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23.約束

ミッドライトは一瞬、何が起きているのか分からないようなそんな顔をした。

でもそれも一瞬ですぐに眉を吊り上げた。


「何をしているんだお前は!」

そうして、下に向けて叫んだ。

「ルドルフ、マリア!下に何か引くものを!」


「大丈夫です!!!!」

私は彼の言葉を遮るように声をかけた。

「私の…はっ…花の魔法で制御してるので大丈夫です。落ちたりしません!」

花の魔法って口に出すの恥ずかしいな…。

でもこれは本当だ。

ものすごく高いし、足はすくむけど、ちゃんと自分を支えられるようにしてるので、落ちないと自信を持っている。


「っ…!何度言ったらわかるんだ。もう僕には構わないでいいから、早く下に戻りなさい。」

「私も何回も言いましたよね、嫌です。お兄様がここにずっといるのが嫌です。」

私はミッドライトを真っ直ぐに見つめた。

ミッドライトはどこか泣きそうな、そんな顔をしていた。

「誰もあなたを責めたりしません。もし責めたりする人がいたら私が代わりに言い返します。

私のことを守ってくれたあなたにそんなことをする人は、許さないです」

にこりと笑った私を見たミッドライトは肩を震わせた。

「それに…さっきも言ったんですが、今サファニア家、大ピンチです。お兄様の力が必要なんです。」

「でも義母様が…」

彼は苦しそうに胸元を掴んでうつむいた。

「…もし、お父様もお母様もお兄様のことを許さないって言うなら、私がバシッと言ってやります!

そうして二人で家出しちゃいましょう。ルドルフさんとマリアとアルベルトさんと、お兄様のことが大好きなみんなを連れて!!」


ああ、そうか、いけない。…ミッドライトはミルフィーヌのことを嫌いだった…。

チヨとして話した時と、ミルフィーヌとして嫌いと言われたあの日とがぐるぐると混ざって変なことを言ってしまいそう…。


「えーと、違います、違います!私は付いていかないのでね、安心してくださいね!」


はははと頭を撫でながら笑う飛ばすと、ミッドライトが傷ついたような顔をした。

何か間違えたかと思って私も真顔になる。


「…とにかくここを出ましょう!だから下の扉の魔法を…」

私が樹上から手を伸ばすと、彼は顔をそむけた。

左の腕を右手でぎゅっと掴み、自分を守るように私の手を拒む。


「絶対に嫌だ…もう…誰かが…」

呟くようなかすれた声は、多分彼の本心で。

「…君が傷つくところを見たくない。」


馬鹿ミッドライト!!


「ミルフィーヌのことは貴方が守ったんじゃない!」

私は傷がついたと教えてもらった腕を伸ばした。

白くて傷一つないミルフィーヌの腕。

「無いよ、傷一つないよ!君が代わりに、痛い辛い思いをしてくれてたから無いよ!」


私が叫ぶ声にミッドライトは顔を上げた。

「傷つくところ見たくないなら、むしろ一緒にいて!ずっと一人で寂しかったんだよ!?」

寂しがり屋の女の子の声を私は聞いた。

「だいたいね!貴方の妹、すごい面食いだからね!?

もしルートに出てきたとしたら、超ブラコンでイライラしたと思うし!

お兄様大好き大好きって絶対になったから!!!!!」


さし伸ばした手を彼に向けてビシッと突きつける。

私から目をそらさないミッドライトの瞳が揺れるのを見て、私はハッとして止まった。

いい大人が、少年に対して何を言ってるの!?


ミッドライトの見た目が、ゲームで見たよりは幼くとも、

知っている見た目過ぎて画面を見ているかのごとく言ってしまった…。

でも私も彼もゲームじゃない。


私は落ち着くように息をついた。

「ねえ、ミッドライトお兄様。私のことを傷つけたくないって言うなら、この手を取ってください。」


私はもう一度ミッドライトへ手を伸ばした。

彼の唇が震えたその時。


バキバキと音を経てて、成長をさせていた樹木が枯れ始めた。


嘘でしょう!?

安定してたじゃない!

先生の言ってた「魔力の暴走」が頭をよぎった。

足場ごと木が倒れる!


「ミルフィーヌ!!!!」

ミッドライトが手を伸ばしてくれた。


だがしかし!これはミルフィーヌの大切な体なんだから、

絶対に守らなきゃいけない。

ミッドライトも巻き添えには出来ないし、下にいる二人も守らないと!!!

私はスローモーションになる風景の中なんとか手を組み魔法を発動させようとした。


ミッドライトは大丈夫かと顔を向けると、彼は窓を飛び越えた。


嘘。


私はがむしゃらに手を伸ばした。

ミッドライトも私に向けて手を伸ばし、

そうして私を抱きしめて詠唱を始めた。


重力にぐっと引っ張られるような感覚は一瞬で、次々に何かにブレーキを掛けられるように、

私とミッドライトは塔の高さを落ちる。

ミッドライトの胸の中に抱えられて見えないけれど、強く強く抱きしめられたのは分かった。


「ルドルフ、マリア!離れていろ!!」


予想していた衝撃はなく、私はぎゅっとつぶっていた目を開いた。

ミッドライトの品のいい服が視界に入り、白い花のような香りが鼻をかすめた。


生きてる…。


「ミッドライト様、ミルフィーヌ様!!」

ルドルフさんとマリアの声も聞こえ、二人を巻き込まないで済んだことに安堵した。


私がそろそろと起き上がる。ミッドライトを下敷きに転がっていたようだ。

ひえ…

「お兄様ごめんなさい…」

ここにいる全員を巻き込んで、あやうく死なせてしまうかもしれなかったことに改めてぞっとしてしまった。


ミッドライトは目元に片腕をやり、転がったまま何も話さないままだった。

ことの大きさに私もそれ以上何も言えずに、座り込んだままドレスを握りしめた。


「…こんなことは」

ミッドライトがぼそぼそと言った言葉を何とか聞き取れるように顔を近づけた。

「はい!」

私が元気よく返したのがよくなかったんだろう、ミッドライトはガバっと起き上がり私の腕を掴んだ。

「いいか…こんなことはもう二度としないでくれ!」

ミッドライトは力強く言った後に、泣きそうに顔をゆがめた。

そうしてゆるゆると私を抱きしめた。

私もミッドライトに手をまわして頷いた。


「はい、ごめんなさいお兄様」


彼の背中越しに空が見えて、それがとても晴れていた。

ミッドライトが霧の魔法で速度を調整してくれていたんだろう、魔法の名残で霧が陽光に照らされプリズムを作り出していた。

「…お兄様、虹です。」

私は彼に抱きしめられながらそれを指さした。

キラキラと輝くそれは、ミルフィーヌがかつて見たいと願ったもので。


「約束を守ってくれてありがとうございます。」


私の中の女の子の代わりに、きっと大好きになったお兄さんへお礼を言った。


ミッドライトは体をびくっと震わせた。

そうしてまた私を抱きしめる手に力を込めた。


何か小さな声で言ったような気もしたけれど、聞こえなかった。

だけど構わないと私は思った。








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