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隗より始めよ

「(*`艸´)ムムムッ…若!そこは待って下さらんか?」


関羽は決定的な一手を打たれて想わず(うめ)く。


「✧(❛ ࡇ ❛´٥๑)爺ぃ♪さっきから三度目だぞ!これじゃあ勝負もへったくれも無い!」


北斗ちゃんは苦笑いだ。打つ度に待ったを懸ける関羽に業を煮やしている。ここに来た当初は立場が逆であった。


関羽は碁は戦と同じだから待ったは利かぬと(いまし)めていたのである。それが今や待ったの繰り返しだ。これでは戦場なら包囲されてとっくに死んでいよう。


「(٥`艸´)若…そらそうですが、黒番の時にばっかり話し掛けられては、儂も頭が回りませぬ!」


「✧(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)だって爺ぃ~打つの遅いんだもん♪そもそも今日は河川計画の落とし込みの打ち合わせを兼ねてるんだぞ!それがメインだ。それに(かこ)つけて、この僕にリベンジしようなんて…」


「…(いき)がるから袋小路に入り込むんだ!それに僕は早碁だ♪時間使ってないんだから、どうしても長考する君の番に話し掛けなきゃ打ち合わせにならんだろう?何なら止めてもいいんだぞ♪」


「(٥`艸´)判りましたよ♪じゃあ、これで!」


関羽が黒石を打った途端に、返す刀で北斗ちゃんも白石を打つ。パチンと響くその音には容赦が無かった。


「⁽⁽( •̀ ᗜ •́ *)はい!これで僕の連勝は確定だね♪そろそろ真面目に打ち合わせに入ろう!遊びながらじゃ示しがつかん♪」


「(٥`艸´)いやはや…参りました!もう若には敵いませんな♪上達の早い事で…」


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈそれほどでも無いよ♪でも我流を極めたのが良かったのかもね!定石に囚われない打ち筋はかなり効果がある。でも裏を返せば進化は新たな定石と為るんだ。だから絶対じゃない…」


「…少し知恵が回る奴にはすぐに研究されてしまうからね♪だから常にこちらも進化し続けなきゃいけない!勝負事とは(いたち)ごっこだよね♪三國の争いも似た様なものだ!常に先回りしなきゃ…」


「…それでなくとも弱小勢力の僕らには勝ち目が無いよ!同じ事をしていてはいけないんだ♪今回の河川事業もそうだ♪一見すると遠廻りに想えるこの一手が先んじる可能性を秘めているんだよ…」


「…先人はこう言っている。"先んずれば人を制す"まさに僕が体現しようとしている事はそういう事なんだよ!()(てら)う事で相手もその意味を考える事だろう♪舐めて懸かってくれると大助かりなんだけどね♡」


北斗ちゃんはそう言うとほくそ笑んでいる。彼には何か"閃き"が降りて来たらしい。


「(٥`艸´)ん?この河川事業に何か裏があるので?そんな話は聞いて居りませんが??」


「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)いや無いよ♪」


「(٥`艸´)でも今の言葉はそう受け取れますぞ?若!まさかこの爺ぃまで出し抜こうなんて考えとらんでしょうな!」


「(´°ᗜ°)✧アハハハ…無い無い!安心していいよ♪河川事業はあくまでも民の為、そして将来の国の為さ!但し、我が国の為じゃないけどね♪」


「Σ(`艸´#٥)な、何ですと!我が蜀の為じゃないと申されるか?いったいどういう了見なのです!」


「(٥ •ᗜ•)いやね、そう凄まれると困るが、河川事業は元々公共の福祉に寄与する為の事業だからね♪我が蜀の為だけじゃ無いって事かな?魏や呉の為でもあると想うぞ!…」


「…つまり僕の言っている"国"とはこの中華全土に広がる統一国家の為って事さ♪皆、この三國鼎立の中で統一国家なんて構想を今から抱いているとこ有ると想うかい?」


「(٥`艸´)いや…無いでしょうな!孟徳辺りなら考えていたかも知れませんが、奴は赤壁で破れた時に、自分の代での天下統一は諦めたと聞いております。そんな夢の様な話は、本来、成し遂げた後に推進する事なのではないかと?」


