18.わかっていたはずなのに
窓が開いているかどうかは賭けだった。
私は彼の名前を呼んだ後に、そのままコントローラーでお花ドローン(仮)を窓に侵入させた。
そのまま、はじかれずに花は窓の中へ飛び込んでいった。
よし!コントロールはとりあえず成功です!!!
私は上を向いたまま、ミッドライトの反応を待った。
見てもらえたかな…。
しばらく待っていると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
「…チヨの仕業だね。まったく何をするか分からない子だな。いるんだろう?」
優しいミッドライトの声が響いて、私の胸は熱くなった。
「はい、…います。お花どうですか?」
「綺麗だった。花びらが舞ったのも何もかも綺麗だった、本当に。」
届いたんだ、ちゃんと気持ちが。
同じように感じてもらえたことが、私は嬉しくて仕方なかった。
「綺麗ですよね、私が植えたんですよ。真珠草って言うんですよ?ご存じですか?咲いているのもすごくきれいでしたよ!花びらに艶があって、虹みたいに光ってて!!」
「虹みたいに…」
少し声のトーンが変わったことに、この時の私は浮かれて気づけなかった。
「そうです!だから絶対に、実際咲いているのも見た方がいいですからね!」
あとどんな風にすればいいかな、ミィルフィーヌの魔法をどう生かせるかな。
そうして、一つ思いついたので、実行に移すことにする。
花の魔法の一つで、、花の芳香を高めることができると先生が言っていた。
真珠草の香りはリラックスにもいいらしいので、それをやってみよう。
いつものように祈りのポーズをとり、私は目を瞑った。
手元にある花ではないけれど、私が育てて摘んだ花なので、それをたどればエネルギーを流せると思う。
集中してそれを見つけたので、力を送るようにイメージする。
「花の香りが…」
ミッドライトの声も聞こえてきたので成功したようだ。
よかったと安心して、私は組んでた手を解いて、ミッドライトの言葉をそのまま待った。
「これは…花の魔法…風の魔法は、魔法石に組まれたものだった、けれど今のは…」
信じられないというように、つぶやく彼の声が続き、私は不安が芽生え始めた。
「…どうして、チヨが花の魔法を使える…?」
しまった。
花の魔法の使い手は多くないって、昨日先生から聞いていたのに。
目の前で使ったら、魔法石の効果とは言えなくなってしまうのかもしれない。
どうしよう、なんて答えればいいんだろう。
私はどうしたらいいか分からず、ミッドライトからのその問いに答えられずに立ち尽くしてしまった。
「花の魔法の使い手は多くないはずだ…アルベルトは違う系譜の魔法を使うはず…」
私に問いかけるというより、頭の中で整理するかのようにミッドライトが続ける。
「花の魔法…君は…」
ミッドライトの声のトーンが下がった。
それと同時に、アルベルトさんが私を呼ぶ声が響いた。
私の体はびくりと跳ね、彼も私の名前を呼んだ。
「ミィルフィーヌ…」
呆然としたような、そんな声だった。
「ごめんなさい…!!悪気があったわけじゃなくて…」
私は慌てて取り繕ったが、ミッドライトからの返事はなかった。
「会いたいと思ったのも、嘘じゃないんです…!」
許してほしいと思う、自分勝手な気持ちもある。
でも、彼にこの塔を出て、自由に生きて欲しいのは嘘じゃない。
話を続けたいと望む私の言葉は、ミッドライトから遮られた。
「君がミィルフィーヌなら…絶対に会いたくない。」
冷たい声だった。
「毎日、毎日、君のそのお節介にうんざりしていたんだ。早く、この場を立ち去ってほしい。
二度と、本当に二度と近寄らないでくれ。君のことなんて、嫌いだ。」
そうして塔の上から声が降ってくることはなかった。
塔の下から離れて、屋敷と中庭をつなぐ廊下で私は立ち止った。
私は馬鹿だ。
最初に考えていたはずだ、ミッドライトはミィルフィーヌを憎んでいるかもしれないって。
だから、ばれないように、そうしてあの塔を出たい気持ちになるように手伝いたかったのに。
花の魔法も使い手が少ないなら、気をつけなきゃいけなかったのに。
『お節介にうんざりだ』と言ってたミッドライトの気持ちも考えずに、正しいことだなんて信じて。
あの優しい子がそんなことを口に出すまで、追い詰めてしまった。
このミィルフィーヌにも、そんなことを聞かせてしまった、寂しいと泣いていた女の子に。
なんとかしてあげたいなんて思ったこと自体が傲慢だったのかもしれない。
私に何もできることなんかなかったのに。
「ほんとう、馬鹿だな」
涙を流す資格なんてないはずだ。
「わたしは、ばかだ」
私は上を向いて、そう、繰り返し呟いた。