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相通ずる想い

関羽は第一手を投じると右手で長く立派な顎髭(あごひげ)をゴシゴシとしごく。そして相手の若者をチラッと眺めると、優しく語り掛けた。


「さぁ、君の番だ♪少年よ!どうぞ♪」


『( -_・)ふむ…?』


北斗ちゃんはおもむろに盤上を眺める。すると既に白石が星の場所に九つ置かれていて、関羽の黒石がひとつ指してある。


「( -_・)スミマセン?お尋ねしますが、このまま続けても宜しゅう御座いますか?これでは明らかに将軍が不利でしょう…なんならやり直しますが?」


関羽はその瞬間、明らかに眉間に筋が入った。ほんの刹那の事で在ったから、見逃す程の些細な出来事だったが、北斗ちゃんは彼の咆哮を一身に浴びた心持ちであった。しかしながら関羽はその後、直ぐに高らかに笑い始めた。


「何だ!(*゜ロ゜)坊主、よもやこの儂に勝つ積もりか?」


一度は明らかに怒りを(あらわ)にした筈なのに、関羽は高らかに笑い飛ばすと、そう口にした後は、むしろ爽快な顔をしている。とても愉快で仕方が無いという具合だろうか。


「(゜Д゜#)なかなか自信有り気の様だが、碁の(たしな)みはあるのかね?」


「否、全く…(^。^;)」


正直に話せば、北斗ちゃんだって碁を打った事が無い訳ではない。しかしながら、暇潰し程度に考えていたものだから、当然、身は入っていなかった。こんな事なら少しは真険にやっておくべきだったと想わないでもなかったが、後の祭りである。


しかも上部(うわべ)の知識だけは、なぜか良く覚えているので、この九つの置き石が自分に与えられたハンデである事くらいは知っていた。但し、普通は白石は上級者が持つ者だから、置き石に白石が使われている事そのものも、とても珍しい。


廊下で状況は眺めていたから、何となく意味合いは判るが、それをそのまま自分が引き継いで良いものかと、(ささ)やかな疑問だっただけで、他意はなかった。


『この御方は剛毅な人の様だけれども、相手を見掛けで判断して、舐めてかかる嫌いがあるのやも(゜o゜)?まぁこの場合は正解だけど…』


北斗ちゃんはふとそう感じていた。もし仮にそうだとしたら、『擬態(ぎたい)』で簡単に足許を救われかねない。彼は少々懸念を感じた。もしかしたら、趙将軍の心配の種もな辺にあるのかも知れない。そう感じたのである。


関羽将軍は、少々呆れたようにこちらを見ている。


「それなら、このまま進めよう!君の番だ…今、重要な事は、儂の気を紛らす事なのだ。つまり、少年!君のお役目はこの儂の麻酔と成る事だ。そう割り切って貰っても構わない。打ちたまえ!何事にも始めという物はある。だから恥じる事など無いさ!実践での経験こそが重要なのだ!」


関羽は恐らく、相手の少年を(いた)わる気持ちだったのだろうが、結果的には遠回しに、あくまで暇潰しだと(のたま)っている。北斗ちゃんはそういう事ならと白石を持ち、盤面に打ち込む。


関羽将軍の番になったので、北斗ちゃんは治療の具合を見つめる。


『成る程…(*_*)』


馬良殿の視界に入って来ていた物がようやく解る。


『確かにこいつはエグい(T∀T)!』


もう既に縫合も佳境に入っていたから、この景色は先程と比べてかなりましなのだろうが、人の皮膚に太い針をブスッと通し続ける状況は、確かに見ていてとても痛々しかった。


本来的に観察するたぐいの物では無さそうだ。だが、仮にこの技術があれば、戦場で傷を負った人が助かる見込みは上がるかも知れない。単純に縫えば良いという物でも本来無いのだが、そんな事はまだ難しくて彼にも良く判らなかった。


すると、糸で縫合し終えた華佗先生は、「まだ腕はそのままに、宜しいですな?」そう関羽将軍に語り掛けながら、その上から深緑色の練り物を塗り込んでいる。


そして、何やら、白い布が巻かれた糸車を取り出し、そこから次から次へと、白い布を引き出して、将軍の傷口に巻いていく。そしてしっかりと巻き終わると、その先を真中から縦に切り込み、片方を反対側に回転させると、キツく結んだ。


「将軍!これで術は済みました…しばらくは経過を見させていただきますから、それまでは逗留致します。明日より1日2回は経過観察と塗り薬を交換しますから、必ず見せて下さい。これは術前にお約束したのですから、必ず守って頂きます!宜しいですね!」


