虐殺された者、故郷を逐われた者も例外なく不幸のドン底に叩き落とされた事だろう。


彼らはそこから逞しく立ち直り、今に至っているが、原因を作った曹操を恨まぬ者は無かったで在ろう。


孔明もそのひとりで在り、打倒曹操を誓った急先鋒でも在ったのである。曹操自身もそれが痛いほど判っていたから、優秀な諸葛亮を殊更に警戒して居たのであった。


その心中足るやけして穏やかで無かったに違いない。


けれども幸いにして、この際は気がつかれる事は無かったので、上手くやり過ごす事は出来たものの、その懸念は払拭されては居なかったのである。


さらにはこの江陵にはあの関羽も居り、宿敵と狙う馬超も居るらしい。そして大軍を(もの)ともせずに気迫を見せた趙雲である。


一時の油断が命取りに為る。彼はそう思った瞬間、想わず首に手を充てた。冷や汗がジトッと(にじ)んでいた。




診療室は丞相府に併設されているが、完全に建物そのものが建て増しされており、外に出なくても往き来出来る。


内装は清潔感が在り、中には医療器具がひと通り揃っていて、施術も可能であった。


北斗ちゃんは李唱を招き入れるとさっそく問診を始めた。李孝は少し離れた後ろの席に座らせており、一応立ち合わせているが、患者との間には薄い布で覆われた仕切りが設けられている。


縁者とはいえ、患者のプライバシー保護のためである。護衛の二人は部屋の外で待機する事になり、部屋に入る事は禁じられた。


無用な不安を煽らぬよう患者に配慮するためである。また個人的な情報は秘密にする事が求められたからでもあった。


北斗ちゃんは李唱の胸や背に手を当て、心音を確かめる。そして眼を片方ずつ大きく開き瞳孔を確認する。


次に口を大きく開かせ、顔を近づけると口内や舌の具合、そして歯の状態をつぶさに観た。頭痛は、いわば身体の不調を訴えるひとつのサインである。


そのシグナルを正確に捉え、その示す方向を的確に追わなければ原因に辿り着く事は出来ない。


この患者は外傷が多く、あちらこちらに斬られた傷跡や矢で刺された古傷などが見受けられた。おそらく長年戦場を渡り歩いて来たのだろう。


けれども、比較的新しい傷は無く、受けた傷も跡は残っているものの、全て完治しているので、それが熱を持って頭痛の原因になっているとは考え難かった。


頭痛にも二つの大きな要因があり、病原菌が入り熱を帯びる物と、身体の一部の腫れが原因となり、頭痛を引き起こす物とに簡単には分類されるが、彼が(ひたい)を触った感じでは特に熱は無かった。


「(٥ •ᗜ•)頭痛がする時に額が熱くなりますか?」


北斗ちゃんは訊ねる。


「さぁ…(๑°ㅂ°٥๑)儂は自覚は無いが、はっきりとは判らぬ!」


李唱は自信は無いようだ。


「(٥ •ᗜ•)では頭痛がしない時に、身体で痛みや熱を持つ部位、否…腫れを感じるところがありますか?」


「⁽⁽(๑°ㅂ°٥๑)うむ、時々頭が重くなる。締めつけられるように感じる事もあるな!キリキリと痛む事もな!」


「成る程…(٥ •ᗜ•)⁾⁾ そうですか。それはいつ頃からの事です?」


「20年程前からかのぅ…(๑°ㅂ°٥๑)?」


「(٥ •ᗜ•)⁾⁾ 左様ですか、では最後の質問です!今まで誰かに治療を受けて、改善された事が在りましたか?」


「それはあるな…⁽⁽(๑°ㅂ°٥๑)」


李唱は想わずそう(のたま)い、次の瞬間、しくじったと感じた。



「それはどのように?(´°ᗜ°)✧どなたが行ったのですか?」


北斗ちゃんはそう訊ねると、瞳をランランと輝かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