【番外編】真面目で何が悪い!
「(っ* •̀ ̫•́ )︎母上…今日は鮎を焼いて鯲鍋を作っておきました。さぁどうぞ!手を貸しましょう♪」
「 ੈ(•ω•。`)すまないねぇ~迷惑掛けるねぇ!」
「(っ* •̀ ̫•́ )︎何を仰有いますか?母ひとり子ひとりなのです♪そんな事は言わないで下さい!子が親に尽くすのは当たり前の事ですから♪」
この男、名を廖惇と言う。
廖惇は字を元倹と言い、荊州襄陽郡中廬県の人である。
彼は年端もいかぬ頃に国を憂い、黄巾の旗の許に集い、腐敗した漢の奸賊を相手に戦った。彼は体躯に優れ、物の考え方も早熟であった。
ところがその戦いの中で、劉備・関羽・張飛などの真に国を憂い立ち上がった者たちの姿を観るにつけて、自分の行いが誤っていた事に気が付き、関羽に投降したのであった。
しかしながら、関羽は配下にと望む廖惇の希望を容れる事は出来なかった。彼は体躯には優れていてもまだまだ子供である。
それに黄巾の残党を入れたと在っては示しがつかない。そこで改心しているこの若者を殺さずに生かしたまま放免したのだった。
けれども運命とは皮肉なものである。廖惇と彼らは再び荊州の地で巡り会う。廖惇は在りし日に、若気の至りで家を飛び出し、夢を追った。
その間に父は戦死しており、母がひとりで田畑を耕しながら、命を繋いでいたのである。廖惇は家に戻った際に見た光景を今でも忘れていない。
あの美しかった母親の面影は形を潜め、その顔は日焼けと泥で黒く濁り、その表情はやつれてしまい観る影も無かったのだ。
それでも無事で生きて帰った息子を観た瞬間に、見せたその涙は我が子を想う母の愛であった。二人は互いの無事を確かめ合う様に抱き合い涙を流した。
止めどなく次から次へと溢れ出るその雫は再会の喜びに溢れていた。そして血の通い合うその温もりは、お互いに生きていて良かったという嬉しさと安堵であった。
母はすっかり痩せ細り、抱き上げた時の軽さは尋常では無かった。廖惇は自分の浅はかさに今さらながらに気がつき、この母に二度と苦労をかけまいと心に誓ったのだった。
彼は名を捨て、夢も捨てて、母を守るためだけに生活を始めた。田畑を耕し、その合間に行商も行い、夜は莚を編んだ。
母は息子が帰って来た事を喜び、懸命に働く彼の姿を眺めながら、只それだけで幸せであった。しかしながら、それと同時に自分のために夢を捨てた彼の将来を憂いていた。
そんなある日の事、市場で莚や草履を並べて露店を出していた彼の頭越しに立ち、いきなり目の前にドカりと座り込んだ男がいた。彼はまたどうせ冷やかしだろうと相手にしていなかったのだが、いつもとは少し勝手が違った。
男は草履を手に取ると、感心しきりな表情で引っ張りその強度を確かめたり、編み目や結び目を目利きしたり、終いには藺草の縒り方まで根掘り葉掘り吟味する始末であった。
そして最後にこう呟いた。
「とっても丈夫な草履だな、こりゃあ!いい仕事がしてある。まるで履く相手の気持ちに寄り添っているようじゃ!お前、なかなかの男だな♪気に入った!(◍′◡‵◍)どうだ、儂に仕えぬか?」
その言葉に仰天した廖惇は、おもむろに相手の顔をまじまじと見つめた。それはあの劉備玄徳その人であった。
これがまさに運命の皮肉である。一度は仕官を断られた相手に時を経て、今度は仕官を持ち掛けられたのであった。
劉備も元々は莚や草履を編んで生計を立てて居た時期があり、今でも暇な時には莚を編んでいたりする。何でもそうしていると心が休まるらしい。
そんな彼だからこそ、莚や草履を通じて、作った人の心意気が理解出来たのだというべきかも知れない。いずれにしても運命の女神の悪戯か、彼らは再び出会い、そして廖惇はようやく念願であった劉備の家臣となったのである。
けれども、劉備はやがて益州を目指す事に為り、廖惇はここ荊州に残るためには関羽の許に身を置く意外に道は無かった。そう、彼には母親を置いて行く事は出来なかったからである。
廖惇は関羽の主簿を務め始めたが、真面目一徹に取り組むものの、実務はいまいちなので、いつまで経っても風采は上がらなかった。
その間に劉備は益州を攻略、漢中にも手を延ばし、これも攻略して漢中王と成っていた。
既にあれから四年の月日が経っていたが、未だに廖惇は日がな真面目に務めるだけで、夕方には早めに家に帰り、母の世話を焼く。
彼は間も無く35歳に成ろうとしていた。
「 ੈ(•ω•。`)あぁ…美味しい事♡お前もお食べ♪」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はぁ、私はこれからいつもの鍛練をしなければ為りませぬ!その後は莚や草履を編まねば…」
