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誓約と制約

「(*`艸´)✧で!先生はどんなお仕事が御希望なのでしょうな?」


「Σ(´ސު`٥)はぃ?雲長殿!今さら何を…この元直の代名詞と言ったら軍師で在りましょう♪まぁ政務も担えますが、私を太守レベルで飼い殺しにするつもりなら、魏をムリムリ脱出する必要も無かったんですがね?…」


「…また貴方たちと大国・魏を相手に漢帝国復興の大義を果たす為にわざわざ私はやって来たんですぞ♪目眩(めくるめ)くスリリングな挑戦という訳です!過去に置き忘れて来た儂の忘れ物を取り戻しに来たと言っても良い♪」


もともと徐庶は漢帝国の復興を目指している劉備陣営に身を投じる事こそ自分の生涯の夢だと考えていた。ところが母親を人質に取られた事で、その敵国に永らく務める事に為り、彼の夢は頓挫(とんざ)していた。


(みそぎ)を済ませた今こそ彼は時間を戻して夢をもう一度と考えていたらしい。かつての主人で在った劉備が聞いたらさぞや涙を流して喜びそうな殺し文句であった。


ところがである…関羽も馬良も感動するかと期待していた彼の目に映ったのは、とても微妙(デリケート)な反応であった。嬉しそうな顔をしたり、満足げな反応が返って来るかと思いきや、どちらかと言えば少し困り気味の顔に観えた。


徐庶は戸惑っている。そして関羽や馬良も違った意味で戸惑っていた。前者は受け入れ難いその雰囲気に対して不可思議に想っての事であり、後者はどう説明していいか迷っての事であった。


特に関羽は徐庶を先生と仰いでおり、彼もまたかつてはイケイケの北伐断行派であったからで在る。けれども今は少々その気持ちも変異していた。


若君は理論的に彼を説得し、今は時期尚早であると納得させた。その上で可能な限り時間を稼ぎ、国力を増強する事に重きを置く路線に既にシフトしている。


関羽もまた人材を育て、中原(ちゅうげん)の煌めく士人達に負けぬ男たちを見出だそうと努めていた。若君もまたそうである。そしてその努力も実りつつ在った。


この度の我が君(劉備)の政策により、人材発掘と教育が大きな指針と為ったからで在る。まぁ元々は若君の施策のパクリではあるのだが。


「(((*≧艸≦)ハッハッハ…先生♪まぁそう慌て為さるな!北伐は逃げやしません♪それに魏国とは先日、協定を結んでいったん不可侵条約を結んでいるのですぞ!これは若君と丞相の総意です♪…」


「…我が君も後日同意されております!それを今直ぐどうこうする事はこの儂にも出来ませんな♪しばらくは富国に務めよ♪これがこの荊州での確固足る方針なのですよ!詳しくは後ほど、若君にお会いに為るとお分かりになるでしょう♪…」


「…何でしたら丞相もたまたま今現在、この荊州に居りますから聞いてみては如何かな?儂に言えるのはそんなところですな!儂もこの馬良も同意しております♪ですから今直ぐにはご期待には沿えません。悪しからずご了解下さい!」


関羽はそう言い切ると両手を広げてニヤけてみせた。馬良も関羽の言葉に満足そうに頷いている。


徐庶は想わず溜め息を洩らす。彼だって戦争が巻き起こす悲劇は看過し得ない。けれどもそれでは何の為に自分は魏を棄てる決意をしたのだろうと想い悩んだのである。


そしてあの秦縁が目指す恒久平和とやらが、頭に浮かびほろ苦さを感じていたのだった。


徐庶も秦縁の考えには賛同している。


否…この中華に暮らす人々のほぼ全てが聞けば賛同するに違いないのだ。誰だって戦争は嫌だし平和な世の中で暮してみたい。


そんな世の中が来ればどんなに良いだろうと想っている事だろう。あの曹操や孫権でさえ、平和な世の中を目指していると言っても然程、間違ってはいまい。


しかしながら割拠する群雄にとって大事なのは、誰が主導する平和なのかという事である。秦縁に言わせれば、そんな事に拘っている内は、真の平和など適わない。


彼が孫権をその標的から半ば外し諦めたのもその点を超越する事が出来ない人物だと悟ったからであった。真の平和とは、万人を愛せる人物の到来だと彼は想い、商団を率い各地を来訪しながら、そんな人物を探そうとしているのだ。


当初、秦縁が期待したのは曹操孟徳であった。しかしながら、これはすぐに破綻する。彼はむやみに人を殺し過ぎる。これでは彼を指示する者達しか生き残る事は難しいに違いない。


秦縁が唯一、曹操に参同している点は漢の再興など必要ないという事だけであった。




漢帝国は自浄機能を既に失ってしまっている。つまりその政治体制が腐敗し、自らの力で浄化出来なくなっているのだ。


そしてその君主も傀儡(かいらい)と化しており、長らく朝政(ちょうせい)すらまともに行う事が出来ない。董卓の時代からそれは変わらない。否、その前から皇帝に権力など無くなっていた。


