丞相との対面
北斗ちゃんは田穂を伴い、わざわざ門の前まで秦縁を出迎える。丞相との間に入る役目を担う為であった。
いきなりの御対面では互いにギクシャクするかも知れない。これは北斗ちゃんなりの配慮であった。二人とも最近は秦縁に会うのが愉しい。
自然と笑みを浮かべる。それを互いに認めて想わず苦笑いしてしまった。
「田穂♪(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈお前さんも顔に出るタイプだね!正直な証拠だ♡」
「北斗ちゃんこそ♪(ღ`⌓´*)あっしも正直、あの人に会うのは楽しいんですよ!」
「僕もさ♪⁽⁽ღ(˶• ֊ •˶)あっ!来られたぞ♪」
二人とも手を振りながら出迎える。何とも微笑ましい光景であった。
「いらっしゃい♪(❛ο ❛ ๑)ღ⁾⁾ 御足労頂き有り難う御座います!」
北斗ちゃんがそう声を掛けると田穂も自然と会釈する。
「(´°ᗜ°)✧お世話になります!昨日は大変失礼しましたね♪」
秦縁にしては低姿勢な物言いである。
「否…ꉂꉂ(°ᗜ°٥)貴方の仕事は商売だ♪お邪魔は出来ませんから、気にしないで下さい!」
北斗ちゃんも極々当たり前の事を口にする。
「(ღ❛ ᗜ ❛´๑)ハハハ…そりゃあどうも♪それで、喬児の話だと丞相閣下が俺と会いたいと聞いたが、それってやっぱり貴方の事業に投資する件ですかな?」
「(٥ •ᗜ•)えぇ…その通り!僕の考え方は既に伝えて在ります♪概ね支持も得ていますが、どうしても直に会って見極めたいようです♪」
「⁽⁽( •̀ ᗜ •́ *)まぁ当然の成り行きでしょうな?俺は特に異存は御座らん♪受けて立ちましょう♡俺も資金提供する立場です!投資先の保証人の面は拝んでおきたいですからね♪」
「⁽⁽(•ᗜ• ٥)あぁ…だろうね。じゃあこれで話は決まった!御案内しよう!」
「あぁ…(*❛ ᗜ ❛´๑ღ)頼む♪愉しみだな!」
秦縁は北斗ちゃんにそう伝えると後に続く。あの稀代の名宰相と詠われた諸葛亮に見参するのだ!ワクワクしない訳が無かった。
そんな二人の背を見送りながら田穂は願っていた。この交渉が上手く行く事を只一心に祈って居たのである。
諸葛亮は北斗ちゃんの執務室で客人を迎える。白扇をゆっくりと棚引かせながら、軽く頭を下げ会釈する。その流暢な動きは滑らかですらある。
『ホゥ~✧(ღ❛ ᗜ ❛´๑)ここにも白扇を愛する者が居たか♪元直殿と言い、軍師上がりの者は皆好きなのかねぇ…?』
秦縁は想わずそう想ってしまった。魏の要職を担う幕僚の中にも似た様な輩は多い。
北斗ちゃんは二人のお見合いをしばらく眺めていたが、繋ぐ役目と心得ていたので声を掛けた。会う瞬間の二人の表情を観ておきたい好奇心との鬩ぎ合いがそこには在ったのである。
「丞相♪(❛ ࡇ ❛´๑)こちらがお話しした秦縁殿です!…秦縁殿♪こちらが我が国の宰相・諸葛孔明です!」
「これはこれは♪ꉂꉂ(ღ❛ ᗜ ❛´๑)宰相閣下!本日はお時間を頂き忝ない!俺…否、私が青柳商団の采配・秦縁です♪以後、お見知り置き下さい!」
「(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭❁ ੈ⁾⁾ 否々、こちらこそ御足頂き感謝致します♪私が蜀の丞相を務める諸葛孔明で御座います。この度は我が国の河川事業に投資頂けるとか?私共も本音を申せば、なかなかに苦しい懐具合です…」