「判った!約束は守ろう。先生、だが今宵は客人のために歓待せねば成らん!酒は良いのだろう?」


「程度の問題ですな…少々ならば酒は百薬の長ですからな…それに術中、私の前で散々ぱら、(あお)る様に飲んでおきながら、今更でしょうが…(`□´)」


華佗はそう呆れながらも、微笑みを(たた)えると後片ずけを始めた。腕を切り開き、毒を取り除き、縫合に及んだ際の最中で、(おけ)には将軍の体内から流れ出たどす黒くなった血が大量に溜まっている。


それを見ているだけで、眩暈(めまい)がして来る。馬良殿が気持ち悪くなってもやむを得ない所だろう。彼が幾ら中軍司馬であったとしても、文官には違い無いのだ。


実際に斬り合いに参加する訳でも無いのだから、仕方が無い。華佗は後片付けも手慣れたもので、あっと言う間に済ませてしまった。そして立ち上がると、将軍に念を押す様に語り掛けた。


「将軍、まさかとは思いますが、左腕はしばらくお使いに成る事は禁じます。幾ら貴方が武双の使い手であったとしても、縫合の力に頼ってはいけません。糸など所詮、切れる物ですからな!ゆめゆめ軽んじられませぬよう…」


「先生!判っておりますとも!儂の赤兎(せきと)は自在です。(あぶみ)さえ在れば馬上の戦いも何のそのです。そもそも手綱など握っていては、戦になりませんからな!否、待てよ?儂なら片手でも十分、青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)は振れますゆえ、相手にとっては丁度良いハンデに成るやも知れませぬな!(≧▽≦)ガッハッハ♪」


関羽は高らかに笑い飛ばした。北斗ちゃんもその咆哮に当てられて、萎縮している。


「時に華佗先生(ノ≧▽≦)ノ!先生のお陰でこの関羽、命を拾いましたゆえ、是非お礼がしたい!金百両をお礼として用意して御座いますれば、今でも、お帰りの際でも、ご都合に合わせて差し上げたいが?」


華佗はそれを聞いて嘆息する。


「将軍、私は貴方の強靭さに感服致しました!それに元々ここに私が来たのは、将軍の仁義の姿勢を慕っての事です。ですから、お礼等、一銭もいりませぬ…もしどうしてもと仰有られるならば、使った分の経費だけ頂戴しましょう…(*_ _)ペコリ」


「…私には、実践そのものが、経験であり報酬です。それに私の願いは、本来的に、貧しい民を助けるための術を(こころざ)しております。ですから、戦争で戦いに明け暮れた結果、得た傷を治すのは、元々翻意では無いのです。悪しからず!まぁ、お礼であれば、美味しいお酒を小瓶(こがめ)で一つ頂ければ、万々歳でしょうな…(*´∀人)♪」


関羽は想わず微笑んだ。


「先生もいける口なのですな?それは嬉しい…承知した!必ずそう致しましょう♪それにしても欲の無い方ですな…先生こそ真の仁徳の士(人´∀`)と申せましょう♪」


「買い被りですぞ!まぁ私も今回は自分の知識と技術が実践で生かせたので満足です…」


華佗はそう言うと、「ではお大事に!」と言って下がる。関羽は、尚書の伊籍(いせき)に華佗先生の案内をさせた。


「さて、坊主…待たせたな!続きをやろう♪」


そう再開を宣言した関羽は、盤上を確認するまでもなく、黒石を打ち込む。


「さて、お主の番じゃ!」


開羽は嬉しそうにそう言うと、右手で酒を注ぎ、一気に(あお)った。


『何だ…(^。^;)暇潰しじゃなかったのか?参ったな…でも話しが出来る良い機会かも知れぬ!』


北斗ちゃんは改めて盤上を眺める。関羽将軍の放った黒石は二個ともに白の置き石を窺う様に飛んでおり、今まさに守備を固めて待ち構える陣立てに、(から)め手と本道から二軍が迫って来ている具合に見える。


『(*´-`*)ゞ良く判らないけど、これは費禕せんせに習った戦術を当て填めて考えれば良いのかな?て事はまず、搦め手を潰してみよう。本道が手薄になるけど、この際、そちらは持ち堪えられればいい…』


北斗ちゃんは碁は判らない。なので兵法を実践に応用するくらいのつもりで、碁で試してみる事にした。けれども、それはあくまで考え方であり、細かい所までは判らないので後は勘である。