「 ੈ(•ω•。`)せっかく仕官したのです♪帰って来たらのんびりすれば良いのですよ!私も貴方のお陰で随分と身体もいいのよ♪貴方の主・関羽様はこんな私にも気を使って下さいます。お薬も頂けてとても調子がいいわ♪感謝しなければね!」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はい!そうですね、母上♪でも私は武骨者でして、一生懸命やってはいるのですが、実務はいまいち。来るべき日に備えて剣技だけでも一流に成らなければ為らないのです…」
「…何しろ腕っぷしだけは強く自信が在りますが、後は手先が器用なのを除けば、真面目だけが取柄の様な者ですからね!黄巾族の残党なんて蔑まれ、不真面目な輩と辱しめを受けたくは在りませんから!」
「 ੈ(•ω•。`)そんなに想い詰めなくても貴方はもはや立派な官吏なのです♪過去を引き摺ってはいけません!真面目な事は誇りとしていいわね♪貴方は良くやってますよ…」
「…貴方が私に尽くしてくれる心は尊いし、私も嬉しいのよ!でもね、貴方ももう年頃なのです♪いつまでも独り身ではいけません。良い方と巡り合い、結婚して幸せに成って欲しいのです…」
「…この母の喜びは貴方が幸せで居てくれる事なのですよ♪私はもう歳だし、欲しい物などは在りませんが、唯一の望みは貴方の夢を叶える事です♪私の世話はもう程々にして、これからは自身の事を大切になさい!」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ 母上…母上の御言葉はけして蔑ろには致しません!それはお約束致します。けれども私にはまだ償いの心が残っており、一念発起は出来ないのです!…」
「…ちゃんと考えますので、もう少し時間を下さい。そして母上の世話をさせて下さい。私は今まで通り、母上の世話をしながらも剣技に磨きを掛けて、精神修養を兼ねて莚や草履を織ります…」
「…勿論、実務もこれから努力してもっともっと上手く出来る様に努力致します!今、若い連中は皆、新しく来た若君に集い、切磋琢磨しております。私も目を掛けられる様に益々努力しなければ♪」
「ε= ੈ(•ω•。`)しょうの無い子ね♪でも貴方が前向きに将来の事を考え始めている事が判って、私は少し安心しました。貴方のやりたい様になさい♪私は貴方を信じていますよ…」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はい!母上有り難う御座います♪この廖惇誠心誠意努めて参ります!」
「 ੈ(•ω•。`)元倹や♪私は貴方を信じ貴方の行く末が明るく照らされる様に祈っていますよ♪さぁ…お行きなさい!」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はい母上!行って参ります♪」
こうして廖惇は今日も裏山で大きな岩を叩く。精神を統一して叩く。彼の日々の鍛練はその手のひらにたくさんの豆を作り、やがて裂け、固まり鋼鉄の如き塊と成っていた。
それでも日々精進する木刀の何と弱き事よ。彼が無心で打ち続けてもやがて木刀は悲鳴を上げて折れる。まぁ木と岩であるからある意味当たり前の事だが、それでも彼は無心に打ち続けた。
手先の器用な彼は木刀作りも名人級である。山で伐採して来た固めの材木を綺麗に木刀に作りあげる。その残り粕は薪にする。勿論、折れて使い道の無くなった木刀も薪になる。
彼は一切無駄を省き、山の木々を守り、私的な欲の為に無駄遣いをせぬように努めていた。彼は狩りもするが、無駄に殺生をする事も無かった。
その日、母と自分が命を繋ぐために必要な分だけ狩りを行い、食べきれない肉は干肉にして地下の涼しい場所で保存していた。
彼は劉備に仕え始めてから、御給金を頂いていたから、日々の生活に必要な物や母に差し上げるための細やかな物は買っても決して自分の為には使わず貯金していた。
母ひとり子ひとりなので、何か不測の事態が起きた時には必要であったからだろう。いつの時代もこの辺の事情は変わらぬ様である。
この日も彼は1000回岩を叩く事を目標に数を数えながら岩を叩く。無心で叩く彼にも目的はあり、それは謂わば細やかな願掛けの様なものであった。
"岩を穿つ"そうすれば彼も新たな一歩を踏み出せるかも知れないと想っていたのだ。なぜなら彼は地道に与えられた実務をこなしていたが、いまいち上手く出来なかった。
そして彼がひと皮剥ける事無く足踏みしているのを良い事に、同僚からは相も変わらず手厳しい見方を余儀無くされていた。
彼も忸怩たる想いが在ったが、それでも過去の浅ましき振る舞いを拭えずにいたのである。"黄巾の残党"その汚点は彼の心の中で蟠りを保ったまま消える事は無かったのである。
『(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎▱⁾⁾998、999…』
彼は一心に岩を叩く。
『…1000!⁽⁽﹆( •̀ ̫•́ ٥)︎✧』
ゴーン、ガラガラガッシャ~ン!!