「…けれどもそんな巨額の投資話しを信用だけで貸し付ける者が居るとは、私の長年の経験からすれば、かなり奇妙に映ります。初対面で失礼な物言い、甚だ恐縮ではありますが、貴方が当事者であれば、如何でしょうか!すぐに信用されますか?」
この男、諸葛亮の言っている事は正論であると秦縁は想った。確かにこの男の言い分は判るし、恐らく喬児がその立場であれば、そう簡単に投資しないし、援助も受けないに違いない。
否、最終的に是認するとしても、段階を踏むはずである。一般的には信用調査から入るに違いなく、その結果、話しそのものが無かった事になる可能性の方が高いというべきだろう。
そこが、この秦縁の考え方の根本と違う点である。彼は自分の眼鏡に適えば投資に踏み切る。そこが他者と決定的に違う点であった。彼も自分自身の中に投資に対する基準はあった。
それが相手と腰を据えて話す事である。彼の場合、幾ら信用調査で是認出来る相手でも、自分の眼鏡に適わなければ、投資は断った。
それが言わば彼の中での曲げる事の出来ない指針であった。そして彼は過去一度もその結果として損失を出した事は無く、財政を扱う喬児でさえも、彼の決定を覆す事は無かったのである。
彼は蜀の若き太子である劉禅君になら、投資しても良いと既に腹は決まっていた。運河を造ろう等という途方も無い事を考えるこの若者の気概を買っていたのである。
しかも、海を持たない国の人物が考える事ではないし、この戦時にそれをやろうというのである。何と馬鹿げた事だと、常識のある者ならば、懸念を表明するに違いない。
しかしながら、事の始まりが、な辺にあるのかは判らないが、河川の氾濫を抑え込み、民が被害に遭わぬようにする事が第一義としてあり、その延長線上に敷かれたこの案は、災害の抑制と利便性の追求、そして経済の活性化に寄与する。
そして、他国との利害関係を一切、念頭に置かず、魏や呉、そして交州さえも、否、その他多くの国の利益に繋ったとしても、それは公共の福祉になる事だから構わないと言うのだ。
秦縁の気に入った点は、その発想もさる事ながら、全世界の幸福に寄与しようというその心意気であった。
そしてそのために我々もその一助を担ったのだと後々想えたなら、どんなに誇らしい事だろうと考えずには居られないのだった。
男の子は大きな夢を見る。そしてその夢が誰もが愉しくワクワクするような夢であれば、何ものにも代え難き喜びとなるであろう。秦縁は孔明の懸念を理解しつつも、一蹴してみせた。
「ハッハッハ…ꉂꉂ(ღ❛ ᗜ ❛´๑)孔明殿、俺は変人なのですよ♪考え方が他者とは掛け離れているのです!そうでなければ、この中華のみならず、その他世界を相手どって手広く交易を行い、これだけの成功を治めていません…」
「…その私の目利きがこの若君を助けてやろうと言っているのです。これはもはや貴方達、常識を尊ぶ識者の方から見れば、非常識と言うべき事かも知れません。だが、この俺はそれで良いし、コイツを信用しています…」
「…この俺の目利きが、劉禅君を最高銘柄と認めたのです♪そらぁ何度も挫折を味わうかも知れませんが、恐らくコイツはやり抜きますよ♪それに面白いじゃありませんか?…」
「…こんなにワクワクする話しは、久し振りです!俺は聞いた時に鳥肌が立ちましたよ♪孔明殿!貴方だって感覚には差があれども、ワクワクした口ではありませんか?どうです、図星でしょう!」
秦縁は話しているうちに高揚感に包まれていた。"俺"という言葉はもはや隠す事無く、太子の事すら"コイツ"呼ばわりである。
