1. 思い出しました!私はインフォメーションのお姉さんだった!!2
口に出した途端、記憶が甦ってくる。
私はインフォメーションの仕事をしている、普通の会社員で、沢山の人の役に立てる仕事が好きだった。毎日色んなことがあるけど、誰かからの「ありがとう」で満たされる気がしてた。
仕事終わりにコンビニに寄って、スイーツとチキンを買って、明日のシフトの確認をしなきゃと思いながら歩道を歩いてたら、そのまま車が…。
ぞくりとして腕をさすった。
小説やゲームの中ではよく見たことが、実際に自分に起こるなんて思わなかった。
「お嬢様?ミィルフィーヌ様」
メイドさん達がいよいよ心配になったのだろう、私はにっこりと笑ってメイドさん達に話しかけた。
「私は大丈夫です。」
するとメイドさん達の顔色が変わり、何も言わなくなってしまった。
しまった!いつもの癖で営業スマイルをしてしまったけど、ミィルフィーヌは高慢な悪役令嬢。小さい頃からワガママでやりたい放題って設定だった!こんな時にお礼をするような子じゃない気がする…。
突然性格が変わったようになったらメイドさん達だって混乱するよね。
でも私、高慢な悪役令嬢の振りなんて出来ないし、社会人だし!
「うっ、ちょっとまだ気分がすぐれません。でも寝てれば大丈夫ですので、皆さんはお戻り下さい。」
ただの会社員が令嬢のふりをして言ってみてもそれっぽくはないけど、とりあえず今は1人にして欲しい。私はふかふかの掛け布団を頭まで被って布団バリケードを形成する。
メイドさん達は少し時間をおいた後、「かしこまりました。」と返事をしてくれた。なんだかんだ私の言う事は絶対なんだろう
「ありがとうございます…」
またお礼しちゃったけど、仕方ない。仕事でたくさんお客様に伝えるから、口癖みたいになってる
し…。
「何かございましたらお呼びくださいませ」と呼び鈴のガラスのベルを置いてメイドさん達は部屋を後にしてくれた。
皆さんの足音が聞こえなくなって、私は布団から顔を出した。
豪華な部屋。寝てるベッドは今まで体験した事がないくらいフカフカで、いい匂いがした。また所謂天蓋がある、お姫様が寝てるベッドだ。
1人部屋とは思えないくらい広くて、調度品も凄い。私を写した大きな鏡も、枠に美しい細工がされている。一人暮らしの私からしたら夢のような…。
「夢かもしれない…」
鏡の中の女の子が唇を動かした。
もう一度だけ寝てみれば、明日目覚めれば、いつもみたいに仕事に行って、制服に着替えて、たくさんのお客様と関わって。
たくさん「ありがとう」を言ってもらえる、私に戻るかもしれない。
もう一度布団を頭まで被り目をギュッと瞑って、
「私」の明日が来ることを祈った。