突然の事で在った。彼は目を見張った。
何とその日、遂には岩が砕けた。一瞬の事で在った。木刀で日々叩いていたその一手一手の細やかな衝撃が砕いたものだが、彼にはその刹那に自身の努力が無駄では無かった事が理解出来たのである。
"涓滴岩を穿つ"と言うが、まさにその言葉通りであった。これは水の雫でも時間を掛ければ岩にも穴を開ける事が出来るという諺である。
『Σ(٥ •̀ ̫•́ *)︎ღ⁾⁾ ややっ!まさかこんな日が来ようとは?乾坤一擲と言うが執念とは恐ろしいものだ!本当に岩が砕けた…』
『…努力の成果を目の当たりにすると、私の心の中の靄が晴れて行く気がする。何か不思議と吹っ切れた気がするな!母上の御言葉少し真剣に考えてみるとするかな…』
廖惇が母に伝えた言葉に嘘は無かった。けれどもこれを機会に後回しにせずに真剣に考えてみようと心に誓ったのだった。
その翌日の事である。彼は今日も実務に励んでいたが、突然総督の補佐官である関平に呼ばれて公安砦に向かう様に指示を受けた。いつもなら補佐官自ら行くか、懐刀の周倉将軍が出掛ける筈である。
なぜ今日に限って自分に白羽の矢が立ったのか彼には想像も付かなかった。たがらひょっとしたらあの願掛けの効果なのかも知れないと想った程だった。
「廖惇さん♪ꉂꉂ( ̄ー ̄*)申し訳無いのですが、今日健康診断の手伝いで、公安砦から太守の費禕殿がこちらに参ります♪途中までは張翼殿が送ってくれますが、彼は山を越えずに引き返さねば為りません…」
「…ついては貴方に山道の往復をこなして頂きたいのです♪ひと山越えた所で費禕殿を受け取り、そのまま山を引き返して無事に彼をここまで案内して下さい♪頼みましたよ!」
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ え?私なんぞで宜しいのですか?費禕殿と言えば若君の腹心!」
「フフフッ…(* ̄ー ̄)✧そうですよ♪だってこれは若君の御命令ですから!」
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ にゃんと!若君がなぜ私に?私なぞ一介の主簿に過ぎません♪」
「…(♯ ̄ー ̄٥)貴方まさか嫌なのですか?せっかく若君たっての御指名だというのに!こんな機会はもう二度と在りませんよ?」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ とんでも無い!嫌だなんて…でもなぜなのでしょう?補佐官殿は御存知なのでしょう?教えてくれませんか!」
「(* ̄ー ̄*)さぁ…私は父上を通して聞いたまでです♪ですから知りません!ひょっとしたら父なら御存知かも知れませんがね?でもそうだな!これだけは言えます♪貴方、真面目だし努力家ですよね…」
「…若君は日夜努力を惜しまない者には目を掛けて下さいます!それはこの荊州一円に常に目を光らせ、平和を維持しなければ為らないからです♪私の見立てで恐縮ですが、貴方観られてますね…」
「…若君は貴方の知らないところで貴方を観察していたのでしょう?そうでも無い限り、今日突然こんな重要な任務が下る訳が在りません!私は貴方も承知の事だとさえ想っていたのですがね?」
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ まさか?初耳です!面識さえ無いのですから驚いても不思議は無いでしょう?でも私を信じて下さる為らば、必ずやり遂げてみせます!お任せ下さい♪」
「(* ̄ー ̄*)勿論!私は信じています♡それに若君も総督も貴方をきっと信じていますよ♪では宜しくお願いしますね?」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ ハハァ!お任せ下さい♪」
こうして廖惇は山ひとつ向こうまで費禕を迎えに行く事に為った。彼は日頃から鍛えているから山ひとつなど訳も無い。あっという間に辿り着く。
それでも既にあちらの麓では張翼が費禕を携えて待っていた。
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ ややっ!これはお待たせして申し訳在りません…」