宦官(かんがん)勢力である十常侍(じゅうじょうじ)に長らく政治は牛耳られていたからである。但し、民の間にはそんな漢帝国に愛想を尽かしながらも、今もまだ漢帝の子孫に期待するところがある。


それが摩訶不思議な点であろう。今でも劉氏の出身である劉備に民が期待するのは、漢帝国三百年の長きに渡る権威の擦り込みである。


古き良き時代を懐しみ、どうしても期待するところがあるようだ。なぜなら、漢帝国は結果として長きに渡り続いた春秋戦国期を終わらせ、天下を統べる事に成功したからである。


正確には、天下を統べたのは大秦の力であるが、十年と持たず、わずか二代で亡びた国を尊ぶ者は既に居るまい。


項劉の戦いを経て、天下を統べ、途中王氏に権力を奪われながらも自浄機能で復権を果たし、三百年間この中華を治めた漢帝国の権威はまだまだ人々の心の中に残っていたと言えるのではないか。


ゆえに劉備や諸葛亮、徐庶などは元より、魏国に仕える者でさえ、漢帝による政治力の復権を望む者はまだ居たのだろう。荀彧(じゅんいく)荀攸(じゅんゆう)などはその典型的な例である。


つまりは劉氏で無い者が、この中華を統べる事には端からハンデがあるという事になる。曹操はそこをカバーするために劉協を傀儡(かいらい)として取り込み自分は丞相という立場で中原を治める事に成功したのである。


要は名より実を取った事になる。ここいらが曹操の老獪(ろうかい)さであり、姦雄(かんゆう)と呼ばれる油縁であるが、それも魏王に登る際に(ほころ)びを見せ始める。


漢帝を推載する事で臣従していた漢信望派の反乱である。彼らが裏で手を握った連盟書には劉協は勿論、漢の大臣のほか魏の大臣すら名を連ねていた。あの劉備もその一人であった。


この反乱は事前に察知され、血の粛清となる。曹操の悪名をより高める事になったこの事件は、まだそれだけ漢帝国を(しの)ぶ人々がたくさん居た事を物語っているのだろう。


だからこそ、中華を統べるためには漢帝国に配慮し、その意志を受け継ぐ事が求められたのだと言えよう。この三国鼎立(さんごくていりつ)路線を崩し、統べる者の力量は、万民を愛し、漢民族を守る事が出来る者と単純には言えるのかも知れない。


曹操もその辺りの事が判っていなかったとは想えない。けれども自分が幾ら時間を賭けても漢帝の血筋には慣れない事も確かである。


だから劉協が存命の内に少しずつ段階的に漢帝国の解体を進めていたので在ろうが、察知した反対勢力の過敏な反応が一連の大粛清に繋がったのだと言える。


秦縁は曹操による反対勢力の粛清は、今でもやり過ぎだと想っている。確かにまだ人々の中には漢という国の権威があらゆる意味で残ってはいるが、国を興すという事は即ち、いつかは亡びる可能性があると言う事になる。


いわゆる栄枯盛衰と呼ばれるものである。ではどうするのかという点になるが、秦緑はもっと単純である。彼は自分が割拠している群雄と呼ばれる立場では無いので、その縛りも無く、より自由な発想が可能であった。


簡単に言えば民に支持されればそれで良いのである。国を統べる者は勿論、人を動かし、その思想や立場を異にする者達と共存共栄する事も重要ではあるが、そこに拘り過ぎると足枷となり、却って一歩も踏み出せなくなる。


そもそも全ての人が賛同する世界など絶対にあり得ないだろう。色々な考え方がある世の中を、本当に一本化するためには専制政治、つまりは強権による独裁体制を築くしか道は無い。


しかしながら、それでは余りにも悲し過ぎるでは無いか。ではどうするのかと言えば、それはまだ秦縁にも答えは出ていなかった。人と人との信頼関係が崩れてしまっている現状では事は単純では無い。


けれども三者が歩み寄り解決する事が出来ないのであれば、彼らが持っている権力に頼る解決は諦めるしか無い。すると最後に残るのは戦争か、或いは"万民に支持を受ける"方法しか無いというのが彼の現状分析であった。


要は戦争を避けるなら、"民の支持を集めよ"これしか無かったのである。国とは統べる側と民が居て始めて成り立つ。民が居ない国は国とは呼べない。


それでは裸の王様になってしまう。もし仮にこれ以上規模を拡大して漢民族同士で殺し合えば、極端な話し民が居ない不毛の地にも成り兼ねないのである。


「恒久平和ねぇ~?ꉂꉂ(´ސު`๑)確かに戦時がこのまま続くよりは遥かにましな世の中だろうねぇ~♪でも考えてもみたまえ!それぞれの勢力が生き残りを賭けて戦い、その究極の形が現状なのだ…」


「…唯一の機会(チャンス)があったとすれば、それは赤壁の時だろう。孟徳が勝てば、天下制覇が見えていた筈だろう?あんたなぜその時に力を貸さなかったんだい…」


「…あの頃なら玄徳殿もまだ益州を得ていなかった。それこそこんな軍船が在るなら決定機を演出出来たろうに?」


「まぁ確かに!(ღ❛ ᗜ ❛´٥๑)それは正論だろうな♪だが生憎(あいにく)と俺はその時まだ十代半ば、今の太子と同じお年頃だ!こんな商団立ち上げてね~よ♪つまり必然的に大商船も持っていない…」