「(˶• ֊ •˶)だよな♪そこが付け目さ!まだ今は理解してくれなくても良い♪たぶん説明しても判って貰える段階では無いからね!つまりは他の頭の良い連中が僕の行為をキ印だと想い、何か裏があると想ってくれた方が都合が良いって事さ♪…」


「…考えたり、探りを入れたり、疑って懸かってくれればくれる程に河川事業は順調に進み、安全だからな!要は当面の課題は富国策と同じく時間稼ぎにあるのさ♪後は結果が僕の深謀遠慮を証明してくれるだろう。そこまで到達出来れば僕らの勝ち!…」


「…河川事業が失敗すれば僕らの負けだ♪だが負けは即ち、滅亡だからね?まず当面はのんびり河川事業に明け暮れるぞ!勿論、富国策と併用していくし、防衛は爺ぃ~たち将軍諸氏の努力に掛かって来る…」


「…爺ぃ~はこれまで通り、馬良と共に防衛策を念入りに検討してくれ♪後、外交策でものらりくらりと(かわ)して行く必要があるからね!それは丞相を中心とした得意な奴らに任せるつもりだ!僕はこの河川事業に邁進する…」


「…爺ぃ~はこの荊州の守りの(かなめ)だから今、ここで少々念を押した。けど他の連中はまだ知らなくて良い♪はっきり断言するが、この河川事業が成功すれば僕らの勝ちだ!"戦わずして勝つ"これが僕の目指すこの中華の未来なんだよ♡」


北斗ちゃんはそう言うとひと息付く。


関羽には良く判らないが、若君のこの自信は何の根拠も無い自信とはまた違うものの様な気がしていた。何か閃いたのだろうかと想ったのみである。


関羽は深い溜め息をつくと、一言だけ述べた。


「(*`艸´*)儂は若!貴方を信ずる。意味は判らんです、正直そこまでは頭が回りません!けれども最後まで信じて着いて行く所存♪必ず貴方とこの荊州をお守り申し上げますぞ♡」


「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾あぁ♪頼りにしてるぞ爺ぃ~!だがあくまでも防御に徹するのだ♪けして隙を見せては為らない。そして死んでくれても困るぞ♪僕はね、爺ぃ~お前に僕の成果を観て貰いたいのだ!だから決して無茶はしてくれるな♪良いな!」


「ꉂꉂ(*`艸 ´*)えぇ…承知しております♪誰ひとりとして死なせやしません!だからご安心を♪若は心配せずに目的に向かって邁進して下されよ!」


「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈあぁ…勿論さ♪この事はお前の口から馬良にもそれと無く伝えておいてくれ!僕は丞相と潘濬(はんしゅん)、劉巴には伝えておく事にする。恐らくこの三人なら僕の深謀遠慮が行き着く地点を想像出来る事だろう♪」


「(*`艸´)承知した♪」


北斗ちゃんと関羽の打ち合わせはこれで幕引きと為った。少しずつではあるが、事は進行を見せ始めていたのである。


『✧(❛ ࡇ ❛´٥๑)…秦縁殿に乗せられたかな?』


北斗ちゃんは丞相府に戻りながらそう感じていた。秦縁は天下万民の為の恒久平和を目指しているという。そしてその白羽の矢を立てる相手を探しながらこの中華を往き来しているのだ。


田穂からその話を聞いた北斗ちゃんは、彼の目的に共鳴していた。そしてもし仮にこの自分がその御輿に乗ってやればどうなるだろうと考えていたのだった。


秦縁は善意の行いを誠実に完遂した後、その結果として副産物として付いて来る利鞘は有り難く頂戴すると言った。


相手に儲けさせてあげて、こちらはそれ以上の儲けを得る。互いにウィンウィンの関係性を築く事が商売の道とも言っていた。


『✧(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)今回の河川事業は当初から善意で行うつもりだったのだ♪それは今でも揺るぎ無い。だから最後までそれは貫く、何があってもな!…」


「…けれどもその後に付いて来る副産物は有り難く頂戴するつもりだ♪これはヒントなのだ!なぜ皆それに気がつかなかったのだろう?僕の神経が可笑しいのかな?…」


「…でも気がついたからにはこれを利用しない手はないのだ!曹操も孫権も気がつかなかったヒントを僕だけが気がついた。これも天命なのだろうか?でも僕はやり遂げる、必ずね♪」


