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華佗と毒矢と囲碁

凄まじい勢いでぶっ飛んで行った北斗ちゃん御一行は、やがて速度が落ちてくると、長江に墜ちる寸前で停まった。皆、目をひん剥いて、想わず主君を観る。


「(´□`; 三 ;´□`)ワ~ン死ぬかと思った!」


「(;><)それはこっちのセリフですぞ!」と費観。


「(^∀^;)まだ青葉マーク何だから無茶はお止め下さい…」と費禕。


「(-ω-;)仰け反りそうになった…」と弎坐。


「( ゜ε゜;)ヒェ~!大河の藻屑(もくず)に成るとこだった…それにしても何で停まらなかったんだろう??」


「(-ω-;)…○は急に停まれないって在れじゃないっすか?」


「(; -_・)馬っ鹿も~ん!また余計な事を!オブラートに包め!…て、やば!僕が言っちゃったよ…まぁ死語だからいっか…」


「(;><)良くありません!何やってんの!」


「(^∀^;)馬が興奮したのでしょうな…理由は判りませんが、まぁ事なきを得たって事で戻りませんか?」


「( -_・)そうだな!そうしよう♪」


費禕の冷静な説諭で落ち着きを取り戻した一行だが、実は彼の青○マークが事の始まりである。


さて、そんなこんなで彼らは再び江陵城の城門まで戻って来た。門の前では心配した関平が一団を組織して捜索に出る所であった。


ドドド…先程と打って変わった通常走行で戻って来た一行はようやく門の前でピタッと停まった。北斗ちゃんはお約束の着地をこなして関平の前に降り立つ。費観や費禕、弎坐も下馬してそれに続いた。


関平は四人を観ながら、北斗ちゃんに声を掛けた。四人の中では彼の身なりが一番高価に見えたのだからやむを得なかった。


「失礼ですが、貴方が指揮官の方ですか?私は関羽の子で関平と申します。宜しく!しかし急な事ですな…私は費観将軍が引率だと聞いていたのだが?」


「費観は私です!確かに出発時に兵府を受けたのは私ですので間違ってはおりませんよ!御覧の通り、援軍の兵を9千ほど連れて参りました!お受け下さい!」


「左様ですか…では確かに!生憎(あいにく)父は先の小競り合いで毒矢を受けまして、只今治療中なのです!ですから私が代わりに承る様に仰せつかっております!では皆さんお入り下さい♪寝所と食事は用意して御座います!今宵は父が歓迎の宴をすると申しておりますから、それまではよく食べてお休み下さい!どうぞ♪」


関平は何事も無かったかの様に案内を務めた。表情は優しく、満面の笑みを浮かべているが、心無しか青覚めている様にも見えた。


関平は費観と共に先に立つ。その後から費禕が北斗ちゃんを連れて続き、弎坐は一番後からのこのこ着いて行った。


「時に…」


関平に声を掛けられて費観は振り向く。


「…あの(ふく)よかな御方はどなたなのです?余りにもご立派な礼装をされているので、私はあの方が指揮官かと勘違いしておりました…」


「(^ー^;…まぁ、そうでしょうな…」


打ち合わせしていないので、費観は困り気味にチラッと背後に目をやる。北斗ちゃんは口許で人差し指を立てて首を左右に振っている。彼は言葉に詰まった。そこで費禕が機転を利かせる。


「(´▽`)ああ…その事ですか!関平殿、私は参軍司馬の費禕(ひい)と申します…宜しく!こちらは貴方のお察しの通り、止ん事無き御方ですが、今はまだ名前は申せません!諸葛丞相が派遣された関羽将軍への丞相代理とだけ申しておきましょう♪」


『( -_・)費禕ナイス!さすがはせんせだ!役に立つ♪』


北斗ちゃんはご満悦である。関平はそれを聞いて振り向くと畏まって挨拶をした。


「これは大変に失礼を!やはり左様で御座いましたか?御無礼をお許し下さい!後程、父にお引き合わせ致しましょう♪」


「( -_・)あぁ…頼む!でもどうせなら今が良いなぁ♪コイツらは疲れてるから休ませたい!僕だけで構わんから、会わせてくれんか?」


『(;><)…』


『(^∀^;)…』


『(-ω-;)…』


皆、『北斗ちゃ~ん落ち着いて!』と言いたい所だが、生憎、名前は不味い…仕方なく皆、変顔でその瞳に訴えている。


北斗ちゃんは全く意に返さずに右手の甲を外側に振って、皆をいなした。早く休めという事らしい。若君は一度言ったら利か無いので、皆ここは任せる事にした。少なくとも以前の馬鹿では無いのだから、何か考えがあると判断したのだ。