『思い切りが肝心だ(。_。)!迷いは禁物…鳥の餌にも成らないからな…』


彼は思い切って白石を打つ。関羽将軍も直ぐに反応する。搦め手を置き、本道を厚くして来る。


『迷いは禁物!男は度胸さね…(*゜ε´*)』


北斗ちゃんはしつこい様だが、碁は判らないので、その分却って迷いも無い。彼はしつこく搦め手を潰しに行った。


こうして将軍の攻めて来る本道側が厚く成り過ぎない様に、時折、防衛に回り、搦め手をしつこく潰す。その時に、囲い込まれていた白石が黒に取られた。


『不味い…(;T∀T)』


北斗ちゃんは白石を打ち、やり返す。


「坊主!それは駄目だ…これはコウだ。黒が取った後に、直ぐには取り返せないのだ。別のところに一旦打ち、その次の回なら打てる…まぁ、打たなくても良いんだがな!」


『そうなのか…(人´∀`*)碁も奥が深い!』


北斗ちゃんは判らないので感心しきりである。教えを受けたので、黙って頷く。そして仕方無く、別の所に打った。すると、だんだんと盤面が埋まっていく。その時に彼は初めて気づく。


『ああ…成る程、相手を包囲する様に打てばいいんだな?だとすると、これは戦術というよりは戦略の方が重要かも知れない…(-∀-`;)負けるかも知れないが、その意識でやってみよう。そして辺や隅など、局面は戦術の策の応用だな!』


彼はちまちまと慣れない手つきで碁石を打ち続けた。すると、やがて終局が近づいて来たと思われた瞬間、関羽将軍は黒石を握る代わりに、「やられたわい…(´_`。)゛」と言って、「カッカッカ(≧▽≦)♪」と豪快に笑った。


「坊主、良くやった♪儂の負けだ!」


そう言うと、感心した様にこちらを見つめている。


「否、まだ全部埋まってないし…打つ碁石もまだ有りますけど(゜o゜)?余剰戦力は使わないのですか?」


「成る程…それを聞いて理解したぞ!坊主、お前…兵法頼みで碁を打っていたのか…こりゃあ、たまげたな!まぁ偶然もあるだろうが、お主の勝ちは間違いないところだ…」


「…感服した!もし今後時間があるなら、また儂の相手をせい!坊主に碁の真髄を伝授してやろう!だが、儂のこの教本を貸してやるから、ルールくらいは憶えておけ!知っておいて損は無い。碁は実践にも役に立つ。逆もまた真成り…なのだ!」


関羽は敗けた割には清々しく笑っている。こんな少年が自分を負かした事が、嬉しかった様である。


「こちらこそ…小賢しい真似をしてすみません!でも私が碁を打つためには、それしか頼れる物が無かったのです!ご無礼致しました…(T∀T)」


北斗ちゃんはそう謝った。すると関羽将軍が、昔を懐かしむ様にこう、呟いたのである。


「儂にも坊主、お前さんくらいの可愛がっていた甥がいるのだ。と言ってもだ…本当の甥では無い!主君・劉備様の御子だ。阿斗様と言ってな…もう暫く会って居ないが、お元気で在ろうか?懐かしいものだ!昔はこれでも、この儂にとても懐いて居てな…可愛かったのだ(≧▽≦)!」


そんな切ない程の言葉を、目の当たりに聞いてしまっては、黙っている事も出来まい。北斗ちゃんはここいらが潮時と真実を伝える決意をした。


「( -_・)関羽将軍、あの方ならば元気でやってます。将軍の事を今でも慕っておりますよ!」


「(゜ロ゜)…??坊主、お前は若君をご存知なのか?」


関羽は然も驚いた様に彼を見つめた。


(じい)、(*´-`*)ゞ僕だよ!阿斗だ!驚いたかい?」


彼はここぞとばかりに巻くし立てた。


「え?阿斗様( *゜A゜)??」


関羽は仰け反らんばかりに驚いている。


「爺も元気そうで何よりだ♪でも毒矢を受けたと聞いた時には卒倒したぞ!余り心配を掛けないでくれ♪でも無事に再会出来て良かったよ!」


北斗ちゃんはこれ以上は無い程の満面の笑みを浮べている。


『ほぉ~よく見たら、確かに阿斗様だ…面影がある。ご立派になられたのだな!』


鬼の目にも涙、関羽は嬉し涙を瞳に湛えた。

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