彼の決意は固かった。秦縁の常日頃から標榜するその信念の中に、北斗ちゃんの目指す血を流す事の無い未来が垣間見られたのだから。


『(˶• ֊ •˶)隗より始めよ…か!まさかこれから行う河川事業に大逆転のヒントが隠されていたとはね♪そうと判れば遠慮無く、身近な事から始めさせて頂く!まさに"先んずれば人を制す"の計だな♪』


北斗ちゃんはもう迷わなかった。ある意味、自分の構想を始めて口にしたのはその決意を自身の心に深く刻み、ブレない決意表明であったのだ。


そしてその言葉を伝える相手として選んだのが、最も信頼している関羽であった。北斗ちゃんは今でも関羽の事を自分の保護者として観ている節がある。忙しい父、早世した母。


関羽はそんな自分が心の拠り所とする強く頼もしい存在であったのだ。


『(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)…爺ぃ~に話して良かった♡お陰様で僕の決意も固まった。後は只ひたすらに前進あるのみだな♪』


北斗ちゃんは少し気持ちの軽く為った自分に気がついていた。彼は晴々とした顔で歩みを進めた。




さて徐庶に弟子入りした廖化であるが、彼もまた新たな課題に挑んでいる。北斗ちゃんの許可を得て、文武両官として大成出来る様に日々努力していた。


「⁽⁽( •̀ ᗜ •́ *)へぇ~いいじゃない♪良い先生を見つけたんだね!それは良かった♡実は費禕からも相談を受けていたんだけどな♪なかなか皆、忙しいからどうしようかと考えていたんだ…」


「…僕がやっても良かったんだけど、恐らく(せわ)しなく動いてるからなかなか難しいかなと想っていた。君が良いならやってみなよ♪今度僕にもその先生を紹介してくれ!応援してる♪」


鶴の一声であった。北斗ちゃんは前向きな姿勢を決して否定しない。勿論、仕事はやって貰うが、田穂も居る事だから支障は無かったので、彼は思いの外、勉強に励む時間が取れたのである。


彼は今日も徐庶に付いて学んでいる。徐庶は教えるに当たり、こう述べた。


「ꉂꉂ(´ސު`๑)一朝一夕では大成しない事は前に伝えた通りだ!日々の積み重ねだな♪だがそれは君の最も得意とする分野だろう?日々一心に剣を振る。それと同じ事だ…」


「…しかも君は諦めが悪いのが信条だろう?それは必ず努力に繋がる。せっかく決意した事だ、初心を忘れぬよう努めるが良いぞ♪さて、当面の課題だが【史記(しき)】【漢書(かんじょ)】【国語(こくご)】を中心に学んで貰う…」


「…将来的には【礼記(らいき)】【書経(しょきょう)】など興味があれば読む事だな。初めに言っておくが、儂は最後まで付き合ってやる気は無い…」


「…この儂が実地で教えてやる事だけでも実はとても珍しい事なのだ。それに書に親しみ馴れてくれば、十分独学で事足りるだろう。さてさて、では始めようか?」


「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ 先生、いっぺんに三つも書を学ぶのですか?大丈夫かな…」


廖化は遂々苦手意識が先に立つ。


「(๑´ސު`)✧ 何だ、もう臆したのか?」


「否、そう言う訳では…Σ(٥ •̀ ̫•́ *)︎ღ⁾⁾」


「安心せい!ꉂꉂ(´ސު`๑)三書と言っても、【史記】は"書"の項のみ。【漢書】は"志"の項のみしか教えぬ。ゆえに【国語】を中心とした修行になるな♪…」


「…元々これらの書は、その全てが過去の時代の歴史書になる。だから、時代時代の賢人たちの業績や生き様などが記されておるのじゃ!中には政務に携わった者から戦場で手柄を挙げた者まで居るのだ…」