廖惇は想わず陳謝に及ぶ。けれども費禕は涼しげな顔で被りを振り、「御苦労様♪」とだけ答えた。
「⁽⁽ღ(。-_ - 。)んにゃ!全然遅れとらんで♪あんさん大した脚やな!それにかなりの腕やろ?わてには判るんや♪こりゃあ安心して任せられるわ!費禕はん♪あんたラッキーやな♪では頼むで!」
張翼はそう告げると馬の蹄を返してとっとと帰ってしまった。後には費禕だけが残り、佇みながら微笑んでいる。
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ ここは登りも下りも勾配が有り、馬は使えませぬ!徒歩と為りますが御容赦下さい♪」
「えぇ…(⊹^◡^)♡存じております!私も若君のお伴を伊達にして居りません♪ここも何回往復したか判らないくらいです!でもここには時たま山賊が出るのですよ!…」
「…ですから護衛を頼んだのです♪伯恭さんが江陵まで送ってくれれば問題無かったのですが、今、砦は賓伯さんしか居ませんからね!だから若に無理を言いました♪頼みますね!」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ ハハァ!神明に替えましても♪お任せ下さい!!」
「(⊹^◡^)フフフッ…宜しく♪」
こうして二人はトボトボと山を登り始めた。夕方頃には遅くとも着けるに違いない。山の頂を越えるまでは特に何の問題も無く、二人は時折、よもやま話をしながらのんびりと進んだ。
廖惇だけならひとっ飛びだが、客人が居てはそうも行かない。結果、費禕の脚に合わせる事になったからである。
下りに差し掛かり、しばらく進んだ時の事であった。急に山の林の中から突如ガサガサっと音がしたかと想うと、身体の大きな男たちが五人一組と為って襲い掛かって来たのである。
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾(٥^◡ ^ ⊹)費禕殿!私の後ろから決して出ないで!判りましたね♪」
廖惇は刀剣を抜く。日頃から手入れを欠かした事が無いその刀剣は森の木々の隙間から射す陽射しを浴びてキラリと光った。
次の瞬間、彼の太刀は生き物の如く縦横無尽に振り下ろされ、相手の肩口を峰打ちにする。峰打ちとはいえ、あの岩を砕いたひと振りである。
受けた相手はたまった者では無い。ひとりまたひとりと倒れて行く。廖惇は脚捌き宜しく、擦り足で移動しながら費禕を護る。
四人目が倒れた時に恐らく相手の棟梁とおぼしき男が待ったを掛けた。降参するので、命は助けて欲しいと叫んだのである。
本来なら山賊など斬って棄てても良いし、捕縛しても良いのだが、彼は元々黄巾の残党だ。貧しさゆえの事かも知れぬと用心しながらも許してやったのである。
但し自分ひとりでは無いから最後まで気は抜かない。彼は最後にこう言い放った。
「(っ* •̀ ̫•́ )︎事情は聞かぬ!が、しかし…もし貧しさゆえの狼藉であるなら我らにも非は在る。まだまだ行き届かぬ点は在ろうが、きっとこの先、ここは豊かな土地と成ろう…」
「…お前たちが困っているなら江陵城にこの私を訪ねて来い♪私は廖惇と申す!何か仕事に有りつける様に相談に乗ってやろう♪私はこれでも主簿なのでね!空きの仕事くらいなら探してやれる!さぁもう行きなさい!」
廖惇の刀剣は彼らをまだ狙っていたが、その口許から溢れ出た言葉には優しさが在った。
山賊の長は仲間を叩き起こすと庇いながら引き揚げて行った。そして去り際に無言で廖惇に頭を下げていったのであった。
「ε- (٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎フゥ~参ったな!費禕殿、大事有りませんか?」
廖惇は刀剣を鞘にパチンと納めると振り向き様に費禕に声を掛けた。そんな彼の背に護られていた費禕は安堵の溜め息を洩らすと、口を開いた。
「(⊹^◡^)フフフッ…大丈夫です♪さすがは若君が遣わされた御方ですね♡貴方の背に護られていた時、私は全く怖く在りませんでした。そしてあの剣捌きは尋常ではありません…」
「…貴方は相当な鍛練をされているのですね?私は激しさの余り、斬り殺したのかとヒヤヒヤしましたが、あれで峰打ちとは?凄すぎて言葉も在りません!そして貴方の後処理も見事の一言でした…」