関平は口許に手をやって少々考え込んでいたが、やむを得ないと判断した様だ。


「判りました!皆さんは部下に案内をさせましょう♪そちらの丞相代理の御方は私とお出で下さい!」


「( -_・)おぉ…宜しいか?では世話になるぞ!」


北斗ちゃんは言い出しっぺの癖に、然も相手の譲歩が在ったくらいに厚かましい。関平に案内をさせて、そのまま着いて行く。皆とはここで一旦、解散だ。彼は後ろ手で手を振りながら皆と別れた。


『(; ̄ー ̄)…しかしまだお若いというのに、臆面もない物言いだな!しかも将軍や参軍司馬をコイツら呼ばわりした揚げ句に手の甲でいなした…何者なんだ!』


関平はさりげなく横目でチラッと観察しながら歩みを合わせているが、内心の驚きは隠せぬ様だ。自然と顔が突き出る。北斗ちゃんは既に気がついていて、ほくそ笑んでいる。それがまた奥ゆかしいどころか僭越に見える。


互いに心の中でほぼ同時に『やれやれ…』と呟いた。関平のは文字通り『厄介な相手だ!』という意味合いである。一方の北斗ちゃんは思いの外、暑苦しい視線で観られて鬱陶しいのと疑惑を招いたかと少しばかり焦りを感じていたのだ。


「僭越ながら申し上げておきますが、父の前では必ず名乗られます様に!下手をすると片手で掴まれて、放り投げられます!言っておきますが、貴方くらいなら十分に飛んで行きますから御用心を…」


「…後、事前に状況をお教え致します。これは私の慈悲の心だとお想い下さい。その場では父の関羽と馬良殿が碁を打たれております。あと、華佗(かだ)という有名なお医者様が治療中ですから、それを踏まえてお進み下さい!御検討をお祈りします!」


「(*゜ロ゜)何!関羽将軍は碁を打ちながら、治療しとるのか?否、しているのですか?」


「(; ̄ー ̄)…ええ、そのようです!先生は麻酔という物を射てば痛みがなく済むと仰られたのですが、父はそんな物は要らぬと!酒を(あお)りながら碁を打つから、何局掛かっても良い!そのままやれと!」


「( *゜A゜)ニャンと!それは剛毅な御方ですな…僕なら素直に麻酔…ですか?それ射って貰いますな…」


「(; ̄ー ̄)…同感です!私だって!常人は誰だってそうです!父が可笑しいのですよ…」


北斗ちゃんは驚いて開いた口が塞がらない。凄い方だとは思っていたが、父上の義弟は人成らぬ者らしい…これでは心配するこちらが馬鹿を見そうである。


「( -_・)…判りました!応対には十分に神経を使うと致しましょう!」


「(; ̄ー ̄)…それが宜しゅう御座います!私は助けて上げられませんので悪しからず御了承のほどを…」


「( -_・)…心得ています!場合に依っては合言葉を言いますんで御心配無く!…ってまぁこちらの話ですがね♪」


「(; ̄ー ̄)…??」


二人は連れ立って歩き、ようやく部屋に到着する。関平は声を掛けようとするが、彼はその裾を引き、右手で制した。しばらく様子を観たいという事の様である。


関平は『止ん事無き御方』と聞いているので、少しだけ譲歩する事にした。




部屋の中では今もまさに囲碁盤を挟んで、関羽と馬良が碁を指している。そしてその横では、関羽将軍の半分くらいしか無い細身の老人が、小さな尖った刃を関羽の左腕に充てて切り開いているのだ。


遠目に観ても、腕の筋を切らない様に繊細な切り開き方がなされ、中の骨がパックリ開いた実の中から見えている。観ているだけでも痛々しい。


心なしか対局に臨んでいる馬良の方が余程、青ざめたり、表情をひきつらせたりしている。それを見ながら剛毅にも関羽はガッハッハと笑い飛ばし、馬良を冷やかしている。


そして時折、酒の(かめ)から酒を注ぐと、ひとくちに飲み干す。全く人間技では無かった。


華佗(かだ)はどうやら骨の筋にまとわりついた毒を骨ごと削り取っている様である。さすがの関羽も時としてその表情を歪めるが、眉間から大量の汗を掻きながらも一切泣き言を言わない。


