22.バナナの木の亜種です
私たちはルドルフさんの執務室を出てミッドライトのいる塔に向かった。
そうして、塔の入り口の鍵をルドルフさんに開けてもらい中に入ろうとした。
だけど。
「開かない…!?」
ドアは何かに阻まれるようにびくともしなかった。
「これは…ミッドライト様が…」
ルドルフさんが呟くと同時に上から声が降りてきた。
「何をしに来たルドルフ、マリア。」
冷たく響いたのは、ミッドライトの声だった。
「…ミッドライト様!ご命令に反します、しかし!貴方様はそこにいるべき方ではございません。
どうか、もうご自分をお許しください!」
ルドルフさんは塔の中のミッドライトに届くように声を張り上げた。
私も祈るように上を見上げる。
そうだよ、ミッドライト。貴方にそのままそこにいて欲しい人なんていないんだよ。
「くどい。義母上が望む通り、僕はここにいる。そうして…」
ルドルフさんもマリアも悲し気に眉を寄せた。
でも、私たちはもう諦めちゃダメなんだ。
私はぎゅっと手を組んで空を見上げた。
「お兄様!初めまして、ミッドライトお兄様!私はあなたの妹のミルフィーヌです!
ずっと嘘をついていてごめんなさい!!でも私、お兄様の話を聞いて、このままじゃ嫌なんです。」
「この間言ったことを忘れているようだね、ミルフィーヌ。僕は君のことが嫌いだ。
ここには来ないでと言ったはずだ。」
ミッドライトの冷たい声は続く。
胸がチクリと痛んだけど、私はそのまま上を向いて叫んだ。
「…嫌いでもなんでもいいです!でもお兄様がここにいるのは絶対によくない!」
ルドルフさんが私の後に続けて叫んだ。
「ミルフィーヌ様の仰る通りでございます。奥様が貴方様にここにいることを命じました。
しかし、それも奥様の本当のご意思ではないと思うのです。
いまサファニア家は外部の卑しい者たちに呑み込まれようとしてございます。
旦那様も奥様もそれに巻き込まれております。
本当にあなた様を憎らしく思ってではないのです。」
いつも冷静なルドルフさんからは想像もできないくらいの声を張り上げて彼に話しかけていた。
「私は、お母様とお父様も助けたいんです!そのためにはお兄様の霧の魔法の力が必要なんです!!
だからどうか力を貸してください!!」
声は返ってこなかった、でも。
「僕の魔法は…。」
小さくておびえるような声が聞こえた気がした。
「ルドルフさん!マリア!」
私は二人をぐっと見つめた。
「この扉壊せませんかね!?みんなでやっちゃいましょう!!!」
二人は一瞬ぽかんとしたが、目に力が宿り頷いた。
マリアの手元に炎が生まれる。
ルドルフさんも手をかざすと地中から黒い粒が集まった。
(ルドルフさんの魔法は何なのかな・・・いや今は関係ない)
私も目を閉じて、塔の周りの草木に祈った。
タイミングを合わせたように私たちの魔法は塔の扉を攻撃した。
土煙が上がり、扉が見えなくなる。
(壊せたかしら!?)
土煙が晴れて、姿を見せた扉は魔法を受ける前と同じ状態でそこにあった。
「ミッドライト様の魔法が強くかけられていますね…」
ルドルフさんの額に汗が見えた。
マリアもルドルフさんもきっとすごい魔法を使うだろうに、
ミッドライトの魔法には敵わないのか。
傷一つつかない扉を前に私は悩む。
どうしたら彼の傍に行けるだろう。
嫌われててもいい、だからこそもはや強引にでもいいからその手を掴んで、
明るい世界に連れ出したい。
「あ…」
私はこの間花を届け入れた窓を思い出した。
そうして上を見上げた。
(怖いかもしれないけど、でも…)
ドレスのポケットの中にある種を握りしめた。
広い屋敷の散歩をしていた時にたまたま見つけた、背の高い木に魔法をかけた時に収穫したものだ。
「…気が済んだか?そうしたらもう全員ここから立ち去れ」
彼の声が揺れて聞こえたのはやはり空耳だったかもしれないと思うほど、
落ち着いた冷たい声が聞こえた。
「嫌ですからね!」
私はポケットの中から種を取り出して地面に置いた。
「ミルフィーヌ様!?」
ルドルフさんとマリアが戸惑うように声を上げたので、二人を見てにっこり笑った。
「ミッドライトお兄様が開けてくれないなら、私が行きます」
そうして私はミッドライトに向かって叫んだ。
「今からそっちに行きますから!覚悟してください!!!」
「は…?」
ミッドライトの戸惑うような声も聞こえた。
年相応の少年らしくて、私は少し笑ってしまった。
(力を貸してね)
私の祈りが魔法に変わるなら、きっとできるはずだ。
足元に置いた種が土に潜り、自然界ではありえない速さで成長を始めた。
「ミルフィーヌ様!?」
マリアが私の傍に寄ろうとしたのを手で止めて、私は成長する樹木の枝に飛び乗った。
(ひえ!)
子供が一人乗れるくらいの幹の上にしがみついて、そのまま空に背を伸ばす樹木に魔法を与え続ける。
魔法の力で樹木の成長は早く、みるみる高度が上がった。
(高いんですけど!!)
落ちたら怪我しそう。私は目を瞑り下を見ないように顔をそむけた。
でもそんなところに彼はいるのだ。
私は改めて木をぎゅっと握った。
大丈夫、落ちなければいいんだから。
「何をやっているんだお前は!?」
焦ったミッドライトの声がだいぶ近くなって初めて目を開けた。
もう目的の窓の高さまで来たのかな。
そうして顔を上げると、心配をしていると告げる深緑の瞳と目があった。
ああ、やっぱり君は優しいんだね。
「初めましてミッドライトお兄様、やっと会えて嬉しいです。」
ゲームで見た濃い深緑の髪と瞳、端整な顔立ちの少年は戸惑った様子で私を見ていた。