「…相手は山賊です!有無を言わせず成敗しても誰も文句は言いますまい♪でも貴方は微塵も油断せずに相手を退かせただけで無く、我々を襲った相手にも拘わらずに情を掛けました…」
「…倫理的にはどうかとは想いますが、貴方はどうやら人の善き心を信じている御方なのでしょうね?彼らを許せたのは貴方が強き心をお持ちだからなのでしょう♪職まで心配してやるなんてね…」
「…何というお人好しなのでしょうかね♪でも私はそんな貴方が嫌いでは在りません。そして貴方の事は多分、若君もお気に入りだろうと想いますよ♡さて、もう安心でしょう♪行きましょうか?」
費禕はそう告げると廖惇の瞳をマジマジと見つめた。
『(⊹^◡^)この方の目はとても清んでいますね♪ハハ~ン…北斗ちゃん彼が欲しいんですね、たぶん!こりゃあ愉しみがまた増えたかな?』
彼はそう想いながら見つめ続けた。
廖惇は想いのほか褒められたので少しこそばゆい。顔を真っ赤にして照れている。
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ 否々…買い被り過ぎですよ♪でも大事に至らなくて良かったです!若君の腹心の貴方を護れて幸いでした♡では行きましょうか?」
「(⊹^◡^)フフフッ…そうですね?でも貴方!たぶん私に関係無く、命の危険にある者は放って措けなかったと想いますがね♪では参りましょう♡」
二人は再び山を下り始めた。彼らが無事に江陵城に到着し、廖惇が無事に務めを果たしたのは言うまでも無い。彼らは江陵城に到着すると、心配して待っていた関平に温かく迎えられたのであった。
その日廖惇は家に戻ると、母に今日の冒険譚を伝えたのだった。母は心配しながらも、心の底から喜んでくれた。彼女はこれを契機に息子の夢が一歩前進するように願って止まなかった。
自分の事の様に喜んでくれる母の顔を観るにつけ、廖惇も再び嬉しさが込み上げて来た。けれども彼はこれで何かが変わるとは想っていなかった。
世の中そんなに甘いものでは無いと考えていたので、いい気になるどころか益々励まなければとやる気に溢れていたのであった。
それが証拠に、その日の夜も彼は裏山の岩で修行に励む手を休めなかった。
今までお世話に為った岩は砕けたので、新たな岩場を探すのに少々時間が掛かったものの、その日も1000回刀剣を叩き込んだのであった。
明くる日、彼はいつもの様に実務に励んでいると、今度は田穂に声を掛けられた。
「(*`ᗜ´٥)੭ ੈあんさんが廖惇殿ですかね?」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はぁ…私が廖惇ですが、貴方はもしや若君の懐刀の田穂殿?」
「Σღ(*`‥´٥)はぃ?あっ!左様♪あっしが田穂です…でも懐刀だなんて止めて下さいよ♪こそばゆくて適いません!」
田穂はこのところ、あちらこちらで褒められており、褒められる事に喜びを感じ始めていたので、妙に照れてしまって困っている。
「(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎で、そのぅ…何か私に落ち度でも在りましたでしょうか?一生懸命やっているつもりなのですが?」
廖惇もいつまでも手柄を引き摺らない。昨日の事は既に終わった事だ。しかも山ひとつ護衛任務を務めたに過ぎない。彼にとっては手柄と言える程の事でも無かった。
だからそれよりも実務の方でヘマを犯し、叱られるのではないかと想ったのである。或いは昨日の後始末の仕方が問題視された可能性も在った。
ところが田穂は涼しげな顔でこちらを見つめている。否…それどころかニヤニヤしていた。
「(ღ`⌓´*)あんさん、何でそんなに心配性なんかこのあっしにはさっぱり判りませんけどね?あっしは只の使いです♪怒りゃしませんよ!若君が呼んでますんで、ひとまず同行してくれますかね?」
田穂は無理強いは嫌いである。そもそも若君の召還で恐れを抱く者など誰もいない。若君は今や穏和な仁徳者だと皆が褒めている。こんなリアクションは久し振りの事であった。
