2.人生二回目はイージーモード、紙に書いたら決意も新たに
いつの間にか眠れていたのだろう。
ふと目が覚めたけれど、視界に入る私の髪の色は淡いピンク色だった。
ゆっくりと目を閉じて、深呼吸をする。
もう認めるしかないんだ、私は「ミィルフィーヌ」になったんだって。
布団をはいで、そっとベッドを降りる。
前の私の大人の体と違って、小さいので感覚が少し違う。
「また子供をやり直すなんて思わなかったな…。」
やはりふかふかのスリッパをはいて、部屋の中を一周してみる。
ミィルフィーヌの部屋は豪華で、全体的に可愛らしくまとめられていた。
『もう本当あの激甘くそ女!私の~様に色目使うんじゃないわよ!!』
前世で一緒にこのゲームをプレイしてた友達がよく怒ってたことを思い出す。
そうミィルフィーヌは、プレイヤーが狙う攻略対象を自動的に好きになり、絶対に
ルートで現れ邪魔をしてくる。悪役令嬢顔のきりっとしたタイプの女の子ではなく、ゆるふわきゅるんでぶりっ子タイプだったので、プレイヤーからすると本当に邪魔でしかなく、ヘイトをためるキャラクターだった。
ミィルフィーヌの愛称は『激甘くそ女』だったなあ…。
あまり悪役令嬢らしくなく可愛らしい顔立ちと、ピンクの髪はキャラクター造形としてよくできていると思う。ゆるふわきゅるん感があるし、イラっとさせられた。
部屋の中をうろうろしていると、勉強机があったので、座って紙とペンを手にとった。
「さすが異世界、ペンも羽ペンなんだ」
ふふっと笑うと、珍しさに少しだけ元気が出たので、私は息を深く吸った。
「よし!!!!」
もうミィルフィーヌとして生きていくしかないなら、そうするしかない。
それなら大人になって一回手に入れたスキルを駆使して、ちょっとイージーモードで生きてやるんだから!
インフォメーションで活用してたスキルだって、何かしらの役に立つはず!!
私は意気込みを紙に書き込んで大きく丸をした。
『人生二回目はイージーモード!激アマくそ女にはなりません!!』
「そのためには…」
ぶつぶつと独り言を言いながら紙に書いていく。
このゲーム「マジック☆ルナティック」について思い出せることを書き留めておきたい。
「マジック☆ルナティック」はヒロインのアカリちゃんが魔法学園「ルナテーク」に入学し、
攻略対象と出会い恋に落ち、一年後プロムでダンスを踊ることを目的とする、今時珍しい、健全で安心のゲームだ。万が一親御さんに見られてもそんなに恥ずかしくないんじゃないかと思う。
まずヒロインのアカリちゃん。
明るくて優しくて健気。肩ぐらいまでのボブカットで茶色の髪の女の子。確か16歳設定。
平民だけど突然目覚めた光と花と風の魔法の力により、特待生として魔法学校に入学する。
魔法学校は貴族の学校で、魔法自体使えるのは貴族だけ。
だからアカリちゃんはいじめられたりするんだど、負けずに全校生徒を認めさせて、学園一の魔法の使い手になるんだよね。
ああ、アカリちゃん大好きだったな。
攻略対象は全員アカリちゃんを好きでいてほしい、ヒロイン総受でお願いします。
攻略対象1:王道ヒーローの完全無欠の王子様
プリンス・フェリーク
王道の王子様だからサラサラの金髪とスカイブルーの瞳。アカリちゃんと同じ16歳設定。光の魔法使い。
王子としての責務を理解し完全を体現しているけれど、その孤独や重圧を抱えていることを誰にも言えないままでいた。
けれどアカリちゃんが王子の孤独に気づいて手を差し伸べることで、王子はようやく息をすることができました…。アカリちゃんマジ女神。
攻略対象2:心に闇を抱える悪役令嬢の兄
ミッドライト=サファニア
悪役令嬢の異母兄で、サファニア家の長子。深い緑に見えるような黒髪とモスグリーンを散らしたような目をした美しい青年。18歳設定。霧の魔法使い。
サファニア家の跡継ぎとして生まれたけれど、実母がなくなり、後妻として入った継母(
ミィルフィーヌの実母)に冷たくされて育ち、心に闇を抱えてしまった。
後妻はミィルフィーヌを猫かわいがりしてるので、娘に婿を迎え、ミッドライトを追い出そうとしてる。
心に傷を負ったミッドライトを癒し、正しい跡継ぎとして立つミッドライトを支えるアカリちゃん、マジ天使。
攻略対象3:遊び人の先輩貴族
オラジェ=リスアトリア
綺麗でかわいい女の子とおしゃれが大好きな先輩。少し癖のある長いオレンジの髪とたれ目と泣きぼくろがセクシーな17歳。水の魔法使い。隣国のオリエンタルな衣装を制服に取り込み、女の子をとっかえひっかえして、風紀委員をしているアカリちゃんによく注意される。
でもそれは、自分に向き合ってくれる、たった一人を探していたから。アカリちゃんが何度も何度も向き合うことでようやく誰かを信じられる…。アカリちゃんマジ聖母。
そして、悪役令嬢
ミィルフィーヌ=サファニア
サファニア家の後妻の実子。昔から甘やかされて育ったため、世界はすべて自分のためにできていると思っている。砂糖菓子の重くなるような甘さでできた女の子。転じて激甘くそ女。花の魔法使い。
アカリちゃんが入学してきたことで自分の優位性が崩される心配から、直接的ではないけれどアカリちゃんがピンチになるように嫌がらせをする。
攻略対象で兄以外は全員邪魔しに現れて、自分のものになるように画策をし、ヒロインのバッドルートを彩る…。
ミィルフィーヌ、許せない、絶許。アカリちゃんを守る…!!
私はペンを置いて一息ついた。
他にも攻略対象がいた気がするけど、3人しか思い出せなかった。
ただ、これだけは覚えている。
アカリちゃんが攻略対象をクリアできた暁には、ミィルフィーヌは断罪され、島に流されるイベントが絶対に発生することを。
あの時は「ざまあ!やったね!」って思えたけど、いざ自分がミィルフィーヌだと困る。
島でどうやって生きていけばいいのか…!?
「生き残ってみせるわ…!!」
私は決意を新たに、紙に書き加える。
『人生二回目はイージーモード!激甘くそ女にはなりません!!アカリちゃんとお友達になりたい!!!
攻略対象には絶対に近づかない!!!!』
ミィルフィーヌがあんまりにも嫌いでやったことはないけど、ミィルフィーヌと友達になるエンドがあると友達から聞いたことがある。
そのルートに入ったらミィルフィーヌはとても優しくてかわいいお友達になるみたい。
断罪イベントももちろん発生しないから、私が目指すべきはきっとそこなのだと思う。
今のミィルフィーヌ=私は攻略対象を好きになってすり寄ることもないし、
ダメ押しで出会わないようにすれば問題もない。
兄のミッドライトは同じ屋敷内で暮らしているからどうしようもないけど、今のうちから仲良くしておけばいいはず。コミュニケーションをとるのは得意だし。
ミィルフィーヌは今10歳。
あと5年程で「ルナテーク」に入学するはず。私はそれまでにできることを進めよう。
私はいろいろと書いた何枚もの紙をファイルのような皮製品の中に収めて、机の引き出しの中にしまった。