けれども聞いている北斗ちゃんは勿論の事、孔明でさえも、その言葉に他意は無いと想えたし、むしろ秦縁が若君の事をザックバランに"コイツ"と口に出した時に、その信用が嘘では無い事も、けっして裏があるような人物で無い事も理解したのであった。
それにこの男は只者では無いとも感じていた。口は悪いが、その人間性に深みがあり、広い心の持ち主である。
そして若君に聞いていた通り、中華一統・恒久平和を考える程の男ならば、こういう考えに至っても決して可笑しくは無い。世の中には人の考えも付かないような遠大な構想を心に秘めた人物が、必ず居るものだという事を改めて感じた瞬間であった。
元々、諸葛亮自身はそれが曹操孟徳であり、そして自分自身だと想っていた。何とも不遜な考えではあるが、彼も若き頃はそう感じていた。
けれども曹操はその期待に応えるどころか、徐州で大虐殺を行った。彼と組めば、天下一統は確実と想えた孔明の理想像は、こうして亀裂が走り、破砕された。
そして彼は侠気はあるが、秀才止まりの劉備玄徳を戴き、その神興に乗せた。秀才が天才に勝る事はけっして無い。けれどもその秀才を戴いたもう一人の天才である自分が補佐すれば、もしかすると敵うかも知れない。
彼はその一縷の望みに賭けたのであるが、只でさえ先行している曹操には敵うはずもなかった。根本的に決断出来る立場の曹操はどんどん先に進むが、助言をしても、決断が出来ない立場の孔明では、追いつく事はおろか、その差はジリジリと開く一方だったのである。
常人より少々賢いだけの劉備が孔明の策を完全に受け入れられる訳も無かったのだ。特に劉備は聖人君主のような立場を演じたがった。
漢の末裔である彼は民の間にそういう雰囲気が在り、噂話がひとり歩きしている事を知っている。けれども諸葛亮に言わせれば、本来的にそんな人種でも無いのにである。
彼は義侠の人ではあったが、後先考えずに道を踏み外す事さえもあった。特に命が危くなると、一目散に逃げ出す始末である。妻子を放り出して逃げる姿はあの劉邦に酷似していた。
ところがそれでも劉邦と違っていた点は、出遅れた事と天才を理解出来なかった事であり、またその相手が項羽のような理解力の乏しい男では無く、人材をどんどん集めては、こしゃくな程、 緻密な天才が相手だった事である。
孔明が居たからこそ天下三分の計となり得た現状ではあるが、出遅れたゆえの最弱勢力である事は仕方が無いと言えるのかも知れない。
『⁽⁽(ღ ˘͈ ᵕ ˘͈ *)この男が言っている事は正しいかも知れない。他者と掛け離れた変人と称しているが、この男の目利きに適った若君こそが次代を担う天賦の才であり、それを看破したこの男こそが神に祝福された男なのでは無かろうか?』
諸葛亮はそう想ったのであった。
北斗ちゃん自身は身に余る過分な評価に顔を赤らめている。けれども秦縁が放った言葉に偽りが無いだろう事も彼の直感が感知しており、自分の中では制御しきれない妙な感覚に陥っていたのである。
白扇でその口許を隠し、俯き加減で話しに聞き入っていた孔明は、おもむろに視線を上げる。始め、然り気無く若君をチラリと眺め、その様子にフッと笑みを浮かべた。そして振り向くと秦縁と視線を合わせる。
「⁽⁽(ღ ˘͈ ᵕ ˘͈ )確かに仰有る通りかも知れませんね!貴方と話していると、不思議と納得してしまう自分に驚いております♪私も若君に期待していなければ、そもそも荊州には送り出しておりません…」
「…そして若が次々と起こす風に乗って、皆が自分で考え動き始めた事に驚きながらも、嬉しさが込み上げて来ます。私の目的は、我が君を助け、曹操を倒し、漢の再興に寄与する事でした…」