歪めた顔から強引に笑みを引き出しながら、沈着冷静に碁盤を見る。そしてそのひと指しで、馬良を仕留めた。


「また儂の勝ちだな…馬良どうした?いつもの切れが無いのう♪これで儂の三連勝だな♪張り合いが無いから、次から星全てに置いて良いぞ!」


馬良としてもこんな筈では無いのだが、この対局に限っては、痛々しくて神経の集中に欠けた。意味は違うが、端からハンデが有り過ぎて碁にも成らない。


しかしながら、将軍は痛みを堪えて居られるのだから、付き合ってやるほか無い。馬良は全ての星に、白石を置いた。上級者としては甚だ無念だが、やむを得なかった。


「そろそろ縫合に掛かります!糸で縫いますので我慢して頂きますぞ!」


「o(`Д´*)o…うむ!構わぬ…任せるからやって下さい!儂は先生の腕を信じておりますからな!」


華佗は剥き出しの実を閉じ、肌を合わせると、その表面に太い頑丈な針を指して、ズブズブと縫い合わせて行く。それを観ていた馬良は突然状態を傾けると、口に想わず手を充ててグホッと吐いた。


余りにも心配であるがゆえにその施術を見つめていたが、余りにも痛々し過ぎる状況に耐えられずに戻したのであった。


北斗ちゃんはガン見している訳でもなく、遠めから眺めているだけだが、馬良の様子を観るにつけ、気持ちが悪くなってきて、想わず顔をしかめた。関平も同様の様である。顔を背けていた。


華佗先生はこの世界広しと言えども稀有な人物である。その記述から窺っても、当時としては考えられない程の先進的な医療技術を持っていたと考えられるのである。


古代中国の歴史を紐解いても、後にも先にも、この人しかこんな事が可能な人は出てこない。どうやってこんな理解不能な技術を学んだのか全くの謎なのである。


この人はある歴史的逸話でこの後に横死する事になるのだが、その技術が後世に伝わっていたの成らば、医療技術の進化ももっと進んでいたかも知れないだろう。返す返すも口惜しい事である。


「これは駄目だな…」


関羽は溜め息を吐くと、馬良に声を掛けた。


「軍師殿!御苦労でした。貴方が私に付き合ってくれたから、だいぶ気持ちが紛れ痛みが和らいだ。助かったよ。だがここいらが限度の様だ!無理はしなくて良い!御身を大切に成されよ♪貴方の活躍される場はここでは無いからな!」


「否、将軍…私はまだ大丈夫です!」


「否、駄目だ!これは指示では無く命令である。身体を休ませよ♪」


「有り難う御座います…では御言葉に甘えて!」


馬良はそのままフラフラと立ち上がり、夢遊病者の如く、入口へと向かう。目の前が見えていないのか、危うく北斗ちゃんや関平にぶつかりそうになる。二人はすんでのところでこれを(かわ)した。


関羽は馬良を心配してか、その視線は彼の背を追う。すると丁度その直線上に佇む北斗ちゃんとその視線が自然と交わる。


「おい!そこの君!そうそう貴方の事だ!残念ながら相方を失ってね、困っておる!どうかね?治療も間もなく終わりそうだから、この一局だけ付き合わないかね♪」


『σ(・_- ;)…僕ですか??』


「そうだ!君だ♪どうせ儂に用が在るのだろうが?ついでに聴いてやっても良い!」


「( -_・)…では御言葉に甘えて!」


怖い者知らずなこの若者を関平は心配そうに見ている。北斗ちゃんは笑顔を振り撒いて、関平を安心させる様に頷くと、そそくさと部屋に入る。


関羽はそれを承諾と受け取り、こう告げた。


「関平!御苦労、お前は悪いが軍師殿を見てやってくれ!治療が終われば、お客人達の相手は儂がしておく!」


関平は頷くと直ぐに馬良の後を追った。関羽はそれで満足したのか、近寄って来た北斗ちゃんに腰を降ろす様に促す。北斗ちゃんはコクりと頷き、ペタンと御大(おんたい)の前に座った。


「では参ろうか?」


関羽はそう語り掛けると、おもむろに盤上を眺めて、第一手を投じた。

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