「…その賢人の書き記された所作(しょさ)から学び、現在に通ずる事を学ぶ。そして使い古されたものは、今を生きる我々が改良を施して、次世代に残して行く事になる…」


「…言っておくが、この書にその名を記される事だけでも名誉な事なのだ。お前も努力し、貢績を挙げれば、死した後にもこうして名が残るかも知れんな…」


「…まぁこれはあくまで後世の学者連中の評価になるから、気にする事は無いが、それだけこういった書に名を残せる人物からは、良きにつけ悪きにつけて学びがあるという事を憶えておくと良い…」


「…【史記】の"書"や【漢書】の"志"には実務に必要な項目が多いゆえに、これを用いる。まずは掴みとして儂が読んで聞かせるゆえ、お前も続けて読むのだ♪良いな!」


「はい!(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ 先生♪」


徐庶は文章の区切りまでを読み挙げ、その後に廖化が続く。そしてその後、徐庶がその意味を説く。廖化はそれを記す。


徐庶が違う点はその後、雑談という名の問答の時間がある事で、この文章から何が考え得るかを必ず問う。廖化は判らないとは言えない。


それは禁句とされており、稚拙でも良いから、自分の今まで生きて来た経験から答えを導びき出さねばならない。


そしてその答えに対する寸評がされて、具体例やヒントが示される。この反復はこれで終わりではない。宿題として与えられて、翌日新たな答えを問われる。その繰り返しなのであった。


要は徐庶がもっとも重視したのは、歴史に残る賢人たちの業績や言葉を知識として憶える事では無い。勿論、それがなければ話しにならないから、憶える事には必然的になるのだが、それで終わりじゃないのだと彼は言っているのだ。


むしろ、それが始まりなのである


彼の重視する目的は、今それをどうやって生かすのか?または生かせるのか?それを本人に考えさせて、発想力と行動原理を学ばせる事にあったのだと言える。


だからそんじょそこらの寺小屋で学ぶのとはその厚みが違ったから、その講義は遅々として進まなかった。けれどもそれで徐庶は良いと想っていた。


彼が廖化に教え込みたかったのは、内容も然る事ながら、書に親しむ姿勢、そしてそれを習慣づける事にあった。


勿論、読む事が出来ても、その真の意味を捉える事が出来なければ、幾ら時間を費やしても、"絵に書いた餅"になってしまう。


そのため一言一句に時間を掛けて、その言葉から導き出せる内容を想像させ、実際に活用するためにはどう扱うのかという実行力を学ばせる事に重点を置いたのである。


彼は慣れてくれば読解力とその活用の仕方が学び取れるようになる筈だ。そこまで行ければ、後は数多くある文言に対して、自分の力で問答し、読解し、想像し、実践出来る事だろう。


徐庶が冒頭に宣言した、"最後まで付き合わない"という言葉の真意はそういう事である。彼は元々、廖化の苦手意識が書を遠ざけ、その学び方を誤解した事からこの問題が起きていた事に、既に気づいていたのである。


『(٥´ސު`)✧ この男は毎日木刀を1000回も振る地道な面が在りながら、どうして書に対しては同じく臨む事が出来ないのだろう…』


そう考えた時に答えは既に出ている。そう…やり方が判らないのだ。


そして苦手意識がそれを覆す機会を奪っていたのだ。だから今まで放って置いた。ゆえにその意識は今まで変わる事が出来なかった。


そう結論付けたのだった。


だったら切っ掛けを与えてやれば良い。


そしてそのやり方を、否…極端な話、やり方だけを徹底的に教え込み、書に親しむ姿勢も合わせて養ってやれば、後は持ち前の努力家の彼の事だ、勝手にどんどん努力して行く事だろう。


徐庶はそう当たりを付け、剣術と同じ努力が出来る水準まで導く事だけを考えていたのだ。端から【国語】でも【史記】でも【漢書】でも、教本は良かったのである。


但し、彼が苦手とした主簿に(まつ)わる事は、"ここを読めよ"と教えてあげたに過ぎない。そして彼は日々努力していけば、自然と武人として大成して行くための【章】に気づき、学ぶ事だろう。


徐庶にもこの荊州に一念発起して来た訳がある。だから、いつまでも教えている訳にもいかない事くらいは承知していた。


今だからこそ出来る事。そしてそれは身近な事から始めれば良い。『(かい)より始めよ!』まさにその点に在ったのである。

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