「…その気持ちは今でも変わっていませんが、最近"もしかしたら別の道もあるのかも!"と想えて来たのです…」
「…そして恐らくもし仮にそんな道が在るのだとすれば、次世代を担う若君とその一党が、起こす新風なのではないかと想った次第です♪…」
「…これで答えになっているのか、些か怪しいものが在りますが、悪しからず!実際この私にもまだ判らないのです。でも貴方ならば、その未来を既に予知しているのではないかと推察致しました…」
「…何しろこの中華の恒久平和の事を、公の場で憚る事無く公言し、標榜する程の御方ですからね♪私に言える事はひとつです…」
「…貴方の眼鏡に適ったのであれば、若君の行く末をどんな形であれ結構ですから、見守ってやって欲しい…」
「…そして若君が信頼する貴方を私も信ずる事にします。是非、ご支援をお願いしたい!この私からも宜しくお願いする次第です♪」
孔明はそう言い切ると白扇をパチンと閉じて、改めて秦縁に向き合う様に拝礼したのだった。
北斗ちゃんは丞相の自分に対する信頼の厚さに少々戸惑いを覚えていた。そしてこの二人の信頼を違える事無く、今後も邁進しようと心に念じていたのだった。
秦縁もまた真摯に孔明の話しに耳を傾けていた。そしてこの丞相の太子に対する期待と信頼の深さに感銘を受けていたのだった。
彼は孔明と北斗ちゃんを互い違いに眺めると、その居ずまいを正し、口を開いた。
「ღ(❛ ᗜ ❛´๑)✧どうやらこれで結論は出たようですね♪俺は端から投資する腹は決まっていたから、格別な感慨も無いが、あんたら主従の信頼の厚さには少々感動している。喜んで投資させて貰うとしよう…」
「…時期が来たら声を掛けてくれよ♪賃金を貰う事を前提に是非とも働きたいと願い出る者達は、ご要望の赴くままに送り届けてやろう。中には建築に長けた者も必要だろうし、まずは準備段階の内に試算を見積っていてくれると助かるな?」
「えぇ…(´⸝⸝• •⸝⸝)੭⁾⁾ 勿論です!それは僕の責任で在り、役目ですから、お任せ下さい♪潘濬や劉巴にも声を掛けておくとします。それに実務を担う鞏志とも相談するとしましょう…」
「…また計画が最終段階に入ったら、今一度声を掛けさせて頂きますが、貴方のお陰でようやく資金の目途は立ちました。何かやる気と共に益々ワクワクして来ましたよ!秦縁殿、有り難う♪」
北斗ちゃんはペコリと頭を下げる。秦縁はこそばゆいのか、頭をポリポリと掻くと、珍しく照れてみせた。
「あぁ…(ღ❛ ᗜ ❛´*)何!気にするな、こちらこそさ♪成功すればそれに見合う利鞘も得られる。何しろ俺は商人だからな!そこいらの判断は誤らぬよ♪今日は有意義な交渉だった!⁽⁽ღ(・ᗜ・*)ではまたな♪」
秦縁はそう宣うと、とっとと踵を返す。けれども部屋を出掛けた彼は、何を想ったのか再び振り向くと、丞相・諸葛亮を見つめた。
「孔明殿♪ꉂꉂ(❛ ᗜ ❛´๑)ご安心を!この俺にも予知などは出来ないさ!何しろ生身の肉体を持つ人だからね♪少しばかり先読みが鋭いだけなのだろう…」
「…ほら、囲碁の達人が何百手先まで考えると言う、まさにあれだよ♪俺はそれを人生の中で地を行くだけの事さ!まぁ多少、自分の願望も加味されているかも知れないがな?言いたい事はそれだけだ!⁽⁽ღ(・ᗜ・*)じゃあな♪」
秦縁は一方的にそう捲し立てると、後手に手を振りながら、去って行った。
「(* ˘͈ ᵕ ˘͈ )੭ ੈ面白い方に見込まれたものですね♪」
孔明はそう呟く様に若君を見つめる。
北斗ちゃんも未だ掴みどころの無い秦縁を唖然とした顔で見送っていた。✧(๐•̆ࡇ •̆ ٥๐)