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はぁ…左様ですか?判りました!それでは覚悟を決めて参りましょう。お願い致します!」
廖惇はまだ心配している。が!事ここに至っては仕方無かったので、大人しく従う事にして田穂の後に続く。
田穂はそんな廖惇を然り気無く横目でチラリチラリと眺めている。そしてかなり暗い顔をして着いて来る彼を観ていて心配に為ってきていた。
「(*`ᗜ´٥)੭ ੈなぁ?あんさんどうしてそんな暗い顔をしてるんかね!そんな顔止めた方がいいぜ♪あっしも若君もまさか取って喰おうってんじゃないからさ!たぶん杞憂だよ、杞憂♪」
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はぁ…それならいいんですが!私は何をさせても駄目でして、取り柄と言えば腕っぷしと手先が器用なくらいです!元々は黄巾の残党ですし、貴方も知ってるんでしょう?」
「(ღ`⌓´٥)はぃ?あんさんそんな事で悩んでるんすか?そんなん言ったらあっしなんて酷いもんですぜ♪元はバリバリの山賊ですし、黄巾の叛乱にも加担してたし、さらには前職は魏の密偵ですからね!あんたの方がどんだけましなんか…ブツブツブツ」
田穂は呆れた様に廖惇を観ている。
「(ღ`⌓´٥)そりゃあね!あっしも管邈様に出会って少し人間性を取り戻したし、若君に出会って目が覚めたっつ~か、やり直そうとここまで必死こいてやって来ましたよ♪でもさ!蔑む奴なんざ、ここには居ませんぜ!誤解っすわ♪」
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ えっ!そうなんですか?田穂殿も黄巾の残党??」
「Σ(ღ`⌓´٥)…えっ?知らんかったの!そうだよ♪つ~か黄巾の残党なんて幾らでも居るべ?それに山賊、海賊、悪食な輩なんて吐いて棄てる程いるぜ?皆、改心してやり直してるから平気な顔してっけどね。あんさん真面目過ぎ…」
「…と言うよりかは、元々心が清いんだな!黄巾の残党だと言うが、どうせ国を憂いて参加した口だろう?俺らなんか食い扶持貰う為に便乗した口だからな!もっと酷いぜ?モラル的には山賊よりはマシだと想っただけだっつ~感じだからな!すまんね♪」
今度は田穂が申し訳無さそうな顔をする。けれども彼は最後にこう言った。
「(#`罒´٥)੭ ੈでも誤解無き様に言っておくっすが、あっしはもう悪事はコリゴリなんすよ♪こんなあっしでも夢を観て良いんだと言ってくれた人が四人もいるんす♡そのひとりが若君なんですな♪」
田穂は管邈、そして若君、その後に周倉と秦縁にそう声を掛けて貰っていた。そして恐らく、この廖惇にはそういう人が居なかったのだと想ったのである。
廖惇はかなりの衝撃を受けていたが、この田穂という人は強い心の持ち主なんだと感心していた。それに比べて自分はどうなのだろうと考えていたのである。
彼自身は忘れているが、彼が昨日の山越えの際、逃がしてやった山賊への処置を観ていた費禕は、彼を強い心の持ち主だと評した。
本人に自覚が無いだけで彼もまた強い心を持っているのだ。只それをしっかりと伝えてくれる仲間が居なかったという事なのだろう。
彼は母の世話をする為に遊んでいる暇は無かった。普通の人は付き合い宜しく仕事が引けたら飲みに行ったり、食事をしたりして団結を高める。
廖惇は真面目であり、思い詰める性格が災いしていたと言うべきかも知れないが、母を護る一心で毎日の鍛練にも励みが出てやり遂げたのだから、良い面も在ったと言える。
「(っ* •̀ ̫•́ ٥)︎⁾⁾ はい!判りました、田穂殿!私はもう迷わない事にします♪でも良かったらこれからも私の相談に乗ってくれませんか?」
廖惇は勇気を持ってそう頼んだ。彼にしてはかなりの勇気を振り絞った事だろう。それは田穂にも伝わった。
「(*`ᗜ´*)੭ ੈ勿論すよ♪こんなあっしで良ければいつでも相談に乗るっす♡あっしだって周倉殿や秦縁様に話を聞いて貰ってます♪あんさんの為に成る事を言えるかまだ自信無いっすが、兄貴分になら為れますぜ!」
彷徨える廖惇にとっては闇夜に光る月に想えた事だろう。彼は二つ返事でそれに応じた。それが果たして彼に取って良い事かは判らんが?
