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5.塔の中の少年と話をしたいのです。

庭園を離れて、尖塔を目指して走る。

同じ屋敷内とはいえ、敷地が広いため、走ってると息が切れてくる。

どんな気持ちであそこにいるの?

いつから?どうして?


私の知っているミッドライトの設定は、悪役令嬢の兄で、義理の母から虐げられていて、アカリちゃんに出会い、正統な跡継ぎとして返り咲く、だ。


虐げられての内容に、「あの場所に1人で暮らしていた」も入っていたなら、どれだけ辛いのだろう。

どれだけ辛かったのだろう。


私は尖塔の扉の前にたどり着いた。

ドレスの裾を両手でたくしあげて、肩で息をする様子は、とても令嬢には見えないし、風で煽られた髪はぼさぼさだ。


尖塔は目の前の扉とは別に、館からの入り口もあるように見えた。

私は扉に手をかけ、力を入れる。

ガチャと鍵がこすれる音だけ響いたが、扉は開かなかった。


「そうだよね…」

ミッドライトがここにいるんだとしたら、屋敷の外から入れる扉の施錠をしないはずがないし、

いなかったとしても貴族の屋敷の扉が無防備に空いていることはないだろう。


今日は一旦あきらめて、明日にまた確認してから来るべきか、でも…。

私は扉の前で、うろうろと悩んだ。

ここで悩んだところで何一つ解決しないのは分かってる。


この場所にミッドライトが一人で住んでいるとしたら、それを命じているにはミィルフィーヌの母だろうし、屋敷にいない彼女の下した決断をまだ10歳のミィルフィーヌが覆すことが可能なのか。

また彼がどのように過ごしているのか知らなければならない。

鍵の管理は誰がしているのか、尖塔内部の生活様式はどうなっているのか、食事や風呂などの日常は送れているのか、誰かの手助けがあるのか。

確認するべきことは多く、ここにいてうろうろするよりも、引き返してすぐに使用人の皆さんに頼るべきだ。


でも、でも。


灰色の塔の中で暮らすかもしれない少年を思うと、今、何か出来ることがないかと思ってしまう。

塔を見上げれば、その背中に青空が広がっていて、何もなければ美しい光景のようで、悲しい。



「誰かいるのか」



まだ少年の、でも艶のある美しい声が聞こえた。


この声は、ゲームで聞いたことがある!!ちょっと幼いけど!!

ミッドライト=サファニアの艶のある声!!!!


「はい、います!!」

私は勢いよく返事をしたが、よくよく考えると、ミィルフィーヌとミッドライトって組み合わせ大丈夫なの!?

母親がこの子を閉じ込めてるとしたら、その娘も恨まれてても何も言えないんじゃ…。


勢いよく返事をしたことを後悔しても遅く、少年の声は続けて降りてくる。

「君は誰?普段いる気配じゃないな、女の子?メイドでもないよね?」


なんて、答えればいいの!?素直に答えない方がいいよね!?

というか上から見えないのかな、見えたら髪の色でばれてしまうかもしれない。

心臓がどきどきと大きな音をたてて返事を出来ずにいると、彼の声がまた聞こえた。


「ああ、すまない。ここには近づかないように言われていたかな。僕が声をかけたことは忘れて」


その言葉に胸が痛くなって私はすぐに答えた。

「私は、あの、庭師のアルベルトの孫です!孫のチヨです!」

アルベルトさんごめんなさい、勝手に孫を名乗ります…。

「近づかないようにとは言われていないです!」


私が上へ向かって叫ぶと、返事が来るまで少し時間が空いた。


「君は、ここに来たばかりなの?」

少し戸惑うような彼の声がした。質問の意図が分からないけど、私は答えた。

「来たばかりです!」

嘘はついていないし!

そのまま続けて、何も知らない子供のふりして聞いてみる。

「あなた様はどなたですか?」


塔の上からの返事はない。それでも上を向いて待っていると、とても微かな声が聞こえた。

「僕のことは忘れて」

それ以上の言葉は聞けなかった。


しばらく待っていても、彼は何も言ってくれなかったので、私は上に向かって叫んだ。

「忘れないですし、また来ます!また明日も、明後日も来ます!だからまたお話してくださいね!」

塔の上にいるのが本当にミッドライトなのかは別として、まだ幼い少年が、屋敷の中ではなく、近づかないようにと指示された塔の中にいるなんて嫌なの。


叫んだ声への返事はなかったが、届いたと信じて、その場を後にする。

約束した通り明日も明後日もここに来て、話をして、彼をあの塔から出すんだ。

そう思った。

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