「…恐らくは趙蓮と二人でまだこの中華を彷徨(さまよ)っていたろうさ?お前さんだってその場に居たのに相手の火計を察知してとっとと逃げたろう?しかも連環まで組ませてそれを助けた。どちらの味方なんだろうな?…」


「…曹操の天下統一を阻止したのは、俺に言わせればお前さんだね!その張本人に戦犯扱いされるとは片腹痛いね♪」


徐庶の指摘は後付けである。後々全ての状況が判った上で、タラレバな事を言うなら誰でも出来る。


秦緑の指摘は逆にその古傷を深く(えぐ)るものだった。徐庶は自分の意志で曹操陣営に組して居た訳ではない。それどころか無理強いさせられて、参戦までさせられている。


連環の計は一時的には船上を陸の上にいるのと同じくらいの安定度を持たせる事に貢献した。それが証拠に、船酔いする者は極度に減ったのだから、見掛けは大貢献に想えるが、結局それが火計の大惨事をより一層酷くしたのだから、結果的に戦犯とされても仕方無い。


それを避けるためには、発生当時に現場に居ない事であり、彼は西涼の馬超に備えるためという名目でとっとと上手に離脱してしまった。


秦縁は真逆の行動に加担していた奴が、語る資格は無いと言っているのだ。ところが徐庶はただ一言、「それは残念!」と言ったのみであった。


徐庶が曹族に天下を取らせたくないのは自明の理である。けれども、状況の変化を機敏に捉え、策を進言する筈の軍師が、仮にもし全てが判っていてわざと行った一連の行為であるならば、曹操にとっては大誤算であった。


こんな事なら下手に策を弄さず、徐庶を引き入れなければ、天下統一も成っていたかも知れない。結果は三國鼎立に寄与したと言っても過言では無かった。


『(ღ❛ ᗜ ❛´٥๑)こいつまさかわざとやったんじゃ…』


秦縁はそこに恣意的な意志を感じていた、徐庶が三國鼎立を目指す諸葛亮の意図を汲み取り、故意にそうしたのだとすれば、どうだろうか?


彼はそんな事を考え始めていた自分に気がつき、即座に否定する。あの頃はまだ劉備は本拠も持たない放浪者の身であった。益州を取れるかすら判らなかったのだ。


無論そういった絵図は諸葛亮辺りの頭の中には在ったのかも知れないが、徐庶がそれを見込んで行ったとは考え難い。只の意趣返しとも言わないが、少しでも曹族の力を弱めようとした意志がそこには感じられたのである。


結果的には秦縁は徐庶の身に同情して魏から逃がす手伝いをした。あの曹操の説得にも携わっている。彼はそんなやり取りの中で、果たして彼を助けてやって良かったのかと少し疑問を感じていたのだった。




逃避行に手を貸してくれた秦縁の商船の中で、そんなやり取りをした記憶が、今まさに徐庶の頭の中で甦っていた。


そして彼の目論みとは裏腹に、この荊州では太子・劉禅君を中心とした富国一致体制が築かれようとしている。


北伐敢行は先送りされ、魏との間では不可侵条約までが締結されていた。これは徐庶が想定していた状況とはかなりの隔たりがある。


戦場で策を練る軍師としては商売あがったりである。けれどもここの雰囲気はかなり良い。それは徐庶にも感じられたので、しばらくは様子を観る事にしたのである。


理想を追い求める余り、少し肩に力が入り過ぎていた事に気づいた彼は、一旦落ち着きを取り戻す事にした。そして彼らが信奉する太子にまず逢い、その導く方向性を確かめてみる事にしたのだった。


「(๑´ސު`)✧ 関羽殿♪お話しは判り申した!ではまずは若君に御意を得たいと想います♪少々私も肩に力が入っていた様だ!ここはひとつ直に方針を聞いてから、私に出来る事を考えたいと想います♪」


「(*`艸´)あぁ…そうだな♪先生!それが宜しいでしょうな?貴方は立場上、制約も出て来よう!まずは若と良く話し合い、その上でその身を立てる方法を考えるのが宜しいでしょうな?」


「私もそう想います♪ღ(。◝‿ ◜。)若なら必ず真摯に考えて下さる筈ですからね♪」


馬良もそれに同意する。


「そうですな♪(٥´ސު`)…ではその様に致しましょう!」


徐庶のこの一言で話しは決まった。心なしか二人はホッとしている様にさえ、感じられたのである。


『まずは太子に逢わねば始まらない。そしてその意図を汲み取らねばな…(´ސު`٥)』


徐庶はそう想いながら、ふと秦縁の言葉を思い出す。


『万人を愛せる者こそが、この中華の盟主に相応しい…(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈ』


彼はその瞬間、秦縁の想いと太子が重なった気がしていた。そして「否…(´ސު`٥)ღ⁾⁾まさかな?」と呟いた。

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