「(っ* •̀ ̫•́ *)︎⁾⁾ はい!宜しくお願いします♪兄貴♡」
「(*`ᗜ´*)੭ ੈその意気だ♪廖惇!ではその意気込みで若君に会うとしようか?」
「(っ* •̀ ̫•́ *)︎⁾⁾ はい!」
廖惇はもう迷わなかった。彼は遂にあの若君に会う事が出来るのである。これは彼にとっては夢に一歩近づく事にほか成らなかった。
彼は心成しか気持ちが高揚して来た。これも田穂に出会えたお陰なのだと廖惇は想った。
若君はかなり若い御方に観えた。そして驚くべき事に彼はまだ十代半ばであるという。その割にはドッシリと構えていて、まるで自分よりも年長の様である。
「(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾良く来てくれたね元倹殿♪昨日は御苦労様!お陰様で費禕も無事務めに入れるし、万々歳だ♪さすがは月夜の剣士だね!面目躍如と言ったところかな?」
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ えっ?とんでもない!面目など私には在りません…それよりも私は若君と面識もないのにどうしてこの私を指名されたのですか?」
「ꉂꉂ(°ᗜ°٥)あっ!そうか?そうだよね♪知りたいよね?どうしてだと想う??」
廖惇にすれば話の始めから訳が判らない。自分は一介の主簿に過ぎない。しかも余り出来の良くない主簿である。
そして彼自身の記憶の中では太子・劉禅君に出会った記憶は無かった。それが会った先から謎掛けなのだから、余計に頭が混乱して来るというものだ。仕方なくここで田穂が助け船を出す。
「(ღ`⌓´٥)北斗ちゃん!初対面の方にはお手柔らかに願います♪それで無くとも貴方は言葉遊びがお好きなんですから!悩める人も世の中にはたくさん居るのですぜ♪皆が秦縁殿の様にお気楽では無いのです!」
秦縁が聞いたらさぞかし異を唱えそうな言動では在るがこの際は仕方がない。田穂はそれで無くても秦縁には煙に巻かれた節も在るから、ほんの細やかな意趣返しであった。
「(٥ •ᗜ•)だよね~スマンスマン!遊びが過ぎた♪ではさっそく種明かしと行こう♡実はね、元倹殿!貴方、一昨日の夜…」
「…そう月夜の晩だ♪ここから少しばかり行った裏山の頂きで岩に向かって木刀を振り下ろしていたでしょう?しかも何度も何度も!僕はお月見をしていたんだよ…」
「…月を愛でながら好物の団子を食べてたんだ♪そのうちウツラウツラと不覚にも寝てしまったんだが、カンカンいう音の響きで目が覚めてしまった…」
「…こんなとこで寝込んでいたら、風邪を引くし、明日の朝また潘濬に叱られたら堪らない。お陰様で助かったというものだが、少し興味が在ったのでそのまま拝見させて貰っていた…」
「…君のそれはもう一心不乱に打ち込む様は観ていてとても気持ちが良いものだった。僕もいつの間にか夢中になって眺めていたんだ!すると何と驚く事に、岩が割れたじゃあないか?あれは正直、驚いたな…」
「…初めは仕掛けでもあるかと勘繰ったが、それは僕ら策士の浅ましき考えだ!あの真剣な眼差しは決して遊びでは無いし、手品でもない。あ!いやスマンね♪でも素人目にはそういう事も在るかとね…」
「…想った次第だ!けど違った♪実際、僕は君が引き揚げた後に検分してみた♪疑った訳ではない!でもそれが僕の性なのだ♪科学的根拠の無い物はこれを廃す!けど驚いたよ…」
「…"涓滴岩を穿つ"と昔の人は評したけれど、まさにそんな感じだった。あれは一朝一夕で割れた物じゃない。時間を掛けて割れた物だ♪そこで僕は想ったんだ…」
「…僕の知らないところにこんな逸材がまだ隠れていたんだとね♪何万回、何十万回かな?一心不乱に打ち込む人はそれだけでもひとつの才能と言えると僕は想う!決して凡人には出来ない事だ…」
「…そこで考えたんだよ♪実はね、弎坐から…これは僕の腹心だが今は医官長を務めている男だ!その彼から今度行う事に為った健康診断に公安砦から費禕を呼びたいとの願いが出たんだ…」
「…費禕はコイツも医学の才があるので、今回の事に必要な人材だった。その彼を護衛させてみたら面白いかなと想いついた訳だ♪僕は閃いたら実行する達でね?君を試す様で悪かったんだが…」
「…試させて貰った!まぁ月夜の戯れと考えてくれても良いが、僕に取っては月に願いをって事でかなり真剣勝負だったのだ!僕は今、護衛官を探して居てね♪今は田穂に臨時でお願いしてるが…」
「…コイツは他にやらせたい事も在るんだよ♪まぁ初めは生真面目な奴が多いから、おもろい奴にしようと想ったりしてたんだけどね?やはり僕には真面目な奴がお似合いらしい…」
「…何より君が気に入ったんだ♡だから試した。そして君は見事に合格した♪剣の腕の方は実際、岩を穿つところを目の当たりにしていたんだ!悪い筈が無い!そこで帰って来た費禕に聞いてみたんだ…」
「…君の人と形をね♪君は山賊を憐れみ、逃がした上で、困ったら相談に乗ると言ったそうだね?それを聞いて僕は君が強い心の持ち主だと感じた!費禕もそう言っていたよ♪そこで決めたんだ…」
「…君を僕の護衛官としたい。勿論、君の意志も尊重する。嫌なら断ってくれて良い!だけどなるべく前向きに考えてくれると嬉しい。僕は君が気に入ったんだ!君なら潘濬とも馬が合うだろうしな♪」
北斗ちゃんの説明はこれで終わった。偶然とはいえ、彼の遭遇した瞬間は、普通では考えられない場面だったのだから然も在らんというべきだろう。
幾ら幸運の星の許に産まれた強運の持ち主でも、岩が木刀で割れるのを観る事はまず有り得ない。これは運命だと想っても仕方なかっただろう。
それに彼は人の命を大切にした。喩えそれが山賊で在ろうともである。そんな心身共に強く優しい男は探してもなかなか見つかるものでは無いのだ。
後は本人の意志に委ねられる事と為ったのである。田穂は固唾を飲んで見守っている。彼も若君が自分に求める役割とは何かが気には為っていたが、この際は弟分の決断が先であった。
廖惇は話を聞いているうちに、段々とこの話に傾きつつ在った。この自分が事も在ろうに若君の護衛を任されたのである。大変名誉な事であり、自分の努力して伸ばして来た力も役に立つのだ。
引き受ける以外の選択肢は無いと想われた。母上もきっと喜んで下さるに違いない。けれども彼はここで優しさが顔を出す。彼は迷う事無くその言葉を発していた。
「Σღ(٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎⁾⁾ 待って下さい!大変名誉な事であり、私もやってみたいとは想います♪が!田穂殿はどうなります?彼の意志は確認されたのですか?私は人の仕事を奪ってまでやろうとは想いません…」
「…スミマセン!でも彼は先程、兄貴分に為ってくれると言ってくれたのです♪そんな兄貴を無碍に扱えましょうか?人としてそればかりは御免被ります!如何ですか?」
廖惇の決意は固い様である。田穂は想わず伝えずには居られなかった。
「(*`ᗜ´٥)੭ ੈあんさんの気持ちは嬉しいが、若君は決して考え無しなお方では無い!若君を信じよ♪あっしはいつもどんな時でも若君を信ずる!あんさんもあっしの弟分ならそう在って欲しいのだ♪」
田穂の言葉には重みが在った。彼も伊達に若君に着いて来た訳では無かった。北斗ちゃんはおもむろに田穂を眺め、そして廖惇を眺めた。そして口をついた。
「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈお前たちが互いの事を想い、発せられた言葉は僕の心にも重く響いた。でも安心してくれ♪僕は田穂を直ぐに次の任務に着けるつもりは端から無いのだ!まだその時期では無いのだ…」
「…だからしばらくは二人で僕に仕えて貰う事になる。田穂は兄貴分として廖惇を導いてやって欲しい!そして廖惇はいずれ専任と成る日に向けて、僕の事をもっと知り、護ってくれたら嬉しい…」
「…田穂にはまだ先の事は伝える事は出来ぬ!先程も言った様にまだそれは時期尚早だからだ。けれどもその時が来たら君にはちゃんと伝える。そして廖惇もそれで納得して貰いたい…」
「…これで君の答えに為るかどうかは僕にも判らない。でも後悔は決してさせないつもりだ!僕は心底君に護衛を任せたいのだ!どうかな?やってくれるかい♪」
廖惇は田穂を見つめる。田穂の瞳は揺らぐ事なく廖惇を見つめており、やがてコクりと頷いた。
これで彼の返事も決まった。
「ε- (٥ •̀ ̫•́ ღ*)︎判りました!では喜んでその任を拝命致します♪これから末永く宜しくお願い致します♡」
廖惇はそう答えた。彼が夢に向かって第一歩を踏み出した瞬間だった。こうしてひとりの悩める男は足踏みを止めて、前に向かって歩み始めたのであった。
彼が後